| ◆ 「スオミ・ピアノ・スクール公開講座」 の報告 舘野先生をお迎えして去る4月23日(木)、ヤマハ銀座店で行われた、久保春代先生によるスオミ・ピアノ・スクール公開講座のご報告をします。 まず初めに久保先生より、スオミの生まれたフィンランドについて、次のようなお話がありました。 近年、経済協力機構(OECD)の国際学習到達度調査(PISA)でトップレベルを維持していることで注目を集めているフィンランドは、音楽教育でも素晴らしい成果を上げており、2007年に上野学園で行われたシベリウスアカデミーの学長による講演とシンポジウム(会報Vol.72,73参照)でも示された、フィンランドの音楽教育の理念〜目先に捉われない息の長い教育、現代音楽を教材に取り入れる、学生も1人の芸術家として尊重する、身体の合理的な使い方を学ぶカリキュラムがある〜が、「スオミ」の理念と完全に一致するということでした。 ![]() その後舘野先生の登場となり、久保先生の巧みな進行により、初めてお聞きする貴重なお話が次々と展開されました。舘野先生は、レッスンではエチュードのようなものはあまりやったことがなく、好きなものをやっていたそうです。高2の時、コハンスキー先生に出会い、初めて「脱力」という概念に触れ、それがピアニストとして歩んでいく決定打になり、コハンスキー先生はまさに救いの神様だそうです。 教えるのは苦手とおっしゃる舘野先生について久保先生は、かつてシベリウスアカデミー時代に舘野先生から受けられたレッスンでは、たくさんのヒントをもらって嬉しかったとおっしゃって、たとえばどう弾いたらよいかわからない時、先生はご自分の一番好きな箇所を示してくださって、そこで曲の魅力に目覚めたといったことや、技術的な問題についても、「何で弾けないのかねぇ。」とおっしゃって、真似た悪い例と良い例を弾いてくださるとすぐに分かり、帰りには生意気にも自分でうまくなったような気がしたという経験談を披露されました。舘野先生は、どこをどうしなさいとはおっしゃらないが、長い目で見守ってくださっているというのがあって、これは「スオミ」と共通しているということです。 舘野先生がフィンランドでスオミに出会われた時、初めていい教本があると思われて、これを是非日本で紹介したいと考えられたそうです。そこには遊びながら、考えながら好きなようにできる自由さがある、でも教える側にとっては、枠があってこう教えなさいといったものではなく、一緒に共同作業をしていって、それぞれの世界が広がっていくといったもので、大変だろうなと思われたそうです。そこで、子供一人一人と向き合い、感性を大切にしながら素晴らしい教育をされていた坂井百合子先生にバトンタッチをされたということでした。 技術に関しては、左手だけで演奏するようになっても特に考えたことがないということでした。(実は講座の後でご一緒させていただいたお食事の時に、この続きのようなお話を伺いました。「左手で演奏活動を再開した初めの1年余りは、ただ弾けることが嬉しかったが、最近はもっと自由に身体を使ってもいいのかと思うようになった。泳いでいるというか、空を舞っているという感じで・・・」と。それは左手だけで弾いているという制約もなくなってきたという感覚なのでしょうか?) 一日何時間練習されるかというインタビューをよく受けられるそうですが、「2時間ぐらいで、後は寝ています。」と答えると、皆びっくりするそうです。ただ、自分の呼吸と一緒になって、つまり自分のセンサーに合った音楽になるまで1年はかかるし、3年ぐらいほっといてから取り出してみると、急に弾けるようになる時もある。しっくりこない時、音に満足がいかない時は、耳で聴く力が、つまりセンサーが要求しているのであって、子供にもそのような精度の高いセンサー(聴く耳)を育てることが大切ということです。 ![]() 最後に、天才は99%の努力と1%のインスピレーションというけれど、「自分のセンサーと合わないなあ。」というように、常にそのことに自分の意識がいっていると、ある時「あっ!」と思うことがある。だからいつも、いつも努力してください。その努力というのは、無関心ではなく、集中して細かいことを見ていることです、と締めくくられました。 そしてこの後、いよいよ演奏です。曲目は、スクリャービンの左手のための前奏曲と夜想曲Op. 9でした。息使いが直接感じられる5,60人ほどの狭いサロンで、何という贅沢な時間だったことでしょう!舘野先生のお人柄と素晴らしい演奏に、感動で涙ぐんでいる人も多かったようです。 演奏後、舘野先生は、今「左手のコンクール」の実現に向けて働きかけているところです、という発表をされ、前半が終了しました。 後半は久保先生によって、「スオミ」の中身について、ページをめくりながら説明が ありました。「スオミ」の特徴として、子供の心を大切にするということ、芸術性豊かな楽曲が入っていること、自分の国、つまり日本の音楽を大事にすること、そして最初から現代曲も取り入れる(これは音楽とは何かという根本的な問いかけにもなる)が挙げられるということです。 テキストの魅力にもなっている、子供たちに直接語りかけるかわいらしいイラストは、著者の考えに沿ったもので、イラストレーターのマイヤ・ランタさんはこの教材を作っていく初めの段階からチームの一員だったそうです。 内容が各巻ごとに螺旋階段状に少しずつ高度になっていく例として脱力のところを取り上げられるなど、短い時間の中で、丁寧でありながら大変効率良く、「スオミ」の魅力を伝えられました。 1巻のP.44のペダルのところでは、前半で舘野先生のお話にあった、納得するかしないかという「耳を育てる」ということを振り返ることで、舘野先生のお話が見事に「スオミ」の内容につながり、大変深い内容の講座でした。 最後に、2巻よりメリカントの“子守歌”の素敵な演奏で講座が終わりました。 講座が終了して、会場から出ていらっしゃる皆さんが口々に、感動した、充実した内容で来て良かった、普通の何倍もの価値のある講座だったなどと興奮気味に、目を潤ませながら、話していかれました。アンケートで講座や勉強会の案内を希望された方は30名余りありました。 講座当日は、ムジカノーヴァ、レッスンの友、ピアノの本、プリマ楽器の取材があり、すでにプリマ楽器のホームページには、講座の模様が詳しく掲載されています。(「プリマ楽器」で検索し、トップページから「NEWS 88」をクリックしてください。)また、レッスンの友 6月号 P.81 にもトピックスとして掲載されており、講座の模様は号を改めて紹介されるようです。 ※ プリマ楽器ホームページ http://www.prima-gakki.co.jp/public_html/column/finland/012.html 次に講座に参加された会員の感想を紹介いたします。 目先の成果ばかりにとらわれやすい日本のピアノ教育ですが、目先の成果にとらわれず、息の長い教育をするフィンランドの教育から学ぶべき点がたくさんあるように思いました。フィンランドの教育が世界中で注目されている今こそ、スオミ・ピアノ・スクールがもっともっと多くの方に広まり使われていくよう、私自身も努力していかなければ・・・と思いました。 子供の時代から、遊びや暮らしの中の様々な経験を、音楽で表現するきっかけや教師の気づきを、「スオミの旅立ち」は助けてくれているように感じました。 講座ではフィンランドについて学びながら、そこから生まれたスオミの特徴を再認識することができました。前半の対談の中で舘野先生がご自身の指導法について「教えるよりも一緒に考えることが楽しい。僕の近いところで音楽を一緒に体験してそこから自分で学んで欲しいのです。」と語られましたが、それはまさに子供と共に学びながら音楽的本能を引き出し育てていくスオミの指導法と共通するものでした。教え込むのではなく子供と先生とが一緒に共同作業しながら、それぞれの世界を広げていく。そのような創造的なレッスンを展開するために、久保先生が舘野先生のレッスンを通して感じられた「問題点を見つけ判断する精度の高いセンサー」を、まず私達が身につける努力をしなければいけないと思いました。「自分がやりたいことがある、常に関心があって問題点を探している、ということが努力なのだと思います。1%の閃きのためにいつもいつも努力してください。」と舘野先生がおっしゃった言葉がとても心に残りました。 また日々のレッスンの中で見落としていた部分に気づくこともできました。たくさんのテーマを含む「旅立ち」では、表情豊かなウサギのマスコットにもっと目を向け、視覚からもより意識付けをし、それぞれのテーマを徹底させたいと思いました。そして、子供自身が感じ、考え、音で表現できるよう子供と共に考えていくレッスンを常に心がけたいと思います。即興演奏を取り入れる意味についても再認識し、久保先生が実際に演奏してくださることでイメージが広がりました。 スオミを指導法に取り入れて以来、今もなお多くのことを学んでいます。そして今回の講座を聴き、また改めて子供を教える楽しさに気づきました。伸びやかな子供の感性に触れ、自らも学びながら音楽の世界へと子供を導いていくこの仕事に携われることをとても幸せに思います。 ![]() 当日のアンケートからも一部抜粋して紹介いたします。 [これから使いたい] ? 舘野先生のお人柄、深い音色、久保先生のまっすぐで真摯な音楽への姿勢にとても刺激を受け、感動も致しました。受講させて頂いてよかったです。今日は時間がなく、もっと感想書きたいのですが・・・・ [使っている] ※ 5月22日に行われた伊藤楽器 YAMAHA ピアノシティ船橋のスオミ・ピアノ・スクール公開講座終了後、参加した会員の皆さんは久保先生と昼食をご一緒させていただく機会を得て、興味深いお話を伺うことができました。 |