Chapter30 支配の理
「我々の政権が存続することこそが第一前提だ。 あらゆることがそこから出発し、すべてはそこに帰結する。 我々の政権なくして国の存続はありえない。そのためにはいかなる犠牲もいとわない。国民にいかなる犠牲を強いようとも、結果的にそれは国民自身の幸福につながるのだ。我々のすることすべては国民のためになると言っても過言ではない。国民も表面上はともかく、心の底では常に、我々の政治・経済にとどまらないあらゆる活動を容認している。我々はそれを自覚しなければならない。 国民は戦後、国の行く末と自分の未来を、すべて我々に白紙委任してきた。我々はそれに十二分に応え、国を、敗戦国としては信じられないほど繁栄させてきた。国民の勤勉さ以上に、すべて、道筋をつけ導いてきた我々の功績だろう。 我々は国民に代わり、ありとあらゆる決断を下してきたのだ。この国の国民は自分で判断することが苦手だ。それが国のことや世界のこととなるとなおさらだ。国民の何パーセントかが青雲の志を抱いたのは明治の一時期だけの幻想だ。元来この国の国民は、かつてこの国を支配した合衆国の元帥が言ったとおり、自我においては小学生並みなのだ。それは今も全く変わっていない。かの元帥は現在のこの国の基をすべて創った。我々はかのアメリカ人の遺志を継ぎ、何も決められない小学生国民に代わって、すべてを決めてやっているのだ。 歴史の中で、下からの市民革命を起こしたことのない国民というのは、自分の判断で国の命運を左右するのを恐れる。決断という、多大な勇気を必要とする行動よりは、死んだほうが楽だろうとさえ考える。なんとも哀れな羊のような連中、何とも哀れな、守ってやらなければ何もできない連中だ。江戸時代に、長きに渡ってすり込まれた奴隷根性のなせる技かもしれない。それだけにしゃにむに働くことは得意な連中ではある。道筋さえつけてやれば、安心して自分の仕事に没頭し、よけいなことは一切考えようとはしない。支配者にとってはまことにやりやすい勤勉な国民だ。古今東西の世界の支配者が夢に見るほどの従順な民といっていい…」 総理は持論というか、常に自分が胸の奥底に抱いている勝手な理屈を誰にともなくとうとうと述べていた。自らが『飼い主の哲学』と密かに名づけて面白がっている、その、国民を侮蔑するごたくを口にするとき、自分は国の最高権力者なのだという自覚を新たにするらしい。 つくづく嫌な野郎だと辺田は思った。 どんなに無謀なことを言い出しても、ここでの会話が外に漏れる心配はなかった。 ここは官邸の四階の特別会議室の奥の目立たない小会議室のうちのひとつ、このところ総理が謀議や密議に好んで使う一室だ。 新築された官邸はまことに壮大なもので、どの部屋も天井がドーム球場もどきに高く、中にいる人間は豆粒のように見える。二階から正面玄関へ向かう、あの、大臣が並んで記念撮影をする、ひな壇のような大階段の中央をゆっくり降りていくと、どんな矮小な男でも、全能の国王になったような、陶酔に満ちた目まいを覚える。 官邸は隅々にいたるまで、国賓を迎えても恥ずかしくないようなものを、という名目で、国民の税金を容赦なく注ぎ込んで、贅の限りを尽くして、王宮さながらに建設されていた。 和風を意識するとのことで、国内から集められた最高級の石材や木材をふんだんに使い、幾何学的な無機的な空間に、無理やり竹や和紙や庭石をはめ込んでいた。自らの地位が安定したと見るや、殿様や王様が次にやることは、決まって権威を誇示する城造りというのは、古今東西を問わず浅薄な成り上がりものの共通認識らしい。 初めて見る人は一様に感心するほど、高級ホテルも及ばない豪華さであるが、どこかに地方の成金趣味の温泉旅館のような安っぽさが漂うのは、ここを造って最初のあるじとなった人間と、今あるじとして君臨している人間の品性に由来しているのだろう。 今、彼らがいる部屋も律儀に豪華絢爛さの一翼をになっていた。小会議室とはいえ、天井は出初式ができるほど高く、じゅうたんは草原のように毛足が長い。壁という壁には、壁紙の代わりに厚みのある織物が貼られ、防音効果もこの上ない。天井の一角に据えられた監視カメラも、地下の監視センターに送られるのは映像のみで、音声は一切伝わらない。 もともとここにいる、総理を除く七人は、辺田も含め、総理の私的な忠実な飼い犬のようなもので、ここでの会話の内容が一片たりとも漏れることなど問題外だった。警視総監は大蔵官僚から抜擢されたキャリア貴族、公安委員長は比例区で当選した、いわゆるタレント議員からの抜擢だ。総理秘書官はまさに茶坊主のように控え、他の連中が総理に対して反抗的な言動をしないかだけを看視している。総理の背後に二頭のドーベルマンのように無表情に控えている、見るからに陰気なダークスーツのSPは、会話の内容など問題にせず、ひたすら総理と外界とを隔てるバリヤーになろうとしているようだ。 彼らにとって総理以外のものは、蚊でもハエでも危険因子なのだろう。妙な殺気と迫力を漂わせるSPは、どいつもこいつも同じように見える。自分たち同志でも見分けがつくものだろうかと、辺田は思ったりした。 唯一、対テロ高度対策室『T・H・A・D』(Terrorist High Against Division=サッド)を提唱し、自らもその創立に尽力して、辺田を抜擢してくれた官房長官を除いて、辺田は、ここにいる全員が虫が好かなかった。中でも一番嫌悪感を覚えるのは、もちろん当の総理だった。 総理は、内面もそうだが、外見も醜い男だった。体表肥満。全身、血を吸いまくって膨れ上がった、脂ぎったヒルのようであり、そのぶ厚い唇から発せられる言葉は威嚇や嘲りであることがままある。このコワモテが外交に役立つと評価したがるむきもあるが、コワモテはほとんど国内のみに向けられていた。国会や党内では豪腕と恐れられ、それが乱世といわれるこのときに総理までのぼりつめた一番の理由だが、単に大声でどやしつける技にたけていただけだともいえる。国民にもまことに不人気な、知性に欠ける人物が、国の頂点に君臨する人物になれるということ自体、信じがたいことではあるが、考えてみれば、一般人には計り知れない、長期政権政党ならではの意味不明な欲望均衡力学が働き、どうにもふさわしくない人物が選ばれるのはいつものことなのだ。例外だった前総理が任期を終えて以来、もとに戻ったのだった。 総理は恐竜のような太い首をゆっくり回して、崇拝者たちを誰ともなくねめ回した。いちいち賛同を得る必要はなかった。もとより辺田を除き、ここにいる人間たちからは、総理に対しては礼賛以外発せられない。そしてもとより、総理は辺田のことなどは無視し去っている。顔も覚えてはいまい。前に一度、T・H・A・Dが非公式に認証されたとき、お目通りしているが、下っ端のことなど覚えているような類の人間ではない。 「我々は、新階級社会の頂点にいる。ニューカーストのトップだ。官僚とわが党と、それを支援する財界は新王侯なんだよ。それに群がる連中のみが、新貴族の支配階級だ。わが党の地方組織を見ろ。宗教団体並みの統制で全国を束ねている。役所も同じだ。いや役所のほうが元祖かな。役所の頂点にいるのは政府と中央官庁、つまり我々だ。どの組織も民間も、これをそのままマネたコピーだ。全く右ならえが好きな国民だよな。国の隅々まで同じときてる。おかげで我々の一声に、最果ての小島の住人まで右往左往するってわけだ。 愉快じゃないか。完璧な中央集権国家の完成だな。新律令制度と新封建体制の確立だ。しかしこれは賢明なやり方だ。これこそが国の安定のもとだよ。臆病な国民どもは何よりも安定を望む。それは当然だし、それが一番楽だ。そこそこ食って、あとはワイドショーかサッカーでも見てりゃいいんだからな。 こんにち、国民の70パーセントはサラリーマンだ。つまり飼い犬だな。上役の言うことには盲目的に従う。そして国内の会社という会社は、中央政府の意向に従わなければ存続することすらできなくなる。つまり盲目的に従わざるを得ない。もはや一億以上総家来と言っていいんじゃないか。 だから、見ろ、同盟から立候補して当選しても、当選したとたんにわが党に寝返る奴が続出してるじゃないか。わが党でなければ何もできないというしくみに、社会そのものがなっているということがわかっているのさ。 いくら議員でも知事でも冷や飯食いはごめんなんだ。飼い主側になりたいんだよ。飼い犬は飼い主に支配されることで安心する。メシまで食わしてもらえるんだから、それが犬程度にとっては一番ふさわしい。家臣は殿様に、庶民は貴族に支配されることで、社会は落ち着き、安定する。温厚な国民が望む安定の継続さ。安定の第一前提はわが党の政権の継続しかない。こうなるとわが党はもはや『国体』だな。 しかし世間の不心得者の中には、現代は閉塞しているとぬかす奴もいる。何が閉塞だ!それは安定の別表現に他ならないじゃないか。あるいは安定と引き換えであれば、いくらかの行き詰まり感は、当然がまんしなければならない犠牲じゃないかね。 なによりも、わが党が60年以上も政権の座にいるということは、一歳の赤ん坊が六十のジジイになるまでということだ。こうなればもう身体の一部だ。親子以上だよ。もはや切ろうたって切れるもんじゃない。とりわけ自立しないバカガキは死ぬまで親と一緒にいるしかない。バカガキは強い親に逆らう勇気はない。そんなやつらが増えているじゃないか。こうなるともう犬というより家畜のレベルだな。かわいい子豚ちゃんってわけだ。 わしの予感では、わが党の政権は永久に続くぞ。わが党の議員全員が地位を世襲させるからな。まさに公家貴族だ。国民は二世議員を歌舞伎の御曹司のようにもてはやしてくれるじゃないか。サラブレッドとかプリンスとかいってな。おばさんたちは若い二世が好きだ。まったく、ワイドショーしか見ないババアとボケたジジイと、選挙に来ない若い奴らは我々の最大の支持母体といっていいな…感じたことはないかね、この選挙にいかない若い奴らの大半が新貧民階級なんだと。定職につかず、フリーターと称してその日の食い扶持を稼いで年中のらくらしているナマケモノどもさ。将来は年金暮らしならぬホームレスで悠々自適ってわけだ。クソガキどもだな。ま、こいつらにもいいところはある。政治に関心を持たないから、デモは行わないし、支配者の言うことには何でも従順に従う。自分が貧乏なのは国が悪いからだなどと言い出す勇気もない。ありがたい骨なしのクズどもだ…」 総理は自分の話にゲラゲラ笑った。他の連中も、居心地悪そうながらお愛想笑いを浮かべる。 笑い方まで下品な奴だ、と辺田は、総理の、言い訳めいてもいる底なしの言いたい放題にすっかりあきれていたが、神妙に聞いているふりを続けていた。 「しかし、支配者側にも大きな欠点がある。これは古今を通じて変わらないことだが、生産性がまるでないということだ。つまり国民から、被支配階級からむしり取る以外ない。まあ、奪われたことのない自由にどっぷり浸かって、ひたすら安易に流れる国民だからな。安易には代償がつきものだ。タダじゃない。 特権階級や支配層はしかるべき利益を受けて当然なのだ。決断しない、責任をとらない子供を養って、かわりにすべてをやってきた親だからな。働くことしかしたがらない植物のような連中を導いてきたんだ。国民を導く階級の人々にとっては、ある程度の、被支配者たちをはじめとするもろもろのことがらの私物化はやむをえないのじゃないか。国民だってじつは気づいていて、なかば黙認しているのだからな。だいいちそのほうがものごとがうまく進む。なにしろ社会のルールになってしまっているんだ。 わしはそのルールをもう少し推し進めたい。つまり国民にもっと献身してもらいたい、さらに犠牲的精神を美しく発揮してもらいたいんだ。ケネディも言ってるじゃないか、汝が国に何をなしうるかを問え、とな。 もっとなしてもらいたい、主人のために…」 総理には、言わんとする何か『含み』があった。 もちろん辺田はこのとき見当もつかなかったが、ここにいる小人数はそのことに感づいているようだった。 「しかし、痛みを強いるのも度が過ぎると、やはり反発を招きます。」 おとなしく聞いていた取り巻きの一人、公安委員長が落ち着かなそうに付け加えた。 総理は気を悪くするどころか、逆に自信を深めたように、すべてを知る全能の神のように言った。 「心配ない。国民は今や下駄の雪だ。上から何をしても、表立って反抗などしない。貧困になろうと何になろうと、安定した社会が揺らぐのを、自分が重大な決断をしなければならない立場になるのを、何より恐れるからな。」 「しかし、総理の人気に直接かかわってきますよ」 たまらず官房長官が言った。 「人気というのは、国民が尻馬に乗りたがるおまけ£度のものだ。基本はけして変わるもんじゃないさ。」 総理はいっこうに意に介するふうはなかったが、ふと思い出したように言った。 「前の総理はわけもなく人気があったな。改革改革とわめいて、意味不明なパフォーマンスをやってるだけで、民衆は拍手喝さいときた。まさに改革念仏のサーカス小僧だ。 改革なんて江戸時代にいくらでもあったろう。社会や体制がどうしようもなく行き詰まったときに、為政者が自分の政権の延命のために言い出す中身のないお題目だ。民衆は知っていながら騙されたがった。それは今も同じだ。前の総理は、言ってる本人でさえ改革の意味がわかっていないのに、国民は無理に信じようとしてくれた。 やたらとテレビに出るので、タレント並みの親衛隊までできて、反対する国民がいるとつるし上げるんだそうだな。かわいいペットちゃんか教祖様ってわけだ。 むかし東京を大赤字にしたバカな知事がいたが、そいつと似ている。都民は、ただその知事がかわいいから、親しみ易いからというだけで、何をやっても喜んだ。政治など全く存在しなくてもよしとした。それだけで何度も何度も当選させ、赤字をどんどん膨らませるのを、見て見ぬふりをしたんだ。信じられるか、この国の国民はそれほどバカなんだ。 わしはさすがに、あんな、前総理のような、サーカス小僧のマネはできん。いくら人気を集めるためだとはいえ、大の大人にはガキっぽ過ぎて照れくさい。ガキのアイドルグループじゃないんだからな。世界の指導者たちはあの小僧をどう思っていたんだろう。修羅場をくぐってトップの座についた、各国のリーダーから見れば、まるっきりボンボンにしか見えない、典型的な二代目のバカ旦那を。 ま、誰が総理であっても、わが党の政権はゆるぎないだろうが、ここで注意しなきゃならんのは、そっくり同じ政党が登場してくるってことだ。つまり国民がわが党と対立党との見分けがつかなくなる。コピーしたようにそっくり同じやり方、同じ性格、国民を食い物にするという基本姿勢まで同じだとしたら、国民はどっちでも同じだろうと錯覚する可能性が出てくる。こうなるとやっかいだ。 だから、同盟とその支援団体の存在は危険なんだ。我々が六十年かかって築き上げてきた利権を、そっくり取って代わって乗っ取ってしまうことだってありうる。 そこでだ、例の件の捜査はどこまで進んでいるんだね?」 官房長官が辺田捜査官をうながし、ようやく辺田の出番がきた。 辺田捜査官がこれまでのいきさつをかなり手短に説明しはじめると、それでも総理はハエでも追うようにさもうるさそうに右手を振ってさえぎった。 「わしが聞きたいのはそんなことではない。結果だ。誰が黒幕なのか一言で言ってもらいたい。」 辺田は、番頭が丁稚に対してとるような、その尊大すぎる態度に鼻白んだが、無表情を装って答えた。 「当初からこの事件を追っている、所轄舞網署の耕下警部補の見解とも一致しますが、ある特定の右翼団体がからんでいる可能性があります。」 「つまらんな。」 「は?」 「つまらんと言ったんだよ。テロもどきの事件とくれば、右翼団体に結びつけるのは誰もが考える常識みたいなもんだ。わしが聞きたいのはそんなことではない。」 辺田の方をたいして注視もせず聞いていた総理は、ここで完全に辺田を無視し去ると、二人でワンセットのようにそろって鎮座している警視総監と公安委員長に向きなおった。 「総監、容疑者にまんまと逃げられてしまったのは、君の重大な失態だ。このことは自覚しているんだろうな。」 おいでなすったとばかり、総監は身を硬くして小さくなり、下をむきがちに言った。 「申し訳もありません。いったんは捕らえておきながら逃走を許してしまったのは、しかも、警察機構内部たる市籠署内での傷害や破壊などの暴力行為も止められなかったのは、我々の落ち度としか言いようがなく、全く申し開きのできない事態だと…」 おろおろ平身低頭する総監に対し、 「大いに責任を感じてもらわねばならん。」 と一言でくくるように言うと、すかさず公安委員長にも釘を刺した。 「君も同じだ、委員長。君たちは一心同体だ。世間には君たちの区別がつかない人間だっているんだよ。」 委員長もたちまちうなだれた。 「世間の風当たりも強くなる。政府部内には解任の声も出はじめている。」 二人はますます小さくなる。 「そこで君たちが今、どうしてもやらなきゃならないのは償いだ。それをやらなきゃ、二人ともクビにせにゃならん。しっかり償ってもらおう。今こそ失点を挽回するんだ。いいか、この一件を、災いを転じて福とするのだ。十二分に利用するのだよ。」 二人は思わず顔を上げて総理を見た。 「テロ対策特別法は何のために成立させたと思うね。現政権に反対するものはすべてテロリストとみなすことができるんだぞ。国民皆背番号のおかげで、全国民の色分けが完了していると前に言ったな、総監。その中で高いレベルの奴をあげるなり、マークするなりするのは治安上当然のことじゃないかね。テロを未然に防ぐためには。」 なるほど、特高≠ニ同じことをやれってわけだな、辺田は思った。 「つまり同盟をマークしろと言われるので?」 委員長が目を丸くしてたずねた。 「必要はあるだろうな。いや、一番マークしなきゃならん相手かもしれん。いままでノーマークだったというほうがうかつじゃないかね?」 「しかし、そんなあからさまな反対政党潰しに公安を使うのはいかがなものでしょう…」 「例の秘書給与の件で、同盟の連中を大勢あげてくれたのは嬉しかったねえ。奴らのさもしさ、涙が出るほどのみみっちさを十分世間にPRできた。あのときの同盟のイメージダウンほどわが党に有利だったことはない。体操選手あがりで、人気だけの比例区代議士が、公安委員長のポストにまでとりたてられたんだから、努力するのは当然だがね。委員長になった早々の大手柄だったな。中でもあのこうるさい小娘をあげたのは痛快だった。泣きべそ娘に、わしのタマをしゃぶったら、わが党からくらがえ出馬させて、しかも楽に当選させてやるぞと、本気で言おうかと思ったほどだ。だが、あの件はもういい。やり過ぎると、なぜ野党の代議士ばかりなんだと、いぶかしむマスコミも出てくる。君には、今度はもうひとつ踏み込んだウルトラCを見せてもらいたい。ウルトラCだよ。」 総理はにやりと笑った。 「家宅捜索や事情聴取は、クロという裏づけがないと行いません。」 「そんな正式なものでなくとも、単に関連するもろもろについて話を聞くだけだ、というポーズだけで十分だろう。マスコミが一時的に騒げばそれでいい。そのあとはほうっておくさ。イメージダウンだけで十分なんだ。」 「しかし、さきほど言われたように、政権交替を国民が望んでいないのが確かであれば、デッチあげだと非難されるような危険をおかしてまで、無理して反対党を封じ込める必要もないのではありませんか。」 意外にも公安委員長は慎重だった。 「党内事情さ。党内でのわしの立場をより堅固にするためだ。わしに対立してくるものすべてに、党内においてもにらみをきかせる。」 辺田捜査官は、こいつはかつてないくらいとことん下劣な奴だと思ったが、もちろん表情に出したりはしなかった。 |
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