ひらかれしもの  第一話「エンジェル・ライズ」

 

 

 

・飛鳥蛍一(あすか   けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。

雛菊と同じクラスに転校してくる。

ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。

「しっかし・・・」が口癖。

 

・音羽雛菊(おとわ  ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。学校ではお嬢様を演じ、

家族と蛍一の前でのみ、態度が相対する。

色魔(シキ)と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。

 

・音羽葉桜(おとわ  はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。

活発・男っぽい性格で、一人称は「僕」。

詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。

霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。

 

・音羽大喬(おとわ   ひろたか)♂:37歳。雛菊・葉桜の父親。

ハイテンションなオカマ。これでも神社の神主。占いが得意。

 

・志賀裕也(しが  ゆうや)♂:17歳。善部高校二年生。

雛菊・蛍一のクラスメイト。ウワサ好きで好奇心旺盛。

 

 

 

配役比率  ♂2:♀2=四名

 

M=語り K=回想

大喬と裕也は別でもかまいません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍一M:それはまるで一枚の絵のようで。

夜空をバックに神々しく光る横顔と、四方に広がる紙の翼。

額縁なんかには収まらないくらい大きな、そして綺麗過ぎるその姿に、

俺は“天使に出会った”と本気で思った。

・・・・・・その時は。

 

 

 

 

 

 

 

蛍一母:「蛍一!!

ちょっと、どこ行くの!アンタも早く手伝いなさい!」

 

蛍一:「ん~・・・散歩」

 

母:「『・・・散歩。』じゃないの!

アンタの荷物が一番多いのよ?ほら、早く!」

 

蛍一:「・・・あのさ、引越し屋いるんだから、そっちに任せればいいだろ。

しっかし、なんでこんな夜中に荷物着くんだよ」

 

母:「しょうがないじゃないの。急な転勤だったんだから」

 

蛍一:「ハイハイ。・・・俺のモンはテキトーに入れといて。

じゃ、すぐ帰ってくるから」

 

母:「あ、ちょっと!蛍一!」

 

 

 

 

 

蛍一:「まったく・・・母さんも相変わらずだよな」

 

 

蛍一M:海と山の間にある、小さな都市・善部町(ぜんぶちょう)。

俺は親父の急な転勤で、この町に引越してきた。

以前から親父の仕事の都合で転校を繰り返してきた俺だったが、

どうやらこの町で、親父の仕事も家族も、腰を落ち着けられることになったらしい。

引越しももう慣れたものだから、今更何を言うこともないだろ。

 

 

(住宅の軒並に沿って歩く蛍一)

 

蛍一:「しっかし・・・善部町か。田舎だけど、結構いいとこじゃん。

・・・・・・っていうか、誰もいないな。まぁ、夜中だし、田舎だからかもだけどさ」

 

蛍一:(それに・・・なんか変な感じするし。こう・・・胸のあたりがモヤモヤと・・・)

 

 

 

葉桜:「姉さんっ、早く!こっちこっち!」

 

雛菊:「わかってる!」

 

 

 

蛍一:「・・・?  女の子の声?・・・うぉわっ!」

 

(突如、真上を女の子が二人飛び越える。その一驚にしりもちをつく蛍一)

 

葉桜:「っと!」

 

雛菊:「・・・」

 

蛍一:「っ・・・・・・うわ・・・」

 

蛍一:(天女・・・? いや、天使だ。

背中に見えたの、羽?・・・違う、紙の・・・束?

・・・しっかし、すっごい美少女・・・・・・あ、目が合った)

 

(先端に白い札のような紙が幾枚も折り重なってついている杖を背に持ち、

 一瞬蛍一のほうを見やる少女) 

 

雛菊:「・・・?」

 

蛍一:「あ、えっと・・・あの」

 

(そのまま、蛍一を見下ろす少女)

 

雛菊:「・・・・・・あんた、あたしが見えるの?」

 

蛍一:「・・・え?」

 

雛菊:「・・・あたし、消えてない?」

 

蛍一:「へ?あ、いや、消えてないけど・・・」

 

雛菊:「・・・。・・・そう」

 

蛍一:「えっと・・・あの・・・」

 

葉桜:「姉さん!!早くしないと逃げられるっ!こっち!」

 

雛菊:「わ、わかってるってば!」

 

(遠くで荒がる声に、すぐさま走っていってしまう少女)

 

蛍一:「あ・・・行っちゃった。・・・名前ぐらい聞いておけばよかったな」

 

蛍一:(しっかし・・・『あたしが見えるの?』って、どういうことだろ?

『消える』って?)

 

蛍一M:この時の俺は、たった一瞬の出来事に何も考えられなくなった。

ただ何度も思い出すのは、

あの子の綺麗な横顔と、投げかけられた言葉だった。

 

 

 

 

 

 

―翌日、善部高校・二年一組―

 

(先生の簡単な説明の後、蛍一が教卓の前に立つ)

 

蛍一:「っと・・・飛鳥蛍一です。よ、よろしくおねがいします」

 

蛍一:(しっかし、何回やっても慣れないよなぁ・・・この自己紹介ってヤツ。

俺の席は・・・お、真ん中の一番後ろか。なかなか♪)

 

(ふと、右隣の席の女の子に目がいく)

 

蛍一:「あぁっ!!君、昨日の!!!」

 

雛菊:「えっ?」

 

蛍一:「ほら、俺!昨日夜会ったじゃん!

あー、っと・・・覚えてないかな?」

 

雛菊:「・・・あの」

 

蛍一:「暗かったし、一瞬だったからな。

あ、でも!俺すごい君のこと気になってて・・・」

 

雛菊:「あの!」

 

蛍一:「え?」

 

雛菊:「とりあえず、座ったらどうですか?授業始まるみたいですよ?」

 

(にっこり、と音がつきそうなくらいの笑顔を浮かべる雛菊)

 

蛍一:「・・・え、あ、あぁ・・・」

 

蛍一:(・・・? 昨日の女の子・・・だよな?)

 

 

 

 

 

裕也:「なぁ、音羽さんと知り合いなワケ?すげぇな!」

 

(突然、前の席の男子が小声で話しかけてくる)

 

蛍一:「え?音羽さん?」

 

裕也:「ほら。隣の超美少女!」

 

蛍一:「あぁ、音羽さんっていうんだ」

 

裕也:「お前・・・ホントに知り合い?」

 

蛍一:「いや、知り合いっていうか・・・昨日ちょっと会っただけだから。

・・・知り合いだとすごいのか?」

 

裕也:「そりゃあもう!

お前、通学路からちょっと抜けて、

山道上ったとこにある“音羽神社”って知ってる?

音羽さんはあそこの跡取り娘でさ。

礼儀正しくて大人して、頭もよくて運動神経抜群、んでもってあの容姿だろ?

うちのガッコじゃ、もうアイドル並の人気だぜ?」

 

蛍一:(・・・礼儀正しい・・・?大人しい?)

 

裕也:「だから、あの人と関係持てる男子なんて、そうそういないワケだ!」

 

(力説して蛍一につめよる裕也)

 

蛍一:「そ、そっか。く、詳しいな」

 

裕也:「まぁな!あ、オレ、こういうモンですっ」

 

(制服の内ポケットから、名刺を取り出す)

 

蛍一:「『噂部(うわさぶ)・部長  志賀裕也』?・・・なに、噂部って」

 

裕也:「文字通り、生徒の間に流れる噂を調査するっていう部活だな!」

 

蛍一:「?  報道部とは違うのか?」

 

裕也:「報道部は、記事にしてみんなに公表したりすんだろ?

俺らは違う!ただ調べて自己満足するだけ♪」

 

蛍一:「・・・あ、そ」

 

裕也:「で、どうだ?入る気ない?蛍一クン♪」

 

蛍一:「・・・・・え、遠慮しとく」

 

 

 

 

 

 

 

―放課後。校門前。

 

蛍一:(しっかし結局、音羽さんとは話が出来なかった・・・。

でも、あんな態度違うってことは・・・そっくりさんだったとか?

いや、あんな美少女、そんなにいないだろ。・・・う~ん)

 

裕也:「蛍一!じゃあ、また明日なー!」

 

蛍一:「え?あ、あぁ」

 

蛍一:(いつの間にか呼び捨てになってるし・・・。

ま、これがこいつのスタンダードなんだろう)

 

裕也:「あ!音羽さんも!さよーならー!!」

 

雛菊:「ふふ、ごきげんようv」

 

蛍一:「あっ!」

 

雛菊:「・・・あ」

 

蛍一:「あのさ!

ちょっと聞きたいことあるんだけど・・・いい?」

 

雛菊:「えっと・・・」

 

蛍一:「やっぱり昨日会ったの、音羽さん・・・だよね?

なんか、巫女さんみたいな衣装で・・・」

 

雛菊:「飛鳥くんって言いましたっけ?」

 

蛍一:「え?」

 

蛍一:(あ、アレ?な、なんか・・・空気が重い・・・)

 

雛菊:「お話したいことがあります。ちょっと・・・来ていただけますか?」

 

 

 

 

 

(山道を登る二人)

 

雛菊:「ここなら・・・・・もういい、かしら」

 

蛍一:「え、えっと~?」

 

雛菊:「・・・・・あんた、このこと誰かに喋った?」

 

蛍一:「えっ!い、いえ、誰にも!」

 

雛菊:「ホントに・・・?服のこととか、束杖(そくじょう)のこととか!」

 

蛍一:「しゃ、しゃべってないっ!ホントに!」

 

雛菊:「はぁ〜。・・・・・まぁいいわ、ついてきて。

一応、あんたのこと調べたほうがいいと思うから」

 

蛍一:「し、調べるって・・・どこに」

 

雛菊:「いいから!黙ってついてきなさい!」

 

蛍一:「あの・・・一つだけいいですか?」

 

雛菊:「・・・何」

 

蛍一:「そっちが素?」

 

雛菊:「・・・何だっていいでしょ、そんなの!」

 

蛍一:「お嬢様は演技?なんでそんなこと・・・」

 

雛菊:「いろいろ楽なのよ、そうしてる方が。

・・・一つ以上答えたからね!次何か言ったら罰金だから!」

 

蛍一:「えええっ!」

 

 

 

 

 

 

 

(山道を登りきる。目の前には神社の境内が見える)

 

蛍一:「・・・神社」

 

 

裕也K:『お前、通学路からちょっと抜けて、山道上ったとこにある“音羽神社”って知ってる?

音羽さんはあそこの跡取り娘でさ・・・』

 

 

蛍一:「じゃあ、ここ・・・」

 

蛍一:(音羽さんの家!?な、なんで家まで連れてこられるんだっ?)

 

雛菊:「入って、適当に座ってて。今、お父さん呼んでくるから」

 

蛍一:「お、お、お、お父さん!!?」

 

蛍一:(何、この急展開!!)

 

雛菊:「いい?勝手に帰ったら許さないから!」

 

蛍一:(もう既にすごーく帰りたいんだけど・・・)

 

(玄関から出て行く雛菊)

 

蛍一:「しっかし、勝手に入っちゃっていいのか? ・・・・・・お邪魔しまーす」

 

(家にあがる蛍一。廊下の奥から葉桜が出てくる)

 

葉桜:「ん?」

 

蛍一:「あっ」

 

蛍一:(この子、昨日音羽さんと一緒にいた・・・)

 

葉桜:「あれ?・・・兄さん、誰?」

 

蛍一:「え、あ、俺、飛鳥蛍一。えっと・・・音羽さんのクラスメイトで・・・」

 

葉桜:「そっか、蛍一兄さんね!

僕は、音羽葉桜。 “さくら”でいいよ。みんなそう呼んでるし」

 

蛍一:「えっと、さくらちゃんは・・・音羽さんの妹さん、だよね?」

 

葉桜:「そうだよっ。

・・・・・いやぁ、姉さんが男連れて来たから、どんな人かと思ったら・・・

ふ~ん・・・(じー)」

 

蛍一:(それはどういう意味の『ふ~ん』なんだ・・・?)

 

葉桜:「兄さん、面白い“巡り”をしてる。

さっすが、姉さんが連れてくるだけあるってとこかな!」

 

蛍一:「巡り?」

 

葉桜:「まぁ、詳しいことは父さんが説明してくれるよ。

とりあえず、これからヨロシク!蛍(けい)兄さん♪」

 

(握手をしようと、手を出す葉桜。戸惑いながらもそれに応える蛍一)

 

蛍一:「え?あ、あぁ。よ、よろしく・・・?」

 

葉桜:「・・・長い付き合いになりそうだしな。

あ、そうだ、兄さんに一つ言っとく。

・・うちの父さん、普通じゃないから・・・ある程度構えておいたほうがいいよ」

 

蛍一:「え・・・普通じゃない・・・?」

 

葉桜:「あははっ。んじゃ、そういうことで~」

 

(外へと出て行く葉桜)

 

蛍一:「・・・・・な、何がなんだかさっぱりわかんねぇ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

雛菊:「・・・あんたいつまで玄関に立ってるつもり?

早く中入りなさいよ。邪魔!」

 

蛍一:「うわぁっ! は、はいィ!」

 

蛍一:(ホント、厳しいなぁ・・・。なんで俺、ここにいるんだろ)

 

雛菊:「・・・」

 

蛍一:「えっと・・・お父さんは?」

 

雛菊:「すぐ来るわ」

 

蛍一:(しっかし・・・『普通じゃない』って、さくらちゃんは言ってたけど・・・。

やっぱこう、“頑固一徹”でごっついお父さんだったりすんのかな?

『俺の娘に手ェ出しやがって!』とか・・・

いや、お父さん!僕たちはまだ何も!!

っていうかお父さんよりも前に、音羽さんにボコボコにされそうだしな・・・)

 

雛菊:「・・・何よ?」

 

蛍一:「・・・イエ、ナンデモアリマセン」

 

 

大喬:「ごめんなさぁあ~~い!!洗濯物とりこんでて・・・!

お待たせしちゃって悪いワァ!

あれやだ雛ちゃん!!このカワイイ男の子、誰!?彼氏!!??」

 

 

蛍一:「・・・!!!!」

 

雛菊:「ち、違うわよ!さっき話したでしょ?その男の子」

 

大喬:「アラ、そうだったわねェ。

お父さんったら、最近物忘れ激しくって!いけないわァ☆」

 

蛍一:(・・・・・・・・オ、オカマぁぁあああああ!??

んで・・・音羽さんのお、お父さんんん!!!??)

 

大喬:「飛鳥蛍一クン、だったわよね?アタシは音羽大喬。

雛ちゃんとさくらのお父さんでもあり、お母さんでもある・・・・・

・・・あ、まぁ、自己紹介は後でいいわね。・・・じゃ、さっそく始めましょうか♪」

 

蛍一:「な、何を!!」

 

大喬:「大丈夫!痛くしないから♪」

 

蛍一:「だから何をですかァ!??」

 

(じわじわと近づいてくる大喬)

 

雛菊:「大人しくしてなさいよ。すぐ終わるんだから」

 

(蛍一の体をおさえる雛菊)

 

蛍一:「音羽さんまでっ!! だから・・・何なんだぁああっ!!」

 

 

 

 

蛍一M:この日を境に、俺ののんびり田舎ライフは終わりを告げた。

・・いや、音羽雛菊という、彼女に出会ったあの日から、

すでにこっちの世界へ足を踏み入れていたのかもしれない。

・・とりあえず。

とりあえず・・・俺は、今のこの危機をどう回避しようか必死で考えることにした。

いや・・・もう、遅い・・・のか?

 

 

 

 

 

 

 

 続