山本善行[e-古本泣き笑い日記]

古本泣き笑い日記9


古本泣き笑い日記10  2004年 冬


○月○日
 彷書月刊に電話する。岡崎武志との対談、28日ということになる。
 遅日草舎の生田さんの新居に、ネットで落札した、雑誌「湯川」(7册)と「ユリイカ」(書肆ユリイカ・立原道造特集)を受け取りにいく。
 この「ユリイカ」、なぜだか分からないが、60円で落札できたのだ。
 1円スタートで、私が30円と入札すると、誰かが、50円と入れてきた。あまり細かい入札を繰り返すと、目立ってしまうので、120円と入れておく。(これでも充分細かいか?)すると、どうしたわけか、相手はそれで争いから降りていったのだ。赤貧対極貧の争いだったのかも。
 「湯川」は7册揃いで5050円だった。生田さんと1時間ぐらい話をする。テーブルの上に置いてある普通の本が、特別な本のように見える。私の家と何がちがうのだろう、と考える。わかった、室内に置いてあるものすべてがちがうのだ。今出川通の店は閉めるらしい。いい店だったので残念だ。新居は平安神宮の近くで、静かないいところだった。
 帰って文庫堂に行くがなにも買えず、寂しいので銀林堂に向かう。中山義秀『芭蕉庵桃青』(中公文庫)105円。一冊でも買えてうれしいが、いったい何冊同じ本を買ったら気がすむのだろう。

○月○日
 竹岡書店の店頭で、庄司浅水『書物の国の散歩道』(昭和33年、教養文庫)100円。これもうれしいが2册目。
 ブックオフ三条店で、真鍋博のイラストがたっぷり入った、星新一『おのぞみの結末』(いんなあとりっぷ社)を買う。でもこれも二冊目。(値段は書かないが、ブックオフで買う場合は105円だと思ってほしい。もし「5册で105円」というセールでもあれば、その都度お知らせします)
 篠山紀信の写真集『ヴェニス』は1500円だったけど、見ていると欲しくなって購入する。
 仕事帰り、コミックショックではじめて古本になった自分の本に出会う。
 『関西赤貧古本道』367円。100円とちがうのか、もう少し安ければなあ、と思いながらも強く買い支える。いや待てよ、これは支えたことにならないか。
 自分の本でも、安い方がうれしいというのは、いかがなものか。

○月○日
 福田屋の店頭は100円均一。ジュール・シュぺルヴィエル『ひとさらい』(1979年、澁澤龍彦訳、大和書房)、『阿部眞之助選集』全一巻、(昭和39年、毎日新聞社)どちらも裸本だが買っておく。背が欠けているとか、ちょっとキズのあるほうが読み出しやすい。

○月○日
 ブ三条店に寄ると、店員が、いつもの中公文庫100円棚に、せっせと追加している。斜め後に立ち、店員の持っている本にもチェックを入れる。
 田中純一郎『日本映画発達史』1と2、生方敏郎『明治大正見聞史』、吉田健一『書架記』、戸板康二『小説・江戸歌舞伎秘話』、金井美恵子『書くことのはじまりにむかって』、三田村鳶魚『大衆文芸評判記』、柳宗悦『蒐集物語』など。あとから考えると全部買っといてもよかった、それほどの追加だった。
 でも、持ってるんだなあ、ほとんど。
 2、3時間後にもう一度のぞくと、ほとんどが無くなっていた。やっぱり素早いライバルがいるのだ。今日はたまたま私が早かったのだが、いつもこうとは限らない。
 中公文庫以外では、桂米朝『米朝ばなし』(サイン入り)がうれしい買い物。
 でもこれも持ってるんだ、それもサイン入りのものを。

○月○日
 昨日のことがあるので、ゆっくり寝てられない。ブ三条店は追加追加で大変なことになっているのでは、と思い思い急いだが、あまり追加はなかった。
 宇井無愁『落語の根多』(角川文庫)、田中純一郎『日本映画発達史』5、色川武大『喰いたい放題』、戸板康二『物語近代日本女優史』など。
 なかでも『落語の根多』を買えたのはうれしい。ちょっと珍しい文庫だ。
 文庫以外では、桂三枝『愛情ゆきのバス』(昭和51年、八曜社)。これもあまり見ない。
 仕事帰りに、ガケ書房に寄る。善行堂という棚で、古本を置かせてもらっている。自転車で5分ぐらいのところに、奇妙な本屋が出来たと聞いて、はじめて行ったのが、確か5月(2004年)だった。なるほど、前まで回転寿司屋だったところに、車が飛び出し、外壁が崖のようになっている店が出来ている。
 はじめての日、店長とあれこれ話しているうち、一棚を私の古本コーナーに、という話になったのだ。
 やって見ると、どんな本が売れるのか売れないのか、そこが面白い。買うのも楽しいが売るのも楽しい。これは面白いぞ、と思う本を並べ、それが売れていくのが新鮮だ。それに前から一度言ってみたったのだ、
「その本、ちょっと見ない本だね、でも前に売ったことあるんだよね」と。
 ガケ書房は、くつろげる本屋さんで、ざっくばらん、ゆったりとした雰囲気で、私に合っている。
 ガケ書房には私の棚だけでなく、貸し棚というのがあって、いろんな方が自分の棚を作っているのも面白い。
 だいぶ前の話だが、店長のYくんが、
「来月からトヨエツさんも本を並べるんですよ、御存じですかトヨエツさん」
 そうか、とうとうトヨエツも古本置くんか、と思い、
「あの俳優の豊悦さん・・・」
(ここで一瞬の間、あきれた感じで)
「いやあ、トヨエスさん、詩人のトヨエスさんですよ」
 
そうだろうなあ、いくら流行りだといっても、トヨエツが古本置かんよなあ。また頓珍漢なこと言ってしまった。
 その豊原エスさんの棚は、トムズボックスの本などを並べて、魅力的だった。豊エスさんには、『うた』『ホイッスル』『歌いながら生きていく』という詩集があり、ネットで日記も公表されている。私はときどき読んでいる。

○月○日
 文庫堂店頭で、武田泰淳『風媒花』、外村繁『阿佐ヶ谷日記』、『落日の光景』、安藤真澄詩集「豚」署名入り、神崎崇詩集『あなたに』献呈署名入り。全部100円。
 文童社の詩集が2册あったのはうれしい。
 安藤真澄のことは、天野忠が『我が感傷的アンソロジー』(書肆山田)で書いていた。天野忠のこの本はいい本だ。2004年度の読書で、最も影響を受けた本の一冊だ。リンゲルナッツの詩にも出会った。リンゲルナッツの名前は前に岡崎から聞いていたが、ここにきて私も本当に出会うことができた。
 リンゲルナッツのことは、天野忠だけでなく、長田弘は『私の二十世紀書店』(中公新書)で、杉山平一は『現代詩入門』で、池内紀は『ぼくのドイツ文学講議』(岩波新書)で、触れていた。引用されている詩がとても面白い。
 ブ三条店に寄ると、単行本が2册1000円になっていた。ということは、もしかして一冊500円か。
 洲之内徹『絵のなかの散歩』と『さらば気まぐれ美術館』、海野弘『スパイの世界史』、紀田順一郎『日本語大博物館』の4册にする。いい本買えた。

○月○日
 文庫堂店頭で、大阪毎日新聞縮刷版(昭和3年)、200円。はっきり面白いのだが、こういうのを買うようになると、もう家の中はめちゃくちゃになる。でも、広告などを切り取って遊ぼうか。岩田専太郎の挿し絵(大仏次郎の小説)もすばらしいので買う。
 縮刷版といっても大きいから、これはこっそり持って帰ろう。
 丹羽正『浄光寺の春』『まだ手さぐりの天使』、冥草舎、各100円。丹羽正は、小川国夫とともに、同人誌「青銅時代」のメンバーだったはず。確か、小川国夫の手紙をまとめてもいた。でも小説を読んだことないのでちょっと心配だ。いい小説であってほしい。

○月○日
 竹岡書店の均一台で、吉田健一『東京の昔』(中公文庫)100円。
 吉岡書店の店頭が、いつもとちがう様子。急ブレーキで自転車止めて飛び下りる。店頭に昨日まではなかった本が見えた。
 塚本康彦『受験番号5111』(カッパブックス)100円。加納光於のカットがたくさん入っているので買う。
 桑原武夫『事実と創作』(昭和18年、創元社)100円、大山定一『作家の歩みについて』100円、リリアン・へルマン『未完の女』100円、野間清六『偽物・真物』100円、富士正晴『不参加ぐらし』100円、ヴェントウリ『現代絵画』300円、クロフツ『樽』100円。

○月○日
 文庫堂で、また丹羽正がでている。丹羽正、まだ読んでないが、もうこうなったら、乗りかかた船だ。丹羽正はみんな買うぞ。『河岸のほとり』(署名入り)100円。「サントリー90年史」も100円。
 ブ三では、田中穣『藤田嗣治』と竹中功『わらわしたい』。

○月○日
 大阪古書会館で古本セール。明日、東京遠征なので落ち着かないが、行くことにする。あまり安くなかったので買うのに苦労した。
 篠田一士『読書三昧』(晶文社、犀の本)、500円、ブレヒト『暦物語』1963年、矢川澄子訳、澁澤龍彦装幀)、840円。
 よかったのは、雪明りの叢書(昭和50年、伊藤整関連の叢書)が十一册買えたことだ。文庫サイズのかわいいシリーズだ。
 曽根博義『伊藤昌整』(献呈署名)、亀井秀雄『雪明りの路の世界』(献呈署名)、更科源蔵『思い出の伊藤整』、山田昭夫『伊藤整の一側面』(献呈署名)、小笠原克『伊藤整の青春』、大西雄三『若い英語教師伊藤整』などなど。
 この叢書は全14册(?)、欠本を集められるかどうか。その場で動かずじっと、一冊ずつ確かめるように読んでいると、店主が、揃ってないので、と言って、少しまけて下さった。それで十一册2000円になった。

○月○日
 2時から岡崎邸で対談があるので、ゆっくり古本屋に寄ってからというわけにはいかなかった。
 新幹線で、安部公房『笑う月』を読み、尾辻克彦の解説も読む。安部公房が気に入らなかったと言われているもので、今出ている文庫には解説はないはず。当時読んだときは、別に気にするほどではないのではと思ったのだが、・・・。
 1時半ごろに岡崎邸に着くが、車窓から「ささま」が見えたときは、途中下車しそうになった。素通りするなんて、古本の神様に申し訳ない。
 それでも岡崎宅に着くと、きっちり言われた。
「ささまに寄ってきたんやろ」
 しばらくして、彷書月刊の田村さん、皆川君が到着。
 岡崎が、はじめて来たという田村さんに、自分の蔵書、ざっと見積もって幾らぐらいになるか、と何度も聞いている。岡崎もお金に困っているのだろうか。赤貧としては気になるところだ。
 対談どころか、岡崎、いろんな本を取り出してきて、田村さんと皆川くんに自慢している。こんなことなら、私も、何冊か持ってきて、ほめてもらいたかった。中林洋子の本にはみんな驚く。岡崎邸書庫、限定本とか稀覯本は少ないが、普通に出た本で、今あまり見かけないというのが多いのだ。
 対談後、二人でささま、ブックオフをまわり、ジャズのライブを聴き、からおけで歌いまくり、家にもどり、2時ごろまであれこれ話す。

○月二○日
 二人で神保町へ。田村書店の店頭に、中村光夫や荒正人、佐々木基一などの新書があって、少し迷ったが、なぜか買えなかった。一冊だけ、谷崎精二『放浪の作家 葛西善蔵伝』を買う。持ってるけど。
 西秋書店をのぞき、新潮社でSさんと雑談、そして「古書現世」に向かう。

○月○日
 外山書店の店頭の棚を、自転車に乗ったまま、見ていくと、しぶい本があるではないか。古川緑波『劇書ノート』(昭和28年、学風書院)300円。迷わずに買えるうれしさよ。
 吉岡書店には「言葉の小宇宙」という雑誌があった。芳賀徹の監修で、1985年、キャノン販売株式会社発行、非売品である。赤瀬川原平、松岡正剛、中沢新一、山下洋輔、などが、コスモスについてのエッセイを書いている。
 この雑誌の大きな魅力は、北園克衛のカットが数多く入っているということ。300円だけれど買うことにした。

○月○日
 かっぱ横町のセールの日。いつものことだけど、紅白の垂れ幕が見えれば、走ってしまう。
 杉本秀太郎『伊東静雄』210円、齋藤史『遠景近景』210円、中井英夫『蒼白者の行進』210円、高橋睦郎の英訳詩集、(野中ユリのイラスト)210円、石川淳『珊瑚』200円、村上春樹『海辺のカフカ』上100円、ロマンロラン文庫(みすず書房)100円など。
 ジャズ喫茶「ホワッツニュー」に入り、珈琲の横に古本を積み上げ、消しゴムで値段を消し、汚れをティッシュげ拭く。パラフィンで包むのは帰ってからの楽しみにとっておく。ジャズを聴きながらイイ気持ちになる。

○月○日
 中野書店に注文の電話をするが、売り切れ。結城信一の『螢草』が2625円だったのだ。ああ残念だ。
 尚学堂の200円均一台で、「新青年」昭和7年、12月号、を購入。こういうのを手にとると、やはり復刻とはちがうなあと思った。
「三田文学」山川方夫追悼号も。こちらは店内で300円。

○月○日
 文庫堂で興奮する。上林暁『悲歌』(昭和16年、桃蹊書房)が何と100円だったのだ。上林5冊目の小説集が目の前に。ちゃんと函も付いてこの値段。このような貴重な本が店頭に出て、多くのハンターたちの手をかすめて、今私の手にあるというのは、何という幸運なんだろう。
 その場で黙とうして、古本の神様に手を合わせた。
 この気持ち上林ファンなら分かってくれるはず。調子に乗って、店主に、もっと上林ないかと聞いてしまう。興奮してるので口が軽くなるのだ。これはいつもそうなる。わかっていてもやめられない。
 福田屋で、阿川弘之『青葉の翳り』100円、外山書店の店頭で、図録「長谷川時雨と女人芸術」300円、三島由紀夫『潮騒』のシナリオ100円。
 梁山泊から『感恩集』品切れのハガキが届く。6000円は安いので注文殺到しただろうなあ。
 扶桑書房から本届く。中村光夫『二葉亭四迷論』と「文学通信」(ぐろりあそさえて)。

○月○日
 外山書店の店頭ワゴン、文庫新書が一冊100円になっている。何冊か選んで、ふと目をあげると、店内の文庫新書もすべて100円、と書いてあるではないか。あわてて店内に入る。もちろんここに書けないぐらい、いっぱい買わせてもらいました。店内を何度も何度もうろつきまわり、もっとないかと欲ぶかくなる。あかんあかん、こういうときは、ほどほどにしとかなあかん。そんなことも考えながら棚をみていた。きっと「ほどほどに」ぐらいは何度も声に出していたと思う。
 重たいので本を置きに家にもどった。それでまた外山書店の前を通るのだが、なぜかまた店内に入ってしまう。自分で言うのも変だが、それがなんだかすごく自然な感じなのだ(?)
 すべてを見ていた、レジ横に座っていた、おばあちゃんが、不思議そうに、
 「あれっ、確か、さっきも・・・」
 私の一連の変な行動が、どうも、おばあちゃんの歯車を狂わしたみたいだ。
 このあと、当然のように、ブ三条店に向かう。この変なエネルギーはいったいどこから生まれるのだろう。
 大江健三郎『洪水はわが魂に及び』の下巻(初版)を買う。署名が入っていたのだ。450円。初版の上巻を見つけるのはまた大変だなあ、と思い、迷ってなかなか買えなかった。

○月○日
 朝、エルマガのLさんから電話。昨日ファックスで連載の話が届いていた。今日の一時半にかっぱ横町で待ち合わせることになった。
 Lマガジンに「本棚通信」というページをつくることになったので、そこにコラムを、という、うれしい話だった。
 もちろん30分ぐらい前に着き、かっぱ横町を、ざっとまわる。
 セールの日以外はあまり来ないので新鮮だった。やはり梁山泊のワゴンが安い。
 以倉紘平『夜学生』、カート・ヴォネガット『ホーカス・ポーカス』、ユリイカ「特集バルガス・リョサ」、みんな100円だった。
 驚いたのは、昨日ブックオフで大江健三郎の署名入り『洪水はわが魂に及び』の下巻を買ったのだけど、今日、その上巻の初版が100円であったことだ。あるのだなあ、こんなことが。昨日の今日なのでびっくりした。
 Lさんと別れたあと、もう一度、かっぱ横町をまわり、紀伊国屋書店、旭屋書店、萬字屋書店、駅前第三ビルへ。

○月○日
 文庫堂の店頭で上林の『悲歌』を見つけてからというもの、毎日のように覗かずにはおれない。おそらく、暫くは文庫堂中心の生活になるだろう。
 今日も、文庫堂店頭に、味わい深い、しぶい本が出ていた。
 貴司山治『舞踏会事件』(昭和22年、弘文社)。あとがきを読むと「新青年」に発表された探偵小説も含まれているという。弘文社というのは、湯川弘文堂の湯川松次郎が戦後起こした出版社だ。
 宮本百合子『播州平野』(昭和22年、河出書房)も、久保榮『林檎園日記』(昭和22年、中央公論社)も素朴ないい本だった。
 精算を済まし店を出たら、扉野くんが熱心に古本を見ていた。

古本泣き笑い日記9

[Feb. 21, 2005]