脳脊髄液減少症という病


2章 3. RI検査の後半

 

 病室へ帰ってぐったりしていても、麻子はそのまま寝ている訳にはいかなかった。

3時間後の次の検査まで歩いて下さいと看護師から指示が出た。

歩くだけでいいと言われたが、歩き回れるくらい元気であれば検査には来ていない。

(あと3時間もあるのにどこを歩き回るのだ)

麻子は病室を出てから、行き先を悩んだ。

病院外には出られない。

歩いていてこれ以上痛みがひどくなったらどうしよう、と麻子は思った。

まぁ、病院内なら歩いていて、万一倒れても大丈夫だろう。

誰か見つけて、病室へ連れ戻してくれる。ここは病院の中である。

 

まず、同じ階の病棟内を歩く。

高齢の患者や頭部にガーゼのある患者。

なにか疾患があるように見える患者。

そういった患者の中で、一見元気そうに見える患者がいる。

この病棟で、何処が悪いか分からないように見える。

歩く速度が見舞客とは違う患者がいる。

脳脊髄液減少症の患者は、一見どこかが悪いようには見えない。

何処が悪いか他人からは分かりにくいのである。

本人は倒れそうに辛くて苦しいのに、人からはなかなか理解されにくい。

だから患者も一見そう見える人はこの病気の患者かもしれない。

(脳脊髄液減少症の患者かもしれないな)

病室から出て、実際に歩いてみると、

一見元気そうな患者がのろのろ歩いているのを見かけた。

この時見かけた患者と麻子は後に再会することになる。

 

病棟を抜けて歩いていくと、ナースステーションの前に来た。

看護師達が「低髄患者さん・・・」とミーティングする声が聞こえてきた。

簡単にいえば、脳脊髄液減少症は低髄液圧症候群の中から生まれてきた病名だ。

やっぱり、この病院での呼び名は「低髄」らしい。

脳脊髄液減少症の患者さん、と呼ぶのは長いからだろう。

 

小児科病棟は、色合いもなんだか可愛らしい。

時間はあと2時間残っていた。

しかし、麻子にはもう体の限界だった。

歩けと言われても、これ以上歩けない。

歩行指示時間、3時間などはとても無理であった。

麻子は一度病室に戻ることにした。

「もう戻ってきたの?」

黒田が麻子に声をかけた。

「ちょっと休憩。連続で3時間はきつい・・・」

麻子はそう言ってベッドに横になった。

 

再びRI検査のための歩行開始。

寝ていたいと思いつつ、麻子は病室を出た。

麻子はエレベーターに乗って一階に降りた。

一階には病院の玄関がある。

外へ出れば、病室から眺めていた「下界」の世界が広がっている。

外からも人がどんどん病院に入ってくる。

病院の一階はほとんど下界だ。

人がどんどん歩いていて、歩く速さも病棟とは違った。

患者によっては、腰椎穿刺で脊髄液を少量抜き取れただけで、

一時だけ体調が悪化する場合がある。

漏れている人ほど具合が悪くても、理屈上不思議ではない。

一階を10分歩いただけで、麻子は限界を感じた。

体が、頭が、首が痛い。体が重い。

ふらふらするし、起きていられない。

上向きに寝る体勢は、首が痛くてとても辛い。

それなのに、検査では上向きで制止させられる。

それだけでも痛みが増す。

その後に数時間も動くことは限界を超えていた。

3時間も歩き続ける事ができるならば、病院になど来ていない・・・)

麻子は廊下の手すりにもたれかかって、肩で息をした。

あまりに具合が悪くて、検査で悪化したのかどうかも分からない状態だった。

歩行開始2時間後、麻子は病室のベッドの上ですでに寝込んでいた。

これ以上歩けない。


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