涼宮ハルヒの憂鬱  笹の葉ラプソディ 前編

 

 

配役比率 ♂2:♀2=4名

みくる(大)=大人バージョンみくる

ハルヒ(中)=中学生のハルヒ

 

 

 

 

 

 

キョン:季節は夏。

期末テストを間近に控え、

俺の中の愉快な気分はブラジルあたりを彷徨って、

当分戻ってきそうにない。

 

(教室。ハルヒがキョンの背中を突いて話しかける)

 

ハルヒ:「ねえ、今日はなんの日か知ってる?」

 

キョン:「お前の誕生日か?」

 

ハルヒ:「違うわよ」

 

キョン:「朝比奈さんの誕生日?」

 

ハルヒ:「違う!」

 

キョン:「古泉か長門の誕生日」

 

ハルヒ:「知らないわよ、そんなの!」

 

キョン:「ちなみに、俺の誕生日は・・・」

 

ハルヒ:「どうでもいい!

・・・あんたってやつは、

今日がどんなに大切な日かわかってないのね!」

 

キョン:俺にしてみれば、ただ暑い平日でしかないのだが。

 

ハルヒ:「今日が何月何日か言ってみなさいっ」

 

キョン:「7月7日・・・。

もしやとは思うが、七夕がどうとか言い出すんじゃないだろうな?」

 

ハルヒ:「もちろん言い出すつもりよっ!

七夕よ、七夕!

あんたも日本人ならちゃんと覚えてないとダメじゃないの!」

 

キョン:「あぁーそう」

 

ハルヒ:「あたし、こういうイベント事はしっかりやることにしてんの。

今年から七夕は、団員全員で盛大にやるわよ!!」

 

キョン:・・・・始まったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

キョン:ハルヒが何か言い出すたびに、

意味もなくあちらこちらをうろちょろしなければならなくなってしまうという法則が、

この春からの俺の日常となりつつある。

そんな日々に慣れは始めている自分が、ちょっと嫌だ。

 

(コンコン)

 

みくる:「はぁ~い」

 

キョン:「オーッス」

 

みくる:「こんにちわ~」

 

古泉:「どうも。調子はどうですか?」

 

キョン:「俺の調子は高校入学以来、狂いっぱなしさ」

 

みくる:「はい」(お茶を出す)

 

キョン:「ありがとうございます」

 

みくる:「どういたしまして♪」

 

古泉:「どうです、一局?

オセロばかりでは飽きてしまいますからね」(チェス盤を取り出す)

 

キョン:「あいにくだが、俺はルールを知らん」

 

古泉:「それは残念」

 

キョン:「のん気に構えてられるのも今のうちだぞ?

あいつがまたつまらん事を思いついて・・・」

 

(ガチャ、とドアが開く)

 

キョン:「!」

 

ハルヒ:「やっほーっい!!

メンゴメンゴ!遅れてゴメンね!」

 

(ハルヒが大きな笹の葉を持って入ってくる)

 

キョン:「どっから持ってきたんだ、そんなモンと挨拶」

 

ハルヒ:「学校の裏の林!」

 

キョン:「あそこは確か私有地だぞ?この笹泥棒が!」

 

ハルヒ:「ホラ!

短冊も作ってきたから、みんな願い事を書きなさいっ!」

 

みくる:「短冊・・・?」

 

古泉:「なるほど。今日は七夕でしたね」

 

ハルヒ:「ただし!条件があるわ」

 

キョン:「条件も何も、俺たちはまだ書くとも何とも言ってないぞ?」

 

ハルヒ:「キョン。

あんた、七夕に願い事を叶えてくれるのって、誰だか知ってる?」

 

キョン:「織姫か、彦星じゃねぇの?」

 

ハルヒ:「まぁ、正解。10点。

じゃあ織姫と彦星って、どの星のことかわかる?」

 

キョン:「知らん!」

 

古泉:「ベガとアルタイルでしょう」

 

ハルヒ:「85点!!

つまり短冊はその星に向かって吊るさないといけないの!」

 

キョン:「残りの15点はどこの部分だ?」

 

ハルヒ:「オッホン!!

説明します!特殊相対性理論によると、

光の速さを超えてどっかに行くことは出来ません。

ちなみに地球からベガとアルタイルまでは、

それぞれ25光年と16光年。ってことは、

地球から発した情報がどっちかの星にたどり着くまで、

そのくらいかかるわけ!」

 

キョン:「そんなことわざわざ調べて来たのか・・・」

 

ハルヒ:「だから、どっちかの星の神様が願い事を叶えてくれるのもそんくらい後!

今年のクリスマスまでに彼氏が出来ますようにー

とか書いても間に合わないわ!」

 

キョン:「行きでそうなら、

往復で50年後とか、32年後の話になるんじゃないのか?」

 

ハルヒ:「神様なんだから、それぐらいなんとかしてくれるわよ!

半額サマーバーゲンよ!」

 

キョン:ヘイ、相対性理論はどうなったんだYOU。

 

ハルヒ:「短冊はベガ宛てとアルタイル宛ての2種類。

で、25年後と16年後に叶えて欲しい願い事をしなさいっ!」

 

キョン:25年後や16年後に、

自分が何してるかも知れないのに・・・どんな願い事をせよと言うのだ。

 

キョン:「・・・いつもながら、しなくていいことばかり考えつくやつだ。

あいつの考える一般常識は一体どこの宇宙の常識だ?」

 

古泉:「そうとも言えませんよ?

涼宮さんはああ見えて、常識というものをよく理解しています」

 

キョン:「なんでそんな事がわかるんだ」

 

古泉:「涼宮さんは、世界がもっと風変わりになることを望んでいます。

そして、彼女には世界を再構築できる力もある。

しかし、今のところこの世界はまだまだ理性を失ってはいませんから」

 

ハルヒ:「そこ!私語を慎みなさいっ!」

 

キョン:「・・・」

 

(みくるの短冊:

お裁縫がうまくなりますように・お料理が上手になりますように)

 

キョン:「・・・この人は何か勘違いしてるっぽい」

 

(有希の短冊:調和・変革)

 

(古泉の短冊:世界平和・家内安全)

 

古泉:「我ながら、小市民的ですが」

 

(キョンの短冊:金くれ・犬を洗えそうな庭付き一戸建てをよこせ)

 

ハルヒ:「俗物ね・・・」

 

キョン:「うるせー」

 

(ハルヒの短冊:

世界があたしを中心に回るようにせよ・地球の自転を逆回転にしてほしい)

 

キョン:「お前のよりは遥かにマシだ」

 

ハルヒ:「価値観の相違よっ。

―みんな、書いた内容をちゃんと覚えておきなさい!

今から16年後が最初のポイントだからね!?

誰の願いを彦星が叶えてくれるか、勝負よっ!」

 

キョン:「・・・はぁ~」

 

ハルヒ:「・・・・16年か・・・長いな・・・」

 

キョン:「!」

 

(遠くを見るハルヒ)

 

キョン:「・・・・」

 

キョン:それからのハルヒは、妙にテンションが低く、憂鬱そうだった。

しおらしくしているコイツは、それはそれで相当に不気味だ。

今静かにしている分、反動が怖い。

 

みくる:「おかわりいかがですか?」

 

キョン:「え・・・あぁ、いただきます」

 

(お茶を入れたあと、一枚の短冊を裏返してキョンの元におく)

 

キョン:「ん?」

 

みくる:「・・・しーっ」

 

キョン:・・・かわいい。

 

(辺りを見回して、短冊を見る)

 

キョン:今だ!

 

(みくるの短冊:部活が終わっても部屋に残っていてください☆みくる☆)

 

キョン:もちろんですともっ!

 

(ハルヒが立ち上がって部屋を出る)

 

ハルヒ:「今日は帰るわ。最後の人、鍵お願いね」

 

古泉:「では、僕も」

 

(それに連ねて有希も立ち上がる)

 

キョン:ああ、ありがたい。

 

(帰り際に、みくると同じように短冊を置いていく)

 

キョン:「ん?おい・・・」

 

古泉:「それではお先に」

 

キョン:「ああ」

 

みくる:「よかった・・・自然に二人だけになれて」

 

キョン:「他の連中に聞かれたら、マズい話ですか?」

 

みくる:「う、うん・・・。

あのぉ・・・一緒に行ってほしいところがあるの」

 

キョン:「いいですよ。どこに行くんです?」

 

みくる:「そのぉ・・・・・・。3年前、です」

 

キョン:「さ・・・!」

 

みくる:「突然変なこと言ってごめんなさい!

あの・・・ダメですか・・・?」

 

キョン:「それって、タイムトラベルですか?」

 

みくる:「はい、そうです」

 

キョン:「行くのはやぶさかじゃありませんが・・・

でも、なんで俺が?何しに?」

 

みくる:「それはそのぉ・・・行けばわかります・・・たぶん」

 

キョン:「・・・・」

 

みくる:「お願いです!今は何も聞かずにうんって言ってください!

でないと私・・・私・・・っ、困ります・・・」

 

キョン:・・・かわいい。

 

キョン:「えっとぉ・・・・・じゃあいいですけど」

 

みくる:「本当っ!?ありがと~」

 

キョン:・・・かわいい。

 

みくる:「すぅ~。はぁあ~・・・よかったぁー」

 

キョン:思い起こせば、

朝比奈さんが未来から来たという発言は自己申告でしかなく、

証拠といえば大人モードの朝比奈さんの存在だけだ。

これは朝比奈さんが未来少女だとハッキリ確認する、

うってつけの機会ではないか。

 

キョン:「で?タイムマシンはどこなんです?」

 

みくる:「ここから行きます」

 

キョン:「ここから?」

 

(椅子に座ったキョンの後ろに立ち、肩に手をおくみくる)

 

みくる:「キョンくん・・・・ゴメンね」

 

キョン:「えっ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

みくる:「あっ、起きたー!

あのう・・・そろそろ起きてくれないと・・・私、足しびれちゃって・・・」

 

キョン:「えっ・・・うわぁっ、あ・・・・!」

 

(上半身を起こし、あたりを見回すキョン)

 

キョン:「俺、なんで寝てたんですか?」

 

みくる:「ごめんなさい。時間跳躍の方法を知られたくなかったんです。

禁則事項ですから・・・。あのう・・・怒った?」

 

キョン:「いやぁ、全然。

ハルヒのした事なら殴ってますが、朝比奈さんならオールOKです!」

 

みくる:「よかったぁ・・・」

 

キョン:「今って、もう3年前なんですか?」

 

みくる:「3年前の7月7日。夜の9時ころかな?」

 

キョン:「マジでですか?」

 

みくる:「マジでです」

 

キョン:「・・・」

 

キョン:この公園、いつぞや長門に呼び出されてきた時と同じ場所だ。

ここは変わり者達のメッカなのか?

 

キョン:「えっ?」

 

みくる:「すぅ、すぅ・・・・」

 

(キョンの肩にもたれて寝てしまう)

 

キョン:「・・・朝比奈さん?」

 

みくる:「すぅ~すぅ~・・・」

 

キョン:「っ・・・あのう・・・」

 

みくる:「すぅ~すぅ~・・・」

 

キョン:これは果たして、なんらかの意思表示なのだろうか。

 

キョン:「っ!!」

 

みくる(大):「キョンくん、こんばんは」

 

キョン:「朝比奈さん・・・!」

 

みくる(大):「この時の私って、こんなだったのね~・・・ふふっ」

 

キョン:「・・・・」

 

みくる(大):「ここまであなたを導いてきたのは、この子の役目。

これからあなたを導くのは私の役目です」

 

キョン:「朝比奈さんを眠らせたのは、あなたですか?」

 

みくる(大):「私の姿を見られるわけにはいかないので。

私がこの子の立場だった時、私は私に会ってないから」

 

キョン:「はぁ・・・」

 

みくる(大):「そこにある線路沿いに下ると学校があります。

その校門前にいる人に協力してあげて。

・・・そっちの私は、ごめんですがおんぶしていってください」

 

キョン:「なんか、ゲームのイベントみたいですね・・・

見返りに何か、アイテムはもらえないんですか?」

 

みくる(大):「見返り・・・ですか?

そうねぇ・・・ん。私から差し上げられる物はありません。

でも、そっちで眠っている私に、チューくらいならしちゃってもいいよ?

ただし、寝てる間にね♪」

 

キョン:「それは・・・ちょっと・・・」

 

キョン:慎重的にも状況的にも、

それは俺の主義に反する次第である。しかし、いや、でも。

 

みくる(大):「・・・時間です。私はもう行かないと。

それから・・・私のことはこの子には内緒。

約束ね。指きりする?」

 

(小指を差し出す)

 

キョン:「あ・・・」

 

みくる(大):「ゆーびきった♪」

 

キョン:「・・・」

 

みくる(大):「さよならキョンくん。またね!」

 

キョン:今の大人版朝比奈さんと俺は、どのくらいぶりに再会したのだろうか。

前回会ったときと、ほとんど変化していないように感じる。

ってか、そもそもココ本当に3年前なのか?

どこかで確認することが必要だ。117にでも電話するか。

 

 

 

 

(みくるをおぶったまま、言われた校門前まで来る)

 

キョン:「東中か・・・・。あっ。・・・・・」

 

(校門に上る人影に気づく)

 

キョン:「オイッ!」

 

ハルヒ(中):「・・・っ。(振り向く)

・・・なによ?あんた」

 

キョン:たしかに俺は、3年前に来たらしい。

涼宮ハルヒ、現在中学一年生。

 

ハルヒ(中):「なによあんたって聞いてるのよ!変態?誘拐犯?」

 

キョン:「お前こそ、何やってんだ?」

 

ハルヒ(中):「決まってるじゃないの。不法侵入よ!」

 

キョン:そんな堂々と犯罪行為を宣言されてもなぁ・・・。

 

ハルヒ(中):「誰だか知らないけど、暇なら手伝いなさいよ!

でないと通報するわよ」

 

キョン:ハルヒだ・・・間違いない。

 

ハルヒ(中):「こっちよ」

 

(校門を開けて、先に歩き出す)

 

キョン:暗がりで幸いだった。

この分では俺と朝比奈さんの顔もよく見えてはいまい。

3年後のハルヒは、

俺と朝比奈さんのことをチラリとも覚えていないようだったから。

そうであってくれないと困る気がする。

 

ハルヒ(中):「夕方に倉庫から出して隠しておいたのよ。

いいアイディアでしょ?」

 

キョン:「代わってやるよ。お前は線引き持て」

 

ハルヒ(中):「え?・・・うん」

 

キョン:「?」

 

 

 

 

キョン:「で?これをどうする気だ?」

 

ハルヒ(中):「あたしの言う通りに線引いて」

 

キョン:「俺が?」

 

ハルヒ(中):「そう。あんたが。

あたしは監督しないといけないから」

 

キョン:「はぁ・・・」

 

ハルヒ(中):「・・・そこ歪んでるわよ!何やってんのっ!?」

 

キョン:見ず知らずの高校生に平気で命令する気合は、

やはりどこまでもハルヒらしい。

もし俺自身が初対面で、こんな女子中学生に出くわしていたら・・・

真性のヤバイやつだと思ったことだろう。

そんなハルヒの指示のもと、俺はグラウンドを右往左往して白線を引いた。

いつか谷口が言っていた謎のメッセージだが、

まさか俺が書いたものだったとはな。

 

ハルヒ(中):「ん・・・まぁまぁね」

 

キョン:「悪かったな」

 

ハルヒ(中):「・・・・・あんた、宇宙人っていると思う?」

 

キョン:「突然だな」

 

ハルヒ(中):「質問に答えなさいよ!」

 

キョン:「・・・いるんじゃねぇの?」

 

ハルヒ(中):「じゃあ未来人は?」

 

キョン:「いてもおかしくはないな」

 

ハルヒ(中):「超能力者なら?」

 

キョン:「配り歩くほどいるだろうよ」

 

ハルヒ(中):「異世界人は?」

 

キョン:「それはまだ知り合ってないな・・・」

 

ハルヒ(中):「ふーん・・・。それ、北高の制服よね?」

 

キョン:「まぁな」

 

ハルヒ(中):「あんた名前は?」

 

キョン:「ジョン・スミス」

 

ハルヒ(中):「・・・バカじゃないの?」

 

キョン:「匿名希望ってことにしといてくれ」

 

ハルヒ(中):「おんぶしてた人は?」

 

キョン:「俺の姉ちゃんだ。

突発性居眠り病にかかっていてな、

所構わず居眠りをするんで、かついで歩いてたのさ」

 

ハルヒ(中):「ふんっ!」

 

キョン:「それで?これは一体何なんだ?」

 

ハルヒ(中):「見ればわかるでしょ。メッセージよ」

 

キョン:「まさか織姫と彦星宛てじゃないだろうな?」

 

ハルヒ(中):「どうしてわかったの?」

 

キョン:「まぁ七夕だしな。

似たような事をしてるやつに覚えがあっただけさ」

 

ハルヒ(中):「へぇー。是非知り合いになりたいわね。

北高にそんな人がいるわけ?」

 

キョン:「まぁな」

 

ハルヒ(中):「ふーん。北高ね・・・」

 

キョン:「・・・・」

 

ハルヒ(中):「帰るわ。目的は果たしたし。

じゃね!」

 

キョン:手伝ってくれてありがとうの台詞もナシか。

 

 

 

 

 

 

 

 続