脳脊髄液減少症という病


6章 3. 経口補水塩

 

鎮痛剤がすべて断薬になった後に、麻子は主治医からある薬を処方された。

ソリタT3号である。

患者の間で「飲む点滴」と言われている。

脳脊髄液減少症には、点滴は時には有効である。

しかし点滴は病院に行かなければ出来ない。

(飲む点滴かぁ、いい呼び名だなぁ)

服用を始めるとけっこう効く。

症状がよくなるというより、体調が落ちる谷が小さくなる。

そんな感じである。

何かの原因で、脱水気味だけでも体調が落ちてしまう。

復活するまでは、時間がかかる。

患者にとって、体調の谷間があまりなくなるというのはありがたい。

(吸収が良いのだろうけれど、スポーツドリンクと何がどう違うのだろう?)

と麻子は思った。

スポーツドリンクを今まで飲んできた。

本にも載っていた。

この病と出会う前は、単なるお茶類を2Lくらい飲んでいた。

お茶やスポーツドリンクは、特に「効く」という感じはない。

脱水気味になるのを防ぐために水分を飲んだというくらいである。

 

麻子は、知り合いの医師にメールを送ってみた。

返信には低張液という言葉があった。

(そうか、浸透圧)

高張液より低張液の方が吸収は良い。

Na(ナトリウム)と共に水も吸収される。

スポーツドリンクとORS(経口補水塩)の浸透圧とNaについて、麻子は調べ始めた。

 

スポーツドリンクもORSも種類によって成分量が違う。

しかし、スポーツドリンクはNa濃度が低く糖分が多く浸透圧が高い。

スポーツドリンクの目的は、多量に汗をかいたときの電解質補充。

ORSは、スポーツドリンクよりもNa濃度が高く、

カロリーが少なくて、浸透圧が低い。

水分補給目的ならばORSWHOにも載っている。

麻子はスポーツドリンクは、カロリーが高いものからと薄めて飲んだりしていた。

しかし、それではもっとNa濃度が下がってしまう。

(つまり薄目の塩水を飲むのが、水分吸収に有効ということか)

Naと水の吸収を良くするにはブドウ糖(グルコース)が数%入っている方がいい。

ブドウ糖以外にショ糖をいれても水分吸収がいい。

ぶどう糖とNaの比率は11がいいらしい。[i]

 

ORSに含まれているクエン酸やカリウムも、水分吸収促進になるようだ。

ORSの浸透圧はけっこう違う。

(どのORSがいいのだろう)

みそ汁の上澄みについての浸透圧と成分が出てきた。

(私の「薄目のみそ汁で楽になる」説は、正解ではないか)と麻子は少し驚いた。

薄めのみそ汁の浸透圧から考えると、水分吸収が促進される。

(これは面白い)

麻子は、浸透圧調べにはまってしまった。

いろんな飲み物の成分と浸透圧を調べ始める。

知っているスポーツドリンク、名前を聞いたことのあるORS、他の飲み物。

それ以来麻子は飲み物を見ると、Na濃度と浸透圧を考えてしまう。

 

水分だけよりも、食事をとって水分を取った方が吸収は良いらしい。

電解質が食事に含まれるからだそうだ。

(では、水やお茶を飲むときに、なにか食べながら飲んだ方が有効ということか)

食べてばっかりいたら太るかも。

症状と体重増加の択一ならば、体重増加を選択する方がましだ。

体調が良くなってから、痩せればいい。

そういえば、主治医も回復期に太る人が多いと話していた。

 

 ORSを簡単に作る方法は、水に塩と砂糖を少量放り込んで飲めばいい。

作り方はあちこちに載っていた。

吸収の良い飲み物を、あれこれ考えてみる。

梅干し茶。梅干しお茶漬けはおいしいのに、梅干し入り茶は飲み続けるにはいまいちかな。

花びらの塩漬けは?と思って麻子は買いに行ったが、値段を見ると高くて買えなかった。

(飲み続けるのに適した物は何だろう?)

緑茶に塩はいいが、麦茶に塩は合わない。ウーロン茶と塩の組み合わせはまだまし。

麻子は、薄めたスポーツドリンクに塩を添加して、Na濃度を上げてみた。

(うーん。あまり・・・いや、かなりまずい)

スポーツドリンクの味は、完成品として美味く調合されていた。

余計な添加はまずくなった。

結局、麻子が選んだのは乾燥塩昆布である。

塩も糖分も添加されているし、量はコントロールしやすい。

常温保存は利くし、持ち運びも軽い。

安い。何より美味しい。

昆布は日本人向きのテイスト。

梅干しより量の調節が楽だ。

ただの水を多量に摂取すると尿に出てしまうだけらしい。

Na(ナトリウム)は頭のどこかに残しておこう。

 

病院でソリタを処方してもらえるようになってから、

麻子は時々ソリタを溶かして飲んでいた。

リンゴのマーク付きである。

ソリタは粉で軽いので持ち運びに便利である。

ただ、ソリタは溶かす手間がかかる。

麻子はソリタの味が好きではなかった。

小児科で処方されたりする薬だから、幼児向きの味なのだろうか。

ソリタにカルピスを添加すると良いとネットで読んだ。

しかし、カルピスを加えてみるとまずかった。

その後、麻子はOS1を飲んでみた。

OS1には味の添加はない。

OS1を飲んだ感想は、

(あ、塩水)

麻子にはどちらかというと、余計な味が添加されていない方が飲みやすかった。

いずれにせよ、おいしくはないので冷やして飲むと飲みやすい。

麻子は、体調が悪いときはORSを飲んだ。

そして普段は塩昆布入り茶を持ち歩いた。

 

 ひどい空腹は麻子の体調を悪化させた。

そのため、麻子は空腹のまま動くのを避けた。

外へ動くときは、まず食べる。

厳寒の時は暖かいものを飲んだ。

猛暑の時は身体を冷ますか、冷たいものが楽だった。

アイスや氷を食べると、体が楽だ。

アイスを食べると、体の水分の蒸発が防げるような感覚になる。

暑いときは、体を冷やすと楽になった。

寒いときは体を温めた。

そして、外出の時は水分を忘れずに。


−42−

戻る  次へ  ホームへ戻る


脳脊髄液減少症という病



[i]  経口補水塩(ORShttp://hobab.fc2web.com/sub4-ORS.htm