ここは、ある砂漠である。向こうからいかにも旅人といった雰囲気の男が三人、歩いてくる。「いかに
も」といったのは決して誇張ではない。その三人は着物姿にゲタ、後ろにふくらんだ風呂敷を背負い、横に傘をひっさげて、はあはあ言いながらやって来る。
「おいヤジさん、はあはあ。どこまでいくんだい。はあはあ、こんなとこ来たってしょうがない。もう帰ろうよ。」
少し太めの男が息を切らして言う。
「ばか言っちゃあいけないよ。帰ろうったって道に迷ってしまったんだから。だいたい一生に一度は砂漠を見てみたい、見ないと来た意味がないって駄々をこ
ねたのはキタさんじゃないか。」
すると、どちらかというといかつい男が、
「でも俺も、もうばてちまったよ。こう暑いといけねえな。おい、少し水をくれねえか。」
といってガブッと水筒から水を飲んだ。 |
この三人組は、ヤジ、キタ、ゴンの三人組である。東海道を旅したあと西洋を廻ってきたと思ったら、
ゴンという新たな仲間をくわえて、今度はどことも知れぬ怪しげな砂漠を歩いているのである。少し太めでおっちょこちょいなのがキタ。ひょろりと背が高いの
がヤジ。威勢のいいのがゴンである。
「おい、これ見ろよ。砂漠なのに水たまりがあるぜ。」
「ふうん、奇ッ怪な事があるもんだなあ。」
「ちょうどいい。どれ、一口。ううんなんだか味のないような味だなあ。」
「味がない味ってどういう味だい。ううん、たしかに味がない。こういう水はミネラルがあまり溶け込んでないって事かな。」
「おいしくない水は嫌だなあ。六項のおいしい水の方がいいな。」
「まあ、いざというときに備えて、とっておこう。」
ヤジさんが予備の水筒を取り出すと、残りの二人もそれに続いた。
「お、ややや。」
「どうしたんだ。」
キタが瓶を取りだしたと思ったら、水たまりに向けてぴょんと跳ねてザブンと落ちた。
「おいおまえ、なにをやってるんだ。」
「くっそーにがしちゃった。」
キタはそういって立ち上がったが、服はずぶぬれ、なんともなさけない格好だ。
「ははは、キタさんなにやってるんだね。」
「こんくらいの、魚がいたんだよ。」 |
親指と人差し指の間を広げて言った。もう片方の手にはフタの開いた瓶を持っている。瓶で魚を捕ろうと
したようだ。
「おおっ、こっちにもいるぞ。」
「へえ、こんなきれいすぎる水にも棲めるのかね。まあずいぶんと綺麗な色をしているな。」
「GET The Fish!」
そうやってキタがまた魚を捕まえようとしたが、魚はすぐ逃げる。
「こっ、このっ! よしっ! 追いつめたぞぅ。そらっ!」
すると驚いたことに魚は水たまりから跳びだして、ぴょんっ、ぴょんっ、と跳ねて逃げていく。
「う゛―くそー。」
「まあ、魚はいいじゃないかね。先に行こうじゃないか。」
「おい、見ろよ。あそこに人がいるぞ。」
「らくだにのってら。『らくだにのれば、砂漠もらくだ』ってな。」
「寒いしゃれを言うんじゃないよ。」
「まあ、こんな暑い砂漠ではいいって事よ。」
「とにかく、道を聞いてみようじゃないか。」
3人は早く聞こうとして走ったが、すぐに砂に足をとられて頭から砂につっこんだ。
「おい、ちゃんと走れよ、おまえ。」
「そういうおまえだって……砂につっこんでるじゃねえか。」
「まあ…つまり…、急がば回れってことだ。」
というわけで、しっかりとした足どりで歩き始めた3人。しかし前に見える人影に近づけば近づくほど、何か、うっすらとうすくなっていくのである。
「うん? なんだか…。」
「うすくなって…。」
「消えていってしまうような…。」
「というか消えてしまったというか。」
実際人影は消えてしまって、三人は何処に向かって歩けばいいのか解らなくなってしまった。
「やれやれ。」
「本当に不思議な処だここは…。」
「どうかしましたか?」
不意に後ろから声が聞こえたので、振り返ってみるとそこにはさっき前に見えた、あのラクダにのった人がいるではないか。 |
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v0.1.3 (Last Updated
2004.11.10)
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