最初の体系的トランスパーソナル心理学 ロベルト・アサジオリ (1888〜1974)
「最初の体系的トランスパーソナル心理学 R・アサジオリ(1888〜1974)」

<History>
アサジオリは、1888年イタリアのヴェニスの裕福な家庭に育ったユダヤ系の心理学者・精神科
医です。彼は小さい頃から語学の才能に秀で、母国語であるイタリア語をはじめ、フランス語、英語
ギリシャ語、ラテン語、ドイツ語、そしてサンスクリット語などをマスターしていました。
また、母親が西洋に東洋宗教を理解させる上で大きな役割を果たした「神智学協会」の会員であったため、東洋宗教や神秘主義に関心があったようです。
それから、彼は大学で精神医学を専攻し、フロイトの精神分析に出会い、スイスのチューリッヒ大学のオイゲン・ブロイラー教授の下で精神分析を学びました。その時、当時のユングと出会い、それ以来、生涯親しく交流していたようです。
こうして、彼は母国イタリアにおける精神分析運動の中心となることを期待され、フロイト派の若き有望な精神分析学者として歩むことになったのです。
<サイコシンセシス>
アサジオリは、フロイトの精神分析を学ぶうちに、精神分析が心の病的・否定的な部分にのみに焦
点を当て、心の健康さ、可能性、超越的・神秘的な部分に対してほとんど認めようとしないことに不
満を感じていました。アサジオリはやがて、フロイトを批判し、彼独自の考え「サイコシンセシス(
精神統合)」を発表しました。
サイコシンセシスは、精神分析のような心の否定的な諸要素を分析し、治療するだけでなく、心の
優れた肯定的な要素も認め、それらを成長させ、一貫したパーソナリティへと統合することを目標としていました。
アサジオリは、神経症や精神病の患者だけでなく、普通の人もコンプレックスや外的な影響によっ
て心の各領域・諸要素が統合されてなく、分裂・葛藤に苦しんでいるという意味で、全ての人が根本
的に病気だと見ました。そして、人々がいかに、調和に満ちた内面的統合、言い換えれば真の「自己
実現」そして、「自己超越」を果たすかが大切であると説いています。
<心の構造と脱同一化>
アサジオリは、心の構造を以下の7つに分けています。(大きくわけると「意識」+「無意識」+
「超意識」の3つに分けられます)
[領域の種類] [領域に存在する諸要素]
- 下位の無意識−−−原始的な欲望、衝動、コンプレックス
- 中間の無意識−−−日常経験が一時的におかれる領域
- 超意識 −−−直感、インスピレーション、深い無条件の愛、価値の高い心の働き、霊的エネルギー
- 意識野 −−−意識しているときの心の部分、感情の流れ
- 意識的自己または「わたし」 −−−「脱同一化」されている自己
- 上位の自己 −−−真の「自己」(ハイアーセルフといっていいかもしれません)
- 集合的無意識−−−原始的・古代的な「過去の集合的無意識」と超意識的な高次で前向きな「未来の集合的無意識」の二つがあります
アサジオリの独自の考え方に「脱同一化(disidentification)」があります。
ふつうの人間は、自分の感情、衝動、過去への後悔、未来への不安、性格の弱いところ・悪いとこ
ろなどにドップリひたって流されるということがよくあります。アサジオリはこの状態を「同一化」
と呼び、それらとをそれらを観察する自己とが違うことの意識化を「脱同一化」と呼びました。
例えば、ある否定的な要因が自分にふりかかった場合、「同一化」の認識で捉えると「わたしは
ガッカリした」となります。つまり、わたし=がっかりしている、となります。
「脱同一化」で捉えると「失望の波がわたしを溺れさせようとしている」となり、わたし VS 失望
という図式になります。つまり、「わたし」が感情を客観的に捉えることができ、感情に呑まれることなく、逆にコントロールしていることがわかります。
<自己実現への4段階とトランスパーソナル心理学>
アサジオリは、自己実現=サイコシンセシス(精神統合)を達成する過程を以下の4段階にまとめ
ています。
- 「自分の心の中についての知識を得る」−−−無意識を探求する方法として、自由連想法や夢、分析、日記、心理テストなどを使う
- 「脱同一化の練習による人格のさまざまな要素の制御」−−−感情などをコントロールする
- 「自分の真実の自己の実現−統一・制御する中心の発見」−−−本当の自分を自覚化するか、それが出来なかったら、自分の成長段階や心理的なタイプに合ったすばらしい人格の理想を
描いて、それに近づくように努力する
- 「実践的なサイコシンセシス(精神統合)、新たなパーソナリティの実際的な再構成」−−−精神統合を行うため、西洋・東洋を問わず、ありとあらゆる技法が導入された。例えば、禅、
ヨーガ、キリスト教の神秘主義、霊的錬金術、精神分析、夢分析など
このように、アサジオリのサイコシンセシスでは、はっきりと自己と高次の「自己」とのアイデン
ティテイの確立が最終目標とされました。また、その考えの中に、自己治癒−自治実現−自己超越の
前段階が包括されています。
この自己実現と自己超越は、トランスパーソナル心理学では基本的な概念であり、また「7つの心
の構造」や、現実的で多種多様な実践的治療方法は、トランスパーソナル心理学を、はじめて体系的
に捉えたといえるでしょう。
<Book>
- 「意志のはたらき」<サイコシンセシス業書1>(国谷誠朗+平松園枝 訳)誠信書房 1989
