脳脊髄液減少症という病


5章 7.崖っぷちの決意

 

 転院した場合どうなるのだろうと、麻子は痛む体を起こした。

そして、医師から告げられたいくつかの病院へ、

麻子はこっそり電話をかけてみた。

転院してきても23日は入院させるが、後は出てもらうと告げられた。

(治療法も知らない病院へ2日入院して何をするの?)

麻子は電話を切った。

(ベッドが欲しいんじゃない。自宅へ帰るために薬が欲しいんだってば)

 

 (この病院、すごく忙しくなっている?)

医師が総出で救急に回っている感じがした。

病室にいる他科の患者の担当医もやたら忙しい。以前よりも余裕がない。

どうしよう、どうしよう。

薬が決まらないと困る。

医師が来るのを待って、それからやり取りして、

また次に回診に来るまでにどうのこうのしていたら、

日数がどんどん経ってしまう。

それに、最初処方された薬を飲むと胃がもたれて痛い。

おまけに半減期が短くて、1日のうち、のたうち回る時間がかなりできてしまって辛い。

昨日までは退院はまだと言われたのに、

今日になっていきなりベッドが空いていません、転院してと言う。

入院待機しても構わないといわれたから、麻子はそのまま待っていた。

一度退院して遠いけれど、無理して自宅へ戻れば良かっただろうかと麻子は後悔した。

(乗り継いで帰宅したら、病院へ戻ってこられなかったかもしれない・・・)

薬さえ相談できれば、すぐに退院したいと思っているのに充分な時間が取れない。

(このままでは、この病院から病も理解していない病院へ転院させられ、

その病院からすぐに放り出されるかもしれない)

今回の痛みにはぜったい薬が要る。

(どうしたらいいのだろう)

なぜか、病院のベッドは空いていた。

(そんなことはどうでもいい。私も帰りたい。入院費もかかる)

 

まず冷静になって状況を整理しようと麻子は考えた。

麻子はベッドに横になりながら考え込んだ。

(ブラッドパッチが終われば、前みたいにすぐに退院できると思っていたのに)

前回の入院の時も、ブラッドパッチ後体調の悪そうな人はすぐに退院していなかった。

今の麻子は、薬が切れたら、寝ていても身動きすることすらできなくなる。

というか、生きていけない。それくらい激痛。

けれど今の薬は胃が荒れてきて、これ以上飲めない。

まず状況を考える。

相談する時間が充分に取れていない。

どう見てもこの状況のままでは薬が決まるまでに時間がかかる。

しかし、時間がない。

先に病院を追い出されそうだ。

自分にとって、一番困っていて、障害になることは何か。

自分にとって一番今必要なことは何か。

それは鎮痛。

ブラッドパッチをした後、薬を決まっていないことがそもそも原因である。

いきなり今日からどの患者も転院話?

・・・解決するには、鎮痛できる薬をもらうことだ。

鎮痛方法が決まれば退院できる。

退院するために一番の問題は、相談するための十分な時間がないことである。

しかし、どうやら待っていられる状況ではないらしい。

 

(よし、それでは結論。自分で薬が決まる期間を短縮して、

早く薬をもらえるようにしよう)と麻子は決めた。

そもそもブラッドパッチ後の激しい痛みに使用する経口薬が決まっていないんじゃないだろうか、

と麻子は考えた。

該当薬があれば、とっくに処方されて退院しているはずである。

スリンダクを処方するときも、医師はこれを該当薬だと思っている様子ではなかった。

スリンダクの半減期も副作用もこのときの麻子は情報を持っていなかったが、

たぶんこれでは今の自分にとって該当薬にならないと麻子は感じていた。

(最初のブラッドパッチ後の痛み位ならば、

数日間スリンダクを飲むという選択もあった気はするけれど、

継続鎮痛に向かない気がする)

 

麻子は、「悪い患者になる」ことを決心した。

一般的に、患者は専門家である医師の説明を聞いて、治療に従う方がいい。

医師を選ぶのも寿命の中と良く言われるから、患者も医師を選ばないといけない。

しかし、普通の場合は、医師の指示を待つ患者の方が良い患者だと思う。

医師によったら、患者があれこれ言うのを嫌う方もいる。

今まで、おとなしく医師の指示を待っていたけれど、

このまま待っていたら、薬がないまま退院しなくてはいけない。

仕方がない。

麻子は、

「薬を自分で調べてしまおう」

と決心した。

本当に悪いのは、薬あわせができない状況だ。

 

ちょうどそこへ、薬剤師がたまたま病棟に巡回に来た。

(やった。まず、スリンダクの情報を確認しよう)

そこで、麻子は薬剤師に薬の話を相談した。

やはり、今の飲んでいる薬は胃を荒らす可能性がある。

先生と相談しておきますから、とやさしく声をかけてくれた。

助けて欲しいときに助けてくれる人に出会える、ありがたいと思った。

けれど、薬剤師には、転院を言われていてもう時間がないの、とは言えなかった。

明日できれば時間のあるときにもう一度来て欲しいと、麻子は薬剤師に頼んだ。

これで、明日もう一度確実に薬剤師と相談ができる。


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