脳脊髄液減少症という病
第5章 8.薬選びT
病院はもうじき夜の時間帯になる。
寝る前の患者のケアに、看護師が動いている。
麻子は時を待っていた。
この病室は今日の予定はもう何もない。
就寝時間までかなり時間がある。
自分の鎮痛剤が切れる時間まで、また時間がある。
今なら、集中して時間がとれる。
今麻子の体は、鎮痛剤が効いている状態である。
冷静になれる間にしなければならないことがあった。
自分を守るために何でもしよう。
麻子はそう決めていた。
麻子はすぐにネットに課金した。
キーボードは体に負担がかかる。
しかし、そんなことを言っている場合ではない。
携帯よりは情報収集範囲が広いからだ。
使ってみてみて分かったが、病院のネット端末にはアクセス制限がなされていた。
患者の知る権利は?と麻子は思ったが、
きっと病院側は病人が余計なことを調べないようにしていると言うだろう。
いい加減な情報に惑わされるのを防ぐためにと。
(しかし、インフォームドコンセントってのは、どこへいったんだろう。
それより、面倒だな)
医療関係のサイトはかなり制限されている。
(うーん、どうするか?まてよ・・・)
病院のインターネット環境を考えてみた。
誰が制限をかけているか?
実務はおそらく委託された会社、そちらは専門。
そして指示は医師だろう。
病院側がどれだけ詳しいか?
ましてや西洋薬の数は半端ではない。
サイトは無限大。
ウェブってのは蜘蛛の巣。
(ふふん、これはたぶん破れるな)
次の瞬間、アクセス制限はまったく無意味になった。
だいたい携帯で調べることもできるのだから、
アクセス制限などしても無駄である。
調べたいことは鎮痛剤。
副作用と半減期の情報、
痛みの三段階ラダーの第一段から二段階目に進める薬が欲しいのだ。
今日薬剤師の中にCOX阻害という言葉が出たのだ。
それで、検索にNSAIDs(エヌセイド)と打った。
非ステロイド抗炎症鎮痛剤である。
一般に病院でよく処方される。
NSAIDsはCOX(クシロオキシゲナーゼ)阻害がある。
胃腸管傷害を引き起こす事が結構ある。
COXはTとUがある。
COX―Tは腎・胃で恒常的発現。
COX―Uは炎症で発現。
ということはCOX―U阻害薬の選択。
余り作用は強くないと書いてあったが使ってみなければ分からない。
もう一つウィンドウを開ける。
この痛みが軽減するまで、薬がとぎれると困るので、今の麻子には連続鎮痛が必要である。
長期使用に耐えてくれなければいけないし、半減期がある程度長くないといけない。
副作用を考えると、薬の選択基準はなんだろう。
明日薬剤師が来てくれるので、調べておいて相談しよう。
麻子は検索方法を考えた。
病院側がアクセス制限をかけている薬情報などではない。
そんなサイトでは、簡単な情報しか出てこない。
(疼痛、治療、…そして連続治療を一番必要とする場合・疾患は・・)
連続疼痛を一番必要とするのは、癌治療。
麻子は調べている中に鎮痛の選択基準が分かってきた。
麻子が選んだ薬はナプメトンである。
エトドラクは以前使ったことがあるがあまり効かなかった。
ナプメトンの半減期を調べても、副作用を調べて、
鎮痛の選択順序を見ても、間違っていないと麻子は思った。
(しかし、どうして、ロキソプロフェンナトリウムや
ジクロフェナクナトリウムみたいな半減期の短い薬を
どこの病院は処方するだろう?
すぐに痛みが治まる場合なら分かるけれど、
長期痛みに耐えている患者には絶対向かない)
麻子は鎮痛剤の一覧を見ながらそう思った。
低髄患者のように、ずっと痛みが続く患者に、
半減期が短い薬を処方してもあまり訳には立たない。
何度も飲むはめになり、胃が荒れるばかり。
ナプメトンの商品名を調べようと思ったときに、薬が切れてきた。
「痛い、苦しい」
商品名は、明日薬剤師に聞けば分かる。
薬が切れて、調べるどころではなくなった。
横になっていることすら辛い。
じんわり汗が出てきた。
やがて、消灯時間となる。
次に薬が飲める時間になるまで、ひたすら痛みと闘う。
麻子は肩で息をしながら考えた。
早めに今ある薬を飲んでしまおうか。
いや、胃腸を荒らすと次の種類の薬服用に差し障る。
寝ることもできず、夜が過ぎていく。
(くそー。ぜったい半減期の長い薬で連続鎮痛してやるのだ。
胃にも負担がかからず、楽な鎮痛をめざすぞ)
患者の執念がわき上がる。
−36−
脳脊髄液減少症という病