脳脊髄液減少症という病
第3章 7.みそ汁効果
カチカチ山が過ぎても、麻子の身体の熱っぽさはなかなか取れなかった。
毎朝ご飯にはみそ汁が付いて出てきた。
病院食のみそ汁は薄い。
麻子は、毎朝みそ汁を飲むと、必ず一時頭痛がふわっと楽になる感じがした。
(錯覚だろうか、いや自分の場合はどうも錯覚ではない)
麻子は、検温に来た看護師に報告したが、
「そういう人は今までにいませんでしたよ」
と看護師には信じてもらえなかった。
岡林医師にも報告したが、医師は黙ったままだった。
(自分の錯覚かな?)
と麻子も思ったが、やはりみそ汁を飲むたびに体が軽くなる気がする。
それは一時だけの感覚で、しばらくするとまた元のだるい体に戻る。
そんな変化を、麻子は自分の体に感じていた。
(なぜだろう)
みそ汁を見ながら、麻子は考え込んでいた。
(みそ汁…Naの作用かな?では塩をなめたら良いのか?)
配膳係が麻子の食器を下げに来た。
麻子はまだ充分に歩けなかった。
塩を分けて欲しいと、麻子が配膳係に頼んでみた。
すると、管理栄養士が病棟にやって来た。
(そうか。多少の塩も管理されるのか。高血圧じゃないんだけれど)
塩気の物をとると頭痛がましになるので、塩分を取ってみたいと麻子は話した。
管理栄養士は不思議そうに麻子の訴えを聞いていた。
頭痛のための塩を下さい、と話しても理解されないだろうなと、麻子は思った。
しかし、売店まで歩いて行く体が、今の麻子にはなかった。
家から調味料を持参してくれば良かった、
と麻子は内心思いながら、塩の交渉を続けた。
しばらくして、小さな塩の袋がやってきた。
麻子は早速なめてみたが、頭痛にも体調にもあまり変化なかった。
どうやらみそ汁しか効果が現れない。
(Na摂取の問題ではないな。みそ汁の汁が問題なのだな。
うーん、どうしてだろう?)
この時の麻子には、塩を溶かして飲むという発想が出てこなかった。
考え続けていると、頭痛が増してきた。
(まぁ、いいや、帰宅してから考えよう)
麻子は塩の小袋を持ったまま、ベッドに横になった。
残った塩をどうしようかと、麻子は考えていた。
そして、麻子は起き上がり盛り塩を作って、こっそりベッドサイドに置いた。
この病院に入院して以来、麻子はうつらうつらするたびに夢にうなされていた。
夢から覚めるたびに、疲れとか体調不良が原因かもしれないと、麻子は思った。
しかし、その夢で麻子には気持ちが悪く感じていたことがあった。
毎回同じ女の子が、麻子の夢に出てくるのだ。
夢の内容は毎回違うけれど、かならず同じ女の子が出てきた。
その女の子には麻子は会ったこともなかった。
(いったいなんだろう?いったい誰なんだろう?)
麻子は夢を見るたびに、不思議に思った。
病院はいろんな事例のあるところである。
心霊的な事を考える人もいるかもしれない。
(霊とかお化けとか、私は信じていないし、見たこともないんだけれど)
麻子はどちらかというと、
心霊現象があっても気がつかないで歩いていってしまうタイプである。
その手の怖い話にも、麻子は興味自体なかった。
その麻子が、この病室で同じ登場人物が出る夢を見る。
夢を見るのも体調のせいだろうと考えたが、
毎回夢にうなされると寝た気がしないと麻子は悩んでいた。
偶然余った塩を見ながら、
(とりあえず気の持ちよう)
と麻子は余った塩を捨てるよりも盛り塩にした。
その夜から、麻子はまったく夢を見なくなった。
(盛り塩をしたことで、どこか深層的に安心したからかな?
不思議だなぁ。まぁいいや)
麻子はそれっきり、悪夢のことも忘れてしまった。
しかし、再入院の時に、麻子はもう一度不思議な経験をすることになる。
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