YPCニュース

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2003.8.31 横浜物理サークル発行


目次

巻頭言                                miya 1-2
7月例会の報告              まとめby山本明利 編集by市江寛 2-8
(1) 授業研究:「授業ノート」の実践(鈴木健夫)
(2) 放電球のしくみ(「ガンダルフ」さんからの情報紹介)
(3) 火星の本
(4) イライザの感音炎
(5) 双曲線コンパス
(6) カラーライト
(7) 電力を明るさで
(8) 液体窒素の実験より
(9) 気体シミュレータ

細谷喜郎先生を悼む                                                 鈴木健夫 9
授業ノートコピー                                                       鈴木健夫 10-11
YPC簡易真空実験器の作り方と使い方                        山本明利 12-15
授業に生かす実践記録(高校):回路の中に電気の坂道を見いだす
            (『理科教室』2003年9月号より転載)                小沢啓 16-21

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巻頭言

4年ぶりに戻ってみると今更ながらに,学校は雑務が多く,教科指導以外の仕事に時間をとられます。4年の間に職場の「ルール」もいろいろと変わったようで,職員の「労働意欲」もだいぶ下がっているように感じました。
今度の学校での仕事のひとつに,図書選定があります。学校の少ない予算の中で何を買うのか。生徒の要望,教師の要望,司書として「おくべき本」などの要望を集めて,選んで行きます。現在ある図書は全体に古く,生徒の興味を引くものが少ないようで,生徒のリクエストに極力応えていきたいという司書さんの希望がありました。
1学期にでてきた希望図書の中に「水は答えを知っている」がありました。現在,1巻2巻とでていて,「22万部突破」という文字が電車の中の広告に躍っています。
私は,『学校の中の図書室と町の中の本屋さんは違う。予算に限りもあるのだし,町の本屋さんにでている本は何でも,学校の図書室に置いて良いとはならない。』と考えています。写真集「サンタフェ」を図書室に入れるか問題になったと聞いたことがあります。以前の勤務校では「完全自殺マニュアル」が問題になりました。「ムー」も話題にでましたが,購入中止にはなりませんでした。
「水は」には,いろいろな水の樹枝状結晶が載っています。写真は「きれい」です。でもそこには,『ばかやろう』と書いた紙を水の入った瓶に貼ると「きれい」な結晶にならず,『ありがとう』と書いて貼ると,「きれい」な結晶ができると述べられています。この本の中には「量子力学」や「波動」「共鳴」などの言葉がちりばめられています。そして写真は「実験室で撮った写真」だと言っています。科学のような装いをして,水が文字を読み,音を聞き取り,理解すると述べています。末期ガンの患者が自分の細胞に『ありがとう』と語りかけると,ガンが完治したとも書いています。
あきれるという段階を通り越して,怒りを覚えます。
著者江本勝氏の前著「水から伝言」(波動教育社)(内容・趣旨は「水は」とほぼ同じ)は小学校の道徳の授業で使われているとも聞きます。(水も言葉に影響される。人間は水からできているから,影響される。だからきれいな言葉を使いましょう)非科学的なものを「科学的なもの」のように扱い,おかしな主観で物を判断させる授業が行われているようです。
私にとっては,まさに『こんな本いらない!』でした。選定に関わるほかの教師も入れない方がよいとの判断でした。多数決であれば,購入中止ですが,生徒のリクエストを優先したい司書さんとの話合いの結果,購入になりました。単に購入をやめるのでなく,怪しい本(危ない本はだめ)でも生徒とともに考えていこうというスタンスで。ただし,「写真集のコーナ」に置く。借りていく生徒に私の書いた小文の「しおり」を『よければ』といって渡して考えてもらう。
 しかし何故こんな本が売れてしまうのだろう。

miya


   


月例会報告(まとめby山本明利 編集by市江寛)

日時:2003年7月13日(日)15時〜19時

会場:慶応義塾高校

参加:18

内容:

 

(1) 授業研究:「授業ノートの実践」 鈴木健夫さんの発表

 新城高校に転勤になった鈴木さんは、「授業ノート」の実践を再開しました。以下、鈴木さん自身によるコメントです。

 前任校時代にできなかった「授業ノート」を再開しました。やり方は、下記のとおりです。最初の授業時に、公式記録ノートとして1冊のノートを輪番で回すということを宣言します。書くのは、「誰よりも正確にきれいに」書き、板書事項以外の説明事項もきちんと書き写すことを指示します。輪番の第1号は、最初の授業時にジャンケンで決めます。そして、ノートは授業時には直接書かずに家で書き、翌日の朝、教科担当まで提出することを指示します。また、授業の記録以外に、授業時の感想と、「質問リレー」として授業に関することか、前の人の質問の発展質問を書くことを義務付けます。教師がやることは、それだけです。もちろん、そのノートを受けてのコメントを書いたり、質問リレーへのアドバイスを書いたりしますが、それもそれほど書いているわけではありません。授業開始時に次の当番の生徒に渡します。(科教協東京大会で東京の浦辺さんが「授業ノート」の実践を報告されましたが、そこではノートは授業開始時に前に書いた生徒に渡し、その生徒が次の生徒に渡すという方法を取っていると聞きました。その方が、書いた生徒が教科担当のコメントを読めてよいので、その方法を取ろうかと思っています。)

 皆さんに紹介はしましたが、このやり方は、元々は愛知物理サークルの方などが当たり前のように実践してきていて、私自身も前々任校ではずっと続けていました。おそらくYPCの中でもかなりの方がやられているのではないかと思いますが、最近YPCに来始めた方もいるのであえて紹介しました。まだ、数ヶ月ですが、女子に回るときれいなノートを書いてきて、それが次の生徒へのプレッシャーになりだんだんと(きれいさや量や内容が)エスカレートしていくという道をたどります。もちろんクラスによる差も出ますが、最終的には放っておいても素晴らしいノートができあがる、というのがこの方式の醍醐味です。もちろん、こちらのコメントもそれなりの効果を持ちますが。授業ノート自体のコピーは、後ろをご覧ください。

例会では、物理必修でない中での「理科総合A」で何をやるのか、というあたりも議論になりました。これはいずれ、きちんと時間をとって話し合うべきでしょう。

 

(2)放電球のしくみ ガンダルフさんからの情報紹介

前回の例会報告をご覧いただいたガンダルフさんから、放電球について貴重な情報をいただきました。それによると、放電球は1970年代にアメリカで流行したテクノロジ−ア−トの作品の一つでビル・パ−カ−によるものが有名で、日本には1980年代始めにわたってきたとのことです。原理はMHzオーダーの高周波低気圧希ガス放電で、内部にはグロ−放電領域の圧力でHeNeArが封入されています。内部中心電極は、ガラスに金属を蒸着した物が多く、球部内面にも、金属皮膜を蒸着して電極にし、高抵抗を介して接地されているらしいです。手を触れると、指先−ガラス−内面電極で形成されるコンデンサ−によって回路が形成され、指に放電が集中してくるそうです。

 ところで、港北高校にあったものと同型で、分解されたもう一台が慶應高校に届いいました。さっそくみんなで観察してみました。中心電極につながる線は確認できたが、戻りのアースがどこからとられているのかはよくわかりませんでした。首の所に巻いてある黒い輪っかは、ただの「座布団」のように見えます。右の写真は中心電極部の拡大です。小さなガラス球の内側に金属箔が見えます。高周波交流回路というのは本当に不可解です。電流が導線を流れるという感覚では理解不能だと思います。下は実物を前に首をひねるYPCの面々です。

 

(3)火星の本 山本の発表

 「6万年ぶりの好条件」とコマーシャリズムがあおりたてる火星大接近は8月末です。大接近といっても実際には月のように大きくはっきり見えるわけではなく、いつのも火星よりはだいぶ大きいという程度です。気の毒だが期待して高価な望遠鏡を買い込んだ人々を十分に満足させるのは無理でしょう。

しかし、ものは考えようです。出版社はいつもの接近時とは力の入れようが違います。よい本が店頭に並んでいいます。6万年に一度のチャンスかもしれないのです。

 中でもイチオシは、アスキームック「火星大接近2003夏」アストロアーツ編です。本誌の構成もすばらしいのですが、付録CDのコンテンツでは業界右に出るものがないアストロアーツならではの醍醐味が味わえます。ことにうれしいのは、フリーの3D地図ソフト「カシミール3D」用の火星全球の地図標高データが収録されていることです。火星上空からオリンポスの大火山を見下ろしたり、マリネリス峡谷を3Dナビして歩いたり、お好みの視点で火星をつぶさに眺められます。カシミール3Dの機能を駆使すれば、低い土地に水をたたえて、大気による霞や夕焼けを演出し、テラフォーミングだってできてしまいます。

たぶん今しか買えないこの本、すぐに購入しましょう。

 

 

(4)イライザの感音炎 右近さんの発表

 先日、上野の東京芸大大学美術館で開催されている「ヴィクトリアン・ヌード展」(8月31日まで)に足を運んだところ、一枚の絵が目につきました。テニエルという画家の手になる「ピグマリオンと彫像」(1878年)という作品(写真左)です。ピグマリオンは伝説上のキプロスの王で、優れた彫刻家でもあったとされています。彼は女性の彫像を象牙で作りガラテアと名づけますが、自らその美しさの虜となり、このように美しい女性を妻にしたいと願います。愛の女神ヴィーナスはこれを聞き届けてガラテアに息を吹き込みます。「ピグマリオンと彫像」は、ガラテアがピグマリオンの腕の中で目覚め始める瞬間を描いています。

 ちなみに「ピグマリオン」は、バーナード・ショーにより、同時代を舞台にした戯曲の題名に象徴的に使われました(1913年初演)。言語学者ヒギンズが、下町娘イライザを教育して淑女に仕立て上げるというその物語は、その後「マイ・フェア・レディ」として映画化されました(写真右)。うーん、ここで「マイ・フェア・レディ」に出会うとは。そこでさっそく大昔に観た映画を再びみたくなりました。(ここまでが右近さんによる長い前ぶりです。さていよいよ本題の感音炎です。)

  さっそくDVDを購入してじっくり見ると・・・なんとイライザ(オードリヘップバーン)が感音炎を前にして発音の練習をするシーンがあるではありませんか。その横には回転鏡も置いてあります。考えてみれば、当時はマイクロフォンもオシロスコープもない時代です。実際に音の波形を調べるには回転鏡しかありませんでした。また、映画にによれば、感音炎は特定の発音に対して過敏に反応するとのことです。

 感音炎については鬼塚史朗氏が物理教育学会誌Vol.35,No.3(1987)に詳細な論文を書いています。よく読むとその前書きに、「マイ・フェア・レディ」の感音炎についても触れています。しかし、映画の感音炎は明らかにおかしい反応をしていることに今回気がつきました。反応するとき、炎が大きくなるのです。しかし鬼塚氏も、そしてJohnTyndallも述べているように、感音炎は反応すると極端に縮むのです。どうも映画では影でスタッフが細工をしているらしいです。感音炎の実験は以前YPCでも紹介しましたが、もう一度発音との関係を調べたくなった、と右近さんの談話です。

 

 

(5)双曲線コンパス 近藤さんの発表

二つの固定点からの距離の差が一定の点の集合はその二点を焦点とした双曲線になります。波の干渉で二つの波源からの波が強め合う点、弱め合う点はそれぞれ双曲線群をなします。近藤さんが演じているのは、定規と糸を使って双曲線を連続的に作図する方法です。外側から中心に向かって糸と定規を合わせるようにしてペン先を動かしていきます。楕円の描き方のように簡単ではありませんが、「距離の差が一定」の条件が視覚的にわかります。例会の席では、さっそく装置の改良案(写真右)なども提案され、ひとしきり盛り上がりました。

 

 

 

 

 

 

(6)カラーライト 山本の発表

 青、緑、橙、赤・・・まるでそういう製品であるかのような美しいカラーライト。実は右のような百円ショップのクリップライトの電球部分を本体の色に合わせたLEDですげかえたものです。ソケットの構造がちょうどLEDをとりつけるのに好都合で、何の工作もせずに4色のカラーライトができあがります。高輝度のLEDを使うとかなり実用的な光源として使えます。ちなみに、赤は驚異の12000mcd12cd)で、デジカメで使い古した中古電池でも二昼夜にわたり実用的な明るさで連続点灯できました。首の部分が上下左右自由な角度に向けられて便利です。

 百円ショップのラインナップではもう一色グレーもあり、これはどうしようかと考えていましたが、参加者からの提案でこのごろ手にはいるようになった紫外線LEDを使ってブラックライトにしたらよかろうということになりました。

 

 

 

 

(7)電力を明るさで 大谷さんの発表

 大谷さんは、中学の授業で、言葉で語るだけでなく、どんな些細なことでも具体的に実物を示すことにしています。60ワットの電球と100ワットの電球の、電力のちがいが明るさのちがいとして現れること、そんな当たり前に思われることでも、生徒にとってはそうではないのだといいます。やはり実物を示すことに意義があるのです。明るさのちがいをはっきり示すなら、フィラメントを直接比べるのではなく、ついたてで間を仕切ったスクリーンを裏から照らし、境目の部分で比べるとコントラストがついて比較しやすい、など改良案が即座に出されました。

 

 

 

(8) 液体窒素の実験より 喜多さんの発表

 島津理化の大型超伝導体は直径が50mmあります。これだけ大きいと直接液体窒素をかけてしまうと、ひび割れが生じやすいので、時間をかけて冷やさなくてはいけません。それでは授業で使いにくいので、慶應ではジュワービンの中に入れて冷やしたままにしてあります。ストッキングに入れて大口ジュワーに宙づりにしてあるのです。

浮いているのは二六製作所製の直径25mmのネオジム磁石、マイスナー効果とピン止め効果で、自分が止めたいと思うところに静止させることができます。

 注:ピン止め効果については、「理科ねっとわーく」のデジタルコンテンツ平成14年度作品『熱と温度(超低音・絶対零度の世界)』を見るとよいです。非常に分かりやすいアニメーションが入っています。

 下は空き缶に液体窒素を入れて、空気中の酸素を液化して捕集しているところです。ポリ袋に集めた酸素は常磁性でネオジム磁石に吸い寄せられ、袋が傾くのが見られます。空気中から保守した酸素は、氷やドライアイスも含んで白く濁るが、風船に純粋酸素をとって試験管にかぶせて液化すれば、液体酸素のきれいな淡青色を観察できます。

 

 

(9)気体シミュレータ 喜多さんの発表

 喜多さんが監修して開発された文科省のデジタルコンテンツ「熱と温度」です。そのセールスポイントは「気体シミュレータ」です。体積可変の空間(シリンダー)に配置したアルゴン原子のポテンシャルを持つ粒子について、それらの分子間力の影響による振る舞いを忠実に再現し、可視化したものです。このシミュレーションではLennard-Jones potentialの反発項のみ用いられています。それは、扱う数が少なすぎて、温度が下がって凝縮して液体になることを示すには不自然だからです。それ以外に実際に行った実験や、アニメーションなども説明のときに使用すると便利です。

 


 


     


細谷喜郎先生を悼む               鈴木健夫


大変残念で悲しいお知らせをしなければなりません。神奈川理科サークルの細谷喜郎先生(藤沢市立鵠沼中)が、8月23日に逝去されました。胃ガンだったそうです。今年の6月から療休になり闘病されていたとのことでした。50代半ばでした。
神奈川理科サークルの中心メンバーとして、文字通り神奈川理科サークルを引っ張り、神奈川県の理科全体としても中心的な存在でした。毎年の「神奈川の理科教育を考える集い」でも精力的に自作教材を紹介されていました。YPCにも2回ほど参加したことがあります。
私個人は、17年前に初めて科教協全国大会(秋田大会)に参加したとき、同じ神奈川と言うことで宿が同室になり、そこで初めてお会いしました。私は初めての参加で知り合いが誰もいず、「お楽しみ広場」のこともまだよく知らずに初日の夕方から参加して宿に着いたのですが、細谷さんから「お楽しみ広場に出ないでどうする!」と叱られました。そこで彼が入手したものをいろいろ見せていただきましたが、そのときのうれしそうに教材の魅力を語る彼(他の同室の神奈川の諸先輩も含めてですが)の熱さが、その後の私の教員人生を変えたと言ってもいいかもしれません。
細谷さんにからんで記憶に残っていることがもう一つあります。県の高校入試での理科の問題の正答ミス事件です。93年2月のことでした。化学分野で、塩酸にMgを入れた後、BTB溶液を入れると何色になるかと聞く問題で(詳しい条件は今は省きますが)正答は緑色になるとされているのですが、実際に実験すると青色になるというのです。(YPCニュース集合本Vol.5のp134〜136に詳報。)当時細谷さんから直接聞いた話では、この実験は問題集にもよくあり、正答とされるのは緑色だが、実際にやると青色になるというのを授業で見せている。生徒には、問題集や教科書の理論どおりでないことが起こるのが化学の面白さがあり、単に暗記するのではなく実験に即してなぜと考えることが大切だという趣旨で話をしている。だから、青色が間違いとされるのは許せない、というコメントでした。このとき、この実験を実際にやっていたのはおそらく(全県で)細谷さんだけであり、この正答ミスを指摘したのも細谷さんだけだったのです。県の対応は、この指摘を受けてから2日後にやっと正答を追加して採点のやり直しを命じるというものでした。しかも、(あとから細谷さんから聞いたことですが)このあとに県の指導主事は、実験の条件によっては青になるかもしれないが必ず青になると断言した細谷さんは教員の資質として問題があると、信じられないような責任転嫁をしてきたそうです。この件を見ても、細谷さんの実験に対する誠実さ、理科教育に対する熱意を感じます。
この偉大な先輩である細谷さんですが、ここ数年体調を崩されてからは、科教協大会等でお会いすることも少なくなり、寂しい思いをしていました。しかしまさか訃報となるとは思ってもいませんでした。神奈川の理科教育にとって、細谷さんは欠くことのできない存在でした。その穴を埋めるのは残された私たちです。謹んでご冥福をお祈りすると同時に、体調を崩されて以降の細谷さんができなかった分も含めて、私たちが頑張ることで、細谷さんの追悼にしなければいけないと思います。