脳脊髄液減少症という病
第3章 5.二度目のブラッドパッチ
麻子は、食事の度に体の回復を感じていった。
一方で、背中の上の方がだんだん痛くなっていく感じがした。
背中の上の方にはブラッドパッチも腰椎穿刺もしていない。
夜中に痛みで息苦しさを覚えて目が覚めた。
結局鎮痛剤を再びもらい、湿布を背中に貼った。
大きな漏れを止めると、小さな所から漏れ始める事があると本には出ていた。
つまり穴が一杯開いたホースで、大きな穴から水が漏れていてそれを塞いでも、
小さな穴から水が漏れ始める、というわけである。
そんな状況になることは勘弁してほしい・・と麻子は願いつつ、安静を保っていた。
それでも背中の上の方のある部分の痛みが強くなっていった。
自己血を注入しても、広がる範囲は限られている。
広い範囲で漏れが確認されれば、一度の注入では網羅できない。
岡林医師から次回ののパッチ日を説明された。
胸椎のブラッドパッチの日が決まった。
(ああ、またあれをするのだ)
ぼんやりとブラッドパッチの風景を思い出して、嘆いた。
しかしきちんと漏れは止めなければ、と麻子は思った。
EBPの効果をせっかく感じたのに、台無しにはできない。
おんぶお化けがせっかく去ったのに、もう一度背負いたくない。
胸部のブラッドパッチの時間がやって来た。
胸は腰よりは頭に近いせいか、不安感があった。
腰は初めてで緊張したが、胸は違う意味で緊張する。
胸や頭は、人間が意識しないでかばうように出来ているのだな、
と麻子は思った。
やはり体中に布がかけられており、麻子には何も見えない。
医師が二人で、何番に刺すのか確認し合っていた。
胸椎や頸椎といった言葉が聞こえた。
頸椎という言葉を聞いて、麻子はぴくっと動いた。
胸椎や腰椎とは違って、頸椎のブラッドパッチはかなり慎重にやらなければならないと
麻子は読んだことがあったからだ。
岡林医師は、布の上から麻子の頭に手を当てて言った。
「貴方の場合には頸椎にはしませんから、大丈夫ですよ」
麻子は布の中から頷いた。
(お医者さんの一言って、患者にとって大きな一言だなぁ・・・)
麻子は医師の配慮に感謝していた。
処置が開始された。
やはり針が入ったときに、麻子の体に独特の圧迫感がやって来た。
(うう、気持ち悪い)
採血された自己血は無事に入った。
再びうつぶせ寝になる。
(これで2回、これが最後になってくれたらいいのに)
麻子はそう願ってうつぶせを続けた。
治療室での経過時間が無事終わった。
病室に帰って再び安静時間となった。
トイレに行けないのだが、今の麻子にはRI検査のような悲壮感があまりなかった。
(もしかして頻尿が改善されたのだろうか)
ふと、そんなことを考えた。
安静が解かれ食事がやって来た。
しかしなんだか手がだるい。
胸から上部に熱を持った感じがある。
手を動かすのがしんどくで、腕が重い。
腰椎の時のパッチとどうも違う。
胸椎にすると腕や肩に影響が大きいようだ。
箸を動かすのがしんどくて、食事はあまり取れなかった。
夜中、急に上半身に痛みが走る。
一気に広がるようにぴりぴりする。
気のせいか、いや気のせいではない。
かなり激痛だ。思わず鎮痛剤を飲むが効かない。
炎症反応が出たようだ。まるでカチカチ山のたぬき状態である。
肩の周りで火がついたような感じだ。
(うわー、熱い)
内心叫んでいた。
ナースコールボタンを、入院以来、麻子は初めて押した。
看護師が痛み止めの入った点滴を持ってきた。
点滴が始まり、ゆっくりと痛みが引いていった。
(もしかして他の人のブラッドパッチ後の点滴ってこれ?)
と麻子は点滴を見つめた。
この薬はなんだろう?・・・と麻子は考えたが、
疲労からやがて浅い眠りについていた。
麻子の激しい炎症は、翌日多少おさまっていた。
フィブリンの炎症反応は、侮れないなと麻子は実感した。
ブラッドパッチ後、麻子には自分の体の変化ではっきりしたことがあった。
麻子の背中には、おんぶお化けはもう完全にいない。
肩の重さがなくなった。
麻子は、背中のある点に現れてきていた痛みもなくなっていることに気がついた。
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