夜道、特に一人の女性は危険だ。 そして、更に男に囲まれていたりしたら、男なら助けに入るのが普通ではないか。
「すみません、そいつ俺の連れなんで」
知り合いという形で、女を助け出そうとしたら、本当に知り合いだった。常盤台中学の制服。知り合いは少ない。 御坂美琴だ。
「あ、すみませんでした。人違いでした」
当麻は踵を返す。
「ちょ、ちょっと、何で引き返すのよ!」
「いや、お前なら大丈夫だろ?」
超電磁砲という通り名が美琴にはある。 美琴はこの学園都市で7人しかいないレベル5だ。その能力の高さは折り紙付きだ。
「大丈夫だけど、何かムカつくのよっ」
「無視すんなっ」
二人で話し出した美琴の肩に男が手を掛ける。 途端に美琴から青白い光が帯びたかと思うと、電気が発生する。
男が倒れ混むのを見届け、ご愁傷様と当麻は心の中で呟く。
他の男たちは美琴の能力に、すっかり怖じ気づいている。能力の違いをまざまざと感じたのだろう。 ぷすぷすと焼けている一人の不良を置き去りにして、当麻は歩き出す。その後を美琴は追う。
「ちょっと」
「何ですか」
「女一人で帰させる気?」
「う」
紳士を気取っている当麻は、その言葉に渋々美琴と並んで歩く。
隣に並んでいると、美琴が自分よりも線が細く、女の子なのだと伝わってくる。 肩まで綺麗に切り添えられたシャンパンゴールドの髪、顔も小顔で、整った顔をしている。制服から伸びている腕も、脚もほっそりしている。見た目だけでいえば可愛いらしい少女だ。 しかし、外見と違い、能力は高い。
「この上条、寮まで送らせて頂きます」
「よろしい」
美琴はうんうんと頷く。
「噂になるかもしれないぞ」
知らないぞと暗に伝える。
「寮まで行かなくてもいいわよ。その途中までで。黒子がいたら厄介だし」
その名前には聞き覚えがある。誰よりも美琴を大事にしている少女だ。少し、度を越している気はするが。
「お嬢様が何故こんな時間まで外に?」
「あんたこそ」
「俺は補修。欠席が多くてね」
時刻は21時を回っている。空は当然だが、真っ暗だ。
事件が起こる度に、当麻はその解決に勤しむ。 そのため、必然的に出席日数が足りなくなってしまう。それを優しい担任の教師が補習をしてくれるのだ。
「ふーん」
どうだか、という言葉が美琴から聞こえてきそうだ。
「私は、知り合いに会ってたのよ」
「こんな時間まで?」
「話していたらこの時間になっちゃったねよ」
不意に沈黙が落ちる。
会話をどうしたらいいのかわからない。 共通の話題は妹達だ。しかし、その話題は暗くなるため、避けたい。
普段向けられる美琴の得意の電撃も何もない。 こうしていると、美琴は普通の可愛い少女だ。 相手は中学生、中学生。 美琴は異性だ。つい、男としての性か、意識をしてしまいそうになる。
ちらりと美琴を見ると、彼女は何故か顔が赤い。 熱を出したのかと思ったが、ふっと美琴が当麻の隣を外れた。
当麻の正面に立ち、「やっぱりもう送らなくていい。もう近いし」 と言い放つ。
しかも、何故か俯いている。
「御坂、調子悪いのか?」
「違うわよっ、何でもない。ほんとにもう近いから」
街灯もあちこちにある。 美琴の能力を知っている分、大丈夫だとは思うが、納得が簡単に出来ない。
「けど」
「じゃあね」
言いかけた当麻を遮り、たたたっと少女が駆けていく。 女の子ってよくわからん、と正直 当麻はそう思った。
当麻も男だ。彼女が欲しい。
しかし、これで自分も女子と付き合えるようになるんだろうか、と少し当麻は不安になった。


美琴は赤くなっている顔を、隠すように俯きながら駆けていた。
あー、もうせっかく送ってくれるって言ったのに。
自分でチャンスを潰してしまった。
普段の遣り取りがない、ただ一緒に並んで帰るという行為に耐えきれなかった。
当麻は気付いていなかったようだが、通行人たちの殆どが恋人同士のようで手を繋いでいた。
自分たちもそういう風に見えるのだろうかという自惚れと、近い手の距離に手を伸ばしそうになった。当麻に顔を見られた瞬間、せれを見透かされたような気持ちになり、もう無理だと判断した。羞恥で頭がいっぱいだった。
「私の馬鹿っ」
泣きそうになる。
でも、一緒に並んで歩けたと、そう考えると嬉しい。
けど、また来るとは思わなかったな。
不良に絡まれたとき最初に当麻と知り合った頃を思い出した。そのとき、ちょうど当麻があらわれたのだ。
何だかんだであいつはヒーローなのよね。
正直、補習の話を聞いたとき、欠席の間きっと誰かを助けていたのだろうと最早確信している。
当麻に話した今日会った知り合いは実は妹だ。 不思議な少年だ、と話をしていた。 本当に同感だ、とそう思う。自分のことよりも、他人を優先して。普通の人なら出来ない。
「もうちょっと、頑張ろう」
口に出して、美琴ははっとする。
「って何を頑張るのよ、私は」
首を大きく横に振りながら、あーもう次会ったときは電撃かましてやろうと物騒な八つ当たりを美琴は考えた。