「すっかり春になったねえ」
アルフォンスの言葉に、ふと、我に返る。
「あ、ああ、そうだな」
「兄さんぼーっとしてたね。何か考え事?」
「まあな」
アルフォンスの言葉の通り、視線を移してみれば、そこには春の景色がわかる。 咲き誇る花々。 それは、故郷のリゼンブールを思わせた。 歩いている人々も、何処か嬉しそうに見える。

これから向かう東方司令部。 そこに向かうのに、何故か足が進まない。 冬のとき、ロイと話をした、そのことを思い出してしまう。 春が来るのを待ち遠しい、とそう唐突に言った男のことを。 その瞬間意味を思わず、考えてしまった。 しかし、その次には特に何でもない、言葉遊びのようなものだろうと考えることを放棄した。 それなのに、今、この東方司令部に向かう段階で考えずにいられないのだ。

ロイのことを嫌いか、そう言えと言われたら、エドワードは嫌いだとはっきりと言える。 理由はたくさんある。 嫌いな理由を言えと言われれば、どれだけでも挙げる自信がある。 しかし、好きかと聞かれたら、今だと戸惑ってしまう。

「ずっと雪を見てたから、花とか見るのが新鮮だね」
足を止め、アルフォンスが花に見入る。 エドワードが知らない、そんな赤い花弁を持つ花だった。 駅を出て直ぐ、植えられた花たちは花壇の中で行儀が良い。
「寒かったなあ、北部」
寒く、凍えるような、そんな夜に、ロイの体温を思い出した。 寒いからと手を伸ばされたそのときのことを。そして、唇に重なった熱のことを。

(大佐ってずるいよなあ)

忘れていた体温を、物理的に距離を離れても思い出させるのだ、いとも簡単に。
遠い昔に忘れていたもの。
自分にはそんなものは無用だとそう思っていたのに。

「アル」
「何、兄さん?」
「勝負に勝つ効果的な方法は?」
「……………先制攻撃?」
唐突なエドワードの言葉にアルフォンスは律儀にも言葉を返す。
「よし、そうしよう!」
拳をぎゅっと握ったエドワードにアルフォンスは不安になったらしい。
「ちょっと、兄さん何かするつもり!?」

春は恵みの季節だ。 冬を過ごしてきた者はいつだって、春を待ち侘びている。 そんな春を複雑な気持ちで迎えたエドワードはその原因となった人物に先制攻撃を仕掛けるべく、今度は力強く足を動かした。