実存主義心理学                            ヴィクトール・フランクル(1905〜)

「実存主義心理学      V・E・フランクル(1905〜)」


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 <History>


 フランクルの人生は、マズローの華やかな人生とは正反対に、苦しみの極限まで体験し、人間の存在する意味を極限状態で体感した、まさに人間の尊厳と勇気に彩られた人生であったと言えるかもしれません。
 フランクルは、1905年、オーストリアのウィーンに生まれました。そして、フロイトとアドラーという偉大な学者に学んだユダヤ人の精神医学者です。



 <アドラーの個人心理学>


 アルフレッド・アドラーは1870年ウィーンの貧しい下層階級の両親のもとに生まれました。フロイトの「水曜会」のメンバーでしたが、性的衝動のみが人間をコントールするという理論に疑問を抱き、「自由精神分析家グループ」を作って「個人心理学」を確立しました。
 アドラーの個人心理学は、人間は「社会的」な存在であり、性的衝動や感情を自由にコントロールできる存在であると仮定しました。そして、今までの精神分析が人間の過去の一部分に着目して、神経症などの原因を探って治療していくのに対し、人間の行動には全て「目的」があり、その目的に対し、やる気や勇気づけをすることにより、健全な心を取り戻すことができると考えました。
 この「心の明るい部分」に着目した考え方は、後のA・マズローやV・フランクルなどにつながっていくことになります。



 <「夜と霧」>


 フランクルは、一生涯忘れられない体験を、ウィーンの病院に勤務していた時に味わいました。
 それは、第二次大戦のオーストリア占領時、ナチスドイツにより開始された「夜と霧」作戦に彼が巻き込まれたことから始まります。
 「夜と霧」作戦とは、1941年12月6日に出されたヒトラーの特別命令で、占領軍に対する反逆行為を企てた非ドイツ国民を容疑者として、夜間秘密のうちに逮捕して強制収容所へ送り、その安否や所在を家族にも知らせないという作戦の名称です。
 この作戦は、ユダヤ人には特別な意味を持っていました。それは、ユダヤ人は無差別に逮捕し、強制収容所に送り、ガス室などによって、きわめて能率的・効果的に民族殲滅(ジェノサイド)を図るという、ナチス・ドイツの行為の中でももっとも非人道的な恐ろしい作戦だったのです。
 フランクル自身も妻とともに、今まで持っていた財産全てを没収され、強制収容所に送られました。
 収容所の中は、多くの人々が生き残ることだけに意識を集中し、そのためには暴力・盗み・仲間を売るなどという良心のかけらもないような行為・エゴむき出しの行為が日常茶飯事で行われていました。
 しかし、フランクルや少数の人々は、そうした極限状態にあっても、他人に対して、優しい言葉をかけ、当人にとって生きるためのかけがえのないパンの一切を与えたのでした。このことは、どんなに過酷な運命がその人に与えられても、人間はその運命に対してどのような態度をとるかという意志の自由(この場面では最後の自由ということができます)が与えられ、人間自身が高貴な存在であることを自らの体験を通して、証明したのでした。



 <実存主義心理学>


 フランクルは、「夜と霧」作戦の体験から、以下のような実存主義心理学の考え方を見出しました。
 「人間は、ただ1回だけの生命を生き、死ぬ。他に取り換えることのできない存在=実存である。 人間は、自分がかけがえのない独自の存在であることを意識し、自分に課せられた人生を、他の誰でもなく自分で生きる責任がある。
 しかも、人生には必ず実現すべき価値・意味があり、人間は心のもっと深いあるいは高いレベルでは快楽や幸福ではなく意味を目指すべき存在であり、過酷な状況であっても、人間にはそれを実行する意志の自由がある」と考えました。



 <人生の主要な3つの価値>


 フランクルは、人生に発見されるべき事実として存在する価値として以下の3つをあげました。
  1. <創造価値>人間が何かを作り出すことによって、世界に何かを与えるという価値。
  2. <体験価値>人間が出会いと体験をとおして、世界から何かを受け取るという価値。
  3. <態度価値>どうすることもできないぎりぎりの運命に直面したとき、それに対してとる態度に対する価値。



 <ロゴセラピー>


 フランクルは、心に病を持つ人(自分の人生に価値を見出せずに絶望している人)に、人間の実存の意識と責任、そして実現すべき人生の意味を難解な専門用語ではなく、平易な言葉で、対話を通して発見させる具体的な治療法を考えました。
 例えば、以下のように。
 「あなたは、自分なんかもう生きていてもしかたがないとおっしゃいますが、どうしてそう思われるのですか。」という問いかけや、
 「でも、他の人のためにもあなたはいきなければならないんじゃないですか。あなたを必要としている人がいるんじゃないですか。それでも、生きていく意味がないんでしょうか。」といった指摘により新たな意味の発見を促すのです。
 その治療法を、「ロゴセラピー」といいます。(ロゴセラピーとはフランクルの造語で、ロゴス=道理、すじ道、法則、言葉などを意味するギリシャ語+セラピー=療法)



 <フランクルとトランスパーソナル心理学>


 フランクルの実存主義心理学は、彼自らの極限の体験をくぐり抜けてきた中で見出した考え方です。
 それは、「意味」を人生に求めることにより、現実の自己から「自己超越」するものだと言えるかもしれません。そういった視点から見れば、フランクルの考え方の延長線上には、トランスパーソナル心理学が見えてくるかもしれません。

 最後に、フランクルが報告した一つの「態度価値」の実列を紹介します。
 フランクルは言いました。
 「それは重い脊髄腫瘍で入院している青年で、麻痺のためもう「創造価値」を実現するチャンスはなかった。しかし彼は、他の患者たちと精神的に深い会話を交わし、それどころか彼らを勇気づけ慰め、良書をたくさん読み、ラジオでいい音楽を聞くという、豊かな「体験価値」のチャンスを生かした。ところが病状が進み、ついにレシーバーを耳にすることも、本を手にもつこともできないほどになった。にもかかわらず、彼は絶望するどころか、それをも「態度価値」を実現するチャンスに変えたのである。
 死の前日、彼はすでに死を予知していた。当直の医師が適当なときに彼に痛みどめのモルヒネ注射をすることになっているのを知って、午後の回診に来た医師に注射を夕方に済ませてくれるよう頼んだ。
 それは医師が彼のために夜起こされなくてもすむようにという思いやりだったのだ。自分についての悲しみや恐れでいっぱいになっていてもおかしくないのに、死の直前まで他者を思いやるという態度決定は、まさに高貴というほかない。これに意味がないと誰がいうだろうか。」
   



 <Book>




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