脳脊髄液減少症という病

5章 4.病院での奇妙な体験

 

 二度目の入院。

麻子は再び初日から夢を見る。

前回の入院では、麻子は女の子の夢を見た。

今回の夢では、他の病室の男性患者が間違って自分のいる病室に入ってきた。

看護師や麻子と同室の患者が、ドアのところでその患者を押しとどめている。

違う病室だと説明しているのだが、どうやらその患者は分かっていない。

麻子は目覚めてから、あまりにリアルな内容だと思い、

何気なく隣の患者に夢の内容を話した。

単なる夢話のつもりだった。

しかし、話を聞いた隣の人の顔色が変わり、

「その夢の患者は・・・どのような人でしたか?」と尋ねられた。

不思議なことを尋ねられるものだな、と麻子は思いつつ、

夢に出てきた人の風貌や年齢層を説明した。

「昨日入院されたんですよね、確か。どんな夢でしたか?」

と話しながら隣の患者は、じっとこちらを見ていた。

(どうして、単なる夢物語の詳細を聞きたがるのだろうか?)

と麻子は思いつつ、夢の詳細について隣の人へ説明した。

「・・・実はあったんです。一週間くらい前にその話」

と隣の患者が言った。

「えっ?!どこで?」

と麻子が驚くと、

「この病室で。本当にそんな男性患者が入ってこようとしてたんですよ。

何回も。いくら説明しても間違って入ってこようとしてたんです。

それを、看護師さんとこの部屋の患者で必死の止めたんです」

と隣の人が話した。

昨夜麻子の見た夢は、この病室で実際にあった出来事と一致していた。

「ほんとにあった話なんですか・・・」

麻子は茫然とした。

その上、その患者の風貌は麻子が夢で見た感じと一致した。

入院した夜に見た夢が、その前に病室であった事と似ている。

こんなことがあるのだろうか。

 

「・・・なにか、その手の能力とかあるんですか?」

と隣の患者は麻子に尋ねた。

「ない、ない!霊とかなんとかは信じてない」

と麻子は否定した。

麻子は、何とかの世界とか奇怪ななんとかなどの番組を見たいとも思わないし、

遭遇したこともない。

(気味が悪い)

鞄の中から塩を取りだして、今回も盛り塩をした。

今回の入院では、調味料を少量ずつ持参していた。

病院食は薄味なのだが、とくに朝ご飯に味がない。

前回の入院で、塩気と体調が関係するような気がした。

入院荷物に調味料を加えた理由は、

一番体調が悪い寝起きに味をつけたご飯が食べたかったのだ。

みそ汁は朝ご飯に付いている。

味のない野菜と炒り卵に、持参ケチャップをかけ、

パンに持参バターを付けて食べる。

うまい。

(あー、寝起きの頭痛がましになる)

塩も盛り塩用に持ってきたわけではなかった。

持参した量は少ないので、ほんのわずか盛り塩をした。

 

「盛り塩を持ってきているということは、やっぱり霊的な力があるんですか?」

と隣の患者が麻子に言った。

その患者はどうやら別の疾患で入院しているようである。

(塩を取ったら体調が良くなる、と説明しても分からないだろうな)

と麻子は思った。

「違いますよ。寒くなってきたので、風邪予防にうがいしようと思って。

たまたま塩を持っていたんです。

今その話を聞いてなんとなく気味が悪いので、

一応塩でも置いておこうかなと思って」

麻子はわざと嘘をついた。

「ああ、そうですよね。最近寒くなってきましたよね。

私ももう退院なので風邪には気をつけなければ」

隣の人は納得したようだ。

 

 入院は初めてではない。

捻挫などで入院したことがある。

しかし、入院で夢を見たことなどなかった。

普段からも、麻子はあまり夢を見ない。

人は誰でも夢を見ているらしいが、麻子はあまり覚えていない。

この病院へ入院するたびに、夢を見る。

そしてうなされて起きて、かなりはっきり覚えている部分がある。

(なぜなのだろう)

前回の入院時には、盛り塩をするまで毎日女の子の夢を見た。

夢の内容は毎回異なっていたのに、出てくる女の子は同じだった。

前回の初日の夢では、白い壁があり、手すりの付いた階段があった。

その階段を上ると、どこかの部屋にたどり着く。

麻子と誰かが窓ガラスから覗いてみると、

若い女の子がベッドの上で錯乱していた。

麻子は驚いて、そして目が覚めた。

あの風景と、そしてあの階段はなんだろう。

不思議な夢だった。

翌日の夢は、イチゴ狩りか何かの農園。

受付に行くと、よどんだ窓口にあの女の子が座っていた。

わっ、昨日の夢と同じ人だ!と思った時に、麻子は目が覚めた。

女の子が出てくる夢はそれからも続いた。

さすがに麻子も考え込んだ。

夢など普段見ないのに、毎晩必ず夢を見る。

いくら入院という特別な状況といえども、気味が悪い。

体調が悪くてただでさえ寝た気がしないのに、眠りに入るたびにうなされる。

まだ、同じ女の子の夢を見るんじゃないだろうか・・・。

たまたま、栄養士からその日小さな塩袋をもらうことができた。

塩気を取ると体調が変化するため、栄養士に相談していたのだ。

残ったわずかの塩を、盛り塩にしてみた。

その日からあの女の子は麻子の夢に出てこなくなった。

 

 そして、今回も入院初日から麻子は夢を見た。

「不思議ですね。偶然かな」と麻子は笑って済ませた。

ところがその夜、天気が荒れて雷が鳴り響いた。

ものすごい音と共に、病院内の電気が一斉に消えた。

病院に落雷したらしい。

(うわ。真っ暗)

と麻子が思ったとたん、

次の瞬間、電気が付いた。

病院内は自家発電に切り替わった。

(さすが病院。命に関わる場合もあるものね)

すると、どこからか、ばたばた、かんかん、どたどたという音がしてくる。

(いったい何の音?)

麻子はゆっくりと病室を出て、廊下に出た。

音は慌ただしく聞こえてくる。

音の方向へ近づいた。

廊下の壁の一部が切れていた。

覗いてみると、そこには、階段があったのだ。

(こんなところに階段が・・・)

聞こえてきた音は、病院の医師や看護師がその階段を走り回る音だったのだ。

エレベーターが使えなくなったので、スタッフが一斉に階段を使用していた。

普段だれも使用しないため、今まで気がつかなかったのだ。

「あ、これ!」

麻子は、その階段を見て驚いた。

(あの夢と同じ階段だ!)

白い壁、この手すり、この横幅・・・

あの女の子の部屋に通じる階段と同じ。

前回入院していたときには、気がつかなかった。

夢の変な階段としか、麻子は思わなかった。

(まさか、あの夢に出てきた階段が、この病院にあったとは)

今回も落雷騒ぎがなければ、気がつかなかった。

あの女の子のいた部屋については、もうあまり覚えていない。

この階段を上ったとしても、たぶん普通に病棟につながっているだけだろう。

(上は何の科の病棟だろう?)

病院にはいくつものドアがあって、どこのドアがどこにつながっているのかが

麻子には分からなかった。

病院のスタッフが、階段を忙しく走り回っている音がずっと響いていた。

麻子は階段から離れた。

病院はいろいろな出来事が起こる場所である。

何があっても不思議ではない。

何かが残存しているかもしれない。

もし霊力の強い人間ならば、落ち着いて入院などできないだろうと麻子は思った。

麻子は自分の周りを見渡した。

(もし霊力があったら、この周りに漂っているものが見えたりするんだろうか?

そんな力がなくて、自分は良かったかもしれない)

健康には安眠第一。

麻子は病室へ戻った。

今回夢に見た男性患者が実在したのならば、

あの女の子も過去にもしかして実在したのだろうか。

不思議な夢だった。


−32−

戻る  次へ  ホームへ戻る


脳脊髄液減少症という病