ひらかれしもの 第十二話  「スターティング・ブルーム」

 

 

・飛鳥蛍一(あすか けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。

雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。

雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。

 

・音羽葉桜(おとわ はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。

活発で男っぽい性格で、一人称は「僕」。

詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。

霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。

 

・安部月白(あべ つきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。

女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。

その言動から、雛菊・葉桜には相手にされないことが多い。

陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。

詠唱者の一人。

 

・藤堂天理(とうどう てんり)♂:17歳。【大和路】のリーダー。

冷静沈着で、いつも笑顔を絶やさない。

蛍一のすぐ後に善部高校に転校してきた。

 

・キトラ ♀:29歳。天理の配下。金髪碧眼の妖艶な美女。

かなり高慢な性格の持ち主だが、天理の前でだけは従順になる。

 

・フリージア ♀:快活で無邪気な低級霊。元・月白の式神。体長およそ20センチ。

自分の主を「先生殿」と呼び、敬意の為か無理な「ですます」口調を使う。

式神の本能的なもので、主には絶対の忠誠(愛)を誓う。

 

・女教師 ♀:善部高校教師。若め。

 

 

配役比率  ♂3:♀3=六名

 

 

 

 

 

 

キトラM:どうしてこうなってしまったのかしら・・・。

全てはあのお方の為。全てはこの愛の為。

出すぎた真似だと分かっていても、逸(はや)る想いを抑えられなかった。

傲慢(ごうまん)な態度も、冷酷な視線も。

どんなに苛虐(かぎゃく)に扱われたって、それすらも喜びになる。

なのに・・・・・今更よ。

どうしてこんなに苦しいのかしら・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

―放課後。善部高校・中庭。

 

(見知っている土地のように、スタスタと歩き回る天理)

 

天理:「・・・・・変わらないな、ここも」

 

女教師:「あら。えっと・・・藤堂くん?」

 

天理:「あ、先生。先日はどうも」

 

女教師:「放課後なのに、こんなところでどうしたの?

あ、もしかして迷ってるのかしら?

どこか行くなら、先生、案内してあげましょうか?」

 

天理:「いえ、大丈夫です。

迷うことがないくらい、ここは何度も来ていますから」

 

女教師:「えっ・・・そ、そう・・・?」

 

天理:「ええ。ご心配ありがとうございます。では」

 

女教師:(転校してまだ2日しか経ってないのに。

・・・あの子、もうココに慣れたのかしら)

 

 

 

 

 

(廊下の窓ガラスを見て)

 

天理:「フフ・・・この顔も罪・・・ですかね」

 

サッカー部員:「・・・っ、しまったっ!」

 

(突如、サッカーボールが天理のもとへ飛んでくる)

 

天理:「・・・っ!」

 

フリージア:「ぴぎゃっ!!」

 

(天理をかばうかのように、小さな生き物がボールの下敷きになる)

 

天理:「・・・? 今、何かしゃべって・・・」

 

サッカー部員:「おーいっ!悪い!ボールとってくれーっ」

 

天理:「・・・気をつけてくださいね。はい」

 

サッカー部員:「いやー悪ぃ、悪ぃ!サンキュ」

 

天理:「・・・さて」

 

フリージア:「きゅぅ~~・・・」

 

(花壇に倒れ、伸びているフリージア)

 

天理:「・・・低級霊?にしては、何だか・・・」

 

フリージア:「ぅえ・・・いたたぁー」

 

天理:(少しばかり・・・嫌な力の匂いがしますね・・・)

 

天理:「君。大丈夫?起きれますか?」

 

(小さな彼女の体を掌に乗せる)

 

フリージア:「はぃぃ~。大丈夫なのですー」

 

天理:「君は・・・?」

 

フリージア:「・・・?」

 

天理:「えっと・・・お名前は?」

 

フリージア:「なまえ・・・。なまえ・・・?」

 

天理:「自分が誰か、わからないのですか?」

 

フリージア:「・・・・」

 

天理:「・・・」

 

フリージア:「・・・お、おぼえてないのです;」

 

天理:「全部?」

 

フリージア:「・・・全部;」

 

天理:(まさか、今のショックで・・・?)

 

天理:「・・・それはそれは・・・困りましたねぇ」

 

フリージア:「ど、どぅすればよぃのでしょー」

 

天理:「・・・・・・・“フリージア”」

 

フリージア:「ぇ?」

 

天理:「あなたが倒した、このお花の名前ですよ。

・・・こういうのはどうでしょう?

このお花の代わりに、あなたがフリージアになる、というのは」

 

フリージア:「フリー、ジア・・・?」

 

天理:「これが、これからのあなたの名前です。どうですか?」

 

フリージア:「・・・フリージア・・・!」

 

(きらきらと目を輝かせ、天理の周りを飛び回る)

 

天理:「小さくて可愛らしくて、あなたにぴったりでしょう?」

 

フリージア:「はいっ! 先生殿(せんせいどの)っ!」

 

天理:「・・・“先生殿”・・・?」

 

フリージア:「フリージアは、先生殿を“先生殿”とお呼びするのです!」

 

天理:「・・・それは、どういった経緯で・・・?」

 

フリージア:「先生殿はフリージアの主なのです!

名前を頂いたから、そうお呼びするのですっ!」

 

(嬉しそうに飛び回り、はしゃぐフリージア)

 

天理:「そうですか・・・」

 

フリージア:「はいっ♪」

 

天理:(フフ・・・これは・・・思わぬ拾い物をしましたね)

 

天理:「では、僕のために働いてくれますか?フリージア」

 

フリージア:「はいっ!

フリージアは、先生殿の為にきっとお役に立つのですっ!」

 

天理:「ふふっ・・・じゃあ、さっそくお願いしようかな」

 

フリージア:「何なりとお申し付けくださいなのですっ!」

 

天理:「・・・誘い出して欲しい人がいるんだ。

・・・とっておきのシチュエーションで、ね」

 

 

 

 

 

 

 

―その頃。音羽家居間。

 

(座って本を読んでいる葉桜を月白が見かける)

 

月白:「あぁ、葉桜。 あのさ、“あさぎ”を見なかったかい?」

 

葉桜:「・・・“あさぎ”? 何ソレ」

 

月白:「俺の式神だよ。このくらいの女の子なんだ」

 

(このくらい、と掌を広げる月白。本を閉じ、顔をしかめる葉桜)

 

葉桜:「・・・また女?」

 

月白:「・・・・・だから、式神だって言っただろ。

低級の霊(すだま)から俺が作ったんだよ。

小さくフラフラ光ってるから、すぐ分かると思うんだけど・・・」

 

葉桜:「知らない。そんなの見たことない」

 

月白:「ここ数日見ていないんだ。

無邪気で可愛い子だから、どこに行ったか俺としては心配でね」

 

葉桜:「だから知らないってばっ!

大体、式神まで女にしてるだなんて・・・女好き通り越して変態だね!」

 

月白:「・・・・っ、この・・・!

(怒りを堪えて)・・・相変わらずつれないね、お前は。

何?そんなに妬いて・・・俺の気を引きたいのか?」

 

(しゃがんで葉桜の隣りに座り、腕をつかむ)

 

葉桜:「っ・・・だ、だから・・・ありえないっていつも言ってるじゃん・・・!!」

 

月白:「ふぅん・・・?

何なら・・・・・・お前を、俺だけの式神(モノ)にしてもいいんだぜ・・・?」

 

(顔を近付け、耳元で囁く)

 

葉桜:「っっ!!///

ま・・・・・・まっぴら御免こうむるっっ!!!(殴る)」

 

月白:「ぐっ・・・!」

 

葉桜:「叔父さんのバカっ!!(逃走)」

 

月白:「だから叔父さんじゃなくて、お兄さんだって・・・。

フゥ・・・・・まったく・・・困った子だ」

 

 

 

 

 

 

―夕刻。善部高校・音楽室。

 

(優雅にピアノを弾く天理。)

 

天理:「運命の出会い・・・・・楽しみですね」

 

 

 

(一方、教室にて。)

 

蛍一:「やっば・・・雛菊ん家にサイフ忘れてきちゃったよ。

まぁ、近いし・・・取りに行くか・・・」

 

(ふいに、蛍一の真横を小さな光が通る)

 

蛍一:「・・・え?」

 

フリージア:(ふふっ♪)

 

蛍一:「・・・今の・・・なんだ?」

 

フリージア:(こっち~!こっちなのですっ)

 

蛍一:「俺を・・・呼んでる・・・?」

 

フリージア:(ンフフ♪気づいたのですっ!こっちですよぉー)

 

(フリージアの誘導で、走り出す蛍一)

 

蛍一:「はぁっ、はぁっ・・・!は、早いっ・・・」

 

フリージア:(んもぉ、遅いのですっ!早くぅーなのですっ)

 

(音楽室に着く。ピアノの音が聞こえると、その光は消えていた)

 

蛍一:(・・・?ピアノ・・・?誰かいんのか?)

 

蛍一:「シツレイしまーっす」

 

天理:「あ」

 

蛍一:「あ・・・。悪い、演奏中だった・・・よな?」

 

天理:「・・・いいえ。もう終りにしようと思っていたところですから」

 

蛍一:「そっか・・・」

 

蛍一:(何だろう、この妙な空間。

空気が緩んでいて・・・でも、気持ちがいいわけでもない・・・)

 

天理:「飛鳥蛍一くん、ですよね?」

 

蛍一:「え?俺のこと、知ってるのか?お前は・・・?」

 

天理:「転校生でしょう?僕も先日、ここに来たばかりなんです。

僕は藤堂・・・。そう、藤堂天理といいます」

 

蛍一:(あれ・・・天理?どっかで聞いたような・・・。・・ま、いいか)

 

蛍一:「そっか。転校生仲間だな」

 

天理:「フフ・・・そうですね」

 

蛍一:(綺麗な顔してるけど・・・男、だよな?

ずいぶん儚い笑い方して・・・)

 

天理:「あの子・・・」

 

(窓を開け、校庭を歩く雛菊を見つめる天理)

 

蛍一:「え?あぁ、雛菊か」

 

天理:「君は、彼女と・・・?」

 

蛍一:「いや、別に!そういう間柄じゃない!」

 

天理:「ふふ・・・そうですか?彼女、魅力的だから・・・」

 

蛍一:「まぁ・・・そこは認めるけども」

 

(目を細め、雛菊を見つめる二人。しばらくして、天理が蛍一に向き直る)

 

天理:「・・・・僕、ずっと君に・・・逢いたかったんです」

 

蛍一:「へっ?」

 

天理:「僕たち、似てると思いませんか?」

 

蛍一:(顔のこと・・・じゃないよな、当たり前だけど)

 

天理:「・・・おかしなことを、言ってるかもしれませんね」

 

蛍一:「あ、いや・・・。・・・わかるよ。なんとなくだけど」

 

蛍一:(この空気が、だんだんと嫌じゃなくなってくる。

慣れっていうんじゃなく、もともとあったような感覚。

確かに、この纏う雰囲気が俺たち、似てるのかもしれない・・・)

 

天理:「フフフ・・・」

 

蛍一:「な、なんだよ?」

 

天理:「いや・・・僕たち、いい友達になれそうだなぁと思って」

 

蛍一:「ま・・・そうかもな。よろしく、藤堂」

 

天理:「ええ、こちらこそ。飛鳥くん」

 

 

 

 

 

―夜。音羽家。

 

蛍一:「こんにちわー、お邪魔しまーす」

 

葉桜:「あ、蛍兄さんやっほ~」

 

蛍一:「って、月白さん!どうしたんですか、その顔っ!」

 

葉桜:「ほっといていいよ。どうせすぐ治るんだから」

 

(言うだけ言って部屋の奥へ消えていく葉桜)

 

蛍一:(いい男が台無しだ・・・!)

 

月白:「え?あぁ。ちょっとね・・・葉桜に」

 

蛍一:「・・・・・また女性関係で何かやらかしたんですか?

懲りないですね、月白さんも;」

 

月白:「怒るようなことでもないと思うんだけどね・・・」

 

蛍一:「ハハ・・・。月白さんが、本気になる女の人っているんですか?

そんなんじゃ、さくらちゃんが怒るのも無理ないですよ;」

 

月白:「あぁ・・・・。いるには・・・いるね」

 

蛍一:「ええっ!ホントですかっ?」

 

月白:「まぁ、でも・・・。

本気の恋はガキのまんまさ。・・・お互いな」

 

蛍一:(お互い・・・?)

 

月白:「ま、お前は気にしなくていいから。

・・・姫さんと仲良くやりな」

 

蛍一:「・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

―【大和路】社。

 

(天理がフリージアを連れて帰ってくる)

 

フリージア:「わぁ~。ここが先生殿のお家なのですねっ」

 

天理:「ふふ・・・。感想は?」

 

フリージア:「とっても暗いですっ!」

 

天理:「そうだと思いました。・・・ごめんね」

 

フリージア:「いいのですっ!

先生殿と居られれば、どこだって天国なのです♪」

 

天理:「ありがとう、フリージア。さっそくだけど、頼みたいことがあるんです。

引き受けてくれるかな?」

 

フリージア:「もちろんですっ」

 

 

 

(閉じ込められたキトラの元に、フリージアを連れてくる)

 

天理:「気分はどうだい?キトラ」

 

キトラ:「あぁっ!天理様っ!!」

 

天理:「すみませんでしたキトラ。女性をこんな場所に監禁するだなんて」

 

キトラ:「いいえ天理様。私がいけなかったのです。

全てはこの・・・キトラの身勝手な行動のために・・・!」

 

天理:「クス・・・わかってくれて嬉しいですよ。

あぁ、キトラ。新しい仲間が増えたんです。紹介しますね」

 

キトラ:「仲間・・・?」

 

天理:「フリージア。この女性がキトラ。

これから君には、この女の人のお世話をして欲しいんだ」

 

フリージア:「・・・?先生殿のお世話をするのではないのですか?」

 

キトラ:「この・・・小さな低級霊に・・・私が・・・!?」

 

天理:「ええ。キトラにはまだもう少し、ここに居てもらわねばなりません。

だから、フリージア。お願いできますか?」

 

キトラ:「天理様っ!」

 

キトラ:(私はまだ・・・許してはもらえないのですね・・・!)

 

フリージア:「フリージアは、先生殿にお仕えするのです!

だから、先生殿のご命令は、きちんと承るのですっ!」

 

天理:「・・・ありがとう。では、頼みましたよ」

 

フリージア:「はーいっ♪」

 

キトラ:(こんな・・・こんな下等な者に・・・私が・・・っ!)

 

 

 

 

 

 

天理M:さて・・・準備は整いつつある。

あとはもう一つの器(うつわ)と・・・彼女を捕まえるだけだ。

フフ・・・もうすぐ迎えに行ける。

利用価値のある新しい使人(しじん)も・・・手にいれたことですしね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 続