脳脊髄液減少症という病


1章 2. 脳脊髄液減少症とは

 

麻子はすぐにネットで参考本を買った[i]

そこには、それまで無縁であった脳外科の世界が書かれていた。

 

−脳は頭蓋骨の中で脊髄液の中に浮かんでいる。

脊髄は体の中で連なる。

脊髄液は脳で作られ、脳と脊髄を循環している。

麻子は本をめくる手を止めた。

(うん、それはそうだ。

頭蓋骨の空洞の中に、脳がそのままコロコロと入っているわけではないし・・・。

でも、脳がどのように頭蓋骨の中に入っているなんて、

今まで一度も考えたことなどなかったな)

解説図を見ながら、標本がホルマリンの中に浮いている理科室の光景を

麻子は思い出していた。

 

脳脊髄液減少症は脊髄液が漏れる病である。

(どうやって、脊髄液が漏れるのだろう?)

麻子は本を読み続けた。

首や背中・腰に連なる骨は、脊髄というものを保護している。

(そりゃそうよね、単なる骨だけじゃ骨の標本だし)

麻子は、どこかの博物館で人体の骨の標本が飾ってあったのを思い出した。

(骨がどのように体の中に存在するのかも、考えたこともなかった)

その脊髄は、三層の膜で保護されており、一番外側の膜が硬膜といわれている。

この病に関して時々、硬膜が破ける、という表現を見ることがある。

硬膜は硬いから硬膜と名前が付いている。

医師によっては「硬膜なんて破れるはずがない」という人がいるらしい。

しかし本を読むと、硬膜が破れるのではない、ある部分で裂けるのである。

 

(じゃ、どこからどうやって漏れるのだろう?)

硬膜が破けるという言い方は、一見硬膜がびりびり破れるとか、

バリバリと裂けるとか、そんな印象を与えてしまう。

どうやら、脊髄から神経が出てくる場所である神経根というところで、

硬膜は途切れており、

その先のクモ膜というものが破けて、神経と硬膜の隙間から脊髄液が漏れるらしい。

(つまり硬膜の途切れる端っこのところで、結合部分が裂けるという感じなのね・・・)

なるほど、これなら裂ける可能性があるなと麻子は思った。

 

麻子に大きな不安が押し寄せた来た。

(本当に自分がこんな病にかかっているのだろうか・・・・)

自分の体の中で脊髄液という体液が漏れているとは、

麻子は想像したこともなかったからだ。

 

症状とあまりに一致する。

天候の悪化で体調が悪化する、

横になると楽になる、

水分を多く取ると楽になる

そんな、意味不明の自分の状態が説明できる。

麻子は大きなため息をついた。

この病を知って、霧が晴れていくように、長い間の疑問が晴れていく。

何回打ち消そうとしても、あまりに自分の状態と一致する。

「本当にこの病だったら、他の病の治療をやっていても症状は治らない。

検査をして確かめなければ」

本を読み終えて、麻子はそうつぶやいた。


−3−


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脳脊髄液減少症という病


[i]  篠永正道「あなたのむち打ち症は治ります!」日本医療企画, 2005