◆スオミ・ピアノ・スクール つくばセミナー報告

スオミ・ピアノ・スクール Vol.2
    ~監修者・ピアニスト舘野先生をつくばに迎えて~

去る2017年2月3日の節分の日の寒い日、研究会メンバー6人で途中合流しながらつくばを目指しました。つくば駅からは筑波山がくっきりきれいに見え、とても空が広く感じられました。スオミピアノスクールセミナーはヤマハミュージックアヴェニューつくばにて講師に久保春代先生、途中より特別ゲストとして舘野泉先生をお迎えして開催されました。

10時半~久保先生のセミナー

今年はフィンランド独立100周年、ロシアから独立(100年位ロシアに支配されていた。その前はスウェーデンに300年以上支配されていた)。日本では、冬は“寒い”というイメージだが、フィンランド(北欧)は、気温が-20~-30℃、冬は“暗い”というイメージが強い。春分に近くなり、春の気配を感じられる頃が今の季節。フィンランド人は光に対して季節感を感じている。とはいえ、大変冬の寒さは厳しく、この冬の厳しさが民族性を作り上げていった。毎年毎年厳しい冬が必ず来る。その厳しい冬をどう乗り越えるかが重要になる。
冬(自然)に対して人間の力は小さいものであるという考えで、非常に謙虚である。冬を乗り越えるという長い目の視点が教育にも取り入れられている。

スオミの特徴
1. 子供の心を大切にする。目先の進度にこだわらず(コンクールなどの短い視点では無く)長い視点で子供を育てる。
2. 子供の自発性を育てる。即興や伴奏付けなどにもウエイトを置いている。
3. ピアノの奏法、最初の旅立ちの巻から脱力についてもページを設けて勉強する。シベリウスアカデミーでは、人間工学として体をどう使うかなどの授業が行われている。
4. 形式、様式、いろいろな時代の音楽に触れる。(子供であっても理論を教える。)現代の音楽にも恐れずに触れて行く。
5. 外の世界や自然に興味、関心を持たせる事を大切に考えている。
6. 教材そのものが芸術性の高いものを取り入れている。

スオミスクール1巻について
旅立ちの巻のキャラクターうさぎよりも動きが素早い猫になる。うさぎよりも柔軟で敏捷である。Ⅰ、Ⅳ、Ⅴの和音を意識して勉強する。イメージをしっかり身に付ける。移調が沢山出て来る。即興演奏にも触れる。普通のピアノ教本にはあまり出て来ないものを取り入れている。多くの趣味でピアノを楽しむ子供にとっても、伴奏付けや移調が出来たりすることが大事な事になる。
原著者の言葉より、「可能な限り広い音楽的な素養を与える、音楽に対する興味を目覚めさせ、持続するように」という事を思って作られた。

この後、1巻のテキストのページをめくりながら久保先生が解説して行く形でセミナーが進められた。
P.7,8,9 旅立ちの巻の復習。
P.11,12 日本の子供の為に曲を差し替えている。
P.12 ぞうさん 言葉のある歌を弾く。言葉というのは意味があるので、イメージが膨らんで気持ちをのせやすいということで最初に取り上げている。歌詞を読んで、子供と話しながらイメージを膨らませ、子供の創造力を引き出す。ここで大切な事は、お母さんに対する想いを音に表す(ピアノにのせる)事で演奏が豊かになって行く。
P.14,15 即興演奏 「ピアノのためのものがたり」 即興とはやりたいようにして良い、解放する気持ち。こぶしクラスター、ノック、フラジオレット(音を出さずに共鳴させる)、などを使ったり、川の流れをグリッサンドにしたり、登場人物の熊、大ヤギ、小ヤギそれぞれにテーマを与えて、生徒たちと相談して決めたりして、少しずつ書き込んで行っても良い。
ここで舘野先生のご著書「命の響」の言葉が紹介されました。
P.150「そもそもピアノは指で弾くという概念に捉われる必要は無いのかもしれない。手のひら、拳、肘を使って弾いたって良い。いろいろな方法を試すことで、可能性が広がり、そこから新しい音の世界が生まれて来るのですから。」
小さい時はいろいろな事を経験する事が大切です。
P.16 脱力 「旅立ち」の巻ではP.15、腕の重みを感じられるか、肘から力を抜くとどうなるか、力を抜くということはどういうことか、とても大切なページなので何度も何度もやってほしい。2巻ではP.18、肩全体から力を抜くにはどうしたら良いかが書かれている。
P.18 音楽の理論 「音符と休符のながさ」 P.17で左の二分音符、四分音符、八分音符で、音符のヒントを出している。八分音符のイメージを先にヒントとして出している。
P.21 ゆめのくにぐにで 即興 音が与えられていて、その中で自由に即興で弾いていく。わになっておどろう 楽譜を良く見る読譜の練習。音を出す前に楽譜を見る練習をこのあたりから始める。舘野先生も、ピアノを弾き始める前に、まず楽譜から立ちのぼってくる空気をとらえ、作曲家の魂と向き合う。(「命の響」P.89より。)また、ピアニスト横山幸雄さんも演奏家コースの生徒に対し、新しい楽譜に取り組む際、弾かずにまず暗譜することを勧めているとのこと。
P.26 音程 1度、4度、5度の完全音程(ブルーで示している)をまず勉強。
P.27 1の指は力を抜いて弾き直す。4拍目を必ずスタッカートにしておいて、1の指の力を抜いて弾き直す。ここでちゃんとやっておくと次の重音に通じる。
P.28 レガートの練習 脱力が出来ていないとうまくレガートが出来ない、あえて重音でやっている。
P.30 水すまし 右レガート、左スタッカート。右も左のスタッカートの気持ちになって左手と一緒に軽いスタッカートの感覚を感じて力をふっと抜いて次に移動すると良い。
P.31 むきゅうどう 子供が大好きな曲。
P.32 としよりねこ 2段を1セットとして3つの部分で出来ている。 ①としよりねこが部屋で寝ている。のんびりと弾く。②小さいネズミが忍び足で歩く。猫の事を気にしながら。③ネズミが戸棚の向こうに素早く消える。少し速く弾く。 詩をもとに想像力を膨らまして弾く。いろいろな可能性がある。
P.36 和音の勉強 Ⅰ、Ⅳ、Ⅴを勉強。
P.40 サーカスだんのパレード 連弾 C dur、G durに移調して暗譜で弾いてみることをお勧め。連弾で音を良く聴くこと。呼吸を合わせる練習をする。
P.44 ペダル ペダルは耳で踏む。耳と連動させることを目標に最初からやらせることが大切。生徒は目をつぶって、先生の弾く和音の音が変わったら踏みかえる練習をさせる。ペダルは耳で良く聴いて踏みかえるのだということを生徒に覚えてもらう。
P.45 和音とペダルは切っても切れない練習である。
P.46 ボートのうた 1段目はひとつのペダルの中で弾く。C dur→F dur→G dur→C durと移調してひとつのまとまった曲にして弾いても面白い。
P.47 おばけのはなし 即興 E、F、C、Hの音が与えられていて、いろいろな音域を使って自由に即興する。
P.51 テクニックの練習 興味を目覚めさせる。
P.54 いろいろなタッチをよくききましょう P.50しまうまのおどりは、“木きんがなる”タッチで、ミンカは“くうどうの音”のタッチが良い。いろいろ試してみて、ちょっとしたタッチの違いで曲の感じが変わることを体験させてあげる。先生がタッチの違いを示してあげて耳を育てる。
P.56 くうそう 夢うつつな猫の様子 鍵盤をなでるタッチで。フランス音楽でも使える。
P.58 かなしい鳥 「鳥さん何があったのだろう」と生徒と気持ちを話し合ってどう弾いたら良いか考えていく。
P.61 きり 現代曲。難易度は高くないが現代的響きで素晴らしい体験になる。
P.62~65 様式の勉強。バロックの曲が続く。
P.67 夕方のうた ペダルの勉強が大切ということを確かめる。夕方をイメージして弾きたいが、現代っ子は夕方は塾に行くなどと忙しいイメージがあるかもしれないがめげずに。
P.71 世界で一番短いソナチネ 1ページで1~3楽章まで楽章ごとの雰囲気を体験。楽章がそれぞれ違うという体験が出来る。
P.74 おやすみなさい ペダル、レガート、想像力など、スオミで今まで勉強してきた音楽的な事を盛り込みながら最後の仕上げのように演奏する。


11時50分~ 舘野先生ご登場。

先生のご著書「命の響~左手のピアニスト、生きる勇気をくれる23の言葉~」ピアノを教える私たちにそのまま教えになる言葉が沢山入っていることを実感出来るご本。ここぞというところを久保先生がピックアップされ、その部分を中心にお話を伺った。

<“脱力について・・・左手で弾くということ”>
「命の響」P.41 「ピアノというのは指だけで弾いている訳ではありません。体の隅々まで呼吸を巡らせ、全身で弾くものです。」
P.56 「左手のピアニストとして復帰してからはかつて以上に脱力を心がけています。テレビのスポーツ中継なども良く見るようにしている。良いスポーツ選手は脱力の原理を上手に使っているのでとても参考になります。」
左手だけで弾く場合、無理な姿勢を取らなければならない時があるので苦しい事は苦しい。それでもなるべく力を抜いて楽に弾けるように心がけている。昨年11月10日オーケストラとのコンチェルトを1晩に4曲演奏!80歳にもなって無茶な企画だと思ったが、やってとても良かったと思っている。力まずに自然に楽に弾け、精神的な疲れ、体の疲労は何もなかった。今までの80年という道のりを歩んできたことを素直にやり遂げられたという感覚があり、すがすがしい気持ちと喜びを感じられた。・・・とのことです。

<“音を聴くということ”>
「命の響き」P.75 「左手だけで演奏するようになって、両手でピアノを弾いていた60年間、僕は自分の左手を何て粗末に扱っていたんだろう、とあきれました。左手だけで弾かざるを得なくなったことで、一音一音の響きの大切さ、一つ一つの音に込める事の出来る表現の幅の広さに気付かされました。」
左手だけでこれだけのことが出来るんだと驚いた。弾き始めたらその音の世界に入って集中して音楽に進んで行く。音に自分の全神経を託して行けるのが一番。・・・とのことです。
<“左手で弾くこと、そして演奏すること”>
「命の響き」P.88 「音楽に妥協してはいけない。作品の本質を表現するのは井戸掘りのようなものです。ここだと思う所を見つけたら深く深く掘り続けなければなりません。ある程度掘って水が出なければ、場所を変えてトライして行く。水脈に触れるまで、繰り返し繰り返し何度も何度もね。」
いろいろな国籍の作曲家達が左手の為の作品を、心血を注ぎ作って下さった。左手の演奏は、右手へのプロセスなんかではなく、自由で広く深い音楽表現が出来る一つの独立した分野。
左手だけで弾くことは、ピアノという楽器の新しい(むしろ両手では出来ない…)可能性を引き出せる。

小さな曲でも何とかなるまで一年。何十回と人前で弾いていい感じになる。自分の勉強だけではだめで2~3人でも良いから人前で一回でも多く弾くことを皆さんもして下さい。
プロの演奏家としてステージに立つには本物の友情・・・深い教養・・・幅広い知識・・・の全てが問われる。それまでの人生全てが問われる。いろいろな事を幅広く生きていくことが大切。・・・とのことです。
その他に、「命の響」P.96~99のエピソードもお話し下さいました。「子供好きな父。のびのびとした母。こうでないといけない!・・・ということが一切無い。自由にのびのびと個性を大切に育ててくれた。ピアノばかり弾いていた訳でなく、ピアノ以外の事も大いに楽しんだ。人生で大きな心の空間が持てた。」
この辺りが、スオミの子供の心を大切にし、一人一人の人格を尊重し、自己表現が自由に出来る自発性を育て、音楽以外の外の世界や自然への関心も養い、長い目で育てていきましょう、との精神に通じるものがある。舘野先生がご両親から受けられてきた教育は、正にスオミの視点そのものですね。

最後に舘野先生が、日本の作曲家による左手の為の作品3曲を紹介されながら演奏して下さいました。
♪母に捧げる子守唄 塚本一実作曲
♪赤とんぼ 梶谷修編曲
♪サムライ 光永浩一郎

今日の舘野先生のお話は、スオミを超えて音楽をする私達への心構えやメッセージのように感じられ一つ一つの言葉に重みがありました。逆境をプラスに考え、常に更に上を目指してチャレンジしていらっしゃるお話に只々感動致しました。「左手だけでこれだけの事ができるんだ」と驚かれたとのこと。「左手だけの今の方が自由だ!」というお言葉が心に残っています。いつもチャレンジ精神を忘れず、いつも元気と勇気を与えて下さる先生の魅力に触れることが出来、少し遠方でしたがつくばまで行って本当に良かったと思いました。貴重な体験をさせて頂いた一日でした。
(神谷由美)