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こんこんと軽いノックの後に室内に入って来たのはエドワードだった。そろそろ研究室に向かう時間か、と僕は本をぱたんと閉じた。 朝日が眩しい。気付かぬうちに、時間が経っていた。本は最後まで読みきっていない。 「何をやってたんだ?」 エドワードが目を向けたのは、僕の手にしていた本だった。 ロケット工学。 「本をちょっと」 「熱心だな」 僕が腰かけているベッドの傍に座り、ぺらぺらと彼は僕の本を取り上げ、めくった。 肩と肩とが触れ合い、そこから体温が伝わった気がした。 「それはエドワードさんも同じでしょう?」 研究に身を入れているのは誰にでもわかる。 頭がいいエドワードはいつしか、仲間のうちでも頭角を現していた。 「まあな」 「すごいことじゃないですか。宇宙にも行けるんですよ」 ずっと思っていたこと。宇宙には何があるのだろう。 自分が生きてきたその足跡も残せるのだ。昔は考えてもみなかったことだった。少しずつ自分のタイムリミットを考えるようになったからかもしれない。 「本当にロケット好きなんだな」 「…エドワードさんのことも好きですよ」 「…………そっか」 何を言おうか考えた末に言った言葉に、エドワードは目を丸くした後、照れくさそうに笑った。そんな彼がたまらなく愛しい。 「オレもアルフォンスが好きだよ」 きゅうと心臓が縮まった気がした。 好きだよと、そう言われているのに。 気持ちを疑っているわけではないのに。 心の中で漣が起こる。 「準備したら、呼べよ」 そう、エドワードは言って、本を置いて立ち上がろうとした。 目が、彼を否応でも捕えてしまう。 僕のことを弟に似ているとそう言ったエドワードは、自分の中にその弟を見ているんじゃないか。 そう言えば、否定をしないんじゃないかと、そう思う。近くにいるのに、彼はまるで遠い存在だ。何だか危うく、脆い。 そんなことは耐えられなくて、僕は彼の手を取り、自分の下へと抱き寄せた。細い身体だった。ぱたんと床に本が落ちた。ぱらぱらとページが自然とめくられる。 僕の気持ちが伝わるからか、彼は大人しく、僕の腕の中にいた。 別に置いていかないけどと、そう子供を諭すように優しく彼は言った 別のことを言っているのはわかった。 が、それでもロケットの研究を続けるのは、帰りたいからなのではないだろうか。 いつか話してくれた、僕には夢物語しか聞こえなかった場所へ。 ふと、窓が視界の隅で映る。 窓の外枠に鳥がいる。 その鳥が一瞬にして飛び立ったのがわかった。 どこまでも自由な空に。 ロケットも、きっと、一緒なのだ。 きっと、いずれ、誰もが宇宙に行く時代が来るであろうと、そう、僕は予感した。 |