Chapter31 弾圧の謀
「こちらは同盟代表の自宅前です。さきほど20人を超える人数の捜査員が、正面玄関から中に入ってから、20分ぐらいが経過しています。いまのところ動きはありません。 同盟代表が当局から事情聴取を受けるかもしれないという第一報が入ったのは今から一時間ほど前です。現在このあたりは百人近い報道関係者で騒然としている状況です…」 「現場の野馬さん、捜査員は普通に、代表のお宅へ入っていったんですか?」 「はい、普通に、二本の足を右左と交互に出して歩いて入っていきました。」 「いや、そうじゃなく、令状とかを開示して、入ったわけではないんですね?」 「はい、インタホンを押して、宅配便の配達係みたいにして入っていきました。」 「では、野馬さん、当局の事情聴取ということなんですが、それは何に関連してのものなんですか?」 「…それが、はっきりしません。ですが、並々ならぬ力を入れていることは確かです。それが捜査員の数に表れています。」 「我々としては、つい、もしやあの天誅団の事件と関連があるのでは、と推測してしまうのですが…」 「それについては先ほど、捜査員のほうから私たちマスコミ関係者に向けた説明がありました。それによりますと、今回、代表に庁まで同行してもらうのは、あくまで話を聞くというのが目的なのだとのことです。けして逮捕などにつながるものではない=A任意同行までもいかない、自由意志で説明に来てもらうのだとうことを、繰り返し強調していました。」 「マスコミに説明というのも異例ですが、その説明そのものも微妙な言い回しですね。話を聞くだけなら、何人もの捜査員がいくという、このものものしさは何でしょう。代表宅に入るときのVTRを見たかぎりでは、まるでいますぐにでも逮捕といった雰囲気だったじゃありませんか。」 「これまで、同盟と一部反体制グループとのかかわりを指摘する声が、主として政府筋の一部から出ていたこともありました。しかし全くといっていいほど根拠はなく、私どもはじめマスコミは、デマや中傷のレベルとみなしてきたわけです。しかし、こうなってきますと、それがなにかしら現実味をおびてきたのか、という気もします。」 「これまでの情報によりますと、本日早朝から、テロ特別対策法に基づいて、過激派や反体制グループ、そしてその支援者とみなされる団体などへの摘発や捜索が全国一斉に行われているといいます。あわせて関係者の事情聴取も行われているんだそうです。 こうなると、どうしても同盟代表の事情聴取も関連づけて考えざるをえませんね。」 「はい、今日の突然の一連の動きは、やはりあの天誅団と名乗るグループを意識したものにはまちがいないようです。頭をもたげはじめたテロ集団と思われるグループの封じ込め、けん制するねらいがあります。全国的にみますと、すでにこの時点で逮捕者も出ているようで、拘束者はかなりの数に上っているようです。」 「なんだか一斉摘発の様相も呈してきてますね。」 「捜査員の中には頂上作戦という言葉を使っている人もいます。」 「頂上作戦というと、あの、ヤクザの幹部クラスばかりを狙って逮捕に踏み切るという、あれですね。まるで同盟の代表が頂上みたいに見えてくるじゃありませんか。どうりでというか、今までこちらに入っている情報によると、全国の拘束者の中には、同盟の関係者も数多く含まれているということで、同行や連行に反発してトラブルも発生しているとの情報もあります。疑わしきはすべて拘束というふうにも見えてきますね…」 「あっ、今、同盟の代表が出てきました!大勢の捜査員に伴われ、代表が姿を現しました!にこやかです。いつもと変わりません。テレビカメラに手を振る余裕も見せています。自宅を出て、それから捜査員の車に向かうようですが…… あっ、立ち止まりました、代表が立ち止まりました!捜査員の一人が歩くように促しているようですが、応じません、代表は応じません!捜査員が背中を押して、両手を引いて、まるで容疑者を連行するように連れて行こうとしていますが、代表はこれに反発しています。 抗議しているようです。捜査員に激しく抗議しています。 あ、代表がテレビカメラに向かって何か話しています。記者が代表に群がっていきます。捜査員の制止をきかず、各局の記者やレポーターが代表の周りに集まっていきます。何本かマイクが向けられました。代表の声が……今、聞こえるようになりました!代表はマスコミに向かって何か話そうとしています…」 「皆さん、私は連行されていくところです。捜査員は連行ではないと言っています。しかし、これは皆さんの目に映るとおり、明らかに連行です。 これが彼らの狙いなのです!にわかには信じられないような、あきれた話ですが、これは、明らかにわが党のイメージダウンを狙ったある種の陰謀にまちがいありません! 捜査員は、聞きたいことがあるだけだと言いました。聞きたいことがあるだけなら、私の自宅でもできるはずです。きっぱり断った私を、なぜ容疑者のような扱いで強制連行しなければならないのでしょう。つまり、これが目的なのです。私が連れて行かれるのを、たくさんのテレビカメラで映し出し、全国に放送させるということが狙いだったのです! もちろん私は、皆さんよくご存知のとおり、全く無実であり、容疑など影も形もありません。これはあきれ果てたでっちあげであり、政府の意向に沿った選挙対策なのです。 おわかりですか、皆さん。この国では今まさに危険なことが起こっています。この国は大変危険な国になりつつある。これが、これが何よりの証拠です。官憲が権力の手先となって、無実の者を陥れようとしています。注意して下さい、皆さん。いつ皆さんが私と同じ目にあうかもしれない。 私のことは心配いりません。私は連れていかれますが、すぐ解放されるでしょう。私の連行風景がこの人たちの目的なのですから。罪の証拠などひとかけらもあるわけがありません。 皆さん、これは秘密警察の手法です。全国でこんなことが起こっているということは、憂慮すべき独裁化が進んでいるということです。すでにこの国は独裁国家への道を進みだしているのです。 これは政府に反対する者へのあからさまな弾圧です。いまは江戸時代ですか、皆さん。これではまるで安政の大獄ではありませんか。このようなことをしていては、国民の反発は、当の政府に向けられることは必至です。国民の怒りの声と非難の矛先は総理に向けられることはまちがいありません。やがて総理は手痛いしっぺ返しを受けることになるでしょう。私とわが党は、権力の横暴と断固戦い続けるつもりです……」 「おっと、どうしたんでしょうか、音声が途切れましたね。マイクの音が切れました。ははあ、どうやら捜査員にマイクを止められてしまったようですね。 捜査員が大勢で代表を取り囲みはじめました。カメラや記者に、下がるようにと指示してますね。ちょっと強引なやり方のようですが。 代表は捜査員の陰に隠れて見えなくなりました。代表はまだ何か話し続けているようなようすなんですが、どうやら車に乗せられてしまったようですね……」 |
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