ひらかれしもの 第八話 「ナイト・アウト」
・飛鳥蛍一(あすか けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽雛菊(おとわ ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、
家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。
色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。
・音羽葉桜(おとわ はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。
活発で男っぽい性格で、一人称は「僕」。
詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。
霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。
・安部月白(あべ つきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。
女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。
その言動から、雛菊・葉桜には相手にされないことが多い。
陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。
詠唱者の一人。
・夏目硝子(なつめ しょうこ)♀:16歳。葉桜の親友で、雛菊とは中学からの後輩。
大人しく礼儀正しいが、小心者のため人見知りが激しい。
言霊に霊気を発し、傷の痛みを留める能力を持つ。
詠唱者の一人。
・キトラ ♀:29歳。天理の配下。妖艶な美女。
かなり高慢な性格の持ち主だが、天理の前でだけは従順になる。
配役比率 ♂2:♀4=六名
蛍一M:敵を見据える、一条のまなざし。
その細い肩からは考えられないくらい、大きな背中。
守られるのが嫌なわけじゃない。
それでも、出来るならば俺が・・・守りたい。
(高架下。大雨の中、雛菊と蛍一がシキと対峙している)
雛菊:「この雨も、シキの仕業ってわけ?冗談じゃないわ」
蛍一:「なん、て・・・でかい」
蛍一:(水の塊り・・・?いや・・・その中に見えるのは・・・)
雛菊:「葉桜がいなくても、属性くらいは明らかにわかるわね、アスカ?」
蛍一:「あぁ。水、だろ?」
蛍一:(すごい威圧感・・・。それと・・・視線だ。殺意の、視線)
<ゴポポ・・・・ゴォォォオオオオオ・・・・>
(巨大な水たまりから、眼球を模したシキが現れる。
赤い瞳から、涙のように紫毒がこぼれおちる)
蛍一:「うぁっ! ひ、ひ、雛菊!コンクリが溶けてる・・・!」
雛菊:「ビクビクしてんじゃないわよ。男のくせに情けない・・・!
毒性をもってるのよ、あのシキ。あれを浴びたら、ヤバイかもね」
蛍一:「ヤ、ヤバイって・・・!」
キトラ:「ふふっ。もう既に、絶体絶命のピンチってところかしら・・・?」
雛菊:「っ!あんたは・・・!」
蛍一:「キトラ・・・!?」
キトラ:「あら。憶えててくれたの、ぼうや?光栄ね」
(キトラが、シキの背後に現れ、ガードレールに腰掛けている)
雛菊:「これもあんたの仕業っ!?」
キトラ:「ふふふっ。そうだとしたら?」
雛菊:「あんたには、聞きたいことが山ほどあるのよ・・・!
だから・・・シキも消して、あんたも倒す!」
(キトラに攻撃しようと、走り出す雛菊。しかし、シキの水壁に遮られてしまう)
雛菊:「っ!」
キトラ:「残念ね。私には一切触れられないわ。
まずはこの子を倒さないとね?ウフフ、貴女一人に出来るかしら?」
雛菊:「くっ・・・」
蛍一:「一人じゃない!」
雛菊:「・・・アスカ」
キトラ:「あら、ぼうやは戦えるの?
この間はぼうっと見ていただけだったけれど・・・?」
蛍一:「・・・こないだは・・・そうかもしれない・・・。でも・・・」
キトラ:「いいわ。お手並み拝見と行こうじゃない。
フフッ、あなたは型(かた)として、どれだけの価値があるのかしら?」
蛍一:(型・・・?)
<ゴォォオオオオオオン・・・!!>
(唸るシキを見据えて、蛍一の前に出る雛菊)
雛菊:「アスカ・・・あんたは下がってなさい」
蛍一:「お、おい雛菊!」
雛菊:「あんた、足手まといよ。そこでじっとしてて」
蛍一:「雛菊・・・!」
(腕を引いて、雛菊をこちらに向かせる)
蛍一:(俺だって・・・力になりたい。守りたい!)
雛菊:「・・・・・・あたしがシキをひきつける」
蛍一:「え・・・?」
雛菊:「しっ!・・・向こうに聞こえちゃうでしょ。
・・・あんたはその間、霊力をためて。
いい?気張る必要はないわ。
祈るの。・・・神経を研ぎ澄ませて。・・・そうしたら、詠唱も出来る」
蛍一:「雛菊・・・じゃあ・・・」
雛菊:「失敗したら・・・許さないんだからねっ。行くわよ?」
蛍一:「あぁ!」
キトラ:「行きなさい、紫雨眼(むらさめ)!
あなたも【十二色魔(じゅうにしき)】の一人なんだから、
彼らがどこまで出来るか、見極めなくちゃね!」
(鞭を握り、紫雨眼を従わせるキトラ)
雛菊:「あたしが、ただ封印しか出来ないと思ったら大間違いよ。
見てなさい。これが継承されし、【詠姫(よみひめ)】の力」
蛍一:「【詠姫】の力・・・」
雛菊:「『三代目【詠姫】・音羽雛菊の名をもって招ずる。
管弦・雅楽(ががく)・唱合(うたあわせ)』」
(雛菊の束杖から、萌黄色が浮かび上がる)
蛍一:「萌黄(もえぎ)・・・?この間封印した、老い木の・・・」
雛菊K:『・・・【詠姫】は、それぞれ属性のある【色魔(シキ)】を封印する、
云わば色の統治者。
この束杖(そくじょう)に【色魔(シキ)】を封印して、自分の力にするの』
キトラ:「全てを溶かしておしまい・・・!」
雛菊:「『汝、元の色から詠姫の力となれ!!』」
<ビュォォォオオオオオオ!!>
キトラ:「っ、風!?」
(突風が吹き荒れ、雛菊の周りを覆う)
雛菊:「シキもあの女も・・・吹き飛べ・・・!!」
蛍一:(あの老い木の力を利用した・・・?)
<グォ、ゴォォォォ!!!>
(シキの毒を風で払い、キトラの頬に小さな刀傷を負わせる)
キトラ:「ぐっ・・・!木の葉が、まるで刀のように!」
キトラ:(あの老い木の力を、そのまま使えるなんて・・・この力、やっかいだわ)
蛍一:「・・・すごい」
キトラ:(これが【詠姫】・・・音羽の、絶対なる力!)
雛菊:「封印した【十二色魔(じゅうにしき)】の力を最大限に引き出す・・・。
それが詠姫の絶対的攻撃力」
<ゴォオオオオオオオオンン!!!>
(怒号を発し、体から異常なまでの量の毒を吐き出す)
蛍一:「!?」
雛菊:「ついにイカれたわね・・・」
葉桜:「姉さん!蛍兄さん!」
(葉桜、月白、硝子の三人が駆けてくる)
雛菊:「葉桜っ。みんな・・・大丈夫だったのっ?」
硝子:「はい。お二人とも、無事でよかった・・・」
月白:「俺達はザコ相手だったからね。大したこともなかったよ。
こっちは・・・おやおや。シキ退治も佳境だね」
葉桜:「シキ、色は紫。属性は水。名は紫雨眼(むらさめ)。
ザコの方は弱かったけど・・・母体はなんて大きさだ」
キトラ:「仲間が増えたか・・・仕方がない、今日のところは退くわ」
月白:「あの女の人が・・・?」
葉桜:「キトラ・・・!」
雛菊:「逃げる気っ!?」
月白:「せっかく会えたのに残念だ。
・・・もうちょっと遊んでいけばいいのに」
キトラ:「また今度、ゆっくりとお相手してあげるわ。それじゃあね」
(暗闇に消えるキトラ)
雛菊:「くっ・・・また肝心なことが聞けなかった・・・!」
葉桜:「あのオバサン・・・現れるのも消えるのも突然だよな!」
硝子:「オバサンって・・・さくら;」
月白:「とりあえず、【十二色魔(じゅうにしき)】を封印しよう。
姫さん、俺達も助太刀しようか?」
雛菊:「うん、お願い!アスカ、いけるわね?」
蛍一:「ああ!」
雛菊:「『三代目【詠姫】・音羽雛菊の名をもって招ずる。
管弦・雅楽・唱合(うたあわせ)、加持を詠みし声を聴け』」
月白:「『唸れ、蒼天の雷(いかずち)。
詠唱者・安部月白、暗雲を切り裂き直下に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!」
<ピシャァァァァン!!>
(呼号のきいた雷が、シキの真上から落とされる)
葉桜:「ま、まぶしっ・・・!」
硝子:「相手は水だから・・・雷の威力が倍以上に!」
月白:「眩しいのは、蛍一もだろ」
蛍一:(俺の力を・・・雛菊の支えに!)
(蛍一の体が青白く光る)
蛍一:「篝(かがり)吹け、言詞(げんし)の理(ことわり)。
詠唱者・飛鳥蛍一、空間を蹴破り無効に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!」
雛菊:「急ぎ律令(りつりょう)の如く・・・せよ!!」
<ビシャァァァァァァァァァ!!>
(シキの母体は爆発し壊れ、大きな水溜りに化す)
硝子:「っ!!」
月白:「噂には聞いていたが・・・」
月白:(これほどまでの力だとは・・・)
硝子:(なんて強大な威力・・・これが飛鳥先輩の力!?)
葉桜:(前に見たときよりも、格段にパワーがあがってる。
蛍兄さんの、決意の大きさなのか・・・?)
雛菊:「終わったわね・・・。
『汝、只、元の色に戻れ。・・・昇華』」
(紫雨眼は消え、紫色が束杖へとしみこんでいく)
葉桜:「おつかれ、姉さん、蛍兄さん」
硝子:「おつかれさまでした」
蛍一:「あぁ・・・ありがとう。ちょっと力抜けてきたよ」
(しゃがみこむ蛍一)
雛菊:「だらしないわねぇ、男のくせに!」
月白:「まぁ、そう言いなさんな姫さん。蛍一は頑張ったほうだろう?」
葉桜:「蛍兄さんは、ね!」
月白:「心外だね。俺も姫さんの為に、最大限の力を発揮したと思うけど?」
月白:(あの威力には驚いたが・・・。
これで、蛍一が力をコントロール出来ないことも頷ける)
硝子:「雛先輩、飛鳥先輩。私、応急処置しか出来ませんけど・・・」
雛菊:「ううん。助かるわ、ありがとう」
蛍一:「ありがとう、硝子ちゃん」
月白:「いったん神社へ帰ろう。
傷の手当と・・・義兄さんにも報告しなくてはいけないことが出来たからね」
葉桜:「そうだ!姉さん聞いてよ!
硝子ってばすごいんだから〜!」
硝子:「も、もうっ、さくらってば!」
(マルコ:「・・・」)
(5人が歩き帰る中、木陰からそれを観察するマルコ)
雛菊M:アスカの力が心配で、こっちの方がくたくたよ。
でも、詠唱の力は以前にも増していた。
祈り、決意を固めたアスカの思い。
【詠姫(よみひめ)】のあたしだから分かるのかしら・・・?
こんなこと、今までなかったから・・・。
・・・まぁ、なんか恥ずかしいから、言わないでおいてあげるけどっ。
続