ひらかれしもの  第三話 「ルナティック・リターン」

 

 

・飛鳥蛍一(あすか  けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。

ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。

「しっかし・・・」が口癖。

未知数の霊力を持ち、【詠姫】雛菊の詠唱者となる。

 

・音羽雛菊(おとわ  ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。学校ではお嬢様を演じ、

家族と蛍一の前でのみ、態度が相対する。

色魔(シキ)と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。

 

・音羽葉桜(おとわ  はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。

活発・男っぽい性格で、一人称は「僕」。

詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。

霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。

 

・安部月白(あべ  つきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。

女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。しかし基本は紳士。

陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。

詠唱者の一人。

 

・音羽大喬(おとわ  ひろたか)♂:37歳。雛菊・葉桜の父親。

ハイテンションなオカマ。これでも神社の神主。占いが得意。

 

 

配役比率 ♂3:♀2=五名

 

M=語り  K=回想

 

 

 

 

 

 

 

蛍一M:まだ誰も見たこともない、そんな扉を開けたような気がした。

確かにそれは存在していて、俺の生活の輪の中に簡単に入ってくる。

気にしすぎてる。・・・分かってる。

不安が次第に膨れる中、

それでも、彼女の強い言葉を聞くと安心するのは、なんでだろう。

 

 

 

 

 

 

―朝・音羽神社前―

 

葉桜:「おはようっ!蛍(けい)兄さん♪」

 

蛍一:「お、おはよ、さくらちゃん」

 

葉桜:「昨日はよく寝れた・・・わけないよね。くま、すっごい」

 

蛍一:(そりゃあ・・・あんなことがあって、寝れるわけがない)

 

蛍一:「あ、お、おはよ・・・雛菊」

 

雛菊:「・・・いつ名前で呼んでいいって言ったのよ」

 

蛍一:「え、いや、あの」

 

葉桜:「まぁいいじゃん!

“音羽”が三人もいるんだから、名前で呼んだほうが分かりやすいっしょ?」

 

蛍一:(しっかしいい子だなぁ・・・この子。・・・それに比べて・・・)

 

雛菊:「・・・フン、まぁいいけど」

 

蛍一:「素直じゃない・・・」

 

雛菊:「なんですってっ?」

 

葉桜:「あーもう、朝からケンカしないっ!

って、あ、僕今日日直だったんだ!じゃ、おっ先♪」

 

蛍一:(・・・しっかし、本当に風のような女の子だな;)

 

雛菊:「ちょっとアスカ」

 

蛍一:「ん?」

 

雛菊:「言っておくけど、学校であたしに気安く話しかけたりしないでよ?」

 

蛍一:「なんで?」

 

雛菊:「なんでも!

いい?ちょっとでも話しかけてきたら・・・首から上バッサリいくから」

 

蛍一:(怖っ!!)

 

蛍一:「まだ死にたくないんで・・・わ、わかった」

 

雛菊:「ふんっ。

・・・ってちょっと。言ったそばから、なんでついてくるのよ!」

 

蛍一:「いや、学校行くんだから一緒になっちゃうだろ!」

 

雛菊:「あんた、5分遅れて歩きなさいよ。もしくは50m以上離れて!」

 

蛍一:「んな無茶な;」

 

雛菊:「いいから!あんたといると、あたしの評判が落ちるのよ!」

 

蛍一:(俺が一体何をした・・・?)

 

雛菊:「いい?絶対ついてこないでよ!」

 

(走りさっていく雛菊)

 

蛍一:「・・・だから、同じ学校・同じクラスだっての」

 

蛍一:(しっかし・・・昨日の能力(ちから)は一体なんだったんだろう)

 

(自分の掌を見つめる蛍一)

 

蛍一:「詠唱者(えいしょうしゃ)・・・か」

 

 

 

 

大喬K:「とりあえず、明日もここにいらっしゃい。今日は疲れたでしょう?

あなたにはまだまだ、話さなくちゃいけないことがたくさんあるんだから♪」

 

 

 

 

蛍一:「巻き込んでおいて・・・あの人はなんであんな楽しそうなんだ;」

 

 

 

 

 

蛍一M:昨日の出来事にかすかに震える指。

それでも、一人じゃないというのは安心だった。

雛菊は毎日あんな妖(あやかし)と戦っているんだろうか。

女の子なんだから、俺なんかよりもっと、怖い思いをいくつもしていただろうに。

俺が・・・もし俺が何か力になれるなら・・・

 

 

 

 

 

(遠く駆けていく雛菊の背中を見つめ、拳を握る)

 

蛍一:「・・・うん」

 

<ドンッ>

 

月白:「っとぉ・・・悪い、少年」

 

蛍一:「あ、スイマセン」

 

蛍一:(おわ・・・すっげ美形・・・)

 

月白:「?  ・・・少年」

 

蛍一:「へ?」

 

(じっと蛍一の顔を見る)

 

月白:「・・・ハクの色は綺麗だが、晴(せい)の色が安定してないな。

これは先が見えなくて不安・・・ってとこか?」

 

蛍一:「えっ!?」

 

月白:「あ、いや・・・ただの人相占いだ。気にしなさんな」

 

蛍一:「あ、はい・・・」

 

(山道を上って、去っていく月白)

 

蛍一:(・・・そんなに俺、顔に出てたかな)

 

蛍一:「って、遅刻遅刻!」

 

 

 

 

 

 

―教室。

 

雛菊:「あ」

 

蛍一:「ぜぇ、ぜぇ・・・お、お前な・・・」

 

雛菊:「おはようございます、飛鳥くん」

 

蛍一:「っ?!」

 

雛菊:「もうすぐ先生いらっしゃいますよ。間に合ってよかったですねv」

 

蛍一:(・・・話しかけるなって言ったくせに。学校ではお嬢モードか)

 

雛菊:「ふふ、何か?」

 

蛍一:「い、イイエ」

 

蛍一:(悲しかな、何も言えない自分・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

―放課後。音羽神社。

 

大喬:「いらっしゃぁ~い、蛍一クン♪待ってたのよぉ☆」

 

蛍一:「ど、どうも」

 

蛍一:(このテンションに慣れるには、時間が必要そうだ・・・)

 

月白:「おや、少年」

 

蛍一:「あっ!あなた、今朝の!」

 

大喬:「あらん、知り合い?」

 

月白:「ああ。朝ちょっと会ったんですよ、義兄(にい)さん」

 

蛍一:「義兄さん!?」

 

大喬:「蛍一くん、紹介するワ。アタシの奥さんの弟の、安部月白くんよ」

 

蛍一:「雛菊のお母さんの弟・・・つまり、叔父さ・・・」

 

月白:「おじさんって呼ばないこと!月白お兄さんと呼びなさい」

 

蛍一:「あ、は、はぁ。

あ、そういえば、奥さんはお仕事かなんかですか?まだ会ったことないけど」

 

月白:「・・・」

 

大喬:「・・・蛍一クン。

あたしの奥さん・・・沙尭(さゆり)はね、14年前に亡くなってるの」

 

蛍一:「えっ!そ、そうだったんですか・・・す、すみませんっ、俺・・・」

 

大喬:「いいのよ。知らなかったんだから」

 

蛍一:(そっか・・・だから大喬さん・・・)

 

 

 

 

大喬K:「飛鳥蛍一クン、だったわよね?アタシは音羽大喬。

雛ちゃんとさくらのお父さんでもあり、お母さんでもある・・・・・」

 

 

 

 

蛍一:(きっと、お母さんの代わりも・・・。

・・・・・・イヤ、でもなんでオカマ?)

 

 

 

(玄関が開いて、雛菊が帰ってくる)

 

雛菊:「・・・ぁあっ!月白お兄さん!戻っていらしたんですか!!」

 

月白:「や、姫さん。元気にしてたかい?」

 

雛菊:「それはもう。お兄さんは?」

 

月白:「まぁ、相も変わらずってとこだな。

しかし姫さんは・・・また綺麗になったね。ますます光り輝いて見えるよ」

 

雛菊:「ふふ、そういうところ、ホントに相変わらずですね」

 

蛍一:(・・・なんか、仲良さげ?)

 

大喬:「それにしても久しぶりよねぇ~」

 

月白:「ここに来るのも2年ぶりくらいですかね」

 

雛菊:「でも、なんでまた急に・・・」

 

月白:「・・・」

 

(蛍一のほうに向き直る)

 

月白:「・・・【十二色魔(じゅうにしき)】を封印したと聞いてね。

しかも、新しい詠唱者(えいしょうしゃ)も現れたんだろ?」

 

蛍一:(それって・・・俺のこと、だよな?)

 

蛍一:「十二色魔(じゅうにしき)って?」

 

雛菊:「昨日、あたし達が封印した色魔(シキ)のことよ。

この世あの世には、数え切れないくらいのシキがいるんだけど、

その中でも強大な力を持ち、封印された後【詠姫】の力になることが出来る妖のことを、

総称して【十二色魔(じゅうにしき)】って言うの」

 

蛍一:(ちょっと待て!それじゃあ、昨日戦ったアレってそんなに強かったわけ?

なんでそういうこと早く言わないかなぁ、この人たちは!)

 

蛍一:「えっと・・・じゃあ、その十二色魔ってのは、十二いるわけだ?」

 

月白:「少年は飲み込みが早いな。さすが、新しい詠唱者ってところか?」

 

大喬:「それにしても情報が早いんじゃない?

んまぁ、安部家なら容易いとは思うけど」

 

月白:「安部の人間はそういうの、敏感ですからね。・・・それより少年」

 

蛍一:「はい!

・・・あ、俺、飛鳥蛍一っていいます。雛菊とは同じクラスです」

 

月白:「そっか、蛍一。俺も詠唱者だ。・・・よろしく」

 

蛍一:「えっ!月白さんも詠唱者・・・?!」

 

大喬:「月白くん・・・それじゃあ、戻ってきたのはもしかして・・・!!」

 

月白:「ええ。修行は終わりました。

・・・これからは姫さんを守る役目に専念します」

 

大喬:「・・・そう」

 

雛菊:「月白お兄さんがいれば、即戦力ね!」

 

月白:「ふふ・・・では、姫の期待に応えられるよう、がんばるとするかな」

 

蛍一:(俺の時とはエライ違いだ・・・)

 

(また扉が開き、葉桜が帰ってくる)

 

大喬:「アラ、おかえり葉桜」

 

葉桜:「ただいまぁ~。・・・あ」

 

月白:「お」

 

葉桜:「げっ!!!月白叔父さん!!」

 

月白:「叔父さんいうな!お兄さんと呼びなさい!

というか、何だ?その『げっ』っていうのは?」

 

葉桜:「『げっ』だから『げっ』なんじゃん。

いつ帰ってきたの?今回はいつまでいるわけ?」

 

蛍一:(さ、さくらちゃん、恐い・・・いつもとは話し方が・・・)

 

月白:「残念ながら、今日からずっとだ。

詠唱者としてこっちに移住することになったんだよ」

 

蛍一:(月白さんまで・・・あの紳士的な態度はどこへ・・・!)

 

葉桜:「それは本当に残念だなぁー。

叔父さんなんかいなくたって、僕と蛍兄さんだけで充分、シキなんか倒せるのに」

 

月白:「・・・相変わらずお口が悪いね。どうやって塞いでやろうかな?」

 

葉桜:「やれるもんならやってみな!」

 

蛍一:「あーあーあー、二人とも落ち着いて・・・!」

 

葉桜(&月白):「うるさいっ!」

 

葉桜:「蛍兄さんは黙っててっ!」

 

蛍一:「さ、さくらちゃんっ」

 

大喬:「フゥ・・・」

 

雛菊:「まぁ~た始まったわ」

 

蛍一:「ま、また?」

 

雛菊:「いつものことよ。ほっとけばいいわ」

 

蛍一:「ほ、ほっとくったって!」

 

葉桜:「どーせまた、女のとこでもフラフラしてたんだろっ!

漁色(ぎょしょく)!変態!女好き!」

 

月白:「漁色って・・・どこでそんな言葉覚え・・・

フッ。まぁ葉桜、そんなこと言う前に、自分のこと考えろ?

もうちょっといい加減女らしくしたらどうだ。そうしたら相手してやってもいいぜ?」

 

葉桜:「オジサンに相手してもらうなんて、ぜーったいお断りっ!」

 

蛍一:「あーあぁ・・・どうしたらいいんだぁ・・・」

 

雛菊:「だから、ほっときなさいってばっ」

 

大喬:「ウフフッ。これから楽しくなりそうね~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍一M:夕暮れに侵食されてゆく空色の下、二人の言い合いと小さな笑い声が響く。

戸惑いながらも、俺のこの胸はくすぶっていて、また軽いため息を吐いた。

俺は心の隅にある決意をしっかりと握り締めて、横目で微笑む雛菊を見る。

もし俺が詠唱者で、彼女の力になれるのならば・・・

『守る』なんて大それたことは言えない。

ただ、その支えの一つになってもいいかもしれない・・・そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 続