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最終更新 2012/01/13



去婦詞 李  白




01  古來有棄婦   古來より棄婦有り。
02  棄婦有歸處   棄婦、歸する處有り。
03  今日妾辭君   今日、妾は君に辭され、
04  辭君遣何去   君に辭さるれば、何れに去らさる。
 
05  本家零落盡   本家、零落して盡き、
06  慟哭來時路   慟哭す、來時の路。
07  憶昔未嫁君   昔を憶う、未だ君に嫁さざりしを。
08  聞君卻周旋   聞く、君の卻って周旋するを。
 
09  綺羅錦   綺羅、錦の段、
10  有贈金千   贈る有り、金千。
11  十五許嫁君   十五にして君に嫁すを許され、
12  二十移所天   二十にして所天に移る。
 
13  自從結髮日未幾   結髮して自從(よ)り日の未だ幾くならざるも、
14  離君緬山川   君と離れること、山川を緬(はる)かにす。
15  家家盡歡喜   家家、盡く歡喜するも、
16  孤妾長自憐   孤妾、長く自ら憐す。
 
17  幽閨多怨思   幽閨、怨思を多くし、
18  盛色無十年   盛色、十年無くす。
19  相思若循環   相い思うとは、環を循する若きも、
20  枕席生流泉   枕席に流泉の生ず。
 
21  流泉咽不掃   流泉は咽しても掃せず。
22  獨夢關山道   獨り夢(ゆめみ)るは關山の道。
23  及此見君歸   此に及んで君に歸さる。
24  君歸妾已老   君の妾を歸すは、已に老うがためなり。
 
25  物情惡衰賤   物情、衰賤を惡(にく)み、
26  新寵方妍好   新たに寵すは、妍好に方(む)く。
27  掩出故房   を掩して故房を出づ。
28  傷心劇秋草   傷心は秋草を劇(さか)んにす。
 
29  自妾為君妻   妾、君の妻と為りてより、
30  君東妾在西   君は東に、妾は西に在り。
31  羅幃到曉恨   羅幃に曉が到りれば恨みて、
32  玉貌一生啼   玉貌、一生啼く。
 
33  自從離別久   離別して自從り久しかれば、
34  不覺塵埃厚   覺えずして塵埃の厚くなる。
35  嘗嫌玳瑁孤   嘗て嫌う、玳瑁の孤なるを。
36  猶羨鴛鴦偶   猶お羨す、鴛鴦の偶なるを。
 
37  華逐霜霰   華は霜霰に逐われ、
38  賤妾何能久   賤妾は何ぞ能(よ)く久しからん。
39  寒沼落芙蓉   寒沼は芙蓉を落とし、
40  秋風散楊柳   秋風は楊柳を散らす。
 
41  以比憔悴顏   以って憔悴の顏に比(およ)び、
42  空持舊物還   空しく舊物を持って還る。
43  餘生欲何寄   餘生、何に寄らんと欲するも、
44  誰肯相牽攀   誰が肯ず、相い牽攀するを。
 
45  君恩既斷   君の恩、既に斷し、
46  相見何年月   相い見(ま)みえしは、何れの年月か。
47  悔傾連理杯   悔しみて傾くは、連理の杯。
48  作同心結   しみて作すは、同心の結。
 
49  女蘿附青松   女蘿は青松に附き、
50  貴欲相依投   貴欲するは、相い依投せんことを。
51  浮萍失告   浮萍は告を失えば、
52  教作若為流   流れを為すが若く作さる。
 
53  不歎君棄妾   歎ぜず、君の妾を棄つるを。
54  自歎妾   自ら歎ずるは、妾の業なり。
55  憶昔初嫁君   昔を憶う、初めて君に嫁しを。
56  小姑纔倚床   小姑、纔かに床に倚る。
 
57  今日妾辭君   今日、妾は君に辭されしに、
58  小姑如妾長   小姑、妾の長の如し。
59  回頭語小姑   回頭して小姑に語る。
60  莫嫁如兄夫   嫁す莫かれ、兄の如き夫に。
 
  『全唐詩』 1714頁 165卷 5冊




解説語句(数字は句番号)


 棄婦 (01)
 十五 (11)
 二十 (12)
 所天 (12)
 幽閨 (17)
 盛色 (18)
 枕席 (20)
 流泉 (21)
 關山 (22)
 物情 (25)
 妍好 (26)
 秋草 (28)
 玉貌 (32)
 玳瑁 (35)
 鴛鴦 (36)
  (37)
 牽攀 (44)
 連理杯 (47)
 同心結 (48)
 女蘿 (49)
 青松 (49)
 貴欲 (50)
 依投 (50)
 浮萍 (51)
  (54)
 解釈  




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01  古来から、夫に棄てられた妻はいました。
02  しかし、棄てられた婦には、帰る所がありました。
03  今日、私は暇を出されました。
04  君に暇を出されたらば、どこに去ればよいのでしょうか。

05  私の実家は、既に零落して無くなってしまっています。
06  来た時の路を見ながら、慟哭するより他に術がありません。
07  そして、昔を思い返しました。まだあの人に嫁ぐ前の事です。
08  あの人が結婚相手を捜していると聞いて、

09  綺羅や錦繍の段、
10  黄金を千も贈って、話をつけようとしました。
11  十五歳の時、あの人との結婚が許され、
12  二十歳の時、婚礼の儀が挙げられました。

13  結髮して、日もまだ経っていないのに、
14  あの人に居を離されました。山川を遠く隔てたられたかのようです。
15  家では歓喜していましたが、
16  一人にされた私は、長く自ら悲しみに沈みました。

17  幽閨では怨思だけが逞しくなり、
18  盛色を十年も奪い喪ったかのようです。
19  相い思うとは、環を回り循るようなことのはずです。
20  それが今、枕席に流泉が生じているのです。

21  流泉は飲んでも無くすことは出来ない状態です。
22  一人夢見るのは、故郷までの道のりです。
23  ここに来て、あの人に故郷に帰されることとなりました。
24  あの人が私を帰す理由は、老いてしまったからだそうです。

25  衰賤を嫌うのは、人情と言うものです。
26  そして新らたに寵するのは、その逆の美好なるものです。
27  涙を拭って故房を出ると、
28  傷心は秋草を盛んにしました。

29  私があの人の妻となって以来、
30  あの人は東、私は西に住んでいました。
31  羅幃に朝日が映えれば、恨みの念が涌いてきたものです。
32  私はこうして一生泣き暮らすのだろうか、と。

33  別居して長く時が経ちました。
34  ふと気づくと、塵埃が厚く積もっていました。
35  その時以来、玳瑁の孤なるを嫌い、
36  鴛鴦の偶なるを羨ましがりました。

37  季節が進めば、草木は霜霰に逐われるように、
38  賤妾も久しくはないと言うことです。
39  寒沼が芙蓉を落とし、
40  秋風が楊柳を散らします。

41  そんな感じで、憔悴の顔になり、
42  空しく旧物を整理して、帰る準備をしています。
43  これからの余生、何に寄って生きていけばよいのでしょう。
44  誰が捨てられた女と、一緒になってくれましょうか。

45  あの人の心は既に断絶しており、
46  最後に会ったのは、いったいいつだったか覚えていません。
47  悔しみにくれながら連理の杯を傾け、
48  虚しさにくれながら同心の結を作びました。

49  女蘿は青松に附くと言います。
50  本当に求めているのは、互いに寄り添うことでした。
51  浮き草は、深い淵による水の淀みを離れれば、
52  流れのままに流されていくのです。

53  嘆きません。あの人に棄てられたことを。
54  歎くのは、私の縁業です。
55  昔を思い返しました。あの人の下に嫁いだばかりの頃を。
56  あの人の末の妹は、ようやくつかまり立ちを覚えた頃でした。

57  今日、私はあの人に暇を告げられましたが、
58  その子は、私より大きくなっていました。
59  去り際にその子に告げました。
60  お嫁に行っちゃ駄目よ。あなたのお兄さんのような男にね、と。




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語の説明


□句の説明■語句●地名○人名◇特記










 
■棄婦 − 被丈夫遺棄的婦女。

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■「十五」「二十」

以下がその史料

『文選』「蘇子卿詩四首」

結髮為夫妻,恩愛兩不疑.

注)結髮,始成人也.謂男年二十,女年十五時取笄冠為義也.

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■所天 − 舊稱所依靠的人。指丈夫。

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■幽閨 − 深閨。多指女子的臥室。

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■盛色 − 美好的容色。

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■枕席 − 枕頭與席子。也泛指床榻。

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■流泉 − 流動的泉水。

以下がその史料

『文選』劉越石「扶風歌」

據鞍長歎息,下如流泉.
馬長松下,發鞍高岳頭.
烈烈悲風起,澗水流.
揮手長相謝,哽咽不能言.

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■關山 − 指家郷。

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■物情 − 物理人情,世情。

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■妍好 − 美好。

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■秋草

以下がその史料

『文選』「古詩一十九首

過時而不采,將隨秋草萎.

注)楚辭曰:秋草榮其將實,微霜下而夜殞.



『楚辭』「沈江」

秋草榮其將實兮,微霜下而夜降.微霜殺物,

注)以讒諛.言秋時百草將實,微霜夜下而殺之,使不得成熟也.以言讒人晨夜毀己,亦將害己身,使其忠名不得成也.

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■玉貌 − 謂貌美如玉。指美女。

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■玳瑁 − 亦作「瑁」。爬行動物,形似龜。
     甲殻黄褐色,有K斑與光澤,可做装飾品。甲片可入葯。

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■鴛鴦 − 鳥名。舊傳雌雄偶居不離,古稱「匹鳥」。比喩夫妻。

以下がその史料

『詩』「小雅・鴛鴦」:「鴛鴦于飛,畢之羅之。」毛傳:「鴛鴦,匹鳥也。」
晉・崔豹『古今注』「鳥獸」:「鴛鴦,水鳥,鳧類也。雌雄未嘗相離,人得其一,則一思而死,故曰疋鳥。」

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華 − 時光,年華。
     泛指草木。因其一年一枯榮,故謂。

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■牽攀 − 猶牽纏。



■牽纏 − 糾纏。



■糾纏 − 交互纏繞。

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■連理杯 − 亦作「連理盃」。舊時結婚,新夫婦合飲之杯。喩結為夫妻或夫婦情好。

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■同心結 − 舊時用錦帶編成的連環回文樣式的結子,用以象征堅貞的愛情。

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■女蘿 − 亦作「女羅」。植物名,即松蘿。多附生在松樹上,成絲状下垂。

以下がその史料

『詩』「小雅・弁」:「蔦與女蘿,施于松柏。」毛傳:「女蘿,菟絲,松蘿也。」

『楚辭』「九歌・山鬼」:「若有人兮山之阿,被薛兮帶女蘿。」王逸注:「羅,一作蘿。」

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■青松 − 蒼翠的松樹。喩指堅貞不移的志節。因松樹四季常青,故云。

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■貴欲 − 嗜欲。
     欲想;想要。

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■依投 − 指投奔某一處所,以求安身。

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■浮萍 − 浮生在水面上的一種草本植物。
     比喩飄泊無定的身世或變化無常的人世間。

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業 − 佛教語。也稱業縁。後多指男女之間因縁。
     謂善業為招樂果的因縁,惡業為招苦果的因縁,一切衆生皆由業縁而生。

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李白「去婦詞」の解釈

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