朝方、窓から見た景色は白で埋め尽くされていた。
絨毯のように広がっているのは雪だ。

ノースシティーでもなく、イーストシティーでこんな雪にお目にかかるとは思いもしなかった。

「すげえ」
「全くだな」

同じベッドで寝ていたロイはすっかり目覚めたらしい。 徹夜が続いていたことを知っているので、もう少し寝ていればいいのに、と思ってしまう。 目を細め、窓を覗き込んだ彼は、白い世界に自分と同じく感嘆しているようだった。

「未だ寝てればいいんじゃないの?未だ皆来ていないみたいだし」

物音一つ聞こえない、そんな司令部。 そして、窓から映る白には足跡一つなく、綺麗なままだ。 さくさくと踏みしめれば、雪はとても柔らかそうだ。

「そうはいかないな。早めに終わらせてしまいたいしね」
「そっか」

何となく、だとそう思う。 いつもは仕事をさぼっている人間がどうして今更仕事をしようとそう思ったのだろうか。 本当に何となくではあったが、エドワードはロイの腕を手に取った。

「鋼の?」
「こんなときまで仕事とか言ってんじゃねえよ!外行こうぜ」
「外!?」
「雪が積もってんだぜ?」

そう言って、エドワードはロイを連れ、司令部の中庭までやって来た。 そこは一面白の絨毯だった。 やはり、誰も来ていないらしく、足跡が一つもない。 まっさらな絨毯にエドワードは一つまた一つと、足跡を残した。

「誰も来ていないみたいだな」
「そう!っていうことはさ、今ここは大佐と俺の貸切ってわけ!」
「貸切ね。まあ、確かにね」
「おりゃあ!」
「ぶっ」

エドワードが投げた雪球がロイの顔に見事に当たった。

「は、鋼の何をするんだ」
「雪が降ったら、雪合戦だろう!それでもって、かまくらに、雪だるまに」
「遊ぶ気か?」
「こんなに雪が降ったの見たの久し振りだから、もったいないじゃん!」
「………子供は元気だな」
「ガキ言うな!」

雪球を手早く作ったエドワードがロイに向かって投げるが、ロイはするりとかわしてみせた。

「そんなに何度も食らうか」
「ちっ」
「攻撃の手が緩んでいるぞっ」

応戦したロイの雪球が飛んでくる。 避けようとしたところに、ブーツが埋め込まれて、そのままエドワードは雪の中へと倒れこんだ。 雪球は当たりはしなかったが、その代わりに、少しだけ頭を打ってしまった。 そのまま倒れこんでいると、ロイが駆け寄ってくる。

「鋼の?大丈夫か!」
「隙ありっ」
エドワードは勢いよく、ロイの上着を掴むと、雪の中へ押し倒した。
驚いているロイの目と合い、エドワードは笑ってみせた。
「やったな」
「当ったり前だ。やられたらやり返す!」
「自分で転んだんだろう?」

二人して、少しだけ笑って立ち上がる。 雪は頭にも上着にもついた為、二人して雪を払った。 周囲を見渡せば、いつの間にか二人で作った足跡だらけだった。

「中尉にこんなところを見られたら怒られる」
「いつもあんたが怒らせるようなことをしてるからだろ?」
「何雪で遊んでいるんですか?書類は終わったんですか?」
ホークアイの口調を真似ているのだろうが、聞いているこちらとしては気持ち悪い。
「似てねえ、大佐全然似てねえよ」
下手だな、あんたとエドワードはつい笑ってしまう。

むっとした顔をしていたロイの視線がエドワードにふと向けられた。
「未だ、ついている」
「何処に?」
払いのけようとすると、肩にロイの手が伸びた。
「ここに」
「あっそう」

顔が不意に近付く。 あ、これって、とエドワードはそう思った。 先日のことが思い出され、気付けば、二度目のキスを交わしていた。

「怒らないんだな、鋼のは」
互いの唇が離れた後で、そう言うロイにエドワードは呆れ返る。
「そう思っているなら、やるなよ」
「したくなったんだ」
「したくなったら、誰ともでやるのかよ、あんたは」
「誰にでも、というわけじゃないよ」

怪しいもんだ、とそう思っていると、その背中が向けられる。 戻るんだ、とそう思った。 そのまま司令室に帰ろうとするロイに向かって声を掛けていた。

「もう、行くのかよ」

どうして、引き止めてしまうのだろう。 引き止めてしまえば、今日が終わってしまう気がした。 ロイは困った顔をしたように思ったが、それは一瞬だった。

「そうだな、もう少しだけなら君に付き合ってもいいぞ」
「………俺があんたに付き合うんだよ」



結局他の軍人が来るまで雪で遊ぶことはやめられなかった。 遊びきった頃には、雪で雪ウサギを作り、それを執務室の窓辺に飾った。 それに気付いたホークアイから「遊んでいたんですか?」との声があったが、ホークアイはロイに怒ったりしなかった。 ただ、不恰好な雪ウサギを見て、少し笑っていた。

外はすっかり日差しで雪が溶け、ところどころ地肌が覗いていた。 雪ウサギも直ぐに溶けてしまうのが少しだけ、寂しかった。