幸運な文明

 新刊書のコラムを見て、思わずある予感めいたものを感じたので、早速取り寄せ読んだ。その題名が「幸運な文明」著者;竹村公太郎氏、PHP研究所だった。
非常に大胆な日本文明論で、文明の下部構造を「地形と気象」から解明し、文明のありようを論ずる、というものだ。大変ユニークな論文だった。

 地形に感謝、人口減少に感謝、エネルギー問題、食糧問題などなど日本の未来を悲観する人こそ、この本を読むべきであると感じた。六本木の高層ビル、ミッドタウン、新しく建設した議員会館、まさに東京は不夜城の如く明るい現在を謳歌している。単純な言葉だが、その元は、電気があるからこそ、実現している。

 阿久悠さんの言葉ではないが、「街よ お前は人あってこその街だろう なぜ 人を圧するのか」エリートこそが、現代を支配するのだ、と言わんばかりの街の風景だ。この論文の内容を全部紹介することは出来ないが、要点を書いて見たい。日本の各地では、豊富な雨水が山地から海に流れ込む。そこで水の流れるところに各家庭が小さな水車を取り付ければ、豊富な電力が得られる。

 昼は電力を直接使い、夜は余った電力で水を分解して水素を蓄えれば、水素もエネルギーとして活用できる。こうして日本は自給自足できるという。さらに世界有数の渡り鳥の中継地である日本は、「生きているリン鉱脈」を持つという。冬の田ンボに水を張っておけば、微生物やイトミミズなどの生物が繁殖する。すると渡り鳥が餌を食べに集まり、糞をする。

 鳥の糞にはリンが含まれているため、有機栽培で不足しがちなリンが自然に補える。
つまり、食糧の自給自足にも有利な条件を持っているというのだ。「だから、日本はついている。
『幸運な文明』なのですと著者は笑う。ほかにも日本がついている点があるという。
それは日本中どこでも、ひとつの言語で意思疎通ができることだ。「すでに江戸時代には、全国でかなりの意思疎通ができた。

 アイヌや沖縄の人たちを除外したという問題はあるけれども、参勤交代や海上交通網によって、江戸から言葉や文化が地方に伝えられていた。つまり、開国後急速な近代化や、戦後の経済復興が可能だったのは、日本語が日本人を束ねていたからです」

 言葉が共通していない拡大EU コスト“膨張”通訳業務1570億円
ルーマニアとブルガリアの新規加盟により、欧州連合(EU)が
27ケ国体制となって3ケ月がたったが、EUは今、各言語の通訳業務に莫大な出資を強いられている。EUの公式言語は現在23に上り、正規・臨時通訳は5.500人、通訳予算も年間10億ユーロ(約1570億円)に上る。

 3年後にはクロラチアの加盟も見込まれており、EUは新たに建築する庁舎の通訳ブースを21から30に増やす。欧州委員会のフイゲール委員は「言語の多様性はEU文化の豊かな証し」と強調するが、小国の言語同士の通訳者は不足気味で、現場では悲鳴が上がっている・・・・域内人口が5億人に膨張したEUは、統合の成果を強調するが、使用言語や庁舎の乱立ぶりをみる限り、完全統合への道程はなお遠そうだ。

 中国は漢字の略字化に努力している、言語は目下北京語に統一することで、どうやら統一の経過は順調に見えるが、従来隣の省とは言葉が通じなかった。上海語をいまになって、子供に教えている光景がテレビに紹介されていた。目的は何か、不明だが、特に現在経済特区に指定されている広東語は昔から、独特の言語で、何処にも通用しなかった。

 現在はどうなっているのだろうか?中国には漢字造語の専門機関があり、一日平均3語、一年間で1000語の新しい言葉を作っているという。北京空港で、「波音727」とあったが、それは「ボーイング727」のことだった。漢字だけの中国語は、日本語のように器用なまねができない。北京語が13億の人々を束ねるには、想像を絶するエネルギーと時間が必要なようだ。

 ロシアを束ねていた一党独裁のタガが外れた後、潜在化した民族意識が一気に顕在化した。100以上の民族独自の言語が復活し、其の存在を主張し始めているという。インドの公用語はヒンデイー語だが、憲法で公認されている言語は17言語に達する。これらの他国の例を見ても、日本は全国に言葉が統一さているのはありがたいことだ。

 テレビの前に生まれて気が付いたときには、テレビの前に座っていた。
3000kgの長さの列島に住む人々に日本語を受け入れさせている。大きな思想体系やイデオロギーを持っていませんが、だからこそ、本当に自由に日本の文明を論じられるのです」
Japan Value 日本ならではの価値である。

 簡単に著者の紹介;東北大学工学部、建設省を経て、2002年国土交通省退官、現在リバーフロント・整備センター理事長、社会資本整備の論客として活躍。著書に「日本文明の謎を解く」「土地の文明」など、肩書きに拘るのでないが、立派な紳士である。

 生き残れる日本文明
文明にとってエネルギーは不可欠である。なぜなら文明は生きているからだ。歴史上の文明のエネルギーは森林だったが、その文明は歴史の舞台から消えていった。21世紀、人類はエネルギー枯渇に直面する。特に石油、天然ガスの化石エネルギー枯渇が目の前に迫っている

  経済通産省・資源エネルギー庁は、石油の確認可採年数は43年、天然ガスは212年、ウラン鉱石は64年としている。石油会社は巨大油田の発見は1960年をピークに落ち込む一方で、特に最近の10年間、巨大油田の発見は極端に少なくなっている。現代文明を支えてきた巨大油田の発見は終了している。

 複数の地球資源研究者たちの研究結果では、2010年前後が地球上の石油産出のピークになると指摘している。石油産出量が現在ピークを迎えてという推定は恐怖の推定である。それは、現代文明が衰退に向かうことを意味しているからである。パソコン、自動車が使えなくなる日がくる。需要量はとめどもなく増加し続けている。

 現代文明は情報ネットワークに支えられている。現存する最高の情報の塊は人間である。未来文明のための新しい知が誕生する。我々は現代文明をあきらめて、粛々と近代以前の文明に戻るべきか。時代遅れの小水力発電というドンキホーテたちの槍に握られている。

  電気自動車、これには、蓄電池が要る。飛行機には応用されていない。この電気動力の弱点を越える動力には、水素がある。将来、空中を飛ぶジェット機が必要、スペースシャトルは水素エンジンである。

 文明の生死を左右する電気
21世紀の未来、人々が自由に素早く動き回るための方向が見えてきた。石油が枯渇しても人類には電気と水素が残っている。電気は二酸化炭素を排出しない。水素が燃えても排出されるのは水だけである。究極のクリーンエネルギーである。文明の生死を左右する「電気」なのだが、人類はその電気を確保されるのか?風力電気もある。しかし風力電気の決定的弱点は「単位面積当たりのエネルギー量が薄いのだ。

 水車が日本を救う
日本列島はモンスーン帯に位置し、四季を通じて雨が降る。スイス、カナダそして日本ぐらいがモンスン地帯で、国土全体に網目のように豊かな水が流れる先進国だ。この流れるエネルギーを逃す法はない。水の流れるあらゆるところに水車を設置する。水流で水車を回し電気を得る。

 豊かな水が流れる地方では、ありとあらゆる団体と個人が水車による小水力発電で自立する。日本中に水車が置かれ、その横に水素プラントが立つ。日本全土が水素と水素のエネルギー国土となる。例えば、オーストラリアは農業生産国で世界一を誇っていたが、現在は水不足で、牧草地帯が荒廃し、深刻な問題となっている。

 温暖化・・・米西部、水不足の危機 4/6日経産経新聞から・・・・
米西部で水不足が懸念されている。温暖化でコロラド川の流量が減少し、水源をめぐる地域間の裁判沙汰にも発展している。米国ではすでに危機が現実になり始めている。全長2333キロのコロラドはロッキー山脈を水源とし、ワイオミング、ユタ、ニューメキシコ、カリフォルニア、アリゾナ、ネバタの7州約2500万人に飲料水や農業用水を供給している。

  1990年代後半以降、旱魃が続き、川の流量が減少した。このため、流域の貯水量も落ち込んだことが米国科学アカデミーの調査で分かった。5日付けの米紙クリスチアン・サイエンスモニターによると、南米、アジア、欧州の重要な水源であるアンデス、ヒマラヤ、アルプス各山脈では気温上昇により氷河や雪塊、氷原の融解が進行している。オハイア州立大学の調査では、世界の山脈で氷河の消滅が過去5200間で前例のないペースで進んでいるという。

ABCDライン包囲網
  米国、英国、中国、オランダを形成し、膨張する日本を経済的、軍事的に取り囲んだ。
日本への石油を次第に絞込み
,最後には一滴も渡さないというところまで攻め立てた。エネルギーを失った文明は衰退し、それは、世界史に登場して滅んでいった文明をみれば一目瞭然である。日本は滅亡の運命にあった。

  1941128日、日本は真珠湾攻撃に突入した。窮鼠猫を噛むという喩えそのものであった。文明を支える下部構造を3点挙げるなら、「エネルギー」「食糧」「安全」である。このうち一つでも欠けたら、その文明は衰退し、滅びる。「昭和天皇独白録」が話題になった「あの大戦は油であった」最後の付言に油で始まり油で終わったようなものであると述べられている。

 中国に油田は残されていない
地球上の石油生産量の限界が近づいているこの時期、中国の発展は著しい。発展してゆく中国に残されて巨大油田はない。40年以上原油を汲み続けた大慶油田では、回収した石油の90%が水になってしまった。1993年から石油製品の輸入国となり、1996年からは原油の純輸入国となっている。

 中国は2004年には43%の原油を輸入に頼らざるを得ないと予測されている。21世紀の危機、それは国家間の危機かは問えないが、そのどれもが中国問題に置き換えることができる13億人の人口を満足させるために、爆食国家と言われている。果たして、この人口を満足させるための食糧生産は大丈夫か?米国と中国のニケ国が不幸にも、地球温暖化の協議のメンバーではない。地球温暖化が進んでいる現象を、この二カ国が進んでいる現象を無視できないのだ。

日本が生き延びるための道
これからの地球は、米国と中国のエネルギー覇権ゲームの場にならざるをえない。日本は木の葉のように翻弄される。覇権ゲームができない日本の進む道は一本しかない。日本列島での、エネルギー自給体制の構築である。

日本が生き延びるための道
  これからの地球は、米国と中国のエネルギー覇権ゲームの場にならざるをえない。日本は木の葉のように翻弄される。覇権ゲームができない日本の進む道は一本しかない。日本列島での、エネルギー自給体制の構築である。

 原子力資源のリサイクルの確立、高レベル放射性廃棄物処理の解決、エネルギーである水力による日本全体をエネルギーにしてしまうインフラ整備である。21世紀の食糧危機の問題もある。著者は歌川広重の写真を活用し、幅広い見識を持ち、水車の絵画から、日本の将来を描き、生き延びる道を見事に、現在の日本人に夢を与えている。

 地球上の資源枯渇は誰でも推察できるが、尚時間が掛かるだろう。おそらく私の余命には実現しないかも知れない。それでも予感だけは最後の最後まで持ち続けたい。人間の悪い面では、ぎりぎりまで、実現する決心が付かないものだ。この大胆な予測は、むしろ政治家は理解し、将来のさらなる夢を実現して欲しいものだ。

                       石 井 立 夫