ひらかれしもの 第十四話  「セントラル・オブ・ハーツ」

 

 

・飛鳥蛍一(あすか けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。

雛菊と同じクラスに転校してくる。

ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。

雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。

 

・音羽雛菊(おとわ ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、

家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。

色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。

 

・安部月白(あべ つきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。

女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。

その言動から、雛菊・葉桜には相手にされないことが多い。

陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。

詠唱者の一人。

 

・夏目硝子(なつめ しょうこ)♀:16歳。葉桜の親友で、雛菊とは中学からの後輩。

大人しく礼儀正しいが、小心者のため人見知りが激しい。

言霊に霊気を発し、傷の痛みを留める能力を持つ。

詠唱者の一人。

 

・音羽大喬(おとわ ひろたか)♂:37歳。雛菊・葉桜の父親。

ハイテンションなオカマ。これでも神社の神主。占いが得意。

 

緑牙(りくが)♂:西の地・地属の色魔。鋭い爪と牙を持ち、地を駆ける獣型の色魔。

仲間を裏切り【詠姫】のもとへとつく。

自分の仲間・紅牙と空牙の心臓を食らい、力を得て、

空を裂き飛ぶことが出来、人間に変化することも出来る。

 

 

配役比率  ♂4:♀2=六名

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍一M:口元を血で汚し、右目がつぶれたボロボロの状態で拾われた緑牙。

【大和】という言葉に敏感に反応して、怒りを露(あら)わにする雛菊。

・・・みんな、重い過去を背負ってる。

硝子ちゃんのように、傷を癒せる力もない俺は・・・

一体、どれだけのことが出来るんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――休日。昼。音羽家・居間。

 

月白:「緑牙。悪いけど、この術式使いたいから力かしてくれるかい?」

 

緑牙:「ああ」

 

大喬:「あ、緑牙。ちょっとお鍋の火、見ててもらえるかしら?」

 

緑牙:「わかった」

 

大喬:「見てるだけじゃダメよ?噴いたら止めてね」

 

緑牙:「わかっている」

 

蛍一:「・・・・・人間(こっち)の世界でやっていけるかと心配したけど・・・」

 

雛菊:「・・・なんか、妙に馴染んでるわね;」

 

月白:「緑牙。お茶」

 

緑牙:「ああ。少し待っていろ」

 

硝子:「よかったです、馴染んでもらえてるなら」

 

蛍一:(馴染むというか、パシリ・・・?)

 

雛菊:「まぁ、いいじゃない。

緑牙のこと、みんなも受け入れてくれたみたいだし」

 

蛍一:「あぁ・・・」

 

大喬:「最初はビックリしたけどねェ~。

こんな大きな虎、どっから拾ってきたのかと思ったわよォー」

 

硝子:「す、すみません・・・おじさま」

 

大喬:「んもォ、硝子ちゃんが謝ることじゃないでしょう?」

 

月白:「そうだよ。

こっちとしては、力のある味方が増えたんだ。

喜ばしいことだと、俺は思うね」

 

緑牙:「月白。茶が入った」

 

月白:「ああ、ありがとう」

 

大喬:「さくらなんて、『ずっとペットが欲しかったんだ!』なんて喜んじゃって」

 

緑牙:(ぺっと・・・?)

 

蛍一:「ハ、ハハ・・・。で、そのさくらちゃんは?」

 

雛菊:「学校で追試だって。こないだのテスト、相当悪かったらしいわよ」

 

硝子:「さくらったら、あれだけテスト前に『勉強したほうがいいよ』って言ったのに・・・」

 

雛菊:「結局、一夜漬けで散々だったみたいだしね」

 

蛍一:「うわ・・・。でも、分かるなー。さくらちゃんの気持ち」

 

蛍一:(俺も赤点ギリギリだったもんな;)

 

雛菊:「まったく・・・凡人って大変よね」

 

蛍一:(・・・っ。そういや、なんだかんだ言っても、雛菊は学年トップなんだよな。

スイマセン・・・こいつ、ぶっとばしていいですか?)

 

雛菊:「硝子ちゃんが勉強教えなかったら、もっと酷い成績だったわよ、きっと。

・・・じゃ、あたし、また裏庭にいるから。

緑牙。何かあったら、呼んでちょうだい」

 

(居間から出て行く雛菊)

 

緑牙:「ああ」

 

蛍一:(やっぱりパシリ・・・?)

 

大喬:「アラ!雛菊は?」

 

硝子:「今ちょうど裏庭に出たところです。

何か御用でしたら、お呼びしましょうか?」

 

大喬:「ヤだわぁー。お買い物に行ってもらおうと思ったのに。

アタシはこれから、境内のお掃除しなくちゃいけないし・・・

じゃ、ごめんなさい硝子ちゃん。呼んできてもらえるかしら?」

 

硝子:「お買い物ですか?

あの、よろしかったら私、行ってきましょうか?」

 

大喬:「いいの?」

 

硝子:「ええ。特にすることもないですし・・・お役に立てればいいんですけど」

 

大喬:「助かるわァ~♪

じゃあね、今日の夕飯はお鍋だから・・・

このメモ通りにおつかい行ってきてくれる?」

 

硝子:「わかりました。じゃあ、行ってきま・・・」

 

緑牙:「硝子」

 

硝子:「はい?」

 

緑牙:「私も行こう」

 

硝子:「え・・・で、でも。そんなに荷物多くないですし」

 

緑牙:「人間の世界に慣れるためにも、連れて行って欲しい」

 

硝子:「ええっと・・・そのぉ・・・」

 

月白:「緑牙。その姿じゃあ、人前で出歩くわけにはいかないさ」

 

緑牙:「・・・そうなのか?」

 

月白:「いくらシキが人間に見えないとはいえ、

善部町(ここ)の人間は、霊や妖(あやかし)が見えすぎる。

人は、人ならざるものを不快に思うからね」

 

蛍一:(まぁ確かに・・・これだけ大きな虎がいたら、目をひくよなぁ)

 

緑牙:「そうか・・・」

 

硝子:「だから、その・・・すみません、緑牙さん;」

 

緑牙:「人に見えれば、問題はないのだな?」

 

月白(&硝子):「え?」

 

緑牙:『・・・南天、南地・・・我が名をもって風采(ふうさい)の変化』

 

蛍一:「えっ・・・えええっっ!!?」

 

(赤い煙に包まれたかと思うと、獣から人間の姿に変わる緑牙)

 

緑牙:「これで・・・人間に見えるだろうか」

 

月白:「・・・これは驚いた」

 

蛍一:「見える・・・見えるけどっ!」

 

硝子:「す、すごい・・・緑牙さん、変身出来るんですねっ」

 

緑牙:「この力は、もともと仲間の一人・紅牙(こうが)のものだった」

 

月白:「へぇ・・・

ということは、紅牙の力を得たから、君も変身できるようになった・・・と?」

 

緑牙:「そういう事になる」

 

蛍一:(な、何でもアリだな・・・)

 

月白:「それにしても・・・ずいぶんと男前になったじゃないか」

 

緑牙:「そうか?元と大して変わらんだろう」

 

蛍一:(いや、充分変わってるけど!)

 

緑牙:「硝子。これで連れて行ってもらえるだろうか」

 

硝子:「そ、そうですね。じゃあ、行きましょうか、緑牙さん」

 

緑牙:「ああ」

 

蛍一:「いってらっしゃい、二人とも」

 

(家を出る二人)

 

月白:「・・・・・これも時間の問題、か」

 

蛍一:(月白さん・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

硝子:「それにしても驚きました・・・。

まさか緑牙さんにこんな能力があるなんて」

 

緑牙:「これは紅牙の力だ。後に、空牙の力を見せることもあるだろう」

 

硝子:「空牙さんの・・・?」

 

緑牙:「あ奴らには・・・酷(むご)いことをした・・・。

裏切っておきながら、奴らの力を食い得て、私は逃げ出したのだ」

 

硝子:「それは!・・・そうするしか出来なかったのでしょう?

緑牙さんのせいではないと・・・思います」

 

緑牙:「・・・すまなかった。そなたにこんな話をするのはよくないな」

 

硝子:「・・・?」

 

緑牙:「そなたには感謝している・・・。

敵である私を救ってくれたのは、間違いなくそなただ。

だから私は・・・命を賭(と)してでも、そなた達のために力をつくそう」

 

硝子:「ありがとうございます、緑牙さん。

でも、命は捨てるものではなく、育むものです。

だから、そんな簡単に『賭す』なんて言わないでください」

 

緑牙:「・・・・ああ、そうだな」

 

硝子:「・・・傷は、痛みますか?」

 

緑牙:「いや・・・傷はそんなに深くない。だから治りも早い」

 

硝子:「その、目は・・・?」

 

(緑牙の右目に斜めに入った、大きな傷を見上げる硝子)

 

緑牙:「これは古傷だ。ずっと昔、私が生まれ出でたころのもの。

何、左目だけでも、見えるものは見える」

 

硝子:「・・・そう、ですか」

 

硝子:(私の能力は、傷を留める力・・・完全に治すことは出来ないんだ)

 

緑牙:「さ、行こう」

 

硝子:「え?」

 

緑牙:「私は今、少し楽しい。

新しい発見が次々と出てきて・・・人間の世界はこうも明るいのだな」

 

硝子:「ふふっ・・・」

 

硝子:(どうか・・・この人が見える世界が、より輝きますように。)

 

 

 

 

 

 

 

 

―音羽家、裏庭。

 

雛菊:「くっ・・・はぁ、はっ・・・!」

 

雛菊:(詠唱の力の限界が見えるのが早い・・・。

ダメなのよ・・・これじゃ・・・!)

 

雛菊:「も、もう一回・・・!」

 

大喬:「はァい、ストップー」

 

雛菊:「っ!」

 

(背後から、雛菊の束杖を取り上げる大喬)

 

大喬:「もうそのくらいにしなさいな。見てるほうが耐えらんないワよ」

 

蛍一:「少し、休憩したらどうだ?・・・ホラ」

 

(水の入ったペットボトルを投げ渡す蛍一)

 

雛菊:「お父さん・・・アスカ・・・」

 

大喬:「頑張るのと、無茶するのとは違うのよ?」

 

(優しく雛菊の頭をなでる)

 

雛菊:「・・・分かってる。けど・・・」

 

蛍一:「・・・そんなに【大和】が気になるのか?」

 

雛菊:「・・・だって・・・!

あいつらはお母さんを殺したの!

あたしはあの瞬間を、今でもハッキリと覚えてる・・・。

一瞬だって、忘れたことなんかない・・・!」

 

蛍一:「・・・雛菊」

 

大喬:「ダメよ・・・女の子がそんな恐い顔しちゃ。

お嫁に行けなくなったらどうするの?」

 

雛菊:「・・・でも」

 

大喬:「アンタが【大和】を恨む気持ちは分かるけど・・・。

それはお門違いってもんよ。

アンタは・・・【大和】をぶっ潰すために【詠姫】(よみひめ)やってるの?」

 

雛菊:「・・・!」

 

蛍一:「俺はお前じゃないから・・・お前の憎しみとか恨みとか、わかんない。

わかんないけど・・・だからこそ。・・・俺にも分けてくれよ」

 

雛菊:「アスカ? ・・・何言って・・・」

 

蛍一:「【詠姫】と詠唱者って、そういうもんだろ?

仲間って、そういう意味だよな?」

 

雛菊:「アスカ・・・・」

 

硝子:「ただいま帰りました」

 

大喬:「さ!硝子ちゃん達も帰ってきたし、ちょっと早いけど、お昼にしましょう!

お母さん、今日はがんばっちゃうんだから♪」

 

蛍一:「い、いや、大喬さんはお父さんでしょ!」

 

大喬:「やーね!初めて会ったときに兼備っていったじゃなァい!」

 

蛍一:「・・・そ、そうでしたね。は、ははは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

雛菊M:・・・あたし、ちょっと焦りすぎてたのかしら。

きっと、一番に恨みを持ってるのは他の誰でもなくお父さんだろうし、

「分けてくれ」って言ったアスカも、実はきっと恐がってるんだと思うし・・・。

それでも少し・・・ほんの少しだけど、嬉しかった。

あたしを気遣ってくれる二人の優しさが。

二人とも・・・・・あ、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

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