脳脊髄液減少症という病
第1章 4. 病院へ行く
患者は病院へ行くこと自体辛い。
乗り物の振動が身体に響く、頭痛が増す。
座っていること自体が苦しく、麻子は目をつぶりながらじっと耐えていた。
病院へ行くこと自体が辛い、病んだ自分の身体。
初めての病院の前を麻子は見上げ、ふらつきながら、病院の玄関を入った。
(つ・・・着いた・・・)
しかし、倒れているわけにはいかない。
新規の患者は新患の手続きがある。
(何でもいいから早く診察に回して)
麻子は持参した紹介状を受付に差し出した。
紹介状は、それまでかかっていた病院の医師に頼み込んで書いてもらったものだ。
かかっていた医師はもう自宅で少し様子を見たらという意見だった。
(辛くない人は待てるだろうな・・・)
人からはおそらくわかってもらえない。
もう少し、という時間すら限りなく苦しい。
今日一日を過ごすことが地獄のような苦しい。
10年どころか1年も待つことなど出来なかった。
様子見で待っている間に、自分はぼろぼろになり果てているに違いない、
麻子はそう思った。
このままの状態で、何年も生きているのが耐え難い。
そんな患者の苦しみは、人におそらく説明しても分からない。
患者の苦しみ。
(藁にもすがる・・・いや、藁と一緒に沈んでもかまわないから、すがりたい)
病についてある程度学習してから治療を決心するべきだったかもしれない、
と後に麻子は思った。
最初の頃、詳しいことがわからないため、
無知から来る不安や誤解もあったからだ。
しかし、そのとき、調べるだけの体が麻子にはなかった。
苦しくて、痛くて、考えることすら限界だった。
(とにかく、病院で検査をしてもらおう・・・)
麻子は本能的にそう思い、それだけを考えていた。
待合いにたどり着いたときには、麻子は起きていることも出来なくなっていた。
他の患者の邪魔にならないように、麻子は人気のない長椅子を探し、
上半身だけ横になった。
通りすがりの人が、目の前を眺めて通り過ぎて行く。
しかし、人目など気にしていられなかった。
麻子は、ぐったりと横たわった。
(来院患者が少ない日で、空いていて良かったかもしれない)
麻子は通り過ぎる人をぼんやり眺めていた。
みんな歩いていく。
自分は寝ている。
歩けないどころか寝ている。
人々が目の前を通り過ぎる。
自分は、一人このままで取り残される。
人がどんなに動いても、自分はここで寝たまま同じ位置にじっといるしかない。
泣きたいのに、麻子は泣けなかった。
時々、トイレのためにふらふらと立った。
なぜかトイレが近い。
特に乗り物に乗っている最中や、乗った後にはとくにそうだった。
(どんな医師だろう、外科系で、何歳くらいの医師だろう)
麻子は時折通る人の姿をうつろに眺めながら、病院のソファに寝ていた。
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