涼宮ハルヒの憂鬱 ミステリックサイン 後編
配役比率 ♂2:♀3=五名
キョン:部長氏の住まいは、可もなく不可もなく新しいとも古いともいえない、
平凡な三階建て半地下一階のワンルームマンションだった。
ハルヒ:「・・・よし!」
ハルヒ:「ここね・・・。(ガチャガチャ)なんとか開けられないかしらねぇ」
(ピーンポーン)
キョン:順序が逆だろ!
ハルヒ:「・・・裏からベランダに上がったらどう?
ガラスを叩き割れば入れるんじゃない?」
キョン:「ハァー・・・。この部屋は三階だし、
俺達は空き巣狙いの少年犯罪グループではない。
俺はまだ前科は欲しくないぞ」
ハルヒ:「そうねぇ。管理人さんとこ行って、鍵を借りましょう。
友達が心配で来たって言えば、貸してくれるわ」
キョン:お前はその手をよく使うなぁ。
有希:「・・・」
キョン:液体ヘリウムみたいな目が、俺を見つめていた。
“ガチャ”(有希が扉を開ける)
ハルヒ:「あら?開いてたの?気付かなかった。
まぁ、いいわ。さ、上がりましょ~。
きっとベッドの下とかに隠れてるから、みんなで引っ張り出して捕獲するの」
キョン:あいつはパソコンをぶんどった自責の念など、みじんも感じていないらしい。
ハルヒ:「おっかしいなぁ~。
てっきり部屋の片隅でひざを抱えて丸くなってると思ってたのに。
キョン。あんた二ヶ月遅れの五月病患者が、他に行きそうなところ知ってる?」
キョン:「中南米あたりを旅行中か・・・本気で行方をくらましているか・・・」
有希:「出た方がいい」
キョン「!」
キョン:そういや今日初めて声を聞いたな。
古泉:「僕も同感です」
キョン:「い!」
キョン:真面目な声を出すな。息を吹きかけるな。顔が近いんだよ、気色悪い。
古泉:「・・・奇妙な違和感を感じます。これに近い感覚を、僕は知っている」
ハルヒ:「わらび餅はっけーん!賞味期限が三日前になってるわ!
もったいないから食べましょー。さ、みくるちゃーん」
みくる:「いやですぅ~」
ハルヒ:「あ~ん」
みくる:「ぅうう~」
キョン:「・・・・・何に近いって?」
古泉:「閉鎖空間です。この部屋は、あそこと同じような香りがします」
キョン:「そういえば、お前はマジな超能力者だったな」
有希:「次元断層が存在。移送変換が実行されている」
キョン:ここは、さっさと撤退したほうがよさそうだな。
ハルヒ:「むぐむぐんっく(わらび餅を食べている)」
みくる:「うぇえーん・・・」
ハルヒ:「おなかがすいたわ!本日はこれにて解散!」
キョン:「っておい!事件はどうするんだ」
ハルヒ:「なんとかなるでしょ。じゃあね!」
キョン:もう飽きたらしい。
みくる:「あの・・・どうしたんですか?涼宮さんに見つからないように再集合って・・・」
キョン:「そこの二人は・・・さっきの部屋が気になるみたいです。そうなんだろ?」
古泉:「はい。もう一度行けば、わかると思いますよ。ね、長門さん」
有希:「この部屋の内部に、
局地的非侵食性融合異次空間が制限モードで単独発生している」
キョン:そんな、適当に辞書引いて、
目に付いた単語を並べただけのような語句で言われても。
古泉:「感覚としては、あの閉鎖空間に近いものですね。
あれは涼宮さんが発生源ですが、こちらはどうも違う匂いがします。
長門さん、部長さんの行方不明はその異常空間のせいですか?」
有希:「・・・そう」
キョン:!!
キョン:待てというべきだった。
みくる:「ひぁ!ひぇええ~(キョンの腕にしがみつく)」
キョン:俺はせっかくの感触を味わう暇もなく、
自分の居場所を必死に確認しようとしていた。
俺がいたのは、確か手狭なワンルームだ。こんな薄気味悪い場所じゃない。
有希:「侵入コードを解析。通常空間と重複(ちょうふく)。移送がずれているだけ」
古泉:「閉鎖空間ではないようですが」
有希:「似て非なるもの。
ただし空間データが一部、涼宮ハルヒが発信源らしいジャンク情報が混在している」
古泉:「どの程度です?」
有希:「無視できるレベル。彼女がトリガーとなっただけ」
古泉:「なるほど。そういうことですか」
キョン:俺と朝比奈さんは蚊帳(かや)の外かよ!
キョン:「ここに、コンピュータ研の部長がいるのか?」
古泉:「そのようですね。
この異空間が自室に発生してしまい・・・
なんらかの理由で閉じ込められてしまったのでしょう」
キョン:「どこにいるんだ?」
(有希が手を伸ばす)
キョン:「待て!
これから何をするのか教えておいてくれないか?心の準備期間は欲しいぜ」
有希:「・・・何も。・・・お出まし」
キョン:「な!なんですと!!?」
古泉:「明確な敵意を感じますね」
キョン:(有希と古泉を見て)
こいつらは自分を守る術がありそうだが・・・俺と朝比奈さんは安心できない。
キョン:「光線銃とか、持っていないんですか?」
みくる:「ううん。武器の携帯は厳禁です。あぶないです」
キョン:それはわかるねぇ。
この人に武器を持たせても役に立たないどころか、
電車の中に忘れてきたりするかもしれないからなぁ・・・。
みくる:「? ほぇ!」
キョン:カマドウマという虫をご存知であろうか。
知らない人には是非、目の前の光景を見せてあげたい。
キョン:「なんなんだ、これは?」
古泉:「カマドウマでしょう」
キョン:「それはわかってる。そんなことはいい」
有希:「この空間の創造主」
キョン:「まさかこれもハルヒの仕業か?」
有希:「原因は別。でも発端は彼女」
キョン:「もう、動いていいぞ」
有希:「・・・」
古泉:「ここでは僕の力も・・・不完全ながら有効化されるようですね。
威力は閉鎖空間の十分の一。これで充分だと、判断されたのでしょうか」
キョン:「それより長門よぉ、あの昆虫の正体はなんだ?部長氏はどこにいる?」
有希:「情報生命体の亜種。
男子生徒の脳組織を利用し、存在確率を高めようとしている」
古泉:「ひょっとして、部長さんはこの中ですか?」
有希:「そのよう」
古泉:「そうか・・・このカマドウマは部長氏自身がイメージする畏怖の対象であり、
これを倒せば異空間も崩壊する。違いますか?」
有希:「違わない」
古泉:「ならば、ここは簡単です」
みくる:「ひぇええ~~~!こーわいよぉおー」
キョン:俺は腰にまとわりつく朝比奈さんのおかげで、どうにかなりそうだぁ~。
行動範囲を奪われ、逃げられない!
古泉:「すぐ済みますよ」
キョン:「・・・さっさとやれ」
古泉:「了解しました。ふっ、・・・・・・フモッフ!!!!!」
有希:「・・・」
キョン:「斥力(せきりょく)バー!?」
(カナブンがきずのてあてをしてくれた!)
古泉:「セカンドレイド!!!」
キョン:「やったか?!」
みくる:「はぁ・・・」
キョン:「・・・やっぱりダメか?」
(徐々に消えていくカマドウマ)
古泉:「・・・終わりですか?」
有希:(うなずく)
みくる:「ほっ」
部長:「ぅうう・・・」
キョン:どうやら、生きているらしい。
空間も、元の狭いワンルームに戻っていた。
(有希がパソコンを起動する)
有希:「約二億八千万年前のことになる。
地球に降下したそれは、地球に自分が存在出来るような手段がなかったため、
自己保存の為の冬眠についた。
人間によってコンピュータネットワークが生み出されると、それは半覚醒状態となり、
そして通常の数値では測りえない異界の情報データによって目覚めた」
キョン:異界の情報データ。
それは、ハルヒの描いたSOS団のエンブレムだった。
それがきっかけとなったようだ。
有希:「この紋章は地球の尺度に換算すると、約436ペタバイトの情報を持っている」
キョン:「そんなアホな!100キロバイトもなかったはずだ!」
古泉:「たまたま描いたシンボルマークがそれほどのものだったなんて、まさに涼宮さんですね」
キョン:俺は本気で恐怖しかけていた。
キョン:「出来すぎている・・・」
キョン:「結局、あのカマドウマはなんだったんだ?」
有希:「情報生命体」
キョン:「お前のパトロンの親戚か?」
有希:「起源は同じ。だが異なる進化を遂げ、そして滅亡した」
キョン:と、思ったら・・・ここに生き残りがいたわけだ。
よりによって地球で冬眠することはないだろう。
海王星あたりで寝てたらいいのに。
インターネットの発達が、その邪神もどきの温床になるとはねえ。
キョン:「おかしなことがある」
みくる:「?」
キョン:「ここで、ハルヒが絵を写しているときもまた、
そもそも絵を完成させたときも何も起こらなかったぞ」
古泉:「ここならとっくに、異空間化していますからね。
何種類もの様々な要素や行き場がせめぎあい、
打ち消し合って飽和状態となり・・・それ以上溶け込む余地がないんです」
キョン:「俺が気付かないうちに、部室はそんな魔窟と化していたのか」
古泉:「無害だと思いますよ。多分ね」
キョン:「やれやれ・・・。
知らない内に気が変になっているとか、
首吊り用のロープを探してるとか、ごめんだぜ?」
古泉:「そうならないように、がんばっています!」
キョン:「お前ががんばっているから、そんなことになっているんじゃないだろうな!」
古泉:「ふふっ」
キョン:「うぇ!?」
キョン:アクセスカウンターが、なんと3万近くも回っていた。
有希:「この情報生命体は、ハイパーリンクをあちこちに張って増殖する。
サインを見た人間の脳へ、自情報を複写し、限定空間を発生させるしくみ」
キョン:ただし、データが破損したため見た人間全員が
部長氏と同じことになっているわけでは、ないようだ。
長門が言うには、正しい模様を見ちまったのは8人。そのうち北高生は5人。
助けに行く必要があるんだろうなぁ・・・。
よーく目を凝らすと実は、ZOZ団、そう書いてある。
シンボルマークは長門がリテイクし、俺が貼り付け直した。
キョン:「部長氏が、学校に来ているぞ」
ハルヒ:「ふーん。あっそ。やっぱり五月病か、ただの痴話ゲンカだったのよ。
それよりすごいじゃない!アクセスカウンターが3万よ!
やっぱり見てる人は見てるのよね~」
キョン:ひょっとして・・・
(部室:有希が本を読んでいる)
キョン:データを破壊してくれたのは、こいつではないのか?
そして事件を持ち込んでくれた喜緑さん。
聞けば部長氏いわく、彼女はいないそうだ。
この絵に描いたようなシナリオの中心には、いつも長門がいた。
この万能宇宙人端末が、
喜緑さんをどうにかすることで俺達に事件をもたらしたとしても、少しも驚かない。
依頼人ごっこで、ハルヒの退屈を少しでも解消させてやろうとしたのかもしれない。
いつもは誰にも言うことなく・・・
何かおかしなものを未然に防いだりしているんじゃないだろうな。陰でひっそりと。
それとも、俺達を巻き込んだのは長門・・・お前の希望だったのか?
殺風景な部屋で、何年も暮らす宇宙人製のアンドロイド。
長門・・・やはり、お前にもあるのだろうか。
一人でいるのは寂しい、と思うことが・・・。
終