篆刻は、筆の代わりに印刀を持ち、紙のかわりの石に文字を刻る書道の一分野
です。
漢字や仮名では、作品を仕上げるとき、100枚近く同じものを書き込みます。
それに対し、篆刻は、印稿(印の刻りあがりの原稿)を作る段階で、時間をか
け、刻るのは、「一個」だけです。人によっては、何個か刻るようですが、多
くて、せいぜい数個です。漢字や仮名のように100個近くも刻る人は、まず
いないでしょう。
私は、一つの作品に対して、一つの印しか刻りません。
以前は、刻った印が気に入らず、刻り直したことも何度かありました。刻り直
した印は、前回の作の気に入らないところ、失敗と思ったところがある程度は
修正できても、全体的には、出涸らしみたいな作品になってしまいました。
撰文(刻る文字を選ぶこと)、検字(篆書体を調べる)、印稿での推敲に充分
に時間をかけます。そして、印を刻ることは、全ての作業のの総仕上げです。
それまでの作品への思い入れなどを、すべて出し切って、その一つの印を刻り
ます。
同じ印稿の印を刻り直しても、そこに込めるべきものが自分自身の中に残って
いないのでしょう。
篆刻は漢字や仮名と同じ書道の作品であっても、その点で根本的に違うように
私は感じています。
また、それが篆刻の魅力の一つだと思っています。
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