「大将が来ましたよ」
ハボックの言葉に、そうか、と鷹揚に頷いてみせた。 気にかけて、執務室の扉からエドワードの姿を探していた。そのことを、ハボックは知っているようだ。



「来たか、久し振りだな、鋼の」
「まあな、元気にしてたか、大佐。もう歳だもんな」
執務室に入った途端、にかっと笑って、そう嫌味を口にする。 口が本当に減らない子供だなとそう思う。 以前であったら、気分を害したであろうその言葉にも、ロイは気にしたりはしない。 それよりも、言葉の応酬を楽しんでいる自分に気付く。
「どうだった?北部に行ってきたんだろう?」
「何もなかったよ。まあ、ガセだった。今度こそって思ったんだけどな」
肩を竦める、そんな仕草に目が奪われる。
「北部は寒かったろう?よく何ヶ月もいたな」
「まあ、他に有力な情報なかったし。色々話聞いたり、図書館に通いつめてた」
「だったら、東方司令部にくれば良かったんじゃないか?」
「……………何でだよ」
返ってくる反応が何処か普段と違う、とそう感じている。 あのとき、あのひとときの冬に感じた気持ちがふと湧きあがってくる。 それを感じた。
「図書館もまた新しく本を入荷していたし」
「あー。そっか。そんな話を聞いていたな。忘れてた!」
くそーとそう言う子供は本当に悔しそうだ。 喜怒哀楽が素直に顔に出ている。 子供なんだよなあと改めてエドワードを見て思う。 癖のない触ったら簡単に梳かせるであろうブロンド。猫を思わせる金目。伸びた可愛らしい手足。 自覚をしてしまえば、手に入れたいとそう思ってしまうのは、性だろう。
手を伸ばせば、今にも届く、そんな距離だ。
「春が待ち遠しかったよ」
「何でだよ」
警戒をしている、とそう思う。 そこまで警戒をしても無駄だということを教えたい。 大人は駆け引きがうまいんだ。 子供をどうにかするなんてとても容易い。
「君が私に会うのは春かなと言ったから」
一瞬にして顔が赤くなったとそう思う。
「そ、そんなこと言ってない!」
「言った。ちゃんと覚えているよ。何せ、君から色よい言葉を聞いたことがなかったからね」
「それは、言葉の文だ!」
「嬉しかったよ」
間髪入れずに、そう言うと、エドワードは黙り込む。
子供を困らせるのは、良くない、と部下に言われそうだ。
「………大佐ってずるい」
小さな声でそう呟く。
「そうだろうね」
だから、逃げ出すなら今のうちだよ?
捕まえたら、もう逃がさない。
欲しいと思ったものを、みすみす逃がすつもりはないが。

少し揺れている瞳を見ていると、意地悪なことを言ったのだなということがわかる。 彼にとって大事なものならずっと傍で見ている。 目的の為に成していかなければならないこと。 それは、ロイを含んでいない。

「大佐」
ふとした沈黙の後、言葉が真剣味があるものへと変わる。
「何だね?」
ロイは目の前の書類に取り掛かるべく、広げた。 今日はそれほど溜まっていない、そんな書類を片付ける為に。 そして、目を上げたその先に、エドワードの顔が直ぐ近くにあった。 焦点がぶれる。 ぶつかる、とそう思った、その矢先に、互いの唇が触れた、とは言い難い激しさでぶつかった。 がちんと歯も当たった。 こんな初心者向けのキスをしたことはいつだったんだろうとそうふと、考えた。

「痛っ」

互いに同じ言葉を口にする。
口を押さえてしまうのも、お互いに、だ。

「今のは何だっ」
「き、キスだよ、キス!」
「痛かったぞ」
「悪かったな。自分からしたのって初めてなんだよっ」
何でエドワードがキスをしたのかわからない。 それでも、何故か負けた、とそう思った。 囚われている、きっと、ずっと前から。
「じゃあ、今度は私からしてもいい?」
負けず嫌いなんだ、私もとそう口の中で呟く。

答えを待たず、ロイはエドワードにやり直しのキスをした。