脳脊髄液減少症という病
第6章 7. ブラッドパッチの有効性とリスク
痛みがあちこちにあると、何が原因でどうなっているのか、患者自身も分からない。
脳脊髄液減少症だけでなく、その痛みの中にいろいろな疾患が併発することも多い。
いや、脳脊髄液減少症とは分からずに他の疾患名が付いていることもあるし、
また脳脊髄液減少症と併発することもある。
脳脊髄液減少症が他の病気を誘発することもきっとある。
脳脊髄液減少症を知ってから、麻子はいろいろな病名を見聞きする機会が増えた。
この脳脊髄液減少症という病とよく似た症状がこれほどあるのかと思った。
ブラッドパッチをしても良くならない場合がある、と説明を受けた。
ブラッドパッチが効かない場合があるというのだ。
効かない原因として考えられるのは、
一つは漏れているところへ血液がうまく到達しない場合。
二つ目は外傷や血管周囲の自律神経の器質的障害、他の疾患が合併している場合。
書物には、他に、回復を阻害する要因が強い場合。
つまりストレスや胃腸障害で脊髄液の増加がなかなか美味くできない場合。
もう一つは、血液に極端な貧血がある場合。
第13因子の不足が関係していることも考えられるらしい。
この第13因子とは何か。
それを調べると血液凝固因子であるらしい。
ブラッドパッチは(EBP)は、血液を注入し、
フィブリン膜を作ることで漏れを塞ぐ治療である。
フィブリンとは血液凝固に関する繊維状たんぱく質で、
血液に溶解するフィブリノーゲンから、いくつかの課程を経て、
第13因子の作用でメッシュ状の繊維フィブリンとなり血液凝固を引き起こす。
これが血液凝固、止血のメカニズムらしい。
つまり第13因子が不足すると、フィブリン形成に影響するというわけなのか。
もう一つ知ったことは、血液凝固の時に炎症反応が生じるということである。
ブラッドパッチ後の炎症反応が出るということは、繊維化が起こっているということだ。
そう読んだことがある。
(それはそういうことなのか。)
麻子は、フィブリン膜の写真を検索して見てみた。
ただの膜だった。
(しかし、これを形成するためにあの痛みを経験したのか・・・)
切ない気持ちだ。
フィブリンはメッシュ状の繊維であるため、
一枚のメッシュをかけても漏れが塞がらないことがあるらしい。
何重にもメッシュをかけてこそ、面として破れた場所が塞がれるというわけだ。
つまり、場合によっては何回もブラッドパッチをしなければいけないという可能性がある。
小さな穴が少しならまだしも、あちこち大量に漏れている場合など、
一度のメッシュで塞がらないかもしれない。
ブラッドパッチをしても、漏れに変化の起こらず漏れたままの人もいると聞いた。
(自己血を入れた中が分かる方法があればいいのに)
自己血を入れるということは、そんなに単純に繰り返せるものではない。
何処まで止めれば良いのか、という問題もある。
漏れと生産量の差し引きだという考えも出来るが、それは分からない。
漏れの多さと症状の出方も一致していないと聞いた。
漏れではなくどこかを痛めている可能性もある。
完全に止まらない場合は、回復しないのだろうか。
患者には、治療後経過に関する情報が少なすぎた。
フィブリンを形成するときに炎症反応が出るのであれば、
始めからフィブリンを注入すれば炎症がひどくならないのではないのだろうか、
と麻子は考えた。
血液製剤のリスクを考えると、自己血から作ればよいわけだ。
問題は費用と手間。
それに、どれだけのフィブリンを注入すると良いのか、
たくさん入れたらそれで良いというわけではないだろう。
しかし、フィブリンの方が処置後痛くない気がやはりする。
患者のとっては、炎症反応は苦痛である。
しかし、手間を考えると、その場で採血した自己血の方が簡単にできるだろう。
ブラッドパッチは痛いか痛くないか。人それぞれかもしれない。
そして入れる量によっても違う気がする。
必ず回数が多いと痛いとか量が多いから痛いとか、それも麻子には分からない。
ただ麻子は回数を重ねると痛かったし、痛いときは激痛だった。
治療後の体調は人それぞれのようだった。
歩いている人もいたし、苦しそうにしている人もいた。
ただ、まったくなにも痛くないという感じの人は見かけなかった。
侵襲的治療という表現、その表現がぴったりだ。
ブラッドパッチも他の手段がないから決意する。
症状の苦しみと比べると何でもやろうと思える。
麻子もブラッドパッチをしたから、今散歩できている。
(治療の痛さに耐えたのに、体調が良くならない患者はどんなに無念だろう)
他の疾患の患者でも同じ事だ。
治療に耐えても成果が出ない。
ブラッドパッチ治療を受けても改善していない患者を麻子は病院で見た。
何が原因なのだろうと思ったが、情報がなかった。
ブラッドパッチは安易に受けるのではなく、十分に検査し、吟味して納得して受けるべきかもしれない。
麻子は考え込んだ。
(病とはなんて患者に残酷なんだろう)
泣きたくても、どこに泣いていけばよいのか分からない。
何に対して泣けばよいのか分からない。
限りない切なさだけが自分の目の前にあった。
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脳脊髄液減少症という病