雪が吹雪いていた。 その景色をひとしきり、眺めながらエドワードは今日は司令部から出れないな、とそう思った。 ロイもそう思っているのだろう。

「今日は司令部に泊まっていきなさい」
「大佐も泊まるの?」
「最初から泊まるつもりだったからね」
「ふうん」

エドワードはロイの顔を見遣った。 その顔には疲れが覗いている。 来たときから、その顔は変わっていない。 最近仕事が立て込んでいるらしく、徹夜が続いていたのだとそうこの男の側近であるホークアイは言っていた。 その副官は今はいなかった。 副官がいなければ、仕事を放り出すかとそう思っていたのだが、そんなことはなく、機械的にロイは手を動かしていた。 時刻は既に夜9時を回っていた。 吹雪いているからなのか、窓から見る視界は不明瞭だった。 黒と白が混ざっているそんな景色は変わりそうになかった。

「俺、何処に泊まればいいの?」
「仮眠室がいいだろう。ベッドがあるから」
「大佐は?」
「私は未だ仕事が片付いていないからね」
君が使いなさい、とそうロイは言いたいのだろう。

「ふうん、じゃあ、俺使うよ」
どうせ仕事が溜まっているのも、ロイのさぼり癖が原因なのだろう。 だったら、遠慮をする必要など毛頭なかった。





人気のない司令部を歩き、エドワードは仮眠室へとたどり着いた。 簡素な室内だった。 ベッドが二つ隣り合わせに置いてある他は、小さな机が隅にあるだけだ。 寝る為だけの場所。

エドワードは二つあるうちの奥にあるベッドに横になった。 掛け布団を被り、そのまま入眠を試みた。 しかし、なかなか眠りは訪れなかった。

「寝れない…」

野宿だってしたことがあるのにな、と思いつつ、エドワードはもう一つのベッドに目を向けた。 皺一つない使われていないようなそんな、ベッドだ。 きっと誰かが綺麗にしているのだろう。 ごそごそと寝返りを打ったりするのだが、頭がすっかり冴えている。

「資料でも見に行こうかな」

元々、司令部の資料室で資料を読み漁っているうちにこんな時間になってしまったのだ。 本当だったら、もっと早く宿に帰るつもりだった。

時刻だけが刻々と過ぎていくうちに、誰かが仮眠室のドアノブを開けた。 誰か、とはロイだった。 ドアノブを回して入ってきたロイはそのまま、軍服の上着を脱ぐと、空いているベッドに横になった。

エドワードはロイに顔を向けた。 途端に目が合う。

「大佐、仕事って終わったの?」
「いや、ちょっとだけ休憩だ。効率が悪いがな」
「ふうん」
「寝れないのか?鋼の」
「なんかさ、寝れない」
「私も微妙だよ。いつもなら共にする女性がいないからな」
「アンタ本当に女好きだよな」
「女はいいぞ、鋼の」
「あっそう」

会話はそのまま途絶えてしまう。 元々、エドワードはロイのことを嫌いではないが、好きでもない。 それに、話すこともないのだ。 会話は途絶えてしまうのは当然だった。 どれだけの時間が経ったことだろう。 お互いの呼吸しか音が存在しなかった。

「鋼の。そっちに行ってもいいか?」
ふと、ロイのベッドに目を向けたときに目が合った。 寝ていないだろうな、と思ってはいたが、目が合うと瞬間どきりとした。
「はあ、何で?」
「一人で寝るのは寂しいじゃないか」
「何だそりゃ」
ロイは起き上がったかと思うと、言葉通り、エドワードのベッドへと遠慮なく入ってきた。

「おい、狭い」
「こうすればいいだろう?」
ロイの腕の中に閉じ込められて、エドワードは「ふざけるな!」と怒鳴りそうになった。 しかし、その前に「鋼のは温かいな」とロイが言ったので、言葉は宙に浮いた。
「寒いの?」
外は確かに雪が降り積もっている。 しかし、この司令部の中では温度調節がされている。 エドワード自身は寒くなどなかった。
「外が寒そうだからな。鋼のは温かいなと思ってな」
「機械鎧のところは冷たいけどな」

何だ、この男は、甘える相手を間違えているのではないのだろうか。

「大佐、いつも女とこんなことしてるの?」
「当たり前だろう」
「俺、女じゃないぞ」
「知ってるよ。女性は柔らかいものだ」
「ふうん」

なら、何故俺とこんなことをしているのだろう。 単純に寒いからだろうか。 エドワードは何となく、ロイの顔を見上げた。 至近距離で見たその顔は整っている。 女が、この男に騒ぐのもわかった気がした。

(睫長えな)

そう思っていたら、ロイの視線がエドワードと重なった。 かと思うと、顔が近付き、エドワードはロイとキスをしていた。 離れていく唇が酷く遠いものに感じられた。

「大佐、これもいつも女としてるの?」
「そうだよ」
「ふうん」

外は未だ、吹雪が続いているのが目の端に映った。