ひらかれしもの 第五話 「ブリリアント・ブラック」
・飛鳥蛍一(あすか
けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラスに転校してくる。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽葉桜(おとわ
はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。
活発で男っぽい性格で、一人称は「僕」。
詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。
霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。
・夏目硝子(なつめ
しょうこ)♀:16歳。葉桜の親友で、雛菊とは中学からの後輩。
大人しく礼儀正しいが、小心者のため人見知りが激しい。
言霊に霊気を発し、傷の痛みを留め、回復する能力を持つ。
詠唱者の一人。
・藤堂天理(とうどう
てんり)♂:17歳。【大和路】の首領。
冷静沈着で、いつも笑顔を絶やさない。
本音を垣間見せることがない、謎の人物。
・キトラ ♀:29歳。天理の配下。妖艶な美女。
かなり高慢な性格の持ち主だが、天理の前でだけは従順になる。
配役比率 ♂2:♀3=五名
M=語り K=回想
天理M:この世界は虚ろだ。
掲げ、守るものなど何一つない。
ねぇ・・・今、君が去ったこの世界で・・・僕は足掻(あが)いているよ。
どのくらい壊したら、君は戻ってくるのだろう。
(―とある山中の社。真っ暗なその奥に、天理が腰かけている。)
キトラ:「ただいま戻りました、天理様」
天理:「おかえり、キトラ。・・・ずいぶん早かったですね?」
キトラ:「今日は私は、挨拶のみでしたからね」
天理:「残してきた枯実(こじつ)は?」
キトラ:「・・・申し訳ございません。やられてしまいましたわ」
天理:「あの老い木に続いて、枯実まで・・・」
キトラ:「っ・・・天理様・・・
このキトラ、なんとお詫び申し上げてよいか・・・」
天理:「構いませんよ、キトラ。さぁ、顔をあげて。
その美しい表情が歪むのは・・・見るに耐えません」
(キトラの頬に触れ、微笑む天理)
キトラ:「天理様・・・」
天理:「君は僕についてきてくれる・・・そうでしょう?」
キトラ:「あなたの為ならば、
どんな欺瞞(ぎまん)も悪辣(あくらつ)も厭(いと)いませんわ」
天理:「ふふ・・・ありがとう」
キトラ:「天理様?また、あ奴らにシキを放ちましょうか?」
天理:「・・・ふふっ」
キトラ:「天理様?」
天理:「いや・・・実際、彼女達はどう思うのかな、と考えたら。
僕達【大和路(やまとじ)】がシキを創り、放っている・・・
・・・なんて、思いもしていないでしょう?」
キトラ:「クスッ・・・そうですわね」
キトラ:(“大和(やまと)”と言った時の、あの子の顔ったら・・・
ふふ・・・これから、先が楽しみね)
天理:「少し、時間を置きましょうか。
僕もやらなれけばいけないことがあるのでね」
(席を立つ天理)
キトラ:「天理様、どこへ?」
天理:「楽しみは僕にも分けてほしいからね。その準備さ」
キトラ:「では私もご一緒に・・・!」
天理:「出来れば内密に動きたいんだ。わかってくれますか、キトラ?」
キトラ:「そう、ですか・・・。お気をつけて、天理様」
―放課後、図書室。
葉桜:「・・・と、いうわけで!
やけに色っぽいお姉さんが、シキを連れて僕達を襲ったわけなんだよ!」
硝子:「ふぅん・・・それで、さくらはいいの?」
葉桜:「ふぁ?」
硝子:「こんな所にいないで、早くお家に帰らなくていいの?ってこと」
葉桜:「あ~、いいのいいの!どうせ蛍兄さんも、夜にうち来るみたいだし」
硝子:「そんなこと言ったって・・・」
蛍一:「さくらちゃんっ」
(息をきらし、図書室に入ってくる蛍一)
葉桜:「あれ、蛍兄さん。どしたの?」
蛍一:「どうしたの、じゃなくて・・・。
雛菊が正門前で待ってるよ。早く帰るぞって」
葉桜:「それで呼んでこいって言われたの?蛍兄さんも大変だね;」
蛍一:「ゔ・・・ごもっとも」
硝子:「ぁ・・・」
蛍一:「?」
葉桜:「あ、蛍兄さん、紹介するね!僕の親友の、硝子!」
硝子:「夏目硝子といいます、その・・・は、はじめまして・・・」
(葉桜の影に隠れる硝子)
蛍一:「あ、えっと・・・俺は飛鳥蛍一。よろしく・・・」
蛍一:(アレ?もしや俺、怖がられてる?)
葉桜:「ご、ごめんね蛍兄さんっ。硝子、ちょっと人見知りで・・・」
硝子:「ご、ごめ、ごめんなさいっ・・・」
蛍一:「あ、イヤ、大丈夫」
蛍一:(・・・なんか、そんなに謝られると、
なんだかこっちが悪いことしたみたいな雰囲気なんだけど・・・)
葉桜:「って、あ!姉さんが呼んでるんだっけ。
ごめん硝子、話の続きはまた・・・」
硝子:「わ、私も行きます!」
葉桜:「え?」
蛍一:「来るって・・・雛菊の家に?」
硝子:「シキも、【詠姫(よみひめ)】も・・・私にも関係があることだから・・・!」
葉桜:「硝子?」
蛍一:「・・・【詠姫】のこと知ってるの?」
葉桜:「あぁ、硝子には全部話してあるんだ。
硝子も多少なりとも、霊力を持ち合わせてるから」
蛍一:「そうなんだ・・・」
硝子:「・・・さくら。私、今日午前中ね、音羽神社へ行ってたの」
葉桜:「ええっ、うちに?」
硝子:「そう・・・その、私のこと、おじさまに占ってもらおうと思って」
葉桜:「硝子のこと?
っていうか、真面目で大人しい硝子が、学校サボって!?」
硝子:「そ、そんなに意外?」
葉桜:「そりゃあね!」
硝子:「だって・・・最近、強いシキが出たって言ってたでしょう?
だから、私も力になれないかなって・・・」
葉桜:「そっか、ありがと。・・・で?父さん、何だって?」
硝子:「私・・・やっぱり詠唱者(えいしょうしゃ)みたい」
葉桜:「へ・・・」
蛍一:「え・・・?」
葉桜:「しょ、硝子もっ!?」
硝子:「うん。前々からね、そんな感じはしていたの・・・。
でも確証は無かったし、何より、
私がさくらの側に居すぎたから、何も起こらなかったんだと思う」
蛍一:「これで・・・四人目、か」
葉桜:「だね」
硝子:「あ、飛鳥先輩・・・そういうわけなので、これからよろしくお願いしますっ!」
(深く頭をさげる硝子)
蛍一:「あ、いや、俺もまだなったばかりだから!
お互い、【詠姫(よみひめ)】の力になれるといいね、硝子ちゃん」
硝子:「え・・・は、はい」
蛍一:「あ・・・馴れ馴れしかった?」
硝子:「い、いいえっ」
葉桜:「さてと・・・詠唱者も増えたことだし。
姉さんを怒らせる前に行きますか!」
蛍一:「ゲ、そうだった!」
葉桜:「兄さん、絶対怒られるよ~」
蛍一:「や、やめてよ、さくらちゃん」
硝子:「ふふっ」
天理:『やっと見つけた・・・・・・僕の依代(よりしろ)・・・』
蛍一:「・・・え?」
葉桜:「蛍兄さん?」
蛍一:「え?あ・・・」
蛍一:(声が、聞こえたような・・・気のせいか?)
蛍一M:その声は、無駄に透き通っていた。
それなのに、まっすぐ聞こえたような気がして。
夕焼けの灯を浴びた廊下に、誰もいるはずは無かった。
俺はその声を気にも留めず、ただ必死に、
この後、雛菊にどう言い訳するかだけ考えていた。
続