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2006年1月31日
(火)拾った石を眺める一月尽

向井氏の『早稲田古本屋日録』のジャケット色校正が届いた。用紙はロベール(ナチュラル、四六判Y目135kg)で、向井氏がすでに日記に書いているように、蟲文庫さんの撮った猫の写真を二点レイアウトしている(昨年上京したときに谷中で撮ったそうだ)。紙の風合いと写真の色目がよくフィットしている。これなら問題ないだろう。

『第79回新宿古書展』の目録届く。『奢霸都』(霸にサンズイあり)復刻版が19,000で出ている。『エプタメロン』二冊揃いがあったので速攻メール注文した。ゲットだぜ〜。

扉野良人氏よりメールあり。《スムース六号の熊谷市郎氏関係出版物リストにかもめ書房から酒井嘉七『探偵法十三号』という一冊がリストにあがっています。同一人物? と思いきや中島河太郎氏の『探偵小説辞典』(講談社文庫/1998)を見ると次のようにありました。同姓同名人物、ですよねたぶん。

酒井嘉七 作家。外国貿易会社に勤務し、昭和九年「亜米利加発信第一信」(新青年)で懸賞入選し、旅客機中で宝石強盗事件が起り、着陸した時犯人の姿は見えない、実は宝石商が犯人で被害者を落し、共犯者と口占を合わせていたという「空から消えた男」(昭12、探偵春秋)以下の航空に取材したものと「ながうた勧進帳」以下長唄等に取材したものの十余篇あり、昭和二十二年死去した。遺稿として「完全犯罪人の手記」(昭27、黄色の部屋)がある。〔著作〕「探偵法十三号」(昭22、かもめ書房)

以前、文圃堂版で持っていると話した『宮澤賢治全集』は、十字屋書店版の第二巻でした。高村光太郎題字の同じ装幀の箱(本体は柿渋をぬった和紙装)でてっきり文圃堂刊行だと思いこんでいました。昭15年9月刊です。

たしかに同名異人だろう、おそらく。なお柿渋の和紙については森莊已池『ふれあいの人々』には次のようにある。

《ある日、神田の十字屋書店を訪ねた私は、びっくりした。店の奧の常居(じょうい=と盛岡ではいう)は、そんなにひろくはない。店をひろく使っているためである。その狭い常居に、四国から来た宮沢賢治全集の表紙に使う和紙が、いっぱいになっていた。/主人に「何をしているのですか」と聞いた。/「宮沢全集の表紙にしますんで」/と、酒井さんは微笑した。よほどうれしいらしかった。/四国特産の柿色の紙を、一枚一枚もんでは、ひろげている。書き損じ原稿をくしゃくしゃ丸めて、くずかごにポン――とは違う。「もみ紙」にした銀いろの「フスマ紙」とでもいうような感じであった。/ともかく、十字屋書店全員で、ていねいにモミ紙を作っているのである。全員といったところで十字屋書店には店員はいない。主人不在の時はおかみさんが店番をしている。ネエヤが一人いる。狭い常居のほかには、同じく狭い台所と一穴の便所があるだけなのである。/十字屋版宮沢賢治全集全巻六冊と別冊は、こうして表紙が作られた。第一巻は本文四百八十二ページ。藤原嘉藤治苦心の語注七十五ページ。全五百五十七ページの大冊。定価三円二十銭であった》p61

Mさんより《色々お手数をおかけしました。調べましたが、本文に落丁は無いようです。ただ、目録にも「検印紙欠」とあり、糊の跡が残っています。でもそれだけでゴム印2個? ウーン他の状態がいいので満足しています》。いや、あの値段ですからそれぐらい欠点がないとね。でもこの検印紙いいですよ、ふふふ。Mさんにはいつも唸らされているので、お返しをひとつ。ウンチクは『文芸評論』と『続文芸評論』と『続々文芸評論』三冊セットで3,500円で買いました(!)。ただし前二者は戦後版。戦前版の揃いならウン万円でしょうね。

小林秀雄『続々文芸評論』芝書店、一九三四年、検印紙



2006年1月30日(月)風呂敷に包まれ去れり一月尽

Mさんより古書メール。《今日××書房から『続々文芸評論』が届きました。前から欲しかったので2500円はとても嬉しいのですがゴム印で「out of joint」と2箇所捺されています。はて、これはなんなのでしょうか。恥ずかしながら、ご教示くださいませんか。/土曜日に「さんぱる」に行きましたが何も買えませんでした。でも、後藤書店で『書誌学とは何か』壽岳文章昭和5年ぐろりあそさえて(裸本?)を800円で見つけました。題箋だけのシンプルな造りで版画荘文庫の雰囲気です。

「out of joint」はそのままの意味では「脱臼」である。しかし本に捺印してあるのだから脱臼では意味が通らない。図書館とか書誌学の方面でそういう用語があるのだろうか、残念ながら、解りかねる。読者の皆様にご教示をお願いしたい。ただ、アメリカン・ヘリティッヂの英語辞書によれば以下の通り。

out of joint
1. Dislocated, as a bone.
2. Informal
a. Not harmonious; inconsistent.
b. Out of order; inauspicious or unsatisfactory.
c. In bad spirits or humor; out of sorts.

そして『プログレッシブ和英中辞典』に下記のような例文があった。

乱丁は取り換えます
We will exchange the book if the pages are out of order.

これらを考え併せると「乱丁」という意味にならないこともない。これは当の『続々文芸評論』を調べればすぐ解るだろう。ちなみに「out of joint」をググってみると、関節炎に関する本の他、フィリップ・K・ディックの『時は乱れて Time out of Joint』(1959)がかなりヒットする。SFはほとんど読まないにもかかわらず、これは十数年前にたまたま読んだ記憶がある。ディックらしい人を食ったようなバカバカしいオチなので印象に残っていた。

サンパンの原稿を送信する。松本翁まだまだ頑張ってます。次号はちゃんと出る予定。今回は小野松二の京都帝大時代を考察してみた、というほどの内容ではないが、彼の小説から京都での生活を推測している。

文字力100冊の原稿をぼちぼちスタート。デイリー・スムースでは書影だけだったが、短文といえどもコメントしてゆくとなると、それなりの手間がかかる。本の選択もいろいろ迷う。今日は縮刷『道草』について。

 縮刷版『道草』岩波書店、一九二〇年二十八版



2006年1月29日(日)四角に歩く主婦ありて一月尽

午前中は画作。午後から河原散歩、風もなく日向ぼっこにちょうど良かった。帰途、新刊書店BOOKPALに寄り、『L-magazine』『Esquire』『PLAYBOY』『芸術新潮』を立ち読み。エルマガの「天声善語」は去年の収穫披露。じつにシブイ本を入手している。エスクァイアの「美しい本、230冊」特集だが、本が見えてこないので購入は見送り。どうしてああチマチマと小さく書影を入れるのだろうか。ブルータスもそうだ。おじさんは理解できん。プレイボーイのコルトレーン特集にもちょっと惹かれた。しかし、もっと新鮮味のある写真ないのかい。トレーンを雇っていた頃のマイルスの演奏姿(サッチモかと見まがうような)がいちばん印象に残るようでは・・・。

小沢信男さんの「俳句が楽しい」(朝日新聞連載)が終わった。うまいなあと思う。俳句の入口になった万太郎から、俳友の辻征夫へ、そして少年時の思い出、プロレタリア俳句ときて、芭蕉でとどめを刺す。丈草は芭蕉の弟子。

  時計屋の時計春の夜どれがほんと  久保田万太郎
  竹馬やいろはにほへとちりぢりに  久保田万太郎
  《蝶来タレリ!》韃靼ノ兵ドヨメキス  辻征夫
  満月や大人になってもついてくる  辻征夫
  蜜豆をギリシャの神は知らざりき  橋本夢道
  大戦起るこの日のために獄をたまわる  橋本夢道
  夢に見れば死もなつかしや冬木風  富田木歩
  うづくまるやくわんの下のさむさ哉  丈草
  此道や行く人なしに秋の暮  芭蕉

小沢さんの自作は引用されていないので、少しさがしてみた。なるほど、思考をくすぐる視点がある。

  蓑虫や天よりくだる感嘆符!
  学成らずもんじゃ焼いてる梅雨の路地
  ふくらんで四角薬屋の紙風船

暮しの手帖からもどった荷物を開けて本を所定の場所にもどす。これやっとかないと、後がたいへんのだ。『BRITISH HISTORY』(Frederick Warne & co. 1904)が出てきた。これ、どこで買ったんだろう? と思って最終ページを見ると特徴的な鉛筆文字で「800」とあったので、街の草だとすぐに判る。




2006年1月28日(土)なのりその名もなき古書の積みてあり

向井氏の『早稲田古本屋日録』の装幀、最後のオビのレイアウトを仕上げてしまう。ジャケット、表紙は先に送ったので、校正刷りが出るのを待つだけ。お楽しみに。今回初めて、Adobe illustrator CS2 というソフトを使ってみたのだが、いろんな機能があって、どうすればどうなるのか、さっぱり。なんとか形にはなったけれど、やっぱり攻略本(?)が必要だなあ。

買い物ついでに車で五条のブックオフまで足を伸ばす。しばらくぶり。本はあるていど入れ替わっていた。結局は105円しか買えない。

・風雲回顧録 岡本柳之助 中公文庫 一九九〇年
・人形クリニック ある生涯の七つの物語4 辻邦生 中公文庫 一九九二年 il. 松本竣介 d. 中島かほる
・O=ゾーン 上 セロー 村松潔訳 文藝春秋 一九九一年 il. 佐々木マキ d. 坂田正則

『風雲回顧録』はそれなりに値段が付いているので買い物だった。レジで支払いを済ませてふと見ると、持ち込みの本が山のように積まれていた。美術関係も多そうだった。また来よう。そうそう先日の古本市場の持ち込みは期待はずれだった。

暮しの手帖社から、写真を撮るために貸していた本がもどる。世田谷文学館で開催される「花森安治と「暮しの手帖」展」のチラシが入っていた。下のように折ってあるが、拡げるとA3のポスターになる。おもしろい。「暮しの絵本 ソース家の物語」という絵葉書セットも同封されていた。もちろん花森作。


念のためにと思って、グーグルでイメージ検索してみると、十字屋書店酒井嘉七の写真が見つかった。昭和二十年一月十六日、銀座の浜作で十字屋版宮沢賢治全集の出版記念会が開かれた、そのときの写真である。谷川徹三、高村光太郎、横光利一、中島健蔵、岩田豊蔵、藤原嘉藤治、酒井嘉七(後列右端)が写っている。写真は藤原嘉藤治所蔵。藤原も全集刊行に尽力した人物である。なお、全集の原稿整理に際して、森莊已池(もり・そういち)は宮沢清六(賢治の弟)の手伝いをするため宮沢家に半年余りも寝泊まりしたそうである。



2006年1月27日(金)南国の木を殺したり鉢出(いだ)す

森莊已池『ふれあいの人々』の続き。《十字屋書店版宮沢賢治全集の出版元、東京・神田の古書店主人の酒井嘉七氏に私は会った。/神田には、間口が二間で奥行き数間の古書店が軒を並べていた。そんな神田で、一番大きな古書店が「一誠堂」だった。そして一誠堂の実弟が酒井嘉七さんで、小さな標準の型の古書店主だった。/なぜ古書店の十字屋さんが、宮沢賢治全集を出すことになったのか。その話――。/酒井さんの先に、三巻本の宮沢賢治全集を刊行した文圃堂主人が店をとじなければならないことになった。さっぱり売れない新人の小説集を次から次へ出し、「文学界」という、これも返本大量の雑誌をかかえて破産したのだ。主人は長崎の豪家の御曹子と聞いた。郷里の父の厳命で帰郷するとき、篤実な酒井さんが、後始末をしてあげた》p60

『一古書肆の思い出1』(平凡社ライブラリー、一九九八年)によると、酒井は反町を古書界へ引き入れた恩人である。《神保町の中ほどの十字屋酒井嘉七さん。この人は新潟県長岡市出身、同郷で同年輩。若い同士ですから自然に親しくなる。一寸くせのある人でしたが、正直な、いたって親切な人でした》《十字屋さんの意見では、古本屋へはいると、出版の動向の一端がわかると同時に、永い生命を持つ本と、すぐ読み捨てられる書物との差別がハッキリ判って、大いに参考になるだろうとの事。その方面なら世話をしてあげる、との親切な提案》《十字屋さんは大奮闘、とうとう自分の兄さんの一誠堂の酒井宇吉さんを口説き落として、私をそこへ押し込んでくれました》(p68〜70)、これは昭和二年のことである。なお同書(p75)に昭和初年ころの神保町通りの写真が出ているが、十字屋もこのような店構えだったにちがいない。

『古本年鑑1933年版』(古典社、一九三三年)の名簿によれば、十字屋の住所は《神田区通神保町三》、専門は《専門雑誌》となっている。スムース文庫『私の見てきた古本界70年』掲載地図(大正十年頃)を見ると、当時の十字屋書店は、現在の神保町一丁目三になる金子書店の場所あたりではないかと思われる。なお店主の名前は酒井助治なので嘉七の近親か(?)。

また、清田昌弘の『石塚友二伝』(沖積舎、二〇〇一年)によれば、《主人の酒井嘉七は古書店一誠堂初代宇吉の弟で同じ神田神保町の大通りに店があった。昭和九年、十年に出版された『宮沢賢治全集』全三巻の古書相場が徐々に値上がりしているのに目をつけ、版元の文圃堂から紙型を譲り受けて再刊を目論んでいた》とある。また、三巻本については、草野心平を通して賢治の作品を知った横光利一の推薦で、書物展望社にいた岡村政司と石塚がすすめていた宮沢賢治全集の企画が、膨大な原稿整理に手間取り、けっきょく中止となってしまった、その後を文圃堂が引き受けた(いきさつは24日参照)としている。そして

《友二は十字屋を草野に引き合わせ、新たに七巻本の全集として十一月から配本の始まる第二次『宮沢賢治全集』のため草野や儀府成一らと神田の印刷所で校正の仕事を手伝うことになった》p144

友二も新潟出身だ。すると、草野が宮沢清六に酒井を紹介したのだろう。

ふたたび森莊已池『ふれあいの人々』に戻ると、《文圃堂発行の三巻本「宮沢賢治全集」の紙型は、破産世話役の十字屋さんに寄贈され、宮沢家も承諾して、刊行することに決まったのであった。そこで、十字屋書店主人の酒井さんが、宮沢家にやってきた。/紙型をもらったこと、三巻本を続けて刊行することを、宮沢家にお願いにきたということである。/ところが、酒井さんが花巻に来て、清六さんから賢治の話を聞き、遺稿を見せられて、びっくりしてしまった》《びっくりはしたけれども、またりんりんと勇気が湧いてきた――ということだった》p60

 森莊已池『ふれあいの人々』熊谷印刷出版部、一九八八年



2006年1月26日(木)春野菜抱えもつ妻頬あつし

kotoko さんより、カフェ・ド・ポッシュの催しの案内をいただく。英文雑誌を使った手作りの封筒がオシャレだ。cafe de poche vol 5 私的読書週間 〜本の世界を旅して〜2006/2/2(thu),3(fri),4(sat),11(sat),18(sat) 1:00--6:00/cafe de pocheはスタッフのセレクトした本でつくる期間限定のブックカフェです。5回目となる今回のテーマは『旅』。旅先でのんびりページをめくりたいと思う本、読んでいる間に旅に出たくなる本、まだ行ったことのない遠くの国のことが描かれている本。そんな『旅』に関する本をたくさんご用意してお待ちしています。/京都市左京区北白川西瀬ノ内町7-1》・・・場所は、古書店・欧文堂の東の疎水沿いを南へ東側。



【ナベツマ・ジャンク《悪夢ふたたび!》】

 「悪夢」といえば・・「フレディ」?・・ちゃうちゃう・・「ふたたび」といえば「七瀬」?・・ないない! ナベツマにとっての「悪夢ふたたび」は『講義への遅刻!』。あ〜あ、またやっちまったぜ。原因は南海電鉄だ!

 月曜日、朝7時半の某局ニュースを見ていて「あっやば!」という言葉を残して、ナベツマは予定より20分早く家を出た。お仕事の現地は「田尻町」、大阪府のずうっと南のほう、もうすこし行くと和歌山なのだ。10時半からの講義なので、講座会場の最寄り駅「吉見ノ里」到着は10時すぎの予定であった。が、早朝に人身事故があったらしく、案の定、南海電鉄乗換え駅の天下茶屋のホームには下りの電車がほとんど入ってこない。

 どーすべ? よっしゃあ、ラピート(関空特急)来たら特急料金を払ってでも泉佐野まで乗っちゃおう!と、常々鉄人28号のようなルックスのラピートにあこがれていたので、試乗できるな、と踏んだのであった。

 あ・ほ!! 同じ線路を走っているラピートだけが運行無事な訳がなかった。どころかラピートもサザンもすべての特急は全面停止、動いているのは急行と普通のみ。20分待ってなんとかやってきた急行に乗車。ところが、泉佐野まで来て普通に乗換えなくっちゃいけないのに普通電車が来ない。あわてて会場に電話してタクシーで会場まで行けるものかどうか尋ねた。そうこうしていると普通がホームに入って来たので乗車。ここでまた問題が・・。乗ったもののうんともすんとも電車が動かない。後発の急行を先に通すとかで停車したままなのだ。しかも1台急行が出て、その後またもう1本の急行を先に通した。が〜ん!

 結局はとーぜん遅刻したんよね、講義に。10分遅刻でその分終了時間を10分延長させていただいた。良かったらお詫びにもう1時間講義しましょうか? とは言えなかったが、えらいこっちゃで非常に疲れた一日だった。その夜見た夢は・・・想像つくよね?