ひらかれしもの 第十三話 「エタニティ・ハロー」
・飛鳥蛍一(あすか
けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽雛菊(おとわ
ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、
家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。
色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。
・夏目硝子(なつめ
しょうこ)♀:16歳。葉桜の親友で、雛菊とは中学からの後輩。
大人しく礼儀正しいが、小心者のため人見知りが激しい。
言霊に霊気を発し、傷の痛みを留める能力を持つ。
詠唱者の一人。
・飛火野(とびひの)♂:38歳。天理の配下。赤髪に鋭い目を持つ、中年男性。
年相応の落ち着きがあるが、
14年前の【大和路】封印に関わると、感情的になる。
【大和路】に与しているものの、慈悲の心を持ち合わせる程々の常識人。
・緑牙(りくが)♂:西の地・地属。鋭い爪と牙を持ち、地を駆ける獣型の色魔。
義を重んじ、頑固な性格。堅物。
色魔が人間を襲うことに、疑問を持っている。
・紅牙(こうが)♂:南の地・火属の色魔。業火を操り、変化の術を使える。
緑牙の仲間1。人間を嫌い、炎のように、感情の激しい妖。
・空牙(くうが)♂:東の地・風属の色魔。飄風を操り、空を飛ぶことが出来る。
緑牙の仲間2。紅牙と同じく人間を嫌い、冷たい言葉や態度を放つ。
配役比率 ♂5:♀2=七名
飛火野M:少し細道の階段を上る。
三丈先の行き止まりが見えたら横道に反れて、林道を抜け暗い空間に出る。
そこが今の我らの場所。
苦楽も何もない、只の空間。
奥の壇上に座り、その方は黒く妖しく微笑む。
儚く、まるで女かとも思えるその玉顔(ぎょくがん)で。
背後の“あれ”と同じように。
・・・我々は生かされている。
次の働きに繋げるための、ただの道具として。
―深夜。善部町はずれの森の中。
(口元を血で汚し、木と木の間を縫うように走り続ける緑牙)
緑牙:「ハァ・・・っ、ハア・・・・!!」
緑牙:(すまない・・・!紅牙・・・空牙・・・っ!・・・私は・・・!!)
(数時間前。)
飛火野:「お前達にも、悪い話ではないだろう。
別に殺そうとしているわけではない。
これは取引だ」
紅牙:「人間を襲わせてやるから、お前らにつけってか?
・・・ケッ、冗談じゃねぇっ!
お前らなんかに命令されなくたって、人間ぐらいいつでも襲えるだろ!」
飛火野:「口が利け、頭がまわるお前達なら理解できると思ったんだがな」
空牙:「取引・・・という割には、随分と乱暴ですね。
脅し、なのでしょうか?
・ ・・貴方一人が、我ら三体に敵うとは思えませんが」
緑牙:「・・・」
飛火野:「まぁ・・・俺一人では無理かもしれん。
しかしだ。俺のバックの人間を忘れてはいないか?
こちらも働かないと殺されてしまうのでね。
返事は今、早急に欲しい」
緑牙:「“藤堂天理”と言ったか・・・?
そ奴は何者だ?」
(飛火野は小さく微笑い、口を開く)
飛火野:「・・・“大和(やまと)”」
紅牙(&空牙):「!!!」
空牙:「いや・・・まさか・・・そんな」
紅牙:「だって、あいつは死んだって・・・!?」
飛火野:「死んだのではない。一時封印されていただけだ。
14年前のあの封印から、少しずつ力は取り戻されている。
・・・我々の背後には、いつもあのお方がいるんだ」
緑牙:「・・・成る程な。それにしても、何故私たちの力が必要になる?」
紅牙:「そ、そうだっ!
そいつはそいつで、勝手に【詠姫】でも何でも殺せばいいだろ!」
空牙:「我らには関係ありませんね」
飛火野:「それは俺が決めることじゃない。
・・・断ったらどうなるか・・・・・分かっていても?」
紅牙:「・・・っ!!」
緑牙:(反論する余地はない、か。
単に、その男の道具に択(すぐ)られただけというもの・・・。
・・・わからない。
その男が必要とする意味も、ましてや今の私たちの存在理由も。
それに・・・『人間を襲う』?
そこに何の意義がある。
色魔(しき)は何故・・・人間を襲うのだ)
空牙:「仕方が・・・ありませんね」
緑牙:「空牙っ!?」
空牙:「手向かいは無意味でしょう。
こういった論議は好きではありませんが・・・人間はもっと嫌いです。
一応の利害は一致していますからね」
紅牙:「そうかよ・・・。
わかった。お前が行くなら、俺も行く」
緑牙:「紅牙!! お前まで・・・!」
紅牙:「俺も、人間は嫌ぇだ。
ただの餌のくせに、ギャーギャーうるせえし、
・・・どんどんと、俺らの世界を壊していく」
飛火野:(人間の暴挙とも言える自然破壊。
・・・元はといえば色魔も、自然物の霊魂から出来たのだったな)
緑牙:「それはそうかも知れない!だが・・・!」
紅牙:「何だよ?お前はいつから人間の味方になったんだよ!?
・・・お前も来るだろ?なあ、緑牙(りくが)」
緑牙:「何を・・・」
空牙:「ためらう必要はないでしょう?」
緑牙:「私は・・・」
緑牙:『色魔(しき)は何故・・・人間を襲うのだ』
(俯き、震えながら声を絞り出す緑牙)
緑牙:「・・・・・私は・・・お前たちとは違う・・・」
紅牙:「何、だって・・・?」
緑牙:「私は行かぬ!」
飛火野:「ほう・・・?」
緑牙:「ずっと疑問だった・・・私たち色魔(しき)は何故存在しているのかを。
何故、人間を襲う必要がある?
共存する方法など、いくらでもあろう?
何故・・・憎み、殺しあう?!」
空牙:「・・・そんな、事・・・」
紅牙:「なんで、色魔のお前が・・・んな事言うんだよっ!!」
緑牙:「だから私は行かぬ。
この問いの答えが見つかるまで・・・
それまで、死ぬ訳にもゆかぬ・・・!」
(ギロリと、まっすぐ飛火野を睨み上げる)
飛火野:「・・・」
緑牙:「私を殺すか?飛火野とやら」
飛火野:「まぁ・・・命令だからな。
とりあえず、そっちの二体・・・お前らは来るんだろう?」
空牙:「・・・ええ」
飛火野:「じゃあ・・・敵ってことになるな」
空牙:「そうなりますね・・・」
紅牙:「ま、待てよ・・・!!そんな急に!」
飛火野:「これは天理様からの勅命だと思え。
お前らに命じる。
『緑牙を殺せ』」
紅牙:「何言って・・・・!!そんなこと、出来るわけ・・・!」
緑牙:「来い・・・紅牙」
紅牙:「緑牙っ!!おい、空牙、お前もなんか言えよ・・・!」
空牙:「・・・いずれ違える道だったのです。せめて・・・」
紅牙:「嫌だ!俺は・・・そんなの・・・っ!!」
飛火野:(どうせ二対一だ。負けるはずが無い)
緑牙:「せめて・・・悔いの残らぬよう、お前らの命、我が手で・・・!!」
<グルルルル・・・・!>
(唸りを上げ、紅牙と空牙に襲い掛かる緑牙)
飛火野:「これもまた一興・・・か」
―数時間後。深夜・善部町はずれの雑木林入り口。
雛菊:「ん~・・・この辺だった・・・気がするんだけど」
蛍一:「気がするって・・・もうちょっと明確に感じないのか?」
雛菊:「うるさいわね。集中してんだから黙っててよ!」
蛍一:「う;」
硝子:「あ、飛鳥先輩っ・・・。
こういうのは、さくらが得意なんです。
だ・・・だから、その、時間かかっても私たちだけで頑張りましょうっ?」
蛍一:「そっか・・・・うん、そうだね」
雛菊:「う~~ん・・・」
蛍一K:今日は珍しく、雛菊が『見回りに行こう』と俺と硝子ちゃんに言い出した。
事の始まりは昼休み。
最近はつい、力のあるさくらちゃんと月白さんに見回りを任せていたもんだから、
それを、目の前の偉大なる【詠姫】様に、こっぴどく叱られてしまった。
ついでにそれを偶然、硝子ちゃんに見られてしまって、
なんだか知らないうちに、彼女まで付き合わされるハメに・・・。
硝子:「でも、私は嬉しいです。ずっとお役に立ちたいって思ってたから」
蛍一:「いやいや!硝子ちゃんは充分役に立ってるよ」
雛菊:「アスカよりは断然ね!」
蛍一:「・・・ハイハイ。すいませんでしたね。
しっかし・・・本当にこの辺なのか?
お前が違和感を感じた場所ってのは」
雛菊:「そうよ。・・・多分」
蛍一:「多分・・・ねぇ;」
雛菊:「よくは分かんないのよ!霊力がごちゃごちゃしてて・・・」
蛍一M:昨夜から雛菊は、この周辺に妙な霊力を感じたという。
彼女いわく、“シキの集合体”のような、大きな力・・・らしいが、
詳しい話はわからない。
雛菊が分からないんだったら、俺なんかもっと分からない!
硝子:「あの・・・手分けして探すっていうのはどうでしょうか?
この辺りに何かがあることは、確かなんですよね?
雛先輩が感じるほどの霊力の持ち主だったら、
きっとすぐに判別出来ると思うし・・・」
雛菊:「そうね。そうしましょうか」
蛍一:「この森の中をか!?
俺と雛菊はいいとしても・・・硝子ちゃんを一人で歩かせるわけには・・・」
雛菊:「あたしはいいって・・・それ、どういう意味よ?」
蛍一:「お前は木をなぎ倒すくらい、強いだろ。
硝子ちゃんは違う。そーいう意味だ」
雛菊:「失礼ねっ」
硝子:「あの、私なら大丈夫です。
一応、私も詠唱者ですから。
もし何かあったとしても、霊力発信で雛先輩に気づいて頂けますし・・・」
蛍一:「そうだったね。
んー・・・でも、気をつけて。何かあったら大声出すんだよ」
硝子:「はい、わかりました」
雛菊:「・・・ずいぶんと優しいじゃない」
蛍一:「ま、硝子ちゃんは誰かと違って繊細だからなー」
雛菊:「・・・っ。
もういい。付き合ってらんないわ。
あたしはあっち、北のほう回ってくるから。
20分後にここに集合。
何かあったら、声あげるなり霊力使うなりして。・・・じゃ」
(早々と一人、森の中へ入っていく雛菊)
蛍一:「あいつ・・・何怒ってんだぁ?」
硝子:「・・・飛鳥先輩;」
蛍一:「じゃあ俺は、東のほう回ってみるよ。
硝子ちゃんも気をつけて」
硝子:「あ、はい。 また後で」
(大木にもたれ、息を荒げる緑牙)
緑牙:「ッグ・・・っ、ハァ、ハア・・・・」
緑牙:(これでよかったのか・・・? 私は・・・!)
紅牙:「俺は・・・俺は・・・うわぁあああっ!!」
(自棄になって緑牙に襲い掛かる紅牙)
緑牙:「ぐっ・・・お前らとは・・・ずっと一緒にいたかった・・・・!」
(空牙の首元を噛み切る)
空牙:「ぐ、あぁぁっ!!」
紅牙:「緑牙・・・てめえぇっ!!」
緑牙:(そうだ、かかってこい紅牙・・・。
私たちの道はもう、違ってしまったのだ)
緑牙:『・・・西天、西地・・・我が名をもって暗雲の招来!
緑崖大破(りくがいたいは)!!』
紅牙:「なっ、三星(みぼし)詠唱・・・!? う、うわぁああっ!!」
(地面が割れ、そこへ紅牙が引きずり込まれる)
飛火野:「・・・」
緑牙:「これで満足か・・・?」
飛火野:「・・・何?」
緑牙:「最初から、我らをこうさせたかったのだろう?」
飛火野:「・・・・・あぁ。お前には分かっていたのか。
そうだ。俺が欲しいのは、お前ら三体の心の臓」
緑牙:「色魔の力を・・・“大和”に渡すために?」
飛火野:「そうだ」
緑牙:(こいつらは・・・・!どこまでも腐っている・・・!)
緑牙:「そうはさせない・・・お前が狙うというならば・・・私が・・・!」
(紅牙・空牙の胸を裂き、心臓を食らう緑牙)
飛火野:「何っ・・・!」
緑牙:「・・・帰って、失策の報告でもすればいい。
私を追うのも、そ奴の勝手だ・・・!!」
(口元を血で汚し、走り去る緑牙)
<ガサガサ・・・っ!>
緑牙:「・・・!何者だ・・・!?」
硝子:「きゃっ!」
緑牙:(人、間・・・?)
硝子:「し、色魔・・・!なんて、大きな・・・」
緑牙:「私が見えるのか、人間。
それに・・・色魔を知っているのか」
硝子:「・・・言葉が使える色魔に会ったのは、は、はじめてです」
緑牙:「そなた・・・何者だ?
いや、それはどうでも良い・・・。
ッグ・・・ハァ・・・・。立ち去れ・・・私に近づくな・・・!」
硝子:「怪我を、しているんですね・・・血が、いっぱい出ている・・・」
緑牙:「これは私の血ではない・・・
いいから、立ち去れ!!」
硝子:「っ!」
(大声にビクつく硝子。
それでも去ろうとせず、緑牙の脇にしゃがみこみ、傷口に手をかざす)
硝子:「・・・大丈夫です」
緑牙:「・・・・・・何を」
硝子:『揺(ゆり)動け、大地の緩衝(かんしょう)。
詠唱者・夏目硝子、風土を渡りて早期に、けやけし者を滅し、候(そうろう)・・・』
緑牙:「詠唱者(えいしょうしゃ)・・・。そなたは詠唱者だったのか。
傷が・・・痛みが引いていく・・・」
硝子:「傷の痛みを留めているだけです。治癒力は変わりません」
緑牙:「・・・それでも・・・すまない。助かった。
しかし、【詠姫】(よみひめ)側の人間が、私など手当てしたら・・・」
硝子:「それは・・・」
緑牙:「傷を留めるのが、そなたの力なのだろう?
私になど使ってはならない。
さぁ行け。もう二度と会うこともあるまい」
硝子:「で、でも・・・!」
雛菊:「硝子ちゃん!」
硝子:「雛先輩!」
蛍一:「そいつ・・・色魔か?なんて大きい・・・」
雛菊:「硝子ちゃんが力を使ったから分かったのよ。
・・・なんだ、死にかけじゃない。
よし、さっさと封印して・・・」
硝子:「ま、待ってください!!」
雛菊:「・・・え?」
緑牙:「・・・?」
硝子:「こ、この人・・・い、生かせておいてあげることって出来ないですか・・・?
出来れば、仲間に・・・
まだ傷も治ってないんです。だから・・・」
緑牙:「そなた、何を言って・・・」
雛菊:「・・・どういうことか、説明して。
そこのシキ、あんたも。
どうして、そんなに血だらけなのかもね」
緑牙:「・・・そうだな。お前たちには話す必要もあるだろう」
(今までの経路を話す緑牙。黙る三人)
緑牙:「・・・で、今に至るというわけだ」
雛菊:「・・・・・そう」
蛍一:「まぁ、その・・・悪いシキじゃないみたいだな。
で、どうする?雛菊」
雛菊:「どうするって言ったって・・・」
蛍一:「俺はお前が決めたことに従う」
雛菊:「・・・」
(ちらりと、硝子を見る)
硝子:「私も、飛鳥先輩と同じ意見です」
雛菊:「ふぅ・・・・・分かったわ。
あんた、名前は?」
緑牙:「・・・緑牙、という」
雛菊:「そう。あたしは、三代目【詠姫】・音羽雛菊。
【大和】にケンカ売った以上、あたしはあんたを歓迎するわ。
あんたの力は必要になる・・・だから、よろしくね」
硝子:「雛先輩・・・!」
緑牙:「いいのか・・・?
【大和】に追われる身になるのだぞ?」
蛍一:「いやぁ・・・もう実際追われてるからさ」
雛菊:「問題が一つくらい増えたって、なんてことないわ」
緑牙:「そう、か・・・」
硝子:「これから、よろしくおねがいしますね。緑牙さん」
緑牙:「あぁ・・・・硝子」
緑牙M:すまない、紅牙・空牙・・・。
私は【詠姫】と共に歩く。
力を認められた。命を助けられた。
・・・その恩に報いねばならない。
お前たちの命は無駄にしない・・・この疑問を、解くためにも。
続