「何で取れないのよっ」
今にもUFOキャッチャーを蹴ろうかとしているのは、御坂美琴である。 100円玉を投入し、UFOキャッチャーに挑戦したものの、アームから狙っていたゲコ太は滑り落ちた。もちろん、大量のぬいぐるみの山の上にだ。
「位置が悪いわね」
UFOキャッチャーのガラスにへばりついている姿はとてもではないが、名門の常盤台中学の女子生徒には見えない。
某自販機みたいに蹴ってしまいたい気持ちを必死に抑えていると、「何やってるんだよ」と後ろから声が掛かった。
あまりにも近い声に、美琴は驚きで振り返った。 後方にはつんつんした頭が特徴の上条当麻がいた。
「あんた」
普段は美琴から声を掛けるばかりだから、突然声を掛けられて、動揺してしまう。
「何でここにいるのよっ」
「何でって買い物の帰りだよ」
っていうかいつも私見て逃げ出すくせに、今日に限って何よと口の中で呟く。
当麻はスーパーの買い物袋を持っている。
「お前、まだゲコ太欲しいのか」
UFOキャッチャーのゲコ太のぬいぐるみの山に、当麻は呆れているようだ。
「うっさいわね。いいでしょ、好きなんだから」
「中学生にもなって」
「うっさい!」
顔を赤くして、当麻に抗議する。 美琴も自覚がしているのだ。ゲコ太が低年齢向けのキャラクターだということは。
「仕方ねえなあ」
100円玉を当麻は入れ、アームの操作を始める。
「取れるの?」
「わからん。けど、金を無駄にしたくない」
ゲコ太をアームが掴んだ、と思いきや、直ぐに落としてしまう。やはり、アームが弱いのだ。
「あー、俺の100円!」
肩を落とし、凹んでいる当麻に、美琴は不敵に笑いかける。
「まだよ」
やはり、美琴はゲコ太が欲しい。しかも、当麻が取ってくれたものが。 回数が2に増えている。美琴がチャージしたのだ。
「ほら」
結局、当麻はその後二回UFOキャッチャーにチャレンジして、ゲコ太を取ることが出来た。
「ありがとう」
素直に感謝して、美琴は当麻に笑いかけた。 なのに、当麻が間が抜けた顔をしている。
「何でそんな顔をするのよ」
「いや、ビリビリが素直なのは珍しいからさ」
頬を指で掻く当麻は少し照れてるのかもしれない。
「失礼ね。あとビリビリ言うな!」
顔を赤くしつつ、まあそうかなと美琴にも自覚はある。
だって、仕方ないじゃない。
認めたくないし。
心の中で言い訳する。
何を?
「あと、俺に普通に笑うのも。俺に」
はははと当麻は笑う。
美琴に対して。
自分の顔が赤らむのがわかる。
もしかして、私が素直になれば、こいつも普通の態度で接してくれるんじゃと美琴は、ふと思った。 そうしたら、少しは異性として見てくれるんじゃないかな。
顔見て逃げ出したりしないんじゃないかな。
ちゃんと向き合ってくれるんじゃないかな。
ーーー私と。
「帰らなくていいの?買い物してたんでしょ?」
「あ、そうだ。肉とか買ってるのに。せっかく上条さんが取ったんだから大事にしろよ?じゃあな!」
「うん」
立ち去る当麻の背中を見ながら、美琴は当麻がUFOキャッチャーで取ったゲコ太を腕の中で抱き締める。 ゲコ太が腕の中で柔らかく潰れるのがわかる。
「………大事にするわよ」
花が咲いたような柔らかい笑みをしている美琴に、見惚れた何人かの通行人が足を止めたのを、彼女は知らない。


上条さんが取ってくれたゲコ太を美琴が抱きしめるのを書きたかった小説。