涼宮ハルヒの憂鬱 孤島症候群 ―前編①―
配役比率 ♂3:♀3=六名
キョン:「何をたくらんでるのか、聞かせてもらおう」
古泉:「何も。・・・本当ですよ?
言っておきますが、この件に期間は無関係です。
一応報告はしましたけど。いいじゃないですか、合宿も」
キョン:「俺が引っかかっているのは、お前がセッティングした旅だってことだ」
古泉:「涼宮さんが興味を持ったのは、個人所有の無人島、だってことらしいです。
クローズドサークルが・・・とか言ってましたね」
キョン:「クローズドサークルってなんだ?」
古泉:「ミステリー用語ですよ。
外部との直接的な接触を断たれた状況のことです」
キョン:「あの・・・吹雪の中の山荘とか、
台風でつり橋が落ちて隔離されたペンション~みたいなことか」
古泉:「周りの環境によって、当事者がその場に閉じ込められてしまう。
つまり、クローズドというわけです」
キョン:「それが今回の合宿とどうつながるんだ?」
古泉:「人里離れた無人島ですよ?
これで嵐でも来れば・・・クローズドサークルとしては、
吹雪の山荘に並んで双璧を誇っている舞台になります」
キョン:何故俺が、この大海原で古泉と話をしているのかといえば、
期末テストの返却というブラックマンデーからようやく立ち直りかけていたあの日、
あの会議に遡らなければならない。
ハルヒ:「みんな!揃ってるわね?
今日は重要な会議の日だからね!
あたしより遅れて来たやつは・・・
缶蹴りで永遠に鬼の役の刑にしようと思っていたところよ」
キョン:今日が会議の日なのであることを、俺が聞いていないのは言うまでもない。
ハルヒ:「夏休みに、SOS団初の合宿をすることが決定されたわ!」
キョン:「合宿だと!?」
ハルヒ:「そ!合宿♪」
キョン:俺たちがそんなもんして、何になるんだ!
ハルヒ:「もう場所も決まってるのよね、古泉くん!」
古泉:「僕の遠い親戚に、結構な富豪である人がおられましてね。
無人島を買い取ってそこに別荘を建てるくらい、金を持て余している人なんです。
その館が先日、落成式を迎えたんですよ」
ハルヒ:「・・・喜んでちょうだい、古泉くん!
この功績により、あなたを二階級特進して、
SOS団副団長に任命します!」(副団長の腕章を渡す)
キョン:「・・・」
古泉:「拝領します」(腕章を貰い、キョンにウインクをする)
キョン:・・・うらやましくねえよ!
ハルヒ:「というわけで、三泊四日の豪華ツアー!行くわよ、孤島!
きっとそこには面白いことが待ち受けているに決まってるの!
あたしの役割も、もう決まってるんだからね!!」(名探偵の腕章をつける)
古泉:「では、名探偵について考えてみましょう。
ミステリー的創作物の名探偵たちは、
何故か次々に不可解な事件に巻き込まれることになっています。
何故だと思いますか?」
キョン:「そうしないと、話にならないからだろ」
古泉:「大正解です。そのような事件はフィクション。
非現実的物語の世界にしかありません。
ですが・・・ここでそんなメタフィクショナルなことを言っていては、身もフタもありませんね。
涼宮さんはまさにそのような世界に、身を投じようと考えているようですから」
キョン:「そういえばSOS団は、そのためにあいつが作ったんだったな」
古泉:「そのような非現実的で、ミステリーな事件に遭遇するには、
それにふさわしい場所に出かけなければならない。
なぜなら、創作上の名探偵たちはそうやって事件に巻き込まれるからです」
キョン:「そんなに都合よく事件が起きるわけないだろう」
古泉:「確かに。現実は物語のようにはいきません。
しかし、今向かっている孤島という場所は、
殺人事件の舞台としてうってつけだと、世間的に考えられているのです」
キョン:どこの世間だ、それは。えらく狭い世間もあったものだ。
古泉:「言い換えれば、名探偵の現れるところに、
奇怪な事件は発生するんですよ。
名探偵と呼ばれる人間には、事件を呼ぶ超自然的な能力があるのです」
キョン:「正気か?」
古泉:「僕はいつでも、ほどほどに正気のつもりです。
名探偵やクローズドサークルうんぬんは、僕がそう考えているわけではなく、
涼宮さんの思考パターンをトレースしてみただけです。
あーつまりですね、彼女はなってみたいんですよ。・・・名探偵に」
(全員が輪になって座り、トランプをしている)
ハルヒ:「む~・・・これだ!ぁあ~惜しい!」
キョン:ババ抜きに惜しいはないだろ。
ハルヒ:「はーい!次つぎー!」
古泉:「・・・残念」
妹:「ねぇねぇキョンくんね、あたしを置いていこうとしたんだよぉ」
キョン:連れて行く予定なんてなかったからだ。
~キョン自宅~
キョン:「!・・・?」
(玄関を出ようとかばんを持つが、あがらない)
キョン:「ひぃっ!」
(チャックを開けるとかばんに妹が入っていた)
妹:「てへっ☆」
キョン:「・・・」
(出て行こうとするキョンの腕を引っ張り、ひきとめる)
妹:「やー、ぃやぁー!」
みくる:「ふふ、大歓迎でしたのにねー」
妹:「ねー!」
キョン:「よろしくおねがいします」
みくる:「ん!」
キョン:朝比奈さんの笑顔に免じて、許してやるか。
ハルヒ:「あと、どれくらいで着くの?」
古泉:「このフェリーで、約6時間ほどの旅になります。
到着した港で、知り合いが待っていてくれる手はずになっていまして、
そこから専用クルーザーに乗り換えて、1時間ほどの航海ですね。
そこに孤島と、そびえたつ館が待っているというわけです。
僕も行ったことがありませんので、どのような建物なのかよく知りませんが」
ハルヒ:「きっと変な建物なんでしょうねー!ねえ、設計した人の名前わかる?」
キョン:聞いてどうする。
古泉:「そこまでは聞いてませんが」
妹:「わーい!いっちばーん!」
みくる:「すごーい!」
古泉:「それなりに有名な建築家に頼んだ、というようなことは言っていたような」
キョン:それなりで結構。
だいたいハルヒが期待するような屋敷だったら、
それは多分三日くらい徹夜続きの上に、
アル中で朦朧としたガウディが、居眠りしながら設計したような奇怪なものになるだろう。
みくる:「やったぁ!二番ですー!」
ハルヒ:「島!館!SOS団の夏季合宿にふさわしいったらないわね!
・・・あっがりー!三番!
言っとくけど、負けたらジュースおごりだから。
あたしはフルーツ果汁100%でいいわ」
妹:「あたしコーラ!」
古泉:「では僕は、ロイヤルミルクティーを」
キョン:「お前は勝ってから言え」
ハルヒ:「やっぱ孤島といえば事件よね!」
キョン:何も起こりませんように。何も起こりませんように。
古泉:「ッハハ。どのような出来事を事件というのかは定かではありませんが・・・
愉快な旅になることを、願っていますよ」
ハルヒ:「んっくんっく・・・・ぷはぁ!
妹ちゃん、みくるちゃん!デッキに行きしょう!
化け物イカが出てくるかもしれないし!」
みくる:「へ、あぁっ」
妹:「うん!行こー!」
(ハルヒと妹がみくるを引っ張り、連れて行く)
キョン:いかんな。そんなことになれば長門の出番だが。
有希:「・・・」(正座してお茶を飲んでいる)
キョン:・・・やれやれ。
ハルヒ:「なぁに寝てんのよ、バカ。さっさと起きなさいよ!
あんたは真面目に合宿するつもりあんの?」
(カシャ)
キョン:「ぅ・・・あ」
みくる:「ふふっ。寝起きの写真撮っちゃいましたーv
寝顔も撮っておきました。よく寝てましたよ」
キョン:? 寝顔? 朝比奈さんが俺を隠し撮りする理由はなんだろう。
・・・ひょっとして、可愛らしい写真立てに入った俺の写真を枕元に置いて、
夜ごと夢の世界に・・・。
ハルヒ:「何ニヤニヤしてんの?バカみたいだからよしたほうがいいわ。
みくるちゃんには今回、SOS団臨時カメラマンになってもらうことにしたのよ!
我がSOS団の活動記録を、後世に残すための貴重な資料とするわけ!
でも、撮るのはあたしの指示よ!」
キョン:「それで?俺の寝顔と寝起き顔の、どこに資料的価値があるってんだ」
ハルヒ:「合宿の緊張感も持たずにマヌケ面で寝てるあんたの写真をさらすことによって、
後の世の戒めとすんの!
いい?団長が起きてんのに下っぱがぐうぐう寝てるなんて、
モラルの規律と団則に違反するんだからね!!」
(船の汽笛が鳴る)
ハルヒ:「! ・・・さあ、行くわよ!不思議な島が待ってるわ!」
キョン:不思議な島ねえ・・・。
キョン:「パノラマ島とか、インファント島じゃないよな?
せめて突然浮き上がったり、泳ぎだしたりしなければいいのだが」
古泉:「大丈夫ですよ。何の変哲もない、単なる離れ小島です。
そこには怪獣も、頭が一風変わった博士もいません。僕が保証します」
キョン:お前の保証が一番信用出来ないからな。
古泉:「やぁ、新川さん!お久しぶりです。
森さんも、出迎えご苦労様です。わざわざすみませんね。
こちらが、僕のかけがえのない、友人の方達です」
新川:「こちらに船を用意してございます。
我が主の待つ島までは半時ほどの船旅になります。
不便かと存じますが、ご容赦のほどを」
ハルヒ:「全っ然かまわないわ!それでこそ孤島よね!
半時と言わず、何時間でもいいわ。
絶海の孤島があたしの求める状況だもの!
キョン、みくるちゃん?あんた達ももっと喜びなさい!
孤島には館があって、怪しい執事とメイドさんまでいるのよ!?
そんな島は日本中探してもあと二つくらいよ!」
キョン:二つもねえよ!
みくる:「わ、わぁ、すごいですねぇ~。楽しみだなぁ~」
ハルヒ:「ふふっ!」
妹:「うーわぁ!」
みくる:「・・・」(森さんをじっと見ている)
キョン:森さんから、メイドのなんたるかを勉強しようとしているのだろうか?
変なところで真面目なんだからなぁ。
ハルヒ:「それで?その建物はなんて呼ばれてるの?」
森:「・・・といいますと?」
ハルヒ:「黒死館とかリラ荘とか膏血(こうけつ)城とか・・・
そんな感じの名前がついてるんでしょう?」
森:「いいえ。特に」
ハルヒ:「おかしな仕掛けがいっぱい隠されていたりとか、
設計した人が非業の死を遂げたとか、
泊まると絶対死んでしまう部屋があるとか!」
森:「ございません」
キョン:・・・空気が死んだ。
ハルヒ:「ねえ!館の主人が仮面かぶってるとか、
頭の中がちょーっとさわやかな三姉妹がいるとか、そして誰もいなくなったり・・・」
新川:「しません。・・・まあ、今のところはまだ」
ハルヒ:「じゃあ、これから起こる可能性はかなり高いわね!」
新川:「そうであるのかもしれません」
ハルヒ:「・・・うわぁ!見えてきた!あれが館!?」
新川:「別荘でございます」
ハルヒ:「・・・なんか普通ね」
妹:「あの人だーれー?」
ハルヒ:「屋敷のご主人かしら?ずいぶん若いけど・・・」
古泉:「僕達以外の招待客ですよ。
館の持ち主の弟、多丸裕(たまる
ゆたか)さんです。
前に一度だけ、会ったことがあります」
キョン:「そういうことは先に言っておけよ。
俺達以外にも呼ばれてる人がいるなんて、初耳だぞ」
裕:「ようこそ!」
(ピーンポーン)
圭一:「やあ、いらっしゃい」
ハルヒ:「今日はお招きいただき、誠にありがとうございます。
こんな立派なお屋敷に泊まれるなんて、ものすごくありがたいと思います。
全員を代表し、ここにお礼申し上げます」
圭一:「あれま。一樹くんから聞いていた噂とはずいぶん違うねえ。
確か・・・もっとフランクな少女だとばかり」
ハルヒ:「! そう?
・・・初めまして、館のご主人!
さっそくですけど、この館何か事件が起こったことある?
それにこの島、現地の人からなんとか島とか呼ばれて、恐れられてる言い伝えとかない?
あたしはそういうのが趣味なのよー!」
圭一:「・・・アッハッハ。
君の趣味には大いに同調するけど・・・事件はまだ起こったことはないよ。
つい先日完成したばかりの建物だからねえ。
島の来歴についても、特に不吉とは聞いてないが。
無人島だったしね。さぁ、立ち話もなんだからどうぞ中へ。
洋風だから、土足のままでかまわないよ」
みくる:「わぁー、素敵な部屋~」
ハルヒ:「案外普通ね・・・」
古泉:「まあ、一人一部屋ということでいいではないですか。
ちなみに、鍵はかかりますよね?」
圭一:「もちろんだ。オートロックで閉め出されることはないが、
鍵はなくさないようにしてくれたらありがたい」
みくる:「妹さんは私と一緒ね」
キョン:「おとなしくしているんだぞ」
妹:「はぁ~い」
ハルヒ:「怪しくないのが逆に怪しいわ!」
キョン:「じゃあ、見るからに怪しかったらどうなんだよ」
ハルヒ:「見たままよ!怪しいに決まってるじゃない!」
キョン:つまりこいつの私観では、怪しくないものなど一つもないということか。
ハルヒ:「・・・・・・わかったわ!」
キョン:「なにがだ」
ハルヒ:「犯人!」
キョン:「何の犯人だ!
まだ何も始まってなどいないぞ!到着したばかりだろうが!」
ハルヒ:「あたしのカンでは、犯人はここの主人・圭一さんよ!
最初に狙われるのはみくるちゃんね!」
みくる:「ひぃ!ほぇ、およおよ・・・」
キョン:「世話になってる身で、なに物騒なこと考えてるんだ!
少しは高校生らしくだなぁ、んー!?」
ハルヒ:「・・・そうね。まずは泳ぎね。
海に来たら、泳ぐ以外の何もすることはないといっても過言ではないわ」
キョン:やれやれ・・・。
まぁさすがにハルヒでも、心底人死にが出ることを望んでいるわけではないだろう。
(海)
キョン:今回の旅で、一番の収穫はこの瞬間だ。
キョン:「これでこそ、海の合宿ってもんだ。・・・ん?」
(砂浜で本を読む有希)
古泉:「楽しみ方は、人それぞれですよ。
余暇の時間は、自分の好きなように過ごすべきです。
特に涼宮さんには、退屈を紛らわすことが出来るように、こちらから娯楽を提供するまでです」
ハルヒ:「こらー!キョン、古泉くん!あんたらも来なさーい!」
妹:「あたしもー!
(古泉がふくらませたボールで遊ぶ)
妹:「こっちこっちー!」
みくる:「ぇえーい!」(みくるの胸が揺れる)
キョン:どれがビーチボール!?
みくる:「・・・ふぅ」
~別荘~
(夕食)
妹:「おいしいねー、みくるちゃん!」
ハルヒ:「すっごくおいしいわ!誰が作ってるの?」
圭一:「執事の新川が、料理長も兼ねている。なかなかのものだろう?」
ハルヒ:「是非お礼を言いたいわね。後で呼んでちょうだい」
(次々と食べ物を口に運ぶ有希)
裕:「・・・よく食べるねえ」
森:「お飲み物がいかかですか?」
妹:「んー・・・」
みくる:「どうしたの?」
妹:「ピーマン嫌ぁい」
キョン:「ちゃんと食べないと、朝比奈さんみたいになれないぞ」
妹:「うぇー」
キョン:「こんな究極なメニュー、めったにないんだから」
圭一:「ハハ・・・」
ハルヒ:「・・・ぷはぁっ!ホントにこれ全部タダでいいの?
学校の食堂もこのくらい気前がよければいいのに!」
(浜辺で花火をするハルヒ達)
キョン:こうして充分過ぎるほど、多丸氏のご好意に甘えた俺達は、
変わったこともなく無事一日目を終了した。
と・・・ここまでで終わっていれば、どれほど救われたことだろうと思う。
続