YPCニュース

 175

2002.10.19 横浜物理サークル発行


目次

巻頭言                      市江 寛 43
9月例会の報告            まとめby山本明利 編集by市江 寛  43-50
(1) PENTAKIS
(2) 万華鏡コレクション
(3) ミラクルオルゴール
(4) CD−ROMケースで見る光の干渉縞
(5) 逆さ試験管のコツ?
(6) 減圧タンクとラップ破り
(7) メートルスズラン
(8) 今年の地球の大きさ

メートルスズラン                          平野弘之 51-55
メートルスズラン Part2                      平野弘之 56-57
万華鏡『PENTAKIS』  徳永恵里子 58-59
「トンネルの中の気温を測ろう」の結果 山本明利 59-61
「トンネルの中で音の速さを測ろう」の結果 山本明利 62-63
天文豆知識 天王星を見よう 宮崎幸一 64-65

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巻頭言

市江です。今回の話題は何といっても小柴氏と田中氏のノーベル物理学賞・化学賞のダブル受賞でしょう。十数年前から注目を浴びながら、待ちに待った受賞となった小柴氏と、直前まで受賞をマスコミどころか本人すら知らなかった田中氏、お二人の受賞はとても対照的だったように思います。おそらく、日本の推薦人は小柴氏を推したのでしょう。一方、田中氏は一緒に化学賞を受賞した米国のフェン氏の推薦人から同時に推薦されたに違いありません。地道な田中氏の業績が国内からではなく、海外から指摘されてはじめて気付くというのは、残念なことです。すぐに実益につながらない基礎研究を軽視する風潮の中で、カミオカンデの業績が評価されるのは意義深いことかもしれません。しかし、このような大型プロジェクトに対してノーベル賞が与えられることにいささか違和感を感じてしまうのも確かです。やはり、ノーベル賞は、個人の業績に対して贈られるべき賞であってほしいと思います。
そもそもカミオカンデは陽子の崩壊現象を観測するためにつくられた超敏感な巨大観測装置で、その意味では今のところ失敗に終わっています。この手の話では、よく失敗は成功のもとという話に結びつけられますが、ニュートリノの観測は当初から予想されていたことであり、この失敗が超新星ニュ−トリノの検出につながったとは思えません。むしろ、陽子崩壊を観測するための高性能な観測装置にニュートリノが検知されるのは当然で、そのとき幸運にも超新星爆発が起こったにすぎないとさえ思えます。田中氏のインタビューにこんな一節がありました。
−理想のエンジニア像はどんなものか。
「そんな高尚なことは考えたことはありません。すいません。99%の努力と1%のひらめきと言った人がいたが、それが一番近いと思う。ずっとうまくいかないことがあったとき、こつこつ一つ一つやっていき、突然道が開けることがたくさんあった」
−小さいころから研究に興味があったか。
「興味はあったが、大人になって研究に打ち込むことに自分が適しているとは思わなかった。やってみたら意外に合っていると思った」
−どの辺が。
「こつこつやっていくことが意外に重要で、粘り強くやっていく小さいころからの性格が生きた。それが研究に重要だとは小さいころは思わなかった」
失敗を成功に結びつけるのに一番大切なのは、幸運ではなく、たゆまぬ努力だと思います。

市江


   


月例会報告(まとめby山本明利 編集by市江寛)

日時:2002年9月21日(土)15時〜18時

会場:県立柿生西高校

参加:計16人

内容:

 

(1)PENTAKIS 徳永さんの発表

スイスの幾何学アーティスト、カスパー・シュワーベが発明した万華鏡。「ペンタキス」とよばれる三角錐をのぞきこむと、二つの球面に囲まれた多面体が中心に見えます。これはヨハネス・ケプラーが発見した多面体で「ケプラー・スター」とよばれているということです。幻想的な世界です。日本橋丸善で購入でき、3800円です。上野駅や町田の「スタディ・ルーム」でも売っています。

参考文献『ガジェットブックス メビウスの卵2 光の万華鏡 ペンタキス』

(株)エクスプランテ、200111

 

 

 

 

 

 

(2)万華鏡コレクション 徳永さんの発表

徳永さんは21種の万華鏡を持っています。そのうちの何点かを例会で披露してくれました。上のペンタキスもその一つですが、一口に万華鏡といっても、いろいろな種類があります。

万華鏡の元祖は英国のブリュースターだそうです。例の「ブリュースター角」のブリュースターです。

 

 

 

 

 

 

左は2ミラーシステム。30度の角度であわせた2枚の鏡からなっています。鏡像は一周して閉じた世界ができます。右はおなじみの、正三角柱3ミラーシステム。上の写真の右端の青い円筒です。特に珍しくはありませんが、チップを詰め替えられるようになっているのが教育的です。

菱形に組んだ4ミラーシステムの鏡像。夢のような光景にうっとり見入ってしまいます。動画でお見せできないのが残念です。

 

 

左はサークルミラーシステム、すなわちミラーシートを丸めた円筒をのぞきます。無限鏡像の万華鏡とはまたちがった味わいがあります。右は万華鏡オルゴール。万華鏡そのものは正三角柱3ミラーシステムでふつうのものですが、鏡筒が顕微鏡のように固定してあり、オルゴールのメロディと共に、ビーズを載せたステージが回転します。日本橋高島屋の文房具売り場で4800円です。下はその鏡像です。宝石の山を見ているようです。これも動画でお見せできないのが残念です。

 

 

 

 

 

(3)ミラクルオルゴール 徳永さんの発表

 

APEJの札幌大会の翌日、小樽オルゴール堂で買ったそうです。ちょっと変わったオルゴールで、お値段は2200円です。

静止画ではわかりにくいですが、「星に願いを」の曲にあわせ、ミラーステージがゆっくり回転すると、上に乗っている大小の八角柱がコマのように高速でスピンしながらステージの中心のまわりを「公転」します。

前回の例会の二次会で徳永さんが披露してくれたものですが、その場ではしくみが解明できず「宿題」となったものです。

まず、ばらさずに外側から調べてみましょう。磁界観察シートをミラーステージの上からあててみます。中心のまわりを回転する二つの磁石と、中心に固定された磁石があるらしいことがわかります。これだけでどうしてあのスピンが生まれるのでしょう。

 

 

底面のネジをはずして中をのぞいてみます。オルゴール本体の上に回転するフェライト磁石があります。構造は思ったより単純だした。中心の磁石は回転する二つの磁石と極性が逆になっています。どうやらこれが回転する八角柱の底部にある磁石と反発するところに秘密がありそうです。八角柱は回転磁石に引かれながら動きますが、中心磁石に退けられるため、引力が常に八角柱の回転軸からそれたところに作用します。これが回転のモーメントを生むらしいのです。

 

時計皿とありあわせのリング磁石と粘土でモデルを作って確かめてみます。中心からずれたところを引いていくと確かにスピンしながらついてきます。なかなか充実した探求活動でした。

 

  

(4)CD−ROMケースで見る光の干渉縞 平野さんの発表

  左はおなじみのニュートンリングです。平面ガラスの上に、長焦点の平凸レンズを凸面を下にして重ねたときに、すきまの空気層の上下で反射した光が光路差を生じ、干渉して縞模様を作ります。高校物理の光の単元ではおなじみの教材です。

 

 

 

 

これと同じ現象を身近なところで見ることがあります。左の写真は透明なCDケースです。CDを固定する側の板が二重になっているものですと、ご覧のように干渉によって生じる鮮やかな虹色を見ることができます。生徒に例示するにはこういう身近なものがよいと平野さんは言います。CD-R用の簡易型ケースは二重になっていないものが多く、この観察には使えません。

 

 

 

(5)逆さ試験管のコツ? 鈴木さんの発表

以前、YPCでも話題になり、KASTサイエンスフェスティバルなどでも採用したことのある「逆さ試験管」の実験のコツをつかんだという鈴木さんの発表です。ふつうの工作用紙でふたをしてずらすだけで、17mmの試験管でも「楽に」できるようになる、というのですが・・・。みんなでやってみてもどうもうまくいきません。当の鈴木さんも・・・「あれ、おかしいな。」

原因はなお不明。百発百中のコツをぜひつかみたいものです。

 

(6)減圧タンクとラップ破り 鈴木さんの発表

  注射器真空ポンプを使った真空実験の工夫です。鈴木さんは真空容器を改良しました。ラップ破りの実験にも兼用できるようにするためには、容器の側面にチューブが取り付けられる方がいいです。そこで100円ショップのシール容器(ポリカーボネート製)の側面に穴をあけ、ビニルチューブを差し込んで固定します。穴をチューブ径よりわずかに小さくしておくと、接着剤は不要です。こんな簡単な工作で、風船やマシマロををふくらませたり、ラップを割ったり、減圧沸騰をさせたりの実験が同じ容器でできます。なお、理研ラップよりも旭化成のサランラップの方が割れたときの音がはるかに大きいことがわかりました。

 

 

 

 

 

(7)メートルスズラン 平野さんの発表

  生徒は1メートルという長さの感覚を正しくつかんでいるでしょうか。平野さんは学年はじめの力学の授業でその検証を行います。生徒一人一人にスズランテープを「自分が1メートルだと思う長さ」に切り取らせます。もちろん物差しは使ってはいけません。そのあと写真のように隣同士で長さを比較しながらソーティングし、長さ順に並ばせます。平均して長めに見積もる傾向があり、中央の人はたいてい1メートルより長いといいます。

 平野さんの授業の例では、最大52cm長く見積もった例と、最小39cm短く見積もった例があり、生徒の感覚としての1メートルがかなりの幅をもっていることがわかります。したがって、長さ、速さといった量もかなりあやふやな量としてとらえている可能性があります。ちなみに、例会参加者の場合、真値からの偏差はずっと小さいでした。さすが。

平野さんはさらに二学期の授業でもう一度同じ実験を行い、傾向の変化を見ます。授業に前向きに取り組んでいる者は偏差が修正改善される傾向があるといいます。手軽だが意義深い取り組みです。

 

(8)今年の地球の大きさ 山本の発表

 

ハンディGPSナビゲータ(ポケナビ)で、エラトステネスの方法により地球の大きさを測定する方法は、1998年に発表し以後毎年授業実践していますが、このほどポケナビをより高性能のものにしたところ、飛躍的に精度が向上し、測定時間も短縮されました。1時間の授業時間で結果を出すことができます。

 

使用した機器はMAGELLAN社のGPS310で、南北200mの基線長で測定した結果は、地球全周40374kmでした。誤差1%ということになります。

 

 

 


     


―生徒が測った1メートル―

平 野 弘 之

【1】はじめに

中学校の理科1分野や高校の物理TBで「物体の運動」を学習するとき,はじめに「速さ」という物理量を学ぶ。授業中に教師が「15m/sで走る車…」と言ったとたんに,「その車って,1秒間に15m走るんだよね」と得意げに発言する生徒もいる。しかし,その生徒にとっての15mとはどのくらいの距離なのであろうか。これから,物理を学習しようとする生徒が,「どのくらいの長さを1メートルだと思っているか」の実際を教師は認識しているのであろうか。本稿では,「生徒にとっての1メートル」の実態を検証する。

 

【2】実験方法

〔準備するもの〕

・ポリエチレン製の荷造り用テープ

※スズランテープ,タフロープなどの商品名で市販されている。後述のように,本実験は2回目を実施すると効果的なので,テープは,1回目用と2回目用を区別して2色(白色と青色など)用意するとよい。

・ハサミ

・最低2メートルが測れる巻き尺

(自動巻取り式のスチール製が便利)  

 

(1)「自分が1メートルだと思う長さ」だけ,スズランテープをハサミで切り取らせる。

〔ポイント〕

・実験を手際よく進められるように,10人の生徒に対し,1巻きのスズランテープと1個のハサミを用意する

・他の生徒と相談したり,定規などの長さが測れるものを使うことを禁止する

・作業は,3〜5分程度の決められた時間内に行わせる

※全員の作業が時間内に終わるように2分前からカウントダウンをするとよい

・作業時間の終了後は,再度の切り取り(変更)を認めない

※以下、写真掲載については本人の承諾済み

 

(2)他人のテープの長さと自分のテープの長さを比べさせ,長さの順に列を作らせる

〔ポイント〕

・時間短縮のために,今回の実験では,以下の手順で一列横隊を作らせた

 @)ひとまず,物理実験室の前後方向を貫く実験机の通路に全員を並ばせ,廊下側に向かせる

 A)左右の人のテープと長さを比べ,自分より長いものが右側に,短いものが左側になるように,並び順を変更する

 B)並び順の変更作業が落ち着いたら,再度,左右の人のテープの長さと自分のテープの長さを比較させ,並び順を確定させる

 

(3)教師が,列の中央付近の生徒のテープの長さを巻き尺で測り公表する。そのテープの長さが正確に1メートルでないときには,1メートルに近づく方向に並んでいる生徒のテープの長さを測り公表する。この手順をくり返す

〔ポイント〕

・列の中央付近より,やや短めのテープを持っている生徒のもの(今回の実験では,廊下側に向かって列の中央よりやや左側)から測りはじめると時間短縮になる

・一番1メートルに近い長さを切り取った生徒を,今回の実験での「第1位」とし,第3位まで確定したら,教師の測定作業を終える

(たいていの場合,教師の測定作業は,5〜6人を測ったところで終わる)

(4)端を実験机の左端にそろえて置かれた巻き尺で,自分のテープの長さを測らせながら,データの記録をとる

〔ポイント〕

・自動巻取り式のスチール製の巻き尺を使用すれば,巻き尺の端のフックを実験机の端に引っかけられる

・巻き尺は,実験机の手前側から10cmほど奥に置く。そうすれば,テープを実験机の左端にそろえて置いたときに,巻き尺の目盛りが読みやすい

 

 

 

 

(5)(1)のテープとは別に,巻き尺を用いて,正確に1メートルの長さのテープを切り取らせて,(1)のテープとともに保管させる。

〔ポイント〕

・ここで切り取るテープは,(1)で切り取らせたテープと別色の方がよい

 

【3】実験結果2002年度)

・対象生徒:神奈川県立ひばりが丘高等学校の2学年物理選択者(30名)

・実験(1回目):…2002年4月15日,26名参加

→本実験の存在や実施を予告していない

・実験(2回目):…2002年9月5日,25名参加

→1回目の実験終了時に,2回目を実施することだけを予告し,実施日は予告していない

(1)表1は生徒の測定結果である。左の列から,〔生徒番号,1回目のデータ,1回目の

生徒

番号

1回目

(cm)

@

(cm)

2回目

(cm)

A

(cm)

修正値

(cm)

1

96.0

-4.0

101.2

1.2

2.8

2

113.0

13.0

105.4

5.4

7.6

3

78.2

-21.8

4

90.0

-10.0

103.1

3.1

6.9

5

88.0

-12.0

117.8

17.8

-5.8

6

115.0

15.0

98.8

-1.2

13.8

7

125.0

25.0

105.7

5.7

19.3

8

99.5

-0.5

9

103.7

3.7

10

112.5

12.5

100.8

0.8

11.7

11

86.5

-13.5

132.3

32.3

-18.8

12

111.0

11.0

103.5

3.5

7.5

13

87.0

-13.0

97.9

-2.1

10.9

14

108.5

8.5

95.5

-4.5

4.0

15

152.0

52.0

117.9

17.9

34.1

16

149.0

49.0

116.5

16.5

32.5

17

102.0

2.0

105.0

5.0

-3.0

18

112.0

12.0

119.5

19.5

-7.5

19

106.0

6.0

96.0

-4.0

2.0

20

111.0

11.0

94.6

-5.4

5.6

21

124.0

24.0

93.6

-6.4

17.6

22

98.0

-2.0

110.3

10.3

-8.3

23

61.0

-39.0

24

100.5

0.5

102.0

2.0

-1.5

25

92.5

-7.5

104.2

4.2

3.3

26

112.5

12.5

100.1

0.1

12.4

27

103.0

3.0

28

78.5

-21.5

100.5

0.5

21.0

データの100cmからの偏差≡@,2回目のデータ,2回目のデータの100cmからの偏差≡A修正値〕の順に記してある。

ここで,(修正値)とは,1回目のデータと比べて,2回目のデータが,どれだけ100cmに近づいたかをcm単位で表した数値で,下記の式で定義し,計算してある。

@) @>0かつA>0のとき,

→ (修正値)=@−A

A) @>0かつA<0のとき,

→ (修正値)=@+A

B) @<0かつA>0のとき,

→ (修正値)=−A−@

C) @<0かつA<0のとき,

→ (修正値)=A−@

ただし,表1では,1回目の実験,2回目の実験の両方に参加した23名の生徒のみについて修正値を計算してある。

 

 

 表 1


(2)図1は,@の値を,左側から大きい順に並べたグラフである。

 

 

 

 

 

 図 1

(3)図2は,Aの値を,左側から大きい順に並べたグラフである。

 

 

 

 図 2

 

(4)図3は,修正値を,左側から大きい順に並べた,「修正の傾向」のグラフである。

 

 

 

 図 3


【4】考察

(1)切り取られたテープの長さの範囲

今年度のメートルスズランの実験に先立ち,筆者のまわりの教師にメートルスズランの実験結果を予想してもらった。多くの教師の意見は,「生徒が切り取ったスズランテープの長さの範囲は,90cm110cmだろう」というものだった。しかし,表1からわかるように,生徒が切り取ったテープの長さの範囲は,61.0cm〜152.0cm(1回目の実験)である。生徒の感覚と教師の認識の間には大きなずれが生じている。筆者には,この認識のずれが,「教師の生徒離れ」を進行させているように思えてならない。極言すれば,このずれが,巷で叫ばれている「理科離れ」の原因のひとつではないのだろうかと,筆者は考えている。

(2)切り取られたテープの長さの分布

図1からわかるように,1メートルより長めにスズランテープを切り取る生徒が多い。これらの生徒は「1メートル」の長さを,より長く感じていることになる。また,この傾向は2回目の実験でも変わらない(図2)。

しかし,図1と図2の縦軸の目盛りを見ればわかるように,各生徒の偏差は2回目の方が小さくなる傾向にある。

(3)「真の値」への修正の傾向

【3】で記した,(修正値)の定義から,(修正値)>0ならば2回目の測定で真の値(m)に近づいたことを,(修正値)<0なら真の値から遠ざかったことを示していることがわかる。今年度の実験については,表1から,(修正値)>0の生徒は17(全対象生徒の74)(修正値)<0の生徒は6名(全対象生徒の26)であるので,実験の2回目の実施が効果的であったといえよう

上記のように,生徒は「メートルスズランの実験」を契機に,長さ(物の大きさ)への関心を深めたと言える。そのためにも,メートルスズランの実験は2回目を実施すべきである。

 

【5】おわりに

筆者は,毎年2年生の選択物理の授業でメートルスズランの実験を実施しているが,本稿で報告した「切り取られたテープに関する傾向」は,例年ほぼ同じである。また,物理の授業では,「メートルスズラン」の実験と同じシリーズの実験として,「キログラムサンド」の実験と「セカンドストップ」の実験も実施している。それらについての今年度の結果については,別稿で報告する予定である。

最後に,本稿で報告された「メートルスズラン」の実験の実施においては,神奈川県立ひばりが丘高等学校実習教諭の斉藤香代さんの協力を得たことを付記し,ここに感謝の意を表したい。

 


     


メートルスズランpart . 2

―YPC例会の参加者が測った1メートル―

平 野 弘 之

【1】はじめに

本稿では,「YPC例会参加者にとっての1メートル」の実態を検証する。例会での実験参加者は,信じがたい「教師の生徒離れ」の実態を認識したようだ。「メートルスズラン」の実験方法等については,後記の参考文献を参照されたい。

 

 

【2】実験結果

今回の実験は,本実験の存在や実施を予告せず,YPC9月例会(9月21)の午後600時点での参加者(筆者を除いて13)を対象として実施した。

整理

番号

長さ

(cm)

@

(cm)

1

136.4

36.4

2

118.5

18.5

3

117.0

17.0

4

113.7

13.7

5

106.4

6.4

6

104.5

4.5

7

102.8

2.8

8

99.6

-0.4

9

95.5

-4.5

10

93.7

-6.3

11

91.7

-8.3

12

90.0

-10.0

13

77.9

-22.1

左表は,各人が切り取ったスズランテープの長さをまとめたもので,左の列から,〔整理番号,テープの長さ,テープの長さの100cmからの偏差≡@〕の順に記してある。下図は,@の値を,左側から大きい順に並べたグラフである。

 

 

 

 

 

 【3】考察

(1)切り取られたテープの長さの範囲

表からわかるように,実験参加者が切り取ったテープの長さの範囲は,77.9cm〜136.4cmである。この結果を見て「実験参加者の大部分が教育関係者でありながら,何という結果なんだ!」と思われる読者もいるかもしれない。しかし,筆者は,こんなに偏差が少ない実験母集団を,これまでに見たことがない。今回の実験母集団を形成した例会参加者は,いわば「優等生」なのである。

(2)切り取られたテープの長さの分布

図からわかるように,1メートルより長めにスズランテープを切り取る参加者が多い。しかも,この傾向は,今回の例会で紹介したメートルスズラン(「生徒が測った1メートル」)の実験結果の示す傾向と同じ傾向なのである(参考文献の図1,図2参照)。これらの人は「1メートル」の長さを,より長く感じていることになる。

(3)YPCのメンバーは「教師の生徒離れ」を起こしていたか

例会での「メートルスズランの実験」の紹介に先立ち,生徒が切り取ったスズランテープの長さの範囲を,例会の参加者に予想してもらった。参加者の意見は,80cm120cmというものが多かったが,中には,95cm105cmというものや,中学生で実験を実施すれば50cm200cmになるだろうという意見もあった。しかし,この意見交換のとき,参加者は,「この頃の生徒はどうしようもないから…」などと考えながら,やや大きめの偏差の範囲を答えていたことが後にわかった。

その後,参加者はメートルスズランの実験を体験したが,各人が予想した生徒の偏差の範囲が,自分たちが実験した結果の偏差の範囲とほぼ一致することがわかると,実験室の中では慰めの言葉が飛び交っていた。さらにその後,参考文献の論文が配布され,生徒の実験結果が61.0cm〜152.0cmであることを知らされると,参加者の多くは「そんなに…」という表情をしたまま身動きせず,周囲の人との会話が途切れた。このことは,生徒の感覚と,それに対する教師の認識の間に,大きなギャップが生じていることを物語っている。

筆者は,教師が,生徒と教師の間のこのようなギャップに気づかずに,一方的な授業展開で押し進めてゆくようすを「教師の生徒離れ」とよんでいる。

【4】おわりに

筆者の経験では,観測者が見ている物の長さが大きくなるほど,その人が考える長さと真の値との偏差は,正の方向に増加する傾向があるように思える。たとえば,メートルスズランの実験での偏差が+5.0cm生徒を考えてみよう。この生徒に,物理実験室の奥行き(教壇側の黒板から実験室の後ろの壁までの距離)を聞いてみると,30m〜50mの範囲を答えることが多い。YPC例会でのメートルスズランの参加者の答えも30mが多かった。ところが,大部分の神奈川県立高校の物理実験室は3スパンで,その奥行きは14m〜15mである。15mの距離を30mと答えたのだから,このときの1メートルあたりの偏差は+100cmに成長している!! 皮肉なことに,この点においては「教師の生徒離れ」は起こっていないといえる。

ところで,この「偏差の成長」を別の観点から考えると,おもしろい現象が起こっていることがわかる。先述の生徒は,メートルスズランの実験で,105.0cmの長さのスズランテープを1メートルだと思っていたのだから,「長めの1メートルの感覚」を持っていたことになる。その一方,物理実験室の奥行き(15)30mと答えたのだから,いつの間にか「短めの1メートルの感覚」に変わってしまっていたわけである。しかし,残念ながら,この「感覚の逆転」が,どれくらいの長さ(距離)で起こるのかは明らかになっていない。

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参考文献:「メートルスズラン」,平野弘之,YPCニュースNo.175(本号),2002年