ひらかれしもの 第十一話  「ディア・マイ・リリー ②」

 

 

・飛鳥蛍一(あすか けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。

雛菊と同じクラスに転校してくる。

ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。

雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。

 

・音羽雛菊(おとわ ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、

家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。

色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。

 

・音羽大喬(おとわ ひろたか)♂:37歳。雛菊・葉桜の父親。

ハイテンションなオカマ。これでも神社の神主。占いが得意。

今回の少年時代は、16~23歳のころの話。

 

・音羽沙尭(おとわ さゆり)♀:故人。雛菊・葉桜の母親。色魔を操る組織【大和路】に殺される。

先代【詠姫】

 

配役比率  ♂3:♀1=四名

大喬は同人物なのでかぶり可です。

 

 

 

 

 

 

 

雛菊K:感じるの。・・・もうすぐ何かがはじまるって。

怖い・・・と言ったら、きっと嘘になるのよね。

でも、私は【詠姫】(よみひめ)だから。

まっすぐ前を見て、みんなの先頭に立たなきゃいけない存在だから。

負けられない。 

何をしたって・・・大切なものを、守るために。

 

 

 

 

 

 

 

―夜。音羽家・縁側。

 

(一人、煙草をふかす大喬。)

 

大喬:「フゥ~・・・」

 

蛍一:「・・・意外です。大喬さんって、煙草吸うんですね」

 

(突然大喬を覗き込む蛍一)

 

大喬:「っ!あら蛍一クン!

・・・んもォ、いきなり現れたりして・・・。

あんまり年寄りを脅かさないでちょうだい!」

 

蛍一:「いや、脅かすつもりは・・・。

というか、煙草についてはノータッチですか?」

 

大喬:「あぁ・・・コレ?

たまにね・・・ちょっとおセンチになった時に・・・ね」

 

蛍一:(おセンチって・・・)

 

蛍一:「何か、あったんですか?」

 

大喬:「まァ、あったといえば・・・あったかしら」

 

蛍一:「?」

 

大喬:(あの禍々しい気・・・。

復活してもおかしくはないと思っていたけれど、

こんなに早く、近づいてくるなんて・・・)

 

蛍一:「大喬さん?」

 

大喬:「なーんでもないわよッ!(蛍一の肩を叩く)」

 

蛍一:「いたたっ!ちょっと、大喬さん!?」

 

大喬:「・・・そうね、蛍一クンには話しておこうかしら」

 

蛍一:「・・・?」

 

大喬:「ちょっと、年寄りの話に付き合ってくれる?

昔話・・・。そう、アタシの一生涯愛したであろう人の話」

 

蛍一:「・・・えっと、沙尭(さゆり)さん、でしたっけ?」

 

大喬:「アラ。覚えててくれたのね、嬉しいワ♪

・・・沙尭はね、本当に、今の雛菊そっくりだった。

ううん。雛菊が沙尭に似たのね。

気が強くてみんなのリーダー的存在で・・・

それでいて、すごく優しい子だった」

 

(部屋の置くに飾られた沙尭の写真を、愛おしそうに眺める大喬)

 

大喬:「もともとアタシ達は、幼なじみでね。

アタシは女系家族で、昔からこんなしゃべり方だったし、

何よりひ弱で、力もなかったから・・・

そういうことでいじめられたり、罵られたりが酷かった。

それをいつも守ってくれたのが、沙尭だったのよ」

 

 

 

 

 

 

 

沙尭:『・・・何、泣いてるのよ』

 

大喬(青年):『だって・・・みんな、気持ち悪いって・・・また、殴られて・・・』

 

沙尭:『なんで言い返そうとしないのよ!』

 

大喬(青年):『・・・だって・・・アタシじゃ無理だもん・・・』

 

沙尭:『無理なんて誰が決めたの?一生そうやって暮らしていくつもり?』

 

大喬(青年):『・・・一生なんてヤダ・・・もう、死にた・・・』

 

沙尭:『この・・・バカッ!!』

 

大喬(青年):『っ!!』

 

沙尭:『・・・やめてよ・・・聞きたくない』

 

大喬(青年):『なんで・・・・・・沙尭が泣くの?』

 

沙尭:『っ、泣いてない!』

 

大喬(青年):『泣いてるよ・・・』

 

沙尭:『大喬・・・もっと強くなってよ・・・。

あたしもあんたのこと守るから・・・

あんたもあたしのこと守れるくらい、強くなってよ・・・。

あんたが死ぬのも・・・それを見てるだけなんてのも・・・あたし、嫌だよ・・・!』

 

大喬(青年):『沙尭・・・。 ごめん・・・ごめんね・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

大喬:「あの時は・・・ずぅっと二人で泣いてたわねェ。

・・・それからもアタシ達は、いつも当たり前のように一緒にいて・・・

当たり前のように、アタシも詠唱者(えいしょうしゃ)になって。

そうして、当たり前のように・・・結婚した」

 

蛍一:「・・・素敵ですね」

 

大喬:「フフ・・・ありがとう。

でもね。沙尭は死んだの。 それはもう、あっけなくよ・・・」

 

蛍一:「病気か、何かだったんですか?」

 

大喬:「いいえ。 【詠姫】だったからよ」

 

蛍一:「えっ!?」

 

大喬:「シキに殺されたの。

【十二色魔(じゅうにしき)】なんて、アレと比較すればゴミ同然。

それくらい、大きな力の持ち主だった」

 

蛍一:「そんな強いシキがいたなんて・・・

それで、負けたんですか?」

 

大喬:「勝った負けたって問題じゃないワね。

“なくなった”のよ。戦いそのものがね」

 

蛍一:「・・・どういう・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

大喬(青年):『沙尭・・・逃げて!!』

 

沙尭:『な、何言ってるの!!?』

 

大喬(青年):『敵は、この町と力が狙いだ・・・

だからお前は、この町を出て、生き延びるんだよ!』

 

沙尭:『みんなを・・・あんたを置いて、逃げれるわけないでしょう!!』

 

大喬(青年):『頼むから・・・・逃げてくれ!!』

 

沙尭:『・・・ねえ。大喬』

 

大喬(青年):『・・・?』

 

沙尭:『愛してる。

・・・雛菊を、葉桜を。・・・そして、大喬。あなたを、一番』

 

大喬(青年):『さゆり・・・?』

 

沙尭:『だから・・・・・さようなら』

 

 

 

 

 

 

 

大喬:「簡単に言うと・・・

沙尭は、自分の力を全て投げ込んで、その敵と一緒に・・・

“果てた”・・・のよ」

 

蛍一:「自分を犠牲にして、シキを封印した・・・ってこと、ですか?」

 

大喬:「そう・・・。けれど・・・」

 

大喬:(今、また、どんどんと近づいてきている)

 

蛍一:「そんな・・・」

 

大喬:「後には、何も残らなかったワ。

亡骸(なきがら)もない。敵の存在もない。仲間もいない。

・・・アタシは一人、取り残された」

 

蛍一:「・・・大喬さん」

 

大喬:「気が狂いそうだったワ。

どうせなら、自分も一緒に連れてって欲しかったって、

一体何度思ったことでしょうね」

 

蛍一:「・・・」

 

大喬:「でも、雛菊と葉桜がいた。

アタシが守らなきゃいけない人が、まだこの世にいたのよ。

だから・・・アタシはまだ死ねない。

ねぇ・・・蛍一クン?」

 

蛍一:「はい?」

 

大喬:「雛菊を、よろしくね」

 

蛍一:「え?」

 

大喬:「雛菊も、この事実は知っているの。

きっと・・・あの子も、沙尭と同じことを考えているかもしれない」

 

蛍一:「・・・まさか、そんな」

 

大喬:「あの時の沙尭と違うのは、

雛菊には仲間がいる。・・・あなたもいる。

アタシは、一番にあの子を守れるのは、蛍一クンだと思うから・・・」

 

蛍一:「そんな・・・買いかぶり過ぎですよ」

 

大喬:「それでも・・・信じたいのよ」

 

蛍一:「・・・出来る限りのことはします。何だって」

 

大喬:「・・・ウフフ、ありがとう」

 

 

 

 

蛍一:「じゃ、俺、寝ますね!

今日は本当に、ありがとうございました」

 

大喬:「気にしないで。

さっきの約束と、交換と思ってもらえればいいワ♪」

 

蛍一:「約束・・・ですか」

 

大喬:「男の・・・ヤ・ク・ソ・ク☆」

 

蛍一:「ア、ハハ・・・じ、じゃあそういうことにしときます;

おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

(深夜。音羽家・中庭。汗だくで雛菊)

 

雛菊:「・・・ふぅ」

 

蛍一:「雛菊?」

 

雛菊:「うわぁっ!な、何よアンタ!

いるならいるって言いなさいよ!!」

 

蛍一:「わ、悪い。

・・こんな時間に、何やってたんだ?」

 

雛菊:「ちょっとした修行よ」

 

蛍一:「修行?」

 

雛菊:「走りこみしたり、

力をコントロール出来るように、向こうの林で木を倒したり・・・」

 

蛍一:「木倒すの!?」

 

雛菊:「敵がいない場合は仕方ないでしょ。

対象物がないと使えないんだから・・・!」

 

蛍一:「そっか・・・頑張ってるんだな」

 

雛菊:「いつもやってることよ・・・言っとくけど、あんたの為じゃないわっ!」

 

蛍一:「・・・ハイハイ;」

 

 

 

大喬K:『きっと・・・あの子も、沙尭と同じことを考えているかもしれない』

 

 

 

蛍一:(まさか・・・な)

 

雛菊:「・・・どうしたの?」

 

蛍一:「いや・・・。お前、そろそろ寝ろよ」

 

雛菊:「言われなくても」

 

蛍一:「じゃあな。おやすみ」

 

雛菊:「ぅ、うん・・・おやすみ」

 

 

 

 

 

 

沙尭K:『ねえ、大喬。

愛してる。

・・・雛菊を、葉桜を。・・・そして、大喬。あなたを、一番』

 

 

(また煙草をふかす大喬)

 

大喬:「・・・フゥー」

 

 

沙尭K:『だから・・・・・さようなら』

 

 

大喬:「・・・お前が恋しいよ・・・・沙尭」

 

(部屋の奥の写真に、悲しい笑みを浮かべる)

 

 

 

 

 

 

 

蛍一M:『・・・出来る限りのことはします。何だって』

あの言葉は本当だ。

雛菊がもしそんな考えを持ったとしても、

俺は俺のやり方で、雛菊を止める。・・・絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 続