ひらかれしもの 第十五話  「ソアー・イン・ザ・スカイ」

 

 

・飛鳥蛍一(あすか けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。

雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。

雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。

 

・音羽雛菊(おとわ ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、

家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。

色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。

 

・音羽葉桜(おとわ はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。

活発で男っぽい性格で、一人称は「僕」。

詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。

霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。

属性:風

 

・安部月白(あべ つきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。

女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。

その言動から、雛菊・葉桜には相手にされないことが多い。

陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。

詠唱者の一人。 属性:雷

 

・夏目硝子(なつめ しょうこ)♀:16歳。葉桜の親友で、雛菊とは中学からの後輩。

大人しく礼儀正しいが、小心者のため人見知りが激しい。

言霊に霊気を発し、傷の痛みを留める能力を持つ。

詠唱者の一人。 属性:地

 

・緑牙(りくが)♂:西の地・地属。鋭い爪と牙を持ち、地を駆ける獣型の色魔。

仲間を裏切り【詠姫】のもとへとつく。

自分の仲間・紅牙と空牙を食らい、力を得て、

空を裂き飛ぶことが出来、人間に変化することも出来る。

 

 

配役比率  ♂3:♀3=六名

 

 

 

 

 

 

 

 

緑牙M:世界が、変わる。

今までの暗夜とは比べ物にならないくらい、目の前は鮮やかだ。

それは常闇(とこやみ)だった私の世界を、一瞬にして塗り替えていく。

私は・・・そうだ。

『恩を返す』だけではない。

このままここで、『生きていたい』のだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―音羽神社・境内。

 

(術式の準備をしながら、携帯電話で話をする月白)

 

月白:「・・・あぁ。もう少ししたら、すぐそちらに向かうよ。

俺もそんな気はしていたんだ。

・・・え?あぁ、皆には言わないでおくよ。

もちろん、俺たちだけの秘密さ・・・いいね?

大丈夫。いずれ話す時がくるだろう。

ああ・・・じゃあね」

 

(そこへ、葉桜が学校から帰ってくる)

 

葉桜:「・・・・また女?」

 

月白:「・・・おかえり、葉桜。

帰って来るなり、そのお言葉とは・・・感心しないね」

 

葉桜:「あ、はぐらかした」

 

月白:「別にそんなつもりはないさ」

 

葉桜:「まぁ・・・月白叔父さんが、誰と何してようが関係ないけど!

追試もやっと終わったし・・・」

 

緑牙:「・・・月白、霊水はこのくらいでいいのか?」

 

(緑牙(人間姿)がコップ一杯の水を持ってやってくる)

 

緑牙:「ああ、葉桜。帰っていたのか」

 

葉桜:「!!!?

・・・だ、誰!?」

 

緑牙:「私だ、葉桜」

 

葉桜:「だから誰!」

 

月白:「緑牙だよ。声で分からないかい?

悪いね緑牙、この陣の中心に置いてくれ」

 

緑牙:「ああ」

 

葉桜:「緑牙って・・・緑牙は、あの虎みたいな獣型シキじゃ・・・」

 

月白:「なんでも、人間に変身出来るそうだよ。

今度、また変身し直してもらうといい」

 

葉桜:「変身・・・そんなこと出来るんだ。

ふ~ん・・・」

 

(緑牙の姿をじっと見つめる葉桜)

 

葉桜:「ずいぶんと男前になったじゃん、緑牙!」

 

緑牙:「・・・月白と同じことを言うのだな」

 

葉桜:「げっ

 

月白:「げ、とは失礼だね」

 

緑牙:「・・・お前達は仲が良いな」

 

葉桜:「誰が仲良くなんか・・・!

・・・ま、まぁいいや。

ところで月白兄さん、それ、何の術式?」

 

月白:「ああ・・・

以前、俺の式神が消えたと言ったろう?

戻ってくる気配がないから、新しい式神を作るんだよ」

 

葉桜:「・・・で、また女?」

 

月白:「・・・どうせ側につくなら、可愛い女の子の方がいいだろう?」

 

葉桜:「ハイハイ・・・」

 

月白:「あ、しまった。札を部屋に置きっぱなしだったんだ。

あと緑牙。義兄(にい)さんから数珠を借りてきてくれないかい」

 

緑牙:「・・・わかった」

 

(家の中へと戻っていく月白と緑牙)

 

葉桜:「・・・また女、か。・・・むっかつく!

こんな円陣・・・!えいっ」

 

(陣の中に描いてある文字を足で消す)

 

葉桜:「式神召喚なんて、失敗しちゃえばいいんだ!!

・・僕、しーらないっと!」

 

(立ち去る葉桜)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―その夜。居間。

 

葉桜:「ねえ、なんか暑くない?

まだ春だよ?この暑さおかしいって」

 

蛍一:「うん・・・じっとしてても汗が出る」

 

月白:「おかしい・・・・」

 

葉桜:「あ、やっぱり月白兄さんもそう思う?」

 

月白:「あ、いや・・・そうじゃない。

さっきから何度も式神召喚をしようとしているのに・・・出来ないんでね」

 

葉桜:「なんだ、そっちか」

 

葉桜:(って、さっきのアレ、バレてないのかな;)

 

緑牙:「皆。気づかないか?」

 

雛菊:「え?何?」

 

緑牙:「この熱気は異常だ。

表に出たほうがいい。この気は・・・シキのものだ」

 

蛍一:「ええっ!?」

 

雛菊:「・・・まさか。

この神社はシキが入り込めないように結界が張ってあるじゃない。

前に、アスカのせいで一回入られた時に、強化したはずでしょう?」

 

蛍一:「そこ、強調すんな」

 

硝子:「今回は別に何か、原因があるんじゃないでしょうか?」

 

葉桜:「とりあえず外に出てみよう!」

 

 

 

 

 

 

 

―境内。

 

<ゴォォオオ・・・・!!>

 

(炎が立ち上がり、燃え広がる境内。唖然とする蛍一達)

 

蛍一:「な、な・・・!!!」

 

葉桜:「な、何これぇぇえええっ!!」

 

雛菊:「う、ウチの境内がっ!!燃えてるっ!!」

 

緑牙:「だから言っただろう。

これはきっと、火属性のシキの仕業だ」

 

雛菊:「何落ち着いて言ってんのよっ!

早く消さないと・・・境内がっ!」

 

硝子:「しょ、消火器持ってきます!」

 

蛍一:「消防車呼んだ方が・・・!」

 

緑牙:「いや・・・これはシキの作り出す炎だ。

人間の什器(じゅうき)では消しさる事は出来ないだろう」

 

(そうしている間にも、境内は炎々と燃え続ける)

 

硝子:「じゃあ、どうしたら・・・!」

 

月白:「詠唱の力で、そのシキを倒すしかないだろうね」

 

葉桜:「んなこと言ったって・・・。

・・・っ!

火の勢いがすごくて、シキの姿なんか見えないよ!」

 

月白:「しかも、こちらには水属性がいないと来たもんだ。

・・・これはこれは・・・ピンチだねぇ」

 

蛍一:「そんな悠長なこと言ってないで、どうするか考えてくださいよ!!」

 

(炎が舞い上がり、一瞬だけ中から女性の姿が見て取れる)

 

緑牙:「・・・強い恨みだ」

 

硝子:「うらみ・・・?」

 

葉桜:「名は梅宮(うめのみや)。属性は火だね」

 

雛菊:「十二色魔(じゅうにしき)?」

 

葉桜:「・・・多分。

今回、僕は・・・パス。だって、火属性苦手なんだもん」

 

月白:「風は炎を煽(あお)るだけだからね。

・・・して、緑牙。“恨み”とは?」

 

緑牙:「強い積怨(せきえん)の情を訴えている。・・・お前達に、だ。

以前、恋人を殺されたと言っている」

 

硝子:「・・・緑牙さん、シキとの会話も出来るんですか?」

 

緑牙:「ああ。私もシキだからな」

 

蛍一:「恋人・・・?」

 

雛菊:「そんなの、倒したっけ?」

 

緑牙:「・・・風属性の大木だったという」

 

葉桜:「・・・・・・・・あ゛っ」

 

蛍一:「まさに、以前ココに来た色魔じゃ・・・・」(※第二話参照)

 

緑牙:「その私怨(しえん)で、こ奴の炎が渦巻いているのだろう」

 

雛菊:「・・・しょ、しょうがないじゃない!!

あたしは【詠姫】(よみひめ)で、シキは敵なんだからっ!

倒すのは必然でしょ!」

 

緑牙:「・・・」

 

雛菊:「・・・あ;」

 

緑牙:「・・・そうだな。私もそう思う。

それは、変えられない運命だ」

 

硝子:「緑牙さん・・・」

 

月白:「しかし、この炎はやっかいだね。

今回、俺も出来ればパスしたいね。・・・雷では、“火に油”だ」

 

雛菊:「でも、早くしないと、家が~~~!」

 

硝子:(みなさん、困っている・・・地属性の私なら・・・まだマシに戦える・・・?)

 

月白:「水・火属性がいないというのは・・・辛い状況だね」

 

蛍一:「俺も、自由に力が使えたらいいんですけど;」

 

雛菊:「ちょっと・・・みんな、誰か一人、心強い味方を忘れてない?」

 

蛍一:「え・・・」

 

雛菊:「あたしが行って来る」

 

葉桜:「そっか!姉さんっ!」

 

月白:「なるほど。以前封印した、紫雨眼(むらさめ)を使うんだね?」

 

雛菊:「さすが月白お兄さん。理解が早くて助かるわ。

・・・じゃ、サポートよろしく」

 

蛍一:「ちょっと・・・大丈夫なのか?」

 

葉桜:「そうだよ。

確かに姉さんが一番有利だけど・・・最近、無理しすぎじゃない?」

 

雛菊:「だ、大丈夫よ!」

 

緑牙:「・・・」

 

蛍一:「・・・」

 

緑牙:「・・・・・硝子」

 

硝子:「は、はいっ?」

 

緑牙:「・・・一瞬でいい。あ奴の炎を抑えることが出来るか?」

 

硝子:「え・・・は、はい。本当に一瞬ですけど;」

 

緑牙:「うむ。それでいい。

雛菊・・・このままあの炎に突っ込むことは無謀だ」

 

雛菊:「え・・・う、うん。でも・・・」

 

緑牙:「上から、だ」

 

雛菊:「え?」

 

緑牙:「上から攻撃しろ。硝子が力を抑える、その一瞬だ」

 

雛菊:「分かった、けど・・・上からって、どうやって・・・」

 

緑牙:『東天・東地・・・我が名をもって高翔(こうしょう)の扶翼(ふよく)』

 

(緑牙がそう唱えると、人間の姿から獣へと戻り、その背には大翼が生えていた)

 

葉桜:「・・・っ! ほ、本当に緑牙だっ!」

 

蛍一:「は、羽が生えた!」

 

緑牙:「雛菊、硝子。私の背に乗れ」

 

雛菊:「え、ええっ!」

 

緑牙:「早く。・・・時間がないのだろう?」

 

雛菊:「う、うんっ・・・さ、硝子ちゃん!」

 

(緑牙の背にまたがり、硝子へと手をのばす)

 

硝子:「は、はいっ」

 

硝子:(これが緑牙さんの言っていた、空牙さんの力・・・!)

 

 

(空高く舞い上がる緑牙)

 

雛菊:「う、わぁ・・・!」

 

葉桜:「いいなぁ・・・僕も、空飛びたかったぁー」

 

月白:「・・・そんなこと言ってる場合じゃないだろう;」

 

蛍一:(まるで、一枚の絵みたいだ・・・。なんて幻想的な・・・)

 

 

 

(シキの真上まで来る)

 

緑牙:「・・・今だ!」

 

硝子:『揺(ゆり)動け、大地の震源。

詠唱者・夏目硝子、風土を渡りて早期に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!』

 

(突如大地が揺れ、数多の岩石が炎を覆っていく)

 

雛菊:(・・・っ!熱気が・・・ここまで・・・!)

 

蛍一:(・・・雛菊・・・?)

 

雛菊:『三代目【詠姫】・音羽雛菊の名をもって招ずる。

管弦・雅楽(ががく)・唱合(うたあわせ)』

 

(雛菊の束杖から、紫色が浮かび上がる)

 

雛菊:『汝、元の色から詠姫の力となれ!!』

 

(大粒の雨が降り注ぎ、渦巻く炎を消していく)

 

葉桜:「やった!」

 

雛菊:「月白お兄さんっ!」

 

月白:「あぁ・・・分かっているよ、姫さん!」

 

(大量の水をあび、うなだれる梅宮の前に立つ)

 

月白:『唸れ、蒼天の雷(いかずち)。

詠唱者・安部月白、暗雲を切り裂き直下に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!』

 

(呼号のきいた雷が、シキの真上から落とされる)

 

雛菊:『急ぎ律令(りつりょう)の如く・・・せよ!!』

 

<キャアアアアアアア!!!>

 

(梅宮は悲鳴をあげ、その場に倒れる)

 

緑牙:「・・・これも・・・しっかりと見届けなくては」

 

雛菊:「・・・・ごめんね。

『汝、只、元の色に戻れ。・・・昇華』」

 

 

 

 

 

 

 

 

月白:「しかしおかしいな・・・何故、結界が破れたんだ?

もしや、さっきの書陣(しょじん)が間違っていたのか・・・?」

 

葉桜:(マズイマズイ・・・・どうかバレませんように;)

 

緑牙:「月白。その陣では、結界を相殺するようになってしまっている」

 

月白:「そうだったのかい?

間違えたつもりはないんだが・・・すまなかったね、皆」

 

雛菊:「別にいいんじゃない?

結果的に十二色魔(じゅうにしき)を封印できたんだし」

 

葉桜:「だ、だよねー!よかったよかった!」

 

雛菊:「・・・?」

 

硝子:「さくら?なんか変よ・・・?」

 

葉桜:「そ、そう?き、気のせいじゃないかなぁ!

あは、あははは・・・!」

 

 

 

 

 

 

―その後。居間に残る蛍一と雛菊。

 

蛍一:「雛菊」(手首をつかむ)

 

雛菊:「わっ!な、なによっ?」

 

蛍一:「左腕。ちょっと見せてみろ」

 

雛菊:「え? ・・・何よ、別に何にもなってないわよっ!」

 

蛍一:「いいから!」

 

雛菊:「っ!」

 

(露わになった雛菊の左腕に、赤くはれ上がった痕が残っている)

 

蛍一:「やっぱり・・・ヤケドしてた」

 

雛菊:「う゛っ・・・なんで分かったのよ・・・」

 

蛍一:「なんとなく。

手当てするから、じっとしてろよ?」

 

雛菊:「・・・しょ、しょうがないわね。手当てさせてあげる・・・///」

 

蛍一:「ハイハイ;

・・・・・・あんまり、無理すんなよ?」

 

(言いながら包帯を巻く蛍一)

 

雛菊:「・・・その台詞、最近よく聞くわ。しつこいっ」

 

蛍一:「お前がちゃんと言うこと聞かないからだろ。

それまで何度でも言うぞ、俺は」

 

雛菊:「・・・ふふっ」

 

蛍一:「な、何だよ?」

 

雛菊:「お父さんみたいっ」

 

蛍一:「は、ハァ?どこが!」

 

雛菊:「うん・・・覚悟しとく」

 

蛍一:「え?」

 

雛菊:「案外悪くないわね・・・心配されるってのも」

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍一M:さっきの映像が思い浮かんだ。

『空を描いた奇跡』――そんな言葉が頭をよぎる。

彼女はどんどんと変わり、またその光を伸ばしていく。

遠くを見つめて羽ばたいて・・・振り返って、同じ瞳で俺を見る。

・・・走らなければ。

置いていかれないように。

出来ればずっと・・・・・・そばにいられるように。

 

 

 

 

 

 

 

 続