ひらかれしもの  第二話「ノーワンダー・ノー」

 

 

・飛鳥蛍一(あすか   けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。

雛菊と同じクラスに転校してくる。

ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。

「しっかし・・・」が口癖。

 

・音羽雛菊(おとわ   ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。学校ではお嬢様を演じ、

家族と蛍一の前でのみ、態度が相対する。

色魔(シキ)と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。

 

・音羽葉桜(おとわ   はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。

活発・男っぽい性格で、一人称は「僕」。

詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。

霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。

 

・音羽大喬(おとわ  ひろたか)♂:37歳。雛菊・葉桜の父親。

ハイテンションなオカマ。これでも神社の神主。占いが得意。

 

 

 

配役比率 ♂2:♀2=四名

 

M=語り K=回想

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍一M:俺はただ、息を飲み込んだ。

この目で見たからって、信じられるもんでもない。

じゃあ夢?幻覚?はたまたお父さんのマジックですか?

・・・でもそれはすぐに現実だとわかる。

目の前の彼女が、変わらず光を纏(まと)って真っ直ぐ立っているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

―音羽家・居間―

 

(有無を言わさず、蛍一の服に手をかける大喬)

 

蛍一:「な、何すんですかぁあっ!」

 

大喬:「こらっ!動かないの!」

 

蛍一:「ど、どこ触ってんですかぁぁあっ!!

ちょっと!助けて!音羽さんっ」

 

雛菊:「悪いけど・・・

こうなったお父さんはあたしにも止めらんないわ」

 

(雛菊の前で惜しげもなく、服を着替えさせる大喬)

 

蛍一:「うわっ、やめっ!あぁぁああああっっ!」

 

 

 

 

 

―数分後

 

大喬:「あらぁ~☆まぁまぁまぁ!似合うじゃなぁ~い!」

 

蛍一:(オカマさんに攻められるなんて、人生初だよ・・・。

何されるかと思ったら・・・何これ、和服?)

 

雛菊:「・・・うちのお父さんは、

自分が可愛いと思った人間に、作った服を着せるのが趣味なのよ」

 

蛍一:(何その趣味!!

っていうか、だったらそうと最初に言ってください!)

 

大喬:「ホントはフリル付けたりしたかったんだけど・・・男の子だしねぇ。

でも、作りおきしといた甲斐があったわぁ☆」

 

蛍一:(か、勘弁してください・・・。しっかし、一体何のために・・・)

 

大喬:「じゃ蛍一クン?ちょっとこっちいらっしゃいっ♪」

 

蛍一:「いえっ!結構です!お構いなくっ!!

もうホント、すぐ帰りますのでっ!!」

 

大喬:「あらァ♪ 

・・・・・・用が済むまで帰さないわよ?」

 

蛍一:(っ!? お、お父様の後ろに黒い影がぁぁっ!!)

 

大喬:「さっ、いらっしゃいな☆」

 

(神社の本殿へと蛍一をひっぱっていく大喬)

 

雛菊:「まぁ・・・こんな神主だけど、力は普通にあるからね」

 

(蛍一の耳元で言う雛菊)

 

蛍一:「あは、ははは・・・言うの遅いって」

 

雛菊:「・・・これから本殿に行くわ。そこであんたのこと調べるから」

 

蛍一:「あ、ハイ・・・・・え?何で?」

 

雛菊:「あたしが見えたからよ」

 

蛍一:「・・・?」

 

大喬:「・・・順を追って説明した方がよさそうね。

んもォ。雛菊、あんたこの子に何の説明もしてないんでしょ?」

 

雛菊:「え、うん。

だって・・・あたしもまだわからないんだもん」

 

大喬:「まぁ・・・おおよその見当はつくけどね。

さ、蛍一くん。座って」

 

 

 

 

 

 

―本殿・音羽観音菩薩前―

 

蛍一:「うわ・・・でっかい観音様・・・・・」

 

(菩薩像の前に、正座をする三人)

 

大喬:「さぁ、はじめましょうか♪

今日は菩薩(ぼさつ)様の前で、あなたの正体を見定めることにするワ」

 

蛍一:(なんでわざわざ菩薩像の前で・・?)

 

大喬:「嘘をついたら、すぐに菩薩様が教えてくれるからよ♪」

 

蛍一:(!? なにこの人!エスパー!??)

 

蛍一:「しょ、正体って・・・俺は普通の高校生ですよ?」

 

(僧服に着替え、如意を手にする大喬)

 

大喬:「・・・そう思えないから、確かめるのよ。

それにあなたには、話しておかなければいけないことがあるの」

 

蛍一:「はぁ・・・」

 

大喬:「昨日の夜、雛菊に会ったのいうのは本当?」

 

蛍一:「え、ええ。

なんか巫女さんのような衣装を着てて・・・さくらちゃんも一緒でした。

あ、そういえば・・・『早くしないと逃げられる!』とかなんとか」

 

大喬:「それは、本当?」

 

蛍一:「え?」

 

大喬:「あなたの夢でもなんでもなくて、あなたは本当に雛菊を見たのね?」

 

雛菊:「・・・」

 

蛍一:「・・・は、はい」

 

大喬:「そう・・・。

こんな話をすると、おかしいと思うかもしれないけど・・・

あの姿のときの雛菊は、普通の人には見えないのよ」

 

蛍一:「は・・・?」

 

蛍一:(普通の人には見えない?・・・だって、俺はちゃんと・・・)

 

 

 

雛菊K:「・・・あんた、あたしが見えるの?」

 

 

 

大喬:「そうね・・・どこから説明したらいいかしら。

まず雛菊は・・・【詠姫】(よみひめ)という役目を背負って、

普段から夜、さくらと一緒にああやって出かけているの」

 

蛍一:「【詠姫】?」

 

大喬:「雛菊で三代目になるワ。

【詠姫】というのはね、【色魔】(シキ)と呼ばれる妖(あやかし)・・・

つまり、妖怪みたいなモノね。

それを霊力によって、封じこめる力を持つ者のこと」

 

蛍一:(よ、妖怪・・・?このご時世に?)

 

蛍一:「れ、霊媒師・・・みたいなもんでしょうか?」

 

雛菊:「ちょっと、巫女って言いなさいよっ」

 

大喬:「ふふっ。まぁ、そうね。そう捉えてもらっても構わないワ。

・・さて。ここまで、ついてこれてるかしら?」

 

蛍一:「・・・な、なんとか」

 

大喬:「よかったワ♪ ・・・で、ここからはあなたのこと」

 

蛍一:「俺?」

 

大喬:「その『普通の人には見えない雛菊』を見れたってことは、

あなたは普通ではない、ということになる」

 

蛍一:「えぇっ・・・・まさか。

ぐ、偶然なんじゃないですか?」

 

雛菊:「あの時のあたしが見える人間なんて、そういないんだから。

だから、もしかしたらあんたは・・・」

 

大喬:「・・・あなたが対になるかは分からないとしても・・・。

その痕(あと)は詠唱者(えいしょうしゃ)の証ね」

 

(蛍一の左鎖骨上に、羽のような絵の痣が浮き出ている。それを如意で指す大喬)

 

蛍一:「うわっ、なんだこのあざ!いつの間に・・・!

・・・・・しっかし、詠唱者(えいしょうしゃ)って?」

 

雛菊:「【詠姫(よみひめ)】に付き従い守り、

術式(じゅつしき)を施(ほどこ)し力を与える者」

 

蛍一:「えっと・・・もうちょっとわかりやすく・・・」

 

<ガタ、ガタン!!>

 

(壁に大きな何かがぶつかった音がし、扉が急に開く)

 

葉桜:「父さん!姉さん!!」

 

大喬:「あらまァ。“アレ”がここに来るなんて珍しいわねェ。

・・まぁ、実際見たほうが早いわね。

蛍一クン?」

 

蛍一:「は、はい!」

 

大喬:「外に出ましょう。説明するより、見た方が早いわ」

 

(本堂から中庭へと出る三人)

 

 

 

 

 

 

 

―中庭―

 

蛍一:「・・・なん、だよっ・・・・これ」

 

蛍一:(ここの空間だけ・・・真っ黒で歪んで・・・)

 

大喬:「あらァ~。ずいぶん大きいのが来たのねェ」

 

(目の前に、本堂の大きさをゆうに越える異空間が現れる。それに対峙する雛菊と葉桜)

 

葉桜:「で、わかったの?」

 

大喬:「やっぱり彼は詠唱者だったみたいね。

・・さくらはわかってたみたいだけど?」

 

葉桜:「まぁねっ!」

 

雛菊:「ちょっと!何で言わないのよ!」

 

葉桜:「あはは・・・まぁいいじゃん。それより、蛍兄さん?」

 

蛍一:「?」

 

葉桜:「詠唱者(えいしょうしゃ)としては、僕が先輩だよっ?

見たほうが早いと思うから、しっかり目ん玉開いといてね!」

 

蛍一:(詠唱者ってのが・・・俺で。さくらちゃんも?)

 

蛍一:「さくらちゃん、何を・・・!」

 

(葉桜が妖の目の前に立ち、睨み上げる)

 

葉桜:「『・・・汝、名を名乗らずとも善(よ)しとし、

我力(がりょく)の前に枢機(すうき)は消えゆ』」

 

(突如、枯れ葉を撒き散らし、突風が境内を襲う)

 

雛菊:「っ!・・・葉桜ッ」

 

葉桜:「・・・あっちゃ~。まずったなぁ」

 

雛菊:「説明しなさい!色は?属性は!?」

 

葉桜:「色は萌黄(もえぎ)。属性は・・・僕と同じ『風』だ」

 

<ブォォオオオオオオオオ!!!>

 

(葉桜が言葉にすると、異空間が消え、轟音をたてて巨大な老い木が現れる)

 

蛍一:「うぁあっ!」

 

蛍一:(木!木が動いてるぅう!)

 

雛菊:「まったく・・・変な声出すんじゃないわよ。

いいアスカ?今は時間がないから簡単に説明するわ。

・・・【詠姫】は、それぞれ属性のある【色魔(シキ)】を封印する、

云(い)わば色の統治者。

この束杖(そくじょう)に【色魔(シキ)】を封印して、自分の力にするの。

その代わり条件として、【詠姫】としている間は自分の色を失う」

 

蛍一:「あ・・・」

 

蛍一:(だから、消える・・・)

 

大喬:「普通の人に見えないっていうのは、そういうことなのよ♪」

 

雛菊:「もちろん、あたし一人の力で封印できるわけじゃないわ」

 

大喬:「その力を補うのが・・・」

 

葉桜:「僕ら、【詠唱者】ってわけ!

理解した?蛍(けい)兄さんっ」

 

蛍一:「な、なんとなく・・・」

 

雛菊:「まぁいいわ、あんたにはそんなに期待してないから。

葉桜・・・準備いい?」

 

葉桜:「属性が同じだから、長引くかもな。

いいよ姉さん。・・・いつでもどうぞ!」

 

<ブォオオオオオオオオン!!!>

 

(突風が吹き荒れ、老い木が激しく暴れる)

 

雛菊:「『三代目【詠姫】・音羽雛菊の名をもって招ずる。

管弦・雅楽(ががく)・唱合(うたあわせ)、加持を詠みし声を聴け』」

 

(束杖を前にかざし、紙の束が舞い上がる)

 

蛍一:(!!  音羽さんの体が透けていく・・・!)

 

葉桜:「『迸(ほとばし)れ、天空の咆哮。

詠唱者・音羽葉桜、大雲を突きぬけ直下に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!」

 

雛菊:「急ぎ律令の如く・・・せよ!!」

 

<ビュオオオオオオオオ!!>

 

(雛菊が発すると、空から強大な竜巻が老い木を襲う。

老い木の発する突風と衝突し、相殺される)

 

葉桜:「っあ~あ、やっぱり。属性一緒だから、相殺されちゃうよ」

 

雛菊:「そ、そんなこと言ったって・・・!」

 

<ブオオオオオオオオオオン!!!!>

 

(またしても突風が吹き、枯れ葉が刃となって二人を襲う)

 

雛菊:「きゃぁああ!」

 

葉桜:「いたっ!くぅっ・・・むっかつく~!!」

 

蛍一:「音羽さん!さくらちゃんっ!

ちょ、ちょっとお父さん!何で黙って見てるんですか!

娘が危険な状態にあってるっていうのに・・・!」

 

大喬:「お父さんじゃないワ。『大喬』って呼んでちょうだい♪」

 

蛍一:「冗談言ってる場合じゃないでしょ!」

 

大喬:「あらァ。アタシはいつだって本気よぉ?

アタシが黙ってるのは・・・危険な状態だからよ」

 

蛍一:「はぁ!?」

 

大喬:「こんな戦い、あの子達はいくつだって乗り越えてきたワ」

 

蛍一:「で、でもっ!」

 

大喬:「だったらあなたに助けられる?あの子達が」

 

蛍一:「ぐっ・・・!」

 

雛菊:「きゃあああああああっ!」

 

大喬:「・・・どうするの?飛鳥蛍一クン」

 

蛍一:「・・・・俺は・・・飛鳥蛍一」

 

葉桜:「姉さんっっ!!」

 

(老い木の長い蔓に、軽々と絡めとられる雛菊)

 

雛菊:「くっ・・・!!」

 

蛍一:「音羽さ・・・・・・雛菊ッ!!」

 

(雛菊の名を呼んだ瞬間、蛍一の体が青白く光りだす)

 

雛菊:「!」

 

葉桜:「け、蛍兄さんの体が・・・!」

 

雛菊:「アスカ・・・!」

 

(突然頭を抱え、しゃがみこむ蛍一)

 

蛍一:「ううっ・・・。頭の中に・・・・・言葉があふれて・・・っ!!」

 

葉桜:「蛍兄さんっ!!

それを言の葉にして!口に、声に出して!」

 

<ブオオオオオオオオオオン!!!!>

 

(老い木を前に、立ち見据える)

 

蛍一:「雛菊」

 

雛菊:「・・・うんっ。

『三代目【詠姫】・音羽雛菊の名をもって招ずる。

管弦・雅楽・唱合(うたあわせ)、加持を詠みし声を聴け』」

 

蛍一:「篝(かがり)吹け、幾万の言の葉。

詠唱者・飛鳥蛍一、空間を切り裂き無効に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!」

 

雛菊:「・・・っ、急ぎ律令の如く・・・せよ!!」

 

<ブオオオオオオオオ・・・・・オ、オオ、ン・・・・>

 

葉桜:「!! 風が・・・やんだ!?」

 

大喬:「ふふ、お見事ね♪」

 

雛菊:「ゲホッ!ゴホゴホッ・・・!!」

 

蛍一:「大丈夫?!」

 

雛菊:「・・・へ、平気。それより、あんた・・・」

 

蛍一:「?」

 

雛菊:「結構やるじゃない?覚醒早くて助かったわ」

 

蛍一:「あ、いや・・・あれは」

 

蛍一:(雛菊が、死ぬかもしれないと思ったから・・・)

 

葉桜:「さっすが蛍兄さんっ!やっるー!!」

 

大喬:「んもォ。はしゃぐのはいいけど、早く封じちゃいなさい!」

 

雛菊:「そ、そうだった!」

 

蛍一:「え、こ、これで終わりじゃないの?」

 

葉桜:「一回【色魔(シキ)】を弱らせて、それから姉さんが封じるんだ。

僕らはそれを手伝うのが仕事」

 

蛍一:「そ、そっか」

 

雛菊:「『汝、只、元の色に戻れ。・・・昇華』」

 

(妖は消え、萌黄色が束杖へとしみこんでいく。同時に雛菊の透過が終わる)

 

蛍一:「あのさ・・・ちょっと聞きたいんだけど」

 

雛菊:「何」

 

蛍一:「もしかして、その巫女衣装もお父さんが?」

 

雛菊:「そっ、ご名答よ。

・・・着ないと鬼のように追いかけてくるわ」

 

蛍一:(怖っ!!)

 

葉桜:「だけど・・・ふぅ。蛍兄さんがいてくれて助かったよー」

 

大喬:「おつかれさま☆みんな!」

 

蛍一:「えっと・・・終わった、のか?」

 

雛菊:「一応はね。・・・はぁ、疲れたぁ」

 

(大きく伸びをする雛菊)

 

蛍一:(それはこっちの台詞だって・・・)

 

雛菊:「あ」

 

蛍一:「?」

 

雛菊:「忘れてたけど・・・その。・・・助けてくれて、ありがと。

え、えっと・・・そ、それだけっ!」

 

(ふい、と顔をそらす雛菊)

 

蛍一:「・・・・・。はは・・・どういたしまして」

 

 

 

蛍一M:何もかもが分からずに過ぎた。

実感なんてものが湧くはずもなく、俺はまた呆然と空を見る。

まだまだ、分からないことだらけだ。

俺の疑問は一つも解決してない気がする。

でも・・・それでも。

『調子に乗るんじゃないわよ』って怒られそうだけど、

俺が彼女の力になれたことに、ちょっとだけ満悦感を持っていたのは・・・

あ・・・やっぱり後が怖いから内緒にしておこう。

 

 

 

 

 

 続