2005年3月31日(木)花花は瀧の口にて逡巡す

 昨日書き忘れたが、参加者の一人S松さんに新作『句集『檸檬花』』(林哲夫、私家版、二〇〇五年)をいただく。自分の句集が知らぬうちに編集制作されているというのも、面映ゆいものがある。今回はデイリー・スムースの拙吟から植物関係ばかりがアレンジされ、「草花の絵のある本―深沢紅子挿絵・装幀本考」なる小冊子まで付いている。帙には信州追分寿美屋の包装紙(深沢紅子・画、堀恵子・書)や皓露書林のシールのコピーなどが貼られている。有り難く架蔵させていただく。

 ウンチクの弟子よりメールあり。弟子は弟子でも絵の方だが、デイリー・スムースを読んでくれているようで、古書の方ももだんだん深くなってきた。《先日、三宮商店街(神戸)の古書店で澁澤龍彦の「記憶の遠近法」を見つけてレジに持っていくとレジの女店員が笑いながら「この本は20分前に持ち込まれたばかりなんですよ。いいタイミングでした。」との事。私はぜんぜん気がついていなかったけど「初版本です。」といわれました。私は特に気にしないんですが初版本っていいんですね。/もうひとつ、先日神戸の古本市に行ってきました。また澁澤龍彦の初版本と滝口修造の「点」それとよくSUMUSにも出てくる「ユリイカ」バタイユ特集なんかを買って来ました。/結構いい本が買えたなと喜んでいます。》

 『瀧口修造夢の漂流物』(世田谷美術館/富山県立美術館、二〇〇五年)がやっと届く。白い角背のハードカバー。ツカ(背の厚味)は40ミリにも及ぼうかという厚冊だ。ノドの開きはムチャクチャ悪いけれど、飾っておくには美しい。ダンボールの梱包方法もちょっと変則的で凝っている。これは参考にできそうだ。

 黄土色の部分が梱包材。これをさらに四方帙のように包む。デザイン=梯耕治


2005年3月30日(水)百円で地団駄を踏む春の宵

 「スムース友の会」盛会のうちに終了しました。お忙しいところをご参加くださった皆様ありがとうございました。『sumus』同人も含め25名、春の宵をにぎやかに過ごしました。

 100円対決で盛り上がる山本と岡崎(撮影=苗カメ)

 まずは、石原輝雄さんに音頭をとっていただき乾杯、岡崎の挨拶から始め、参会者の自己紹介を。初めてお会いする方もかなりおられた。ブログまたは独自のサイトを運営されている方のみご紹介させていただく(予約順)。もし抜けていたらご一報ください。

晩鮭亭日常
マンレイスト
苗マガジン 苗カメ日記
古書往来(創元社HP)
古書店街の草
うらたじゅん
風流夢苑
うわづら文庫 kuzanの日記
カフェ・ド・ポッシュ
にとべさん

 しばらく歓談後、いきなりメイン・イヴェント「岡崎 vs 山本 100円均一・十番勝負」に突入した(文庫とお知らせしましたが、文庫にかぎらない勝負でした)。二人が、スケッチブック一ページに一冊、題名などを大きく記して、会場に見せながら解説。判定は参加者の挙手による。○勝、●負、△引き分け。

1 山本○ ヴェルレエヌ詩集(創元選書)生島遼一宛鈴木信太郎署名入り
  岡崎● ミコのカロリーブック(集団形星)
  ※いきなり最強カードを切った山本、岡崎は最愛の(?)弘田三枝子本。10-5で山本。

2 岡崎○ 蠣崎波響の生涯(新潮社)
  山本● 一銭五厘の旗(暮らしの手帖社)
  阿佐ヶ谷「ブ」の開店早々に拾った中村真一郎の大作、函入り、が効いてか、9-7で岡崎雪辱。

3 山本● ARE6号洲之内徹特集号
  岡崎○ サラリーマン武士道(?)
  竹岡書店で100円のARE6に対して、福田定一(司馬遼太郎)の珍品新書が圧勝。

4 岡崎△ 湖沼学入門(講談社) 山口瞳着色絵入り署名本
  山本△ 炉辺と樹陰(岡倉書房)
  渋い本のぶつかり合いとなった。松本泰あたりまでチェックしている山本、山口瞳でもひねり
   が効いている岡崎、たがいに譲らず、7-7の引き分け。

5 山本● 巴里物語(論争社)
  岡崎○ 宰相御曹司貧窮す(文芸春秋新社)
  ※これは持ち味の出たカードと思ったが、松尾邦之助がちょっと渋すぎたか、吉田健一浴びせ倒し。

6 岡崎● 1960年代日記(ちくま文庫)
  山本○ 風流艶色寄席(あまとりあ社)
  ※小林信彦を自信満々で差し出したところが、0点。巷では希少なれど、ここではみんな持って
   いるらしい。正岡容、肩すかしで難なく勝ち名乗り。

7 山本○ ピエールとリュス(叢文閣)
  岡崎● 珈琲遍歴(四季社?)
  ※三条の「ブ」で買ったという例の本、誰もが信じられないと驚き、奥山儀八郎を吹き飛ばす。

8 岡崎● 見える世界、見えない世界(集英社)署名本
  山本○ シュルレアリスム文学論(天人社)
  ※後藤明生が近ごろ人気だとあおる岡崎、しかし西脇の珍本(『sumus』12参照)が怒濤の寄り切り。

9 山本● 石井柏亭画集(アトリエ社)
  岡崎○ すばらしい雲(新潮文庫)宇野亜喜良表紙
  ※これまた特徴的な闘い。がっぷりかと思われたが、サガン・宇野亜喜良の一本勝ち。
   このあたり、陪審員に大きく左右される。

10 岡崎○ 天体嗜好症(春陽堂)
   山本● 悲歌(
桃蹊書房)
  岡崎が10冊目を用意してないとあわてだしたところ、山本が「足穂あるやん」とポロリ。そやそや、
   ということで、裸本なれど、喫驚の足穂の稀覯本100円が出た。さすがの上林も完敗。

 岡崎5勝、山本4勝、1引分。岡崎辛勝。徹夜して(?)10冊を選びに選んだ山本だったが、少々考えすぎたかもしれない。それにしても、この20冊、しめて二千円ちょっと(「ブ」などでは105円)なのだから、ただただ驚くほかない。「東京スムース友の会」(5月8日か9日あたり)でも、均一本十番勝負トーナメントを行うという話になったので、いずれ南陀楼綾繁の方から告知があると思います。お楽しみに。

 引き続きオークションへ。ウンチクが『ARE』のバックナンバーを五冊ほどバラ売り。ほとんどの号がこれで売り切れとなった。洲之内徹特集を希望しておられた晩鮭亭さんは、山本の上記の一冊を1,500円にて落手。めでたしめでたし。岡崎、山本、扉野とそれぞれの持参本を、岡崎が振って、ほとんどすべて落札されていた。いい本ありました。ウンチクも扉野くんの『THE GREAT GALLERIES OF EUROPE』(CASSELL, 1907-9)のシリーズ6冊1,000円と山本の『記憶の蜃気楼』(鈴木信太郎、講談社文芸文庫、一九九一年)を200円で。うれしい。

 あとはウンチクが用意したくじ引き福袋をお客様に引いてもらった。些末なものから少々価値ある品までいろいろ入れておいたが、運命とは恐ろしいもの、マンレイ石原さんの引き当てた品が、なんと、石原さんにウンチクがいただいた資生堂でのマン・レイ展図録ボックスだった(!)。ほとほとマン・レイに縁のあるお方である。

 最後に、南陀楼綾繁が4月30日の一箱古本市、岡崎が地下展での角田光代さんとのトークショー、山本がエルマガの連載、高橋輝次さんが心斎橋絵巻に関する新刊、石原さんが銀紙書房から昨年国内を巡回したマン・レイ展に関する本を出すという告知など、それぞれの宣伝活動をもって締めくくり、解散となった。お疲れさまでした。

 その後、しばらく居残り組で雑談。南陀楼、にとべさんなどその道の者どもが岡崎日誌のブログ化について、いろいろ説明するが、岡崎はどうしても自分でやる自信がないという。ついには、にとべさんが地下展に合わせて上京したとき、岡崎宅を訪問してセッティングするという約束をした。さてどうなるか楽しみに見守りましょう。


2005年3月29日(火)札を取る尻さだまらぬ春休み

 午前中に近代ナリコさんも参加するという電話が扉野よりあり、総勢26名の出席者リストを作る。スムース友の会の報告は明日。プラハの田中大さんよりお便りをいただいたので、掲載させていただく。プラハの春をおすそわけ。


【プラハ便り】

 今年の春は本当に急にやってきました。おかげで、花も樹も、春への準備がしきれなかったようで、いつもならもう咲いているはずの連翹や雪割草もまだ見えません。気温と陽射しだけが先に春を持ってきました。

 今日、明日と復活祭です。復活祭のシンボルは卵で、これはキリスト教の国々では共通かと思いますが、もう一つ、ほかの国のことはよく覚えていないので、間違っていましたらお詫びいたしますが、チェコならではか、と思われる風習は、復活祭の月曜日、猫柳の若枝で編んだムチで男性が女性の腰やお尻を殴りつける、というものです。春の息吹を女性の胎内に送り込むことで、豊穣と繁栄を祈るもののようで、どうもキリスト教以前の異教の名残のような風習ですが、女性はぶん殴られて「ありがとう」とお礼を言わなければならないうえに、いわゆるイースターエッグを渡さないといけません。(イースターエッグ、昔風であれば卵に蝋で絵を描き、紅茶で茹でてからに色をつけたもの、一般的なのは、絵の具で色をつけ、さまざまな柄が描かれているものです。)たいてい、小学生ぐらいの男の子たちが「色のついた卵をおくれ、色のがなければ白でもいいよ、卵はどうせニワトリくれる」と歌いながら、同級生の女の子の家を回っていくようです。家庭のなかでもやるようです。女性からするとたまったものではないような風習ですが、聞いたところによると、ある村では、4年に一度だけ、女性がこのムチを持って男をぶん殴る年があるのだそうです。(この村だけのようで、ほかでは聞いたことがありません。)[3/27]

 昨日今日と、プラハから30Kmほど離れた、小さな村におりましたが、今日、卵をもらいに来たのは一人だけ、しかも女の子でした。もらいにくるのが女の子、というのは、珍しいので尋ねてみたら、一人っ子なのだそうです。友人は「一人っ子でも珍しいけどね」といってましたが。ちゃんと「色のついた…」を歌っていきました。(歌っていくというか、唱えていくというか。)その村では、ガラガラと音を鳴らすおもちゃ(形状の説明はうまくできませんが、木でできた旗のような形になっていて、さおの部分を持ってまわすと、ガラガラと音を立てます)をならして、金曜日に、子供たちが朝から晩まで歩いていた、ということなので、それで、先に済ませたような形になっていたのかもしれません。[3/28]


【ナベツマ映画祭/パルムドッグ賞*】
1999年/中国映画「山の郵便配達」 助演犬「次男坊」ジャーマン・シェパード、オス

受賞の理由/その真摯で自然な演技は、映画の出来ばえに和みというすばらしい効果を与えた。

この映画は、山岳地方での過酷な郵便配達という天職を、父から息子に引き継ぎを行なう過程と父の仕事納めを描く。常に父の行脚に同行していた犬の次男坊が、人間の長男坊を同行者として最後には認めていくという、重要な役割を担い、そのテーマに貢献を行なっている。

The Palm Dog Awards/2001年よりカンヌ映画祭において英国人ジャーナリストによって設立。第2回では「過去のない男」のハンニバル(雑種メス)も栄誉を勝ち取る。


2005年3月28日(月)花びらの張り付く国を越しし窓

 終日雨。明日の準備。海文堂書店搬入の仕上げ。

 ここしばらく話題のSBIのK尾氏はK高校で村上春樹の二年下だったという情報入る。放送委員会(=放送部。ちなみに村上氏は新聞委員会)に所属していたそうだ。当時からほとんど印象は変わっていないとのこと。ナベツマの知人でK高校出身のM子さんより。

 先日買った雑誌『八雲』(八雲書店、一九四八年七月号)の「銀座十字路・座談会」(北原武夫、道明真治郎、大槻光枝、河盛好蔵)で珈琲店「きゅうぺる」主人の道明が永井荷風のカフェー遊びに関しておもしろい発言をしている。《道明 昔、永井荷風先生がはあゝいうところへ来られても、決して壁際には坐らないんですよ。何かぶっつけられるとあぶないですからね。大抵入口の側に座を占めておられた。/北原 いつでも逃げられるようにですな。》、本当だとしたら、荷風らしい用心深さだ。

 昨日、扉野が見つけて渡してくれた『みづゑ』(美術出版社、一九六〇年五月号)。佐野繁次郎の表紙。



2005年3月27日(日)さらば友よ緑あらたに盃を挙ぐ

 四時過ぎ河原町通五条上るの画箋堂へ。画材の仕入れ。五時二十分頃、近くのホテルのロビーで向井・岡島両氏と落ち合う。出雲から到着したばかりとか。南陀楼綾繁の実家で蔵書整理した話など(詳しくはそれぞれのブログでどうぞ)。山本、重そうな黄色い袋をぶらさげて登場。一同納得。ごく最近、三条の「ブ」で『ピエールとリュス』(叢文閣、一九二四年)を105円で見つけたという話に驚く。野尻清彦(大佛次郎)の翻訳という珍品。「ブ」にそんな古い本が並んでいた事自体が不思議だ。扉野、中尾氏現れ、みんな揃ったところで、寺町通の梁山泊を強襲する。

 現代詩のコーナーで吉岡実装幀の詩集を発見するも、未整理で、購入できず。書肆ユリイカ本が3冊あった。扉野が田中克己『李白』(筑摩書房、一九五八年再版)を探しだし、これも「吉岡実の装幀じゃないですか?」と言う。クレジットはないが(筑摩の社員なので)、字配りや題箋の貼り方がいかにも吉岡本である。これは800円なので購入。店を出ると、向井氏が「いい本ありますね〜、ゼロが一つ少なきゃ、ごっそり買うのに」って、こらこら。

 扉野推薦のレストラン・バーへ移動。まずはビールなどを注文し、先日の椎の木社の『スタイン抄』を取り出す。すると山本が三好達治『南窗集』(椎の木社、一九三二年)を扉野が『ヴィヨン詩抄』(同、一九三三年)を出してくる。別に申し合わせていたわけでもないのに、期せずして椎の木社の本が三冊並ぶ。いずれも簡素だが、筋の通った作りである。とくに『南窗集』は和紙にゆったりと刷ってあり、とりたてて装飾もないにもかかわらず、なんともいい仕上がりになっている。やや状態が良くなかった。「これも100円?」と尋ねると、さすがに「いや、それは高かった」という答えだ(山本の高いだから想定の範囲内ではある)。なんでも、「赤貧」で定着してしまったので、高い本を買うと読者から苦情が寄せられるらしい。

 中尾氏からできたてホヤホヤの『CABIN』をいただく。今号は坪内さん、田村さん、扉野、林、松本など知り合いばかりが目次に並ぶ。ウンチクは「スムースの作り方」を寄稿した。さっそく扉野から誤記の指摘あり。53ページ下段、竹田道太郎は多田道太郎、院展は創画会の誤り。早とちりでした、お詫びします。『BOOKISH』の方も難渋しながらも四月末頃には出来上がる予定だそうだ。山田稔特集。堀江敏幸氏に原稿を頼んだが、じつは山田氏は堀江氏をあまりかっていないらしいとか、おもしろくなりそう。少し遅れて前田和彦君到着。現在、就職活動中。来春卒業予定。昨日の海野君の話をすると「よかったですね」と喜びつつ裏話を披露してくれる。

 山本がひいきにしていた古本屋がひとつなくなったという話題。「僕のせいやないよ」と誰も訊いていないのに弁解する。岡島氏は東京でも話題になっていたと言う。「○○書店がとんじゃった」というのが業界用語らしい。明後日の「スムース友の会」で、山本 VS 岡崎の100円文庫本十番勝負がぜったい見たいよねとセド・イチ・コンビが。「明後日まで居りや、扉野くんのマンションに案内するで(笑)」と山本(本気モード)。「処分するならいつでも飛んできますよ」とお二人さん。東京でも「スムース友の会」やってくださいよとのことなので、五月の地下展のときに前向きに検討しましょう。幹事は南陀楼さまに任せます。その他、馬鹿話に興じて十一時前に解散。

 田中克己『李白』筑摩書房、一九五八年再版(一九五五年初)


2005年3月26日(土)オオイヌノフグリの群を踏みしだく

 オオイヌノフグリが青紫の可憐な花を盛んに咲かせている。犬のフグリに似た実をつけるところからその名があるという。

 海野君より京都私立芸大の図書館に勤めることになったという手紙と映画雑誌『ブーケ BOUQUET』(五星社、一九二九年八月創刊号)の所在(雨夜全映画雑誌コレクション、東京国立近代美術館紀要)を示すコピーが届く。『ブーケ BOUQUET』は『作品』の発行者駒沢文一が発行人となっている。『サンパン』をちゃんと読んで気に掛けてくれていたことに感謝。

 『彷書月刊』4月号、特集・山のあなたに。山本は興味ないが、奥深そうだ。近代ナリコさんが連載のなかで「春樹ブーム」について書いている。「ゴム底」と「ラバー・ソウル」の違いへのこだわりがおもしろい。これで思い出したのがビートルズのアルバム「ラバー・ソウル」。原題は「RUBBER SOUL」。3月22日に触れた「ノルウェーの森」が二曲目に収録されており、アルバム・タイトル自体も「ノルウェーの森」と同じくかなりひねくれている。直訳すれば「ゴム製の魂」あるいは「マッサージ師魂」(?)だ。rubber sole(ゴム底)にひっかけていることは間違いないが、アルバムの内容からすれば「lover soul」でもおかしくはない(経験から言うと、英国人はl とrをさほど極端に区別しないようだ)。ジョンはデュシャンの弟子ですな。

 また岡崎武志の古書店紀行に『ミステリーファンのための古書店ガイド』(光文社文庫、二〇〇五年)が紹介されているが、実はこれを岡崎に薦めたのはウンチクである。エヘン、と威張ることではまったくなく、ウンチクに教えてくれたのは高橋さんだ。古書情報に鋭敏な高橋さんの連載は創元社のHPから「本の町通信」へ入った「古書往来」で読める。今月は著者と編集者のトラブルが話題になっている。

 『Lmagazine』5月号、文具特集。「天声善語」は漱石の縮刷本についてなど。最近、集めているそうだ。漱石の作品ではウンチクも『明暗』がいちばん気に入っている。金欠の話なので同感するところが多い。恵文社がJR長岡京駅前バンビオ内に新店舗を出すそうだ。オープン記念企画モノクロ本「恵 文子ちゃん」を発行するとか。


【ナベツマ通信・傷心の日々はまだまだ続く・・・の巻】

 とうとう来たか、ここまで痛んでいるとは・・。
 蘊蓄が上京している間に、つい魔が差して「ポチっ」とやってしまったナベツマ(「ポチっとな」とは2ちゃんねる用語では「マウスをクリック!」、オリジナルは、龍の子アニメ/タイムボカンシリーズの ボヤッキーの名台詞でした by Nマナブ氏よりのご指摘)。届いたオレンジぷち鍋は、欠け・ひび・剥がれとオールインワン揃っていて、間違いなく「ナベコレ悲劇No.1」となった。そもそも一番の運の悪さは「小包」でなく「書類/letter-post」で発送されたこと。例のたぬきじいさんから落札して、届いたらヒビが入っていた片手ソースパンも、実はこのletter-postで届いていた。

 国々によって郵便制度はまちまちだが、アメリカの場合は海外向け郵便には「書類」と「小包」があり、それぞれ「航空便」と「船便」に分かれている。「書類/letter-post」は、重さ64oz(オンス)まで送付可能(1オンスは28グラム。64オンスは1792グラムで4パウンドに相当。1パウンドは453グラム)。4Lb(パウンド)=64oz以上の荷物だと「小包/parcel-post」扱いになる。1Lb(=16oz)からは、小包でも送付可能なのだが、いかんせん郵送料が安価な書類扱いが好まれるようである。例えば、16ozの荷物を書類で荷出しすると$9.70、小包だと$16.25。オレンジ鍋おばさんも、たぬきじいさんも、好意で安いほうの書類扱いで送付してくれたというわけ。

 もちろん、ナベツマは船便には懲りていたので、いずれも航空便でやって来たんだが、なにせ扱いが書類だから、想像するにポンポンと放り投げられたり、ドンと着地したりしたんだろう。

 悲しい、悲しすぎる・・。立ち直れそうもないナベツマ・・・。下妻物語を鑑賞して「がはははは!!」と笑い飛ばすしかない日々なのであった。

 


2005年3月25日(金)釘煮きて指の痛さの甦る

 いかなごの釘煮は稚魚のとれるこの時期だけのもので関西では春の風物詩となっている。到来の釘煮を見て、昔、折れ釘を石の上に置いてひとさし指で押さえ、金槌で真っ直ぐに打ち延ばしたことを思い出した。

 ようやく啓祐堂での写真を現像した。遅まきながらご覧ください。上段二枚が通路から展示空間を正面に見たところ。下左は展示空間から通路を見たところ。書店部分が写っている。下右も同じく、やや右側。

 

 

 『立原道造記念館』33号に杉山平一さんが立原との思い出を執筆されている。何度も繰り返し書かれていることだろうが、やはり歴史の一齣という印象を受ける。《立原さんと一しょに本郷通りをあるいていると、いま軽井沢から出てきたところだという堀辰雄さんと逢い、一しょに映画を見に行こうと私も誘われ、神田でデビュビエの「地の果てを行く」と「最後の戦闘機」を見たあと、中華料理をたべ、銀座へ出ようと、資生堂でコーヒーをのみ立田野で甘いものをたべて別れた。私の生涯での忘れ難い一日だった》。ちなみに「地の果てを行く」はデュヴィヴィエだが、「最後の戦闘機」の監督はアナトール・リトヴァク。ともに1935年製作、どちらの主演も「巴里祭」「北ホテル」などのアナベラである。ひとときの日溜まりのような時代だった。

 ナベツマ・レンタル週間の最終作品「華氏911」のDVDを見る。よくできている。「Shame on you !」ではすまされないアメリカ国民の選択だった。画面のなかで、子供を殺されたイラクの母親が「神はどこにいる?」と叫び、戦死したアメリカ兵の母親は「神よ、なぜ息子を奪うのか!」と嘆いていた。神はいない、いや、悪魔を作ったのも神だと言うべきか。80点。(なお、ナベツマ春休み映画週間のラインナップは「シャーロット・グレイ」「ベッカムに恋して」「トレーニングデイ」「八日目」「ミスティック・リバー」「下妻物語」「華氏911」でした。ナベツマのイチオシは「下妻物語」、超映画批評は85点付けてるよ!)


2005年3月24日(木)ひょろり創刊号らし若桜

 海文堂書店での装幀フェアーの展示パネルを仕上げる。『ARE』や『sumus』のバックナンバーも非売品として並べるつもり。むろん残部あるものは売ります。4月1日より。

 このところのレンタル映画三昧はナベツマの趣味。半額クーポン週間なので、まとめ借り。今日は「ミスティック・リバー」(イーストウッド、2003)を見る。ボストンの貧困地区で3人の幼なじみが成長してそれぞれが女性殺人にかかわってくるミステリー。ショーン・ペンがいかにも主演賞が欲しいという演技をしている(実際、2004年度のアカデミー賞主演男優賞と助演男優賞ティム・ロビンスを獲得)。それにしても犯人があれはないだろう・・・。演出もカッコつけすぎ。ナベツマ怒る「これじゃミステイク・リバーだわよ!」。59点。

 大鳥逸平『古本売買の実際知識』より、《和本屋は次第に押しのけられて、洋本屋の天下が来たのだ。殊に神田はさうである。神田といへば、二十年前までは、新本屋兼業の古本屋が大部分で、今日のやうに専業化してはゐなかつた。(尤も、今日でも、主な古本屋は、東京書籍商組合に入つてゐる)だから、もともと、こゝは洋本屋の天下であつた。》p19。二十年前というのは大正のはじめ頃ということ。新刊も古本も区別しないのが書店本来の姿である。

 大鳥逸平『古本売買の実際知識』古典社、一九三一年


2005年3月23日(水)菜種つゆふくらむ壁をただ眺む

 数日雨が続くと壁や天井の雨漏りが心配だ。押入には本の入った箱が重ねてある、ビニールを被せて備えてはいるが。

 阪田寛夫氏が亡くなった。といっても『わが小林一三』(河出書房新社、一九八三年)しか読んでいない。たまたま『含羞詩集』(河出書房新社、一九九七年)があったので、この機会にパラパラと拾い読みした。あとがきがいい。大久保の「くろがね」で編集者たちとこの詩集のタイトルを決めかねて井伏鱒二のことを思い出す話。《むかしここで飲んでいて、夜更けに和服姿の井伏氏が立ち寄られると、緊張のあまり私は物が言えなくなった》。一篇引用させていただく。「おまちどおさま」

 四月三日
 雨があがって
 もしやと出かけたら
 パラソルさして
 先に桜が待っててくれた
 焦がれてるのはこっちなのに
 言わせてもらった
 年に一度のぜいたくなせりふ
 「おまちどおさま」

 阪田寛夫『含羞詩集』河出書房新社、一九九七年、装幀=望月通陽

 地下展での『[EDI叢書]全12巻完結記念トークショー』(5月9日、午後7〜9時、東京古書会館)、荒川洋治さんの演題は「文学とことば――[EDI叢書]を中心に」に決まったとのこと。『サンパン』次号もこのときまでには完成している予定(!)。

 大鳥逸平『古本売買の実際知識』(古典社、一九三一年)を読みはじめる。おもしろい。大鳥逸平というのは慶長頃の悪党の名前だが、ひょっとしてペンネームだろうか(ご教示ください)。かなり左翼的な言辞が目立つ。何しろ伏せ字があるんだから、驚く。例えば《一、一切の貴重書を貴族富豪から××せよ!》って、ひょっとして「××」は「刧掠」か「略取」だろうか?(クロポトキンの『麺麭の略取』)、う〜ん、今なお古本屋にアナキストを標榜する者が多いのもうなずけるなあ。

 レンタルビデオ「下妻物語」(中島哲也、2004)を見る。まずは笑えた。土屋アンナが好演している。それにしても尼崎のイメージがあんまりじゃないか、住民のほとんどがヤンキーか元ヤンキーって、まさか。77点。なお龍膽寺雄は下妻の出だ。

 ルネ・ラルーの「コンプリートDVD-BOX」(イマジカ、2005)が出たそうだが、欲しいものだ。すでに定価より安く売られているので、もう少し待つべしか。いま、ちょっと探してみたところでは日本独自のもののようだ。


2005年3月22日(火)洋本の耳切る阿蘭陀渡るころ

 「阿蘭陀渡る」は毎年三月にオランダ人が徳川将軍に謁見するため江戸に入ったことから。オランダ人一行は正月に長崎を出発したそうだ。

 南陀楼綾繁よりメールあり。29日の「スムース友の会」に参加しますとのこと。これでメンバー6人が揃います(!)

 岡崎武志、九州で大地震に遭遇! なんと、そのとき、古本屋にいた!

 安東次男『風狂始末』を読み継いでいる。連句というのは知的な遊びなのだから、その座に参加した人々の「常識」あるいは「教養」を読み解かなければ、まったくその意味を計ることができない。それで、ふとビートルズの「Norwegian Wood (This bird has flown)」をなぜ「ノルウェーの森」(村上さんの本は『ノルウェイの森』)と訳したのか、という問題に連想がおよんだ。歌詞の冒頭と最後の連を引用してみる。

I once had a girl
Or should I say
She once had me
She showed me her room
Isn't it good
Norwegian wood?

(略)

And when I awoke
I was alone
This bird had flown
So I lit a fire
Isn't it good
Norwegian wood

最初の「Norwegian wood?」は、男がナンパしたか、されたか、彼女の部屋にやってきた、という状況から考えて、「ノルウェー風の木目調の家具あるいはそれに類したインテリア」という意味に取るのが自然だろう。最後の方は、朝、目覚めると彼女はいなかった。そこで一服した(I lit a fire)わけだから、むろん家具ではなく、ハッパ(マリワナ?)である。ジョン・レノンの歌詞(だよね)にはしばしばこういった多重の意味が仕掛けられている。

 では、なぜ「ノルウェーの森」としたのだろう? 歌詞の内容を読まないでタイトルだけから翻訳したか(読めばゼッタイに「ノルウェーの森」とはしないでしょう、森はwoodsだし。鳥は飛んでいってしまったという副題が効いたのかも)、または音楽の雰囲気から「ノルウェーの森」が似合っているとでも思ったか(でも実際はインド風?)、あるいは、意味を重々承知の上で諸般の事情をかんがみて、文字通り「ケムに巻いた」のか。ま、誰にも訳せないのだから単に「ノーウィージャン・ウッド」でよかった。

 「八日目」(ジャコ・ヴァン・ドルマル、1996)をレンタルヴィデオで見る。芸達者なダニエル・オートゥイユとパスカル・デュケンヌの掛け合いが見物。幻想シーンはよしあし。75点。

 佐野繁次郎展のチケットをある方よりいただく。4月2日から5月15日まで、東京ステーションギャラリーにて。すでに書いたように地下展(5/8〜10)のときに上京するので、観覧を楽しみにしている。先日予約した瀧口修造展の図録、出来上がるのが4月にずれ込むらしい。お詫びの葉書が届いた。やれやれ。




2005年3月21日(月)昼酒に愛宕の霞む役じまい

 町内会の役員が今月にて終了。慰労会を兼ねた昼食会が近所の料理屋で開かれた。やれやれホッとする。この料理屋は畳敷きにもかかわらず洋式の椅子テーブルが用意されていた(年配の人が多いからだろう)。ビールと日本酒が思わずすすむ。

 帰宅して、家の周辺をミカン散歩。花粉症が治ったと書いたが、先週あたりから、軽くぶり返している。かなり多量の花粉が飛散しているようだ。帽子・マスクの装備は欠かせない。

 「トレーニングデイ」(フークア、2001)のレンタルビデオを見る。ロス市警の悪辣な麻薬捜査官(デンゼル・ワシントン)が正義感に燃える新入捜査官(イーサン・ホーク)を連れ廻って教育しようとする一日を描く。デンゼル・ワシントンが悪役に挑戦したわけだが、そしてアカデミーの主演男優賞ももらっているが、やっぱりもうひとつ徹し切れていない。イーサン・ホークの方が良かった。78点。なお2002年のアカデミー賞は史上初めて主演男優(デンゼル・ワシントン)、主演女優(先日見た「チョコレート」のハル・ベリー)ともに黒人が受賞した。

 2002年のMTVムービー・アワード(聴取者投票による)でセリフ賞をデンゼルがもらっている。終末近くで、悪徳捜査官が叫んでいた“King Kong ain't got nuthin on me.”(矢でも鉄砲でももってこいというような語気で「キングコングなんか屁でもない」)だそうだ。そうそう、途中で車椅子のヤクの売人が「I'm straight(ヤクはやってねえ)」とほざいてました。

 英語のお勉強が続いたので、書影も大正時代の可愛いらしい英語リーダーにしてみた(高さ125ミリ)。各作文の終わりに挿入された諺(?)がおもしろい。God helps the rich ; the poor can beg(神は金持ちを助ける、というのも貧乏人は物乞いできるから)など、いずれも皮肉が効いている。

 『POCKET HOME READER FOR THE SECOND YEAR BOOK2』研究社、一九一九年


2005年3月20日(日)とりどりの春の袴が送らるる

 スリー・ドッグ・ナイトっていうグループいたよね、名前の由来知ってる?」とナベツマに問われて、「Joy To The World」や「Old Fashioned Love Song」(ともに1971)のヒットソングがすぐに頭に浮かんだが、グループ名については考えてみたこともなかった。たしかに「Three Dog Night」はThreeなのにDogもNightも複数形になってない。ミステリー好きのナベツマがクィネルの『パーフェクト・キル』(新潮文庫、一九九四年)から仕入れたネタだ。

 ウンチクとしてはシャクなので、自分で調べてみた。《The now-famous name came from a story about Australian aborigines who, on cold nights in the outback, sleep with their dogs for warmth. The coldest evenings are known as "three dog nights".》すなわち、オーストラリアのアボリジニーの用語で「暖をとるために犬三匹といっしょに寝なきゃならないほどひどく寒い夜」を意味するということが分かった。それにしても「スリー・ドッグ・ナイト」が結成35周年で現在も活動しているとは驚きだ。

 モンクの「Straight, No Chaser」もイカすタイトルである。どういう意味なんだろう。真っ直ぐ、追跡者なし・・・? ごくふつうに考えると、バーボンなどの強い酒を「ストレートでくれ」(氷、水などを混ぜないで)というかんじだろうか。チェイサーは強い酒を割るための水やビールのことも指す(すると、先夜の美酒鍋もストレート鍋だな)。ストレートには、真っ直ぐな、まっとうな、正しい、マジな、混じりっけなしの、普通の、ノーマルな、因習的な、などの他に異性愛者(同性愛者ではない)という意味もあるし、俗にはアルコールやドラッグをやっていないというときにも使われる。かつてのジャズ界はヤク中だらけ。「ヤクはやってない、追跡無用」かな(?)。

 『年刊少年少女詩集一九五二年』(新潮社、一九五二年、装幀=岡村夫二)


【ナベツマ通信・牛肉と献血と偏見の巻】

 ただ今ライスがビーフのことで来日中だそうである。その渦中のBSE問題だが、知らないうちに我々林ファミリーは献血できないことになっていた。80年から96年まで、英仏に1日以上滞在した者はダメなんだそう。つい最近までは、英仏他10カ国は、滞在半年以上が条件だったはず。まっこれにも当てはまっていたのだが。

 で、その英国であるが、昨日「ベッカムに恋して」という女子サッカーの映画を見た。主人公はインド系英国人の高校生。英国におけるインド人社会の文化・しきたり・閉鎖性が話の中軸にある。3年前の映画だが、我々が滞在した20数年前とそんなに変わっていないように思えた。

 我々が住んでいたフォークストーンという港町にもインド人が結構いて、我々のフラット(アパート)の一筋海側の通りにかたまって住んでいた。そのまた一本海側の通りは中国人のコミュニティ。住んでみて分かったことなのだが、英国はアングロサクソン以外の人種に非常に排他的であった。日常生活のなかでムカッとくることも多く、住み続けるには相当の覚悟が必要と感じたりした。たとえば、スーパーでレジに並んでいたら、突然後ろのバアちゃんがわめきだして「この中国人をあとまわしにして私の買物を優先させなさいよ!」と大騒ぎ。しかも持ってる杖を振り回し、ピシピシッとこづかれてしまった(もちろん儒教の教えを尊ぶナベツマは、内心「この○○○○○!」と毒づきながら順番を譲ったが)。英国内を旅行してまわった時には、B&Bで空き部屋があるにもかかわらず、トイレ階下の部屋や物置らしき部屋をあてがわれたことも一度や二度ではなかった。

 英国では中国人に、フランスではベトナム人によく間違えられたが、ようするにアジア人は格下との位置づけか。まあ、日本国内で暮らしている外国人の方々が経験していることと同じだよね。そんなことをBSEから始まって思い出させてくれた映画だったわん(近頃、様々なことがトラウマになって、ナベをまったく落札していないナベツマでした)。


2005年3月19日(土)春雷よ肆(みせ)を去るとき石になれ

 caloさんより《「〈空中線書局の本〉と〈アトリエ空中線の造本〉」始まりました/〜4月2日(土)最終日は17:00まで/20日(日)・22日(火)・27(日)はお休み/造本家、間奈美子さんが主宰するアトリエ空中線による書籍と、未生響によるプライベートプレス「空中線書局」の書籍の展示販売を行います。空中線書局の既刊本の販売、絶版本の展示、未生響による新作手製本2種(それぞれ限定30部)、全て内容が違っているおみくじ詩「Fortune Bookie」限定100部、『空中線語呂句』を会場内に展示》という案内あり。また《古本フリマ 4月4日(月)〜4月16日(土)/10日(日)は休み/その名のとおり「古本専門のフリーマーケット」。記念すべき第一回目の出店は、 京阪神エルマガジン編集部、 ぽむ企画、workroom、 graf のみなさん。事務所やスタッフの皆さんの余剰本を格安で販売します》ということである。

『ちょうちょぼっこ図書目録』5号が届いていたのを書き逃していた。表紙に引用されている堀口大学の詩「砂の枕」がおもしろい。《砂の枕はくづれ易い/少女よ お行儀よくしませう/沢山の星がみてゐますれば/あらはな膝はかくしませう》、あらはな膝というのがなかなかよろしい。少女がお転婆なのか、おやじがエロなのか、昔も今も変わらない。また、《4月下旬から5月くらいにタコシェさんがちょうちょぼっこでイベントを行ってくれる予定です。(ミニコミやタコシェオリジナル商品の販売など)それにあわせて、タコシェさんとちょうちょぼっこでミニコミに関する小冊子を作ることになりました。100冊程のミニコミを画像付きで紹介するというのが主な内容ですが、いろんな方にミニコミにまつわる原稿を書いていただきたいという話になりました。製作している方、書店員、編集者などなど。ミニコミを長い間製作している人の声というコーナーもあり、おおよそ6名くらいの方にお願いしようと考えています。その原稿を林さんに書いていただけないかと》という原稿依頼をいただいていた(とっくに送信しました)。

 蒼穹舎の大田氏より、石内都『scars』(蒼穹舎、二〇〇五年)届く。人体のキズをクロースアップでとらえた写真集。着眼もいいが、表現として奥深いものがある。

 古書店シールの珍品発見、「救国隊書房」。南区鍛治屋町は大阪だろう、八幡筋とあるし。今の大阪に南区はない。ガリ刷り。

 中野重治『文学のこと 文学以前のこと』(解放社、一九四七年)


2005年3月18日(金)美酒鍋や髭の無用を説く女

 美酒鍋(びしょなべ)というのは広島県の西条に発祥したという、鶏肉や野菜などを、水を使わず、清酒のみで煮る鍋料理。味付けは塩と胡椒。

 海文堂書店の店長・福岡氏のご厚意で「林哲夫・装幀も仕事!」というフェアーを海文堂書店の玄関脇のコーナーを使って開催させていただくことになった(4/1〜4/30)。林装幀本のうち、版元に在庫のあるもの(みずのわ出版と編集工房ノアの本が中心、同人雑誌も含む)を販売し、装幀に関する小展示も行う。また4月16日(土)には、みずのわ出版と幻堂出版の合同サイン会も開催される(参加予定=中村よお、オヤジ芝田、和田作郎、林哲夫、詳しくは海文堂書店サイトにて)。お近くの方はぜひおいで下さい。

 ということで、まずは、阪急・春日野道駅近くにあるみずのわ出版の事務所へ出かけた。春日野道と言えば、商店街の中ほどに勉強堂書店がある。むろん素通りはできない。浜松美術館『世界のガラス絵展』(毎日新聞社、一九七四年、三ノ宮そごう)の図録を200円(洲之内徹のエッセイに出てくる展覧会なので)、中原弓彦『日本の喜劇人』(晶文社、一九七三年三刷)300円、西村晋一『演劇明暗』(沙羅書店、一九三七年)500円など。沙羅書店は、すでに何度も取り上げたように、石塚友二のやっていた出版社、これはラッキーだった。『日本の喜劇人』はちょっと傷んでいるが、本文活版刷の味わいは格別。口絵写真もいい。

 みずのわ出版で検印紙を300冊分ほど貼る。午後四時過ぎに終了、元町の海文堂書店へフェアーの下見に出かけた。神戸新聞のHさんという文芸担当の名物女性記者にインタビューを受け(歸らざる風景を紹介してくれるそうだ)、さらに装幀フェアーの場所を検分する。パネル展示の方法に工夫が必要だ。最近、話題の堀江敏幸『河岸忘日抄』(新潮社、二〇〇五年)を図書券で買う(一読、センテンスの長い文章だなあと思う、これからゆっくり味わいましょう)。

 その後、柳原氏(みずのわ出版主)、福岡氏、Hさん、海文堂書店のSさんらと春日野道までもどり、居酒屋「海屋千吉」で美酒鍋となる。烏本舗(ワンコの写真がいい!)の川辺さんが先着していた。その後、和田作郎さんとリサちゃんが加わって、内輪の出版記念会となる。かなりの酒豪ばっかりなので圧倒される。とくにHさんは、昨日の朝起きたら玄関でした(!)というほどの猛者。昨日の今日で、すでにビールジョッキに日本酒をなみなみと注いでは飲み干し、お代わりをしている。一座に髭男が四人いたのだが、Hさんが不意に「髭は嫌いです」と言い出す。「どうして髭なんか生やしているんですか?」と訊かれて、誰もまともに反論できない。

 川辺氏が「勁版会月報」というチラシを取り出す。3月25日の第258回例会に「『下町酒場列伝』ウラ話」という題で井上理津子さん(『大阪 下町酒場列伝』ちくま文庫、二〇〇四年、の著者)が話をする(興味のある方は烏本舗川辺氏まで)。さらに4月8日には南陀楼綾繁(フェアーの案内、ありがとう!)が来阪して講演をするとのこと。

 そうこうしているうちに九時を廻った。奈良は斑鳩にお住まいの和田氏とともに帰宅の途につく。Hさん、今日も朝帰りだろうな・・・


2005年3月17日(木)擲椿 紅の衰え空(くう)に堕つ

 落ちた椿の花を投げて遊ぶ競技があるという。郷里では道ばたに散り敷いた椿の花を集めて田の中へ投げ入れていた。翌日には鋤き返されて花は跡形もなかった。

 品川で間村さんにもらった安東次男『完本風狂始末―芭蕉連句評釈』(ちくま文庫、二〇〇五年)をたいへん面白く読む。正続二巻が文庫一冊に収まったもの。芭蕉の連句を精密に解釈し直している。学者は言うに及ばず、露伴も折口信夫もコテンパンである。鼻息の荒い快著。

 留守中に届いていた古書目録類をザザッーと見てしまう。『兵庫古書組合・震災復興10年記念事業古書目録』(3/25〜27、神戸サンボーホールで即売会開催)、十年経つと知らない本屋さんがたくさんできている。『第一回 古本即売 本のバザール』(石神井さんの日記体目録、なないろさんの「グレ考」、港や書店の「実録・駅前団地」など異色の記事もあって多士済々)。『みはる書房目録』54号、いつもながら面白い。これでもう少し安ければサイコーなのだが。牧野信一編集の『随筆』創刊号(随筆発行所、一九二三年十一月)5000円にグッとくる。と言ってるそばから『萩書房新蒐カタログ』45号が届く。文庫特集では福武文庫にけっこういい値段が付いている。

『日本古書通信』908号の「アメリカの古書業界の現状と未来の展望」(ジョン・クライトン、The Rrick Row Bookshop)は参考になる。不正な商品の売買について《とりわけe-bayのような野放しのオークションサイトでは危険です》という発言あり、ナベツマにとっては人ごとではない。目録ページでは、鬼太郎が洲之内徹の『絵のなかの散歩』『気まぐれ美術館』署名本を各5,000円で、『甲鳥』8号(甲鳥書林、一九四一年)5,000円、『槐多の歌へる』重箱7,000円で出している。

 小西さんより創世ホール通信。同封されていた「『子不語の夢』に捧げる」という小冊子が面白い。晧星社が刊行して話題になった『子不語の夢』に対する感想集。岡崎も書いている(日記からの引用)。

 『紙魚の手帳』31号、大貫さんの「近代〈挿絵画家たちの署名〉6」が今回も圧巻、こういう試みはありそうでなかった。

 セドローくんより電話あり。27日ごろ岡島さんと京都へ来るらしい。スタンドでめしでも食おうという話。最初に受話器を取ったナベツマが「好青年みたいな声ね」と感想を洩らす。「みたい」じゃなくてじっさい好青年ですよ、もちろん。

 東京の荷物を整理していたら、第一書房の書皮を被せたラジオ新書『標準語研究』(日本放送出版協会、一九四六年)が出てきた。表紙だとばかり思っていたが、書皮である。銀座第一書房となっていて、鳩のマークのシールも一部残っている。杉浦非水っぽいデザインだが(?)。

 第一書房の書皮(一九四六年)

 拙著『歸らざる風景』のページを開設しました。書影、目次、内容の一部、あとがき、検印紙を収録。ご覧ください。佐野装幀本渡辺装幀本にも追加しました。


2005年3月16日(水)ペコペコの独和辞典や若布干し

3月24日(木)〜27日(日)、東京古書会館・2階情報コーナーで「本屋さんのカバー展」を開催します。日本全国の書店カバー、古書店包装紙、戦前・戦時中のものも展示/主催 : 書皮友好協会カバー展実行委員会》という案内が田中栞さんより。《「本屋さんのカバー展」の展示品が決まりました。恐ろしいことに、あのスペースに計536枚展示します。(これでも、随分落としたものがあるんですよ)額とガラスケースに入らないものはファイルや透明袋に封入して、分類ごとに仮綴じしてテーブルの上に置きます》とのことで、かなりボリュームのある展示になるようだ。

 《古書の街・神保町の、それも古書愛好家の聖地「東京古書会館」での展示ということもあり、神保町と早稲田の古書店包装紙はもちろんのこと、古書店主や古書マニアが見つけた古い書皮(仕入れた古書・買った古書にくっついていたもの)、古書目録で購入した書皮など、古本に縁のあるものを多数並べます。古色蒼然とした戦前や戦時中の書皮からは、その時代の本屋さんの息吹を感ずることができるでしょう。三省堂書店、丸善、東京堂書店、書泉、岩波ブックセンター、有隣堂など、お馴染みの新刊書店のものは、現在使っているものと一緒に、今は使われていない昔のバージョンのものも展示するので、「懐かしい」という読書家が必ずいらっしゃるはずです》

 その他にギャラリートークもある。《「こだわりの書店カバー」毎日14:00〜25日(金)田中栞/26日(土)みさきたまゑ/27日(日)田中栞「第21回日本書皮大賞受賞カバーを語る」/3月26日(土)15:00〜 岩森書店・岩森正文氏、聞き手=みさきたまゑ》、こういうときには首都圏に住んでいる人たちがうらやましい。

 留守中の余所様のブログなどを流し読む。岡崎日記の更新が遅いことを晩鮭亭さんが嘆いておられるが(今日は更新された)、岡崎自身は毎日書いているそうだ。『彷書月刊』の実質編集長(田村さんじゃないよ)氏が忙しすぎて、アップするヒマがない。最近は一週間分まとめて送るようにしていると、この間会ったときに聞いた・・・と、ここまで書いたところで岡崎からグッドタイミングのメール、《彷書月刊の日誌はブログで独立させようか、と考えています。また相談にのってください。おかざき》とのこと。そうすべきである。また、山本の泣き笑い日記をブログにというのは、ちょっと実現不可能かも・・・ああみえて、彫琢を重ねた渾身の文章なのである(お笑いネタを練りすぎとの声もあり)。

 その山本が《椎の木社の本が500円とは、すごいですね。ふた桁やすいじゃないですか。椎の木社の本は一冊だけもってますが、とても好きです。「スタイン抄」ですか? すごいですねえ》と誉めてくれた。なんだかやっと一人前になった気分だ。扉野からも《『スタイン抄』はうらやましく。私も椎の木社の本は『ヴィヨン詩抄』(城左門・矢野目源一訳/昭8)があります。六、七年前、六千円でした。高くないですよ、ね?》というメールあり。高くない。検索してみると、楽天オークションで4万円以上の例があった。

 他にハルミンさんが「早稲田古本村通信61号」で先日お会いしたときのことを書いておられる。ウンチクの印象を《陸奥A子の漫画に出てくる脚長の男の人のような方だった》と・・・陸奥A子の漫画をイメージ検索してみると、けっこういけてる。単純によろこぶ。早稲田と言えば、セドローくんが《神蔵美子さんの『たまもの』(筑摩書房)が出てきた。ついついじっくり見てしまう。いいアルバムだなぁ》と今日の日録に書いているが、高松の「ブ」で『たまもの』を買ったばかりなのでちょっと驚く。いいアルバムというか、すごいアルバムだよね。


2005年3月15日(火)紅梅の往事はるかにながめらる

 いろいろと郷里では疲れた。人間、年を取ると固陋になるばかりである。

 しかし、収穫もあった。高松市立図書館のすぐそばにある昭和堂書店を初めて訪れた(脇道に入ったところなので目につかなかったのだが、たまたま電話帳で見つけたのだ)。ここで春山行夫訳『スタイン抄』(椎の木社、一九三三年)を発見。少し破れてはいるが帯も付いている。美本の方だろう。500円。これは嬉しかった。ちなみに石神井さんでは52,500円だ。正月の『白孔雀』といい、高松の底力(?)か。なお『白孔雀』は平井功研究家の扉野くんに譲った。他には三島書房、南北書園、岡村夫二装幀本、花森本、佐野本、渡辺本など。

 田中栞さんのような感じの女性店主が電話をかけていると思ったら、そのまま買い取りに出かけてしまった。代わって、お父さん(?)らしき老人が店番。二時間近く粘って、選びに選んだ100円〜1000円のものばかり十数冊ほどを帳場の卓に差し出した。合計6,000円ほど。なぜか老人は、裏見返しに貼ってある値段表を外し、外した後に鉛筆で、例えば500円なら「500」と値段を書き込むのだ。最初アッと思ったが止めるヒマがなかった。すると『スタイン抄』があわや餌食に!、思わず「書かないで!」と大声を出してしまう。「エンピツですよ?」「いや、書かないでください」・・・ふう、なんとか間にあった。

 龍膽寺雄『人生遊戯派』を帰郷中に読了。川端康成に対する恨みごとのくりかえしで面白みに欠ける。小野松二の名前が一カ所だけ出てきたのが収穫と言えば言える。

 留守中にも「スムース友の会」参加申し込みが数件届いている。まだ余裕がありますのでお早めにどうぞ。

[3月6日の日記を追加しました↓]

 春山行夫訳『スタイン抄』椎の木社、一九三三年(155×115ミリ)


2005年3月10日(木)春鳥は横様に旗垂れしまま

 家庭の事情により15日まで留守にします。メール予約等はチェックしておりますのでご遠慮なく。

[3月5日の日記を追加↓]


2005年3月9日(水)春風に押されて歩む三妊婦

 湯川書房で山本、扉野と例会。「スムース友の会」の確認事項など。『帰らざる風景』渡す。好評。「モダン古書展」(大阪古書会館、4月1日〜3日)の話題など。生田敦夫氏のコレクション展示、氏を囲んでのトークショーなど開催するらしい。また、湯川さんの親しい人が大阪のどこやらの神社で行われていた古物市で、な、なんとマン・レイのサインが入った写真を一枚300円で数枚購入した(!)という話にショックを受ける。プリントの評価はいろいろ難しいが、とにかく印刷物ではなく、プリントだということなので、現物を見ないと即断はできないとしても、やはり驚くべき掘り出しである。

 『本とコンピュータ』春号届く。「出版再考 このままでいいのか、わるいのか。それが問題だ!」という特集。う〜ん、どうなんだろうね、この問いの立て方。いいのか、わるいのか、と言われても、どうにもこうにも。とにかくざっと読む。

 海野弘・青山南対談「リトルマガジンの時代がやってきた」に海野氏が『sumus』と『BOOKISH』に言及して《関西ではおもしろい雑誌がないなら、じぶんたちでつくってみようと考える傾向があるようですね》と小誌を誉めてくださっている。アンケートには、みずのわ出版の柳原一徳君も寄稿しており、《なんぼおカネを積まれようが、売れる見込みがあろうが、作りたくない、否、作ってはならない本がある。何よりウチでなければ出せないモノを作ってきたという自負はある。それに賭けるしかない》と強気な負け惜しみを書いている。ちっとは売れるモノも作りなさい。

 青山氏によれば、アメリカには非常にリトルマガジンが多く、多数の小出版社が少部数の出版を多様に進めており、そして、雑誌も含めたそれら紙の媒体の記事の大部分がネット上で読める、ということである。日本にも小出版社やリトルマガジンはかなりあると思うが、四釜祐子「ミニマム出版でいこう――自主制作本の作り手たち」はブルーマーク空中線書局ユトレヒトD&DEPARTMENTなどを取材しており、そのごく一端をうかがわせる。

 ちょうどカロさんの日記に持ち込みのフリーペーパーが少なくなったという話題が出ている。


2005年3月8日(火)古書包み開いて花粉散るごとし

 浪漫浪人堂より龍膽寺雄『人生遊戯派』(昭和書院、一九七九年)届く。自伝のようで、読むのが楽しみだ。終日、留守中の郵便物の整理と本の発送準備に追われた。


【ナベツマ通信・不誠実に泣く!の巻】

 ここのところ平静を装っていたナベツマだが、実は、落札物の「柄のガタつき」「欠け」「ひび割れ」に見舞われていたのだ。

 まず「柄のガタつき」とは、eBayで落札したペールイエローのでかスキレット。完品、と思いきや、柄の取付が長年の乾燥でガタつきがきていた。多分、「やば!」と思った出品者が、気を利かせてフリーギフトなんていうのを荷物に滑り込ませたのはそういう訳だったらしい。いらん!ちゅうに。

「欠け」は16cmココットロンド。ヤフオクでの紹介写真にはなかったはずの欠けが到着時に見つかる。梱包材のなかに欠けたターコイズ破片がなかったため怪しいかんじ。

「ひび割れ」は今回届いたeBayでたぬきじいさんから入札キャンセルできなかったソースパン。梱包材から出した時に、蘊蓄が「これ安いだけあって、ひび入ってるよー」と言い出し、ぎょっとした。だって紹介写真ではひびなんて皆無だったもん。

 あ〜あ、届いてみないと分からな〜い、なべ・なべ・な〜べ!
 落ち込んで「もうやめたろうかあ!?」と。ぐすん、よよょ。
 どーなるナベツマ!! その行方は・・・・?

  


2005年3月7日(月)風狂や旅に痴れての桜待ち

 なんとか無事もどりました。正味5日間でしたが、いろいろ楽しいできごとや、思わぬハプニングもありました。今日は疲れました。おやすみなさい。


2005年3月6日(日)艶雑誌男子の頬に梅の影

 東京駅丸ノ内口「oazo」の丸善をのぞく。洋書の画集類をゆっくり見て回る。日曜の午前中、人もいなくて快適。東京駅を眺望できるレストランで「早矢仕ライス」を食す。さらに階下を経巡ってゆく。万年筆コーナーがちょっと見モノ。モンブランのフランツ・カフカ・モデルなんていいじゃないか。正午過ぎ、一階に下りると、なんだかぞろぞろ人が押し寄せて来ていた。品川駅にもどって、駅構内の坪内さんおすすめ「常磐そば」を食す。立ち食いにしては上等。

 午後一時半、啓祐堂着。姫路より衣笠潔子さんが来てくださる。妹さんと姪御さんの三人。このためだけに(!)、有り難いことです。西秋ご夫妻、満一歳の息子さんと来場。四代目かな(?)。これからしばらくが可愛い盛りでしょう。世田谷のT夫人、お菓子など持参してくださる。一昨日の雪の中、滋賀の山中まで出かけておられたそうだ。ご主人のご実家が千年以上も続く社家だとか。筑摩書房のTさん見える。梶井全集を担当された方で、感想を送ったり、小野松二の著作権継承者をお教えいただいたりした(梶井全集別巻には小野の文章がかなり収録されている)。お会いするのは初めて。なかなか絵を鋭く見る方だ。

 午後七時頃、間村俊一さん来場。『帰らざる風景』のデザインをほめてくださる。丸善に並んでいた間村さん装幀の『新編中原中也全集』(角川書店、二〇〇三〜四年)をじっくり見たところだったので、例の佐々木幹郎さんが入手した新資料について、岡崎武志が発見し、月の輪さんの手を経て佐々木さんに渡ったという話をふたりで確認し合う。みんなエライねえという結論。品川駅前の「つばめグリル」で黒ビール、ワイン、ソーセージ、ハンバーグなどを食しながら古本談義。間村さん、最近の収穫は寺山修司の歌集『田園に死す』(白玉書房、一九六五年)を一万数千円で入手したことだそうだ。少書き込みありにしても安い。

 先日の阿佐ヶ谷会、本人の弁によれば、その前日の夕方からある人と飲み始め、朝まで飲んで、さすがに青柳いづみこさんのコンサートには参加できず、夕刻、阿佐ヶ谷会の会場青柳家まで出かけてみると、まだ誰も来ていなかった(コンサートが延びたらしい)。しばらくお茶をがぶ飲みして待って、人が集まるとさらに飲み続け、知人宅に泊まって翌日も高円寺で飲み続け、そして岡崎を呼ぼうということになって、ウンチクに電話、岡崎不在(いるす)、残念といいつつまだまだ飲み続けたという壮大な飲酒物語。よく体がもちますなあ。今日は九時半過ぎに別れる。


2005年3月5日(土)招春の盃は亜細亜の乙女子へ

 午前十時前に神保町へ。東京堂書店で『帰らざる風景』に署名をする約束になっている。電車の中で啓祐堂に筆ペンと印章を忘れてきたことに気づく。あいや〜。仕方ないのでコンビニを探すが適当なのがない。結局、十時ジャストに文房堂画材へ飛び込んで墨汁と朱墨の筆ペンを買いそろえ、東京堂書店へ駆け込んだ。

 店長の佐野衛さんに案内されて上階の休憩室(?)で識語と署名をする。「坪内祐三」と書き捨てた雑用紙があった。佐野さんが「このあいだ坪内さんのサイン会やりましたから、そのときのですね」と。佐野さんがスピノザについて『未来』に書いておられたことは知っていたので、そちらに話題を向けると、いろいろここでは書けない話が飛び出す。絵描きになりたかった、とのことで、終了後、店の棚から自著『世紀末空間のオデュッセイア』(北宋社、一九九二年)を下さる。美術に関する論考が収められている。

 一階のサイン本コーナーに自著が並べられる。グレーの厚紙カバーが周囲の本と溶け合わないのは悪くないな。佐野さんの話だと荒川洋治さんがラジオの放送を終えたあとよく立ち寄られるそうで、荒川さんや蜂飼耳さん(荒川ファミリー?)のサイン本もちゃんと並んでいる。角の特等席は車谷長吉である。蜂飼さんの署名本『孔雀の羽の目がみてる』(白水社、二〇〇四年)を買う。耳(ハードカバーの本文紙より三方の小口側へはみ出した部分)が一センチもある。ふつうは3〜5ミリ。装幀は菊地信義。

 十一時までに十分ほど時間があるので田村書店の表をのぞく。川端康成『眠れる美女』(新潮社、一九六一年)函付100円。本体は美本だ。

 十一時ジャストに書肆アクセスへ。畠中さんと伯剌西爾珈琲へ入り、奧の一室を貸し切りにしてもらって(昼前から人妻と小部屋で二人きりになるなんて・・・・)識語署名に励む。おしゃべりしながら四十分ほどで終了。畠中さんと別れ、もう一度田村書店の前を通ると、追加がどっさり。『CRITIQUE』176、JAN.1967、レイモン・クーノー、アンドレ・マッソン寄稿に惹かれて。『VERBE』VI.24、CONTE DE BOCCACE(デカメロンの挿絵をシャガールの水彩画と中世のミニアチュールを交互に対照させながらレイアウトしてある)、どちらも100円。『VERBE』は表紙が取れて厚紙で修理してあるが、100円なら使い道はいろいろあるぞ。さぼうる2で昼食を摂ってから啓祐堂へ向かう。

 西村氏来場、最近の佐野本、渡辺本の収穫をいくつか持参して見せてくれる。更新されたリストも。氏は吉田健一のハードコレクター、現在はハードルを上げて吉健限定本における献呈署名の蒐集に集中しているそうだ。蒐集苦心談で一冊本が書ける。とにかく熱心だ。そこへ長身の男性が来場。晩鮭亭さんだった。堀江敏幸氏と同世代というから四十前後だろうか、佐野については銀座セントメリーフジヤマの文字が印象深いとの話や、洲之内徹の単行本についての話。

 『彷書月刊』編集長田村さん来場。赤と黒のストライプで決めておられる。毎度キッチュないでたちに刮目する。EDI藤城さん来場、お花をいただく。松本翁はお孫さんの世話に忙しいとか(まだ隠居するには早すぎますぞ)。向井氏、岡島氏、大井さん、ハルミンさんご一行来場。ハルミンさんとは初めて。中野書店さんも来合わせ、古書業界人で満員状態。

 人波が去って、一息つく。午後六時過ぎ、月の輪さん来場。石神井さん、さらに坪内さんも来場。五反田で飲みましょうということになっていた。少し早めに会場を出る(海月書林さんがこのあと来てくださったことを後で知る、ごめんなさい)。高輪台の駅へ行く途中に石黒書店がある。坪内さんが「寄って行こうよ」というのでのぞいてみると、もう閉まっていた。「なんだ早いなあ」たって七時ですからね。五反田駅前の中華料理店「亜細亜」へ。五反田の古書展に来たときにランチを食べたことがある。二階の窓側の席からJR五反田駅がパノラマのように見渡せる。坪内さん「張り込みにもってこいだね」って誰を。ウエイトレスのアンスーさんはネパールのすてきな娘さんで、もうすぐ帰郷してしまうそうだ。月の輪さん、みょうに残念がっていた。坪内先生に『私の体を通り過ぎていった雑誌たち』を差し出し署名をお願いした。「この本の価値を上げてください」って(言ってない、言ってない)。十時前に解散。楽しい一日だったなあー。


2005年3月4日(金)春雪は首に汗ばむ石榴坂

 雪が斜めに降り続ける窓を眺めながら朝食。霙雨の中を十時前に神田の古書会館へ。古書展(紙魚の会)のぞく。中高年の客で満員。けっこう遠慮会釈無く割り込んでくるのにへきえき。書肆ひぐらしの棚で『モンナ・ワ゛ンナ』(アカギ叢書、一九一四年九版)、吉井勇『金泥』(新日本歌集、八雲書房、一九四五年)、『ダンランベールの夢』(世界古典文庫、一九四八年二刷)、『アッタ・トロル』(世界古典文庫、一九四七年)、大庭柯公『露国および露人研究』(中公文庫、一九八四年)などの小型本、そして雑誌では『思潮』創刊号(昭森社、一九四六年三月一日)、『文学時代』一巻六号短篇小説二十五人集(新潮社、一九二九年十月一日)、『日暦』71号(日暦社、一九七七年十一月一日)などを買う。『文学時代』の1500円以外は100〜500円。旅の空とはいえ、思わず買ってしまう安さだ。ある人いわく入れ食い状態とか。

 後ろから「林さん!」と声を掛けられたと思ったら岡崎武志だ。奇遇、いや必当然ですか。3月29日の京都での「スムース友の会」について簡単な打ち合わせを立ったまま。十一時に西秋氏、中野氏と合流し四人で昼食。五月の地下展では、岡崎が「古本道場」単行本化記念トークショー(ゲスト:角田光代さん)を行うし、林は「書物の肖像2005」として油彩・水彩画の展示(カフェーコーナー壁面)を予定している。他にEDI叢書完結記念トークショーには荒川洋治さんがゲストに来てくださる。大貫伸樹さんの装幀コレクション展もあるし、次回もまたまた豪華イベントが連続する。お楽しみに!

 午後一時半、啓祐堂へ。暫くして無事『帰らざる風景』届く。難産だった甲斐あって、ほぼ思った通りの仕上がりになっている。さっそく識語(一語一絵)と署名を入れていく。五十冊。リコシェの阿部さん来場。初めてお会いする。内澤さんのワークショップで手作りしたという革の手帖を見せていただく。ブルーの革が印象的だ。聖智文庫さん、今日は大雪だったので店を休んで来ましたとのこと。蘭をいただく。田中栞さん来場。ブックカバー展の準備に驀進中というかんじ。書泉のカバーはいろいろなパターンがあったことを知る。別のある書店のオリジナル・カバーが、地方の書店でそっくりそのまま使われていたりする例も見せてくれる。グラシンとパラフィンはまったく同じもので、製紙業界ではグラシン紙と言うらしい。興味が尽きない。

 杉本氏(啓祐堂ご主人)や田中女史と夕食を摂った後、一人で高円寺のコクテイル書房へ。石丸澄子さんのポスター展をのぞく。店そのものがいいかんじ。長押に巡らせた多数の額入ポスターも雰囲気にバッチリ、カウンターの前には文庫本などがズラリ。落ちつくなあ。ホッピーに鯨の竜田揚げを所望し、目前の中公文庫などをパラリ、パラリ。ご主人の狩野さんに「初めてですね」と話しかけられたので、ウンチクだと名乗る。いやいやどうも、なにぶんそのせつはなにしてなんで・・・てな調子でいろいろ。福原麟太郎『本棚の前の椅子』(文藝春秋新社、一九五九年、装幀=花森安治)を入り口横の棚から拾う。

 福原麟太郎『本棚の前の椅子』文藝春秋新社、一九五九年、装幀=花森安治


2005年3月3日(木)エゴノキの裸木に胸中刺されたり

 世田谷美術館で「瀧口修造 夢の漂流物」展を見る。砧公園の梅林が二三分程度の開花でつつましい。展示はやはり瀧口の作品そのものがいちばん面白く、そして美しい。一階のホールに並んでいたデカルコマニーは何度もこれまでに見ているのだが、やっぱり魅了されてしまう。一点ぐらい欲しいものだ。とにかくテクニシャンである。そうとうな実験を繰り返さないとああいうふうには造れない。手作り本もいい。ところが図録はまだ出来ていなかった。予約する。二十日頃になるとか、いったい何をやっていたのかな。

 常設で小堀四郎の作品をかなり見られたのは収穫だ。小堀杏奴の夫である。花火、星、夕焼などを油彩画で描いている。うまい絵ではないが、捨てがたいところもある。他に難波田龍起、柳原義達の展示。

 午後一時半、啓祐堂へ。途中手前のギャラリー・オキュルスで「北川健次全仕事」展をのぞく。そこを出たところで消防車と救急車が駆けつけてきて、露地の奧から急病人を運び出す場面に遭遇。昨日といい今日といい、不思議な巡り合わせ。啓祐堂ではご主人への挨拶もそこそこ、送っておいた荷物を開いて「読む人」の展示を開始。とにかく100点以上なのでのんびりしてはいられない。それでも午後六時頃には終了。啓祐堂のPR雑誌『黄金の馬車』を編集している岩田氏らと近所の居酒屋で前祝い。


2005年3月2日(水)柔肌に桃の香うつる宙はん居

 新幹線で上京。富士山を過ぎたあたりで急病人。ドラマでよく見る「お医者様はいらっしゃいませんか?」のアナウンスあり。結局、熱海駅で臨時停車し病院に搬送した。書肆アクセスへ直行。黒い帽子を目深に被り、大きなマスクをしていたので畠中さん気づかず。西秋書店の西秋氏が来合わせて、「あら、まあ!」ということになる。伯剌西爾珈琲でスムース文庫「読む人」に句入り署名する。西秋氏に業界ばなしを聞きながら。アクセスでと思ったが、置いてないようだったので、東京堂書店にて坪内祐三『私の体を通り過ぎていった雑誌たち』(新潮社、二〇〇五年)を買う。

 品川の東横インにチェックインし、麻布十番へ。ギャラリー柳井の柳井氏に連れられて武原はんの旧居「はん居」を訪ねる。六本木の喧噪のただ中、ビルの上階に舞台と茶室が設えられ、なんとも閑寂。明治頃の巧緻な雛壇が飾られていた。明日3日には人形を仕舞ってしまう習わしとか。「はん居」の扁額は高浜虚子(はんは虚子の弟子だった)。

 ホテルに戻ると、妻から電話で、『帰らざる風景』がまた遅れたと聞かされる。明日、啓祐堂に着く手はずだったのだが、厚紙カバーの折り寸法が1ミリ違っていてやり直しになった。おそまつな話だ。


2005年3月1日(火)読む人も石のベンチも冷えている

 明日から「読む人」展のため上京します。7日夕方帰洛の予定。

 今日はいろいろ本が届いた日。立石書店から小沼丹『小さな手袋』(小沢書店、一九七六年)、「井伏さんと将棋」は何度読んでもにやにやしてしまう。単行本で読むのがオツというもの。古書現世からもいろいろ。今回はけっこう注文できた。既報の『筑摩書房の三十年』、この質素な佇まいがなんともいい。さらに、大鳥逸平『古本売買の実際知識』(古典社、一九三一年)を買ったのは私です。品川力『本豪落第横丁』(青英舎、一九八四年)も。

 また宇野千代『妻の手紙』(甲鳥書林、一九四二年)をN氏よりいただく。文庫本サイズの愛らしい本だ。しかも、なんと洲之内徹現代画廊の年賀状(昭和四十九年)が挟んである。これは嬉しい、深謝です。宛先は「平塚運一様/祐子様」、ただし筆跡は洲之内のものではない。佐藤哲三の「たもの木」が写真版で刷られている。

 『出版ニュース』3月上旬号。スムース文庫01、06を紹介してくれている。表紙を開いたところが、木本至「稀書巡礼36 宇野千代スタイル」で、偶然の宇野つながり。宇野の年譜にも記載がないという『恋愛読本』(中央公論社、一九三七年、装幀=宮本三郎)と限定版『大人の絵本』(白水社、一九三一年、装幀=東郷青児)について。短い中にむちくちゃ情報を詰め込んだ文章だ。

 宇野千代『妻の手紙』甲鳥書林、一九四二年


【ナベツマ通信・お誕生日の巻】

 ナベツマは20日ほど前にお誕生日を迎えた(ちなみにナベツマはみずがめ座)。40代最後の記念すべきお誕生日だ。そんなことを考えながら、ふと我家の階段の壁にかけてある絵に目がとまった。あっこれは・・・確か4年前のお誕生日にプレゼントされた白バラを水彩画にしてもらったものだわ。この日を最後に、蘊蓄斎は何もくれなくなった。ちぇっ! でも、この4年間何ももらっていないんだったら、今回はちょっとええもんもらってもええよねー。
 ということで、結果チョコレートブラウンのオーバルをヤフオクでゲット! 記念すべきお誕生日プレゼントとなった。ほほほほほほほー。

 

(**)蘊蓄斎はなぜプレゼントをくれなくなったのか!? それは・・・やめとこ。