■第二話

目覚めは、けして気持ちのいいものではなかった。
りえは、周りの景色を見渡し、ここが家じゃない事に戸惑ったがすぐに昨日の事を思い出す。
地面にシートをひいただけの非常に寝心地の悪い場所。りえが昨日まで寝ていた、フカフカのベットとはぜんぜん違う。体がだるい。
「あぁ、そっか。私家出したんだ・・・」
りえは沙夜の姿を探した。
沙夜、あの少女の呼び名だ。

――「おにぎり、食べないなら返して」
「あっ」
りえは再びお腹を鳴らし、すぐにおにぎりの包んであるビニールを剥がし始める。

「・・・・沙夜」

「ん、んんっ、沙夜?」
りえはほうばっていたおにぎりを慌てて飲み込んで聞き返す。

「沙夜ってんだよ」

「それ、あなたの名前?」
「ばっか!あんた今友達の名前言えって言った!友達の名前だよ。沙夜は」
「あ、そっか。・・・ごめん」
またオドオドし始めたりえだったが、すぐに上を向き少女に向けて言った。
「でさ、沙夜ちゃん・・・」

「・・それ、私の事呼んでんの?」
「え、そうだけど・・」
「何で分からないかなぁ!沙夜は“友達”の名前なの!」
「あっ、あ、ご、ごめん。怒ったならほんとごめん!でも、あなたの事沙夜って呼んじゃ駄目?名前、分からないし、呼べないし・・・」

りえは、少しでも少女の心を開こうと必死だった。
それでもりえは、少女が怒り出すのではないかとビクビクしながらそろーっと少女の顔を見上げる。

・・・よかった。そんなに怒っている様子はない。

「別にいいけど・・・あんた変わってるね」
「沙夜ちゃんも充分変わってると思うよ」

「ははは、そう思われても仕方ないか」

そんなふうに、沙夜が笑ってくれたのが少し嬉しかった。

そして、歩きつかれたりえはそのまま眠ってしまったのだった。

――「おーい」
「あっ」
沙夜がコンビニ弁当らしき物を二つ程抱えて、トンネルの入り口から歩いてくるのが見えた。
光が差し込むトンネルの道は、昨夜とは打って変わってずいぶんこじんまりして見えた。

「おはよ、りえちゃん」
「おは・・・どうしたの、それ」
「買ってきた。食べなよ」
ホームレスの人が、コンビニで賞味期限が切れ、捨てられた弁当を拾ってくる・・・というのは聞いた事はあるが、沙夜はこれを買ってきたと言っている。
ちゃんとお金を持ってきている。自分とは違う計画的な家出だ。りえはそんな事に感心しながら、ふと気付いた。
「あれ・・・私、名前言ったっけ?」

「エスパー」
そう呟いた後、弁当を開封しもぐもぐと食べ始める沙夜。
「神崎りえちゃん16歳は、いらないのかな?」

「・・・・・」
りえは、胸ポケットにあるはずの生徒手帳が消えている事に気付く。

口下手なりえにとって名乗る手間がはぶけたのはそれなりに好都合だったが、それにしても沙夜の行動はエキセントリックだった。

弁当を受け取ったりえは、橋を割ってから「あっ」と呟く。

「これも、お金とるの?」
「とらないよ、払いたいなら貰うけど」

りえは、ふるふると首をふった後、安心して弁当を食べ始める。

「手帳に1000円挟まってたから、それで払ったよ」

ブッと食べていた物を噴出すりえ。確かに緊急時の為にお札を挟んでいた覚えがある。忘れていた。
傷ついた自分の唯一の理解者になりうるだろうと思っていた少女は、思っていた以上に常識外れでエキセントリックだった。

「お釣、返して?」

ぎこちない作り笑いで言う。沙夜は、パーカーから小銭を取り出し「はい」とりえの手に落とす。


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