ひらかれしもの 第十八話 「グラウンド・ステラ」
・飛鳥蛍一(あすか
けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラスに転校してくる。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽雛菊(おとわ
ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、
家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。
色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。
・夏目硝子(なつめ
しょうこ)♀:16歳。葉桜の親友で、雛菊とは中学からの後輩。
大人しく礼儀正しいが、小心者のため人見知りが激しい。
言霊に霊気を発し、傷の痛みを留める能力を持つ。
詠唱者の一人。
・緑牙(りくが)♂:西の地・土属。鋭い爪と牙を持ち、地を駆ける獣型の色魔。
仲間を裏切り【詠姫】のもとへとつく。
自分の仲間・紅牙と空牙を食らい、力を得て、
空を裂き飛ぶことが出来、人間に変化することも出来る。
・音羽沙尭(おとわ
さゆり)♀:故人。雛菊・葉桜の母親。色魔を操る組織【大和路】に殺される。
先代【詠姫】。
配役比率 ♂2:♀3=五名
雛菊M:・・・このままじゃダメなんだ。・・・そう何度も思う。
覚悟も意思も、まだまだ足りなくて、
それを補うために、抗(あらが)う毎日。
ねえ・・・もし。もしもあたしが居なくなったりしたら、
あんたは、少しでも悲しんでくれるのかしら・・・?
―放課後。善部高校校門前。
(校門前で待つ雛菊と硝子。そこへ走っていく蛍一と葉桜)
葉桜:「ご、ごめ~ん!姉さん、硝子っ」
雛菊:「遅い!何してたのよ!」
蛍一:「それはこっちの台詞だろ!ったく・・・どこ行ったかと思ったら」
雛菊:「う゛・・・しょ、しょうがないじゃない。
【大和】がいないって分かって、じっとしてなんかいられなかったんだから・・・」
蛍一:「お前・・・見た目に反して士気旺盛なのな;
だけど、一言くらい断っていけよ。心配するだろーが」
雛菊:「そ、それはその・・・・ご、ごめん///」
蛍一:「お、おぅ」
蛍一:(なんか、やけに素直だな。調子狂う;)
葉桜:「・・・」
(その様子をじっと見つめる葉桜)
硝子:「・・・さくら?」
葉桜:「・・・え?な、何っ?」
硝子:「どうしたの・・・?」
葉桜:「え、な、何が?」
葉桜:(硝子にまで心配かけちゃ、マズイよね)
硝子:「月白さんと何か・・・」
葉桜:「さ、帰ろうか~!僕、おなかすいちゃったよー!」
硝子:(さくら・・・)
雛菊:「そうね。早く帰って、アスカの特訓もしなきゃいけないし!」
蛍一:「ゲッ!今日やるのかよ」
雛菊:「当たり前でしょ。
“善は急げ”、“急がば回れ”よ!」
蛍一:「わかったよ; うぅ・・・どこまでもついて行きます・・・」
葉桜:「じゃ、しゅっぱ~つ!だね!」
硝子:「ご、ごめんなさい!」
(会話を割って、急に頭を下げる硝子)
葉桜:「ぇ?」
硝子:「その・・・ちょっと用事が出来てしまって・・・今日は一人で帰ります;」
雛菊:「どこか寄るの?付き合いましょうか?」
硝子:「いえ、大丈夫です。一緒に帰れなくてすみません・・・」
蛍一:「いいよいいよ。でも、気をつけてね」
硝子:「はい。ごめんね、さくら」
葉桜:「う、うん・・・」
硝子:「みなさんも、お気をつけて」
雛菊:「じゃ、また明日ね」
(下校する雛菊達)
硝子:「・・・さて、と」
硝子:(やっぱり気になっちゃう。絶対、月白さんと何かあったんだわ・・・。
だって、あの顔・・・。まぶた、少し腫れてた。泣いてたんでしょう?
私・・・月白さんに一言言わないと、気がすまないもの)
(校門を引き返し、校内へと戻る硝子)
硝子:「ふふっ・・・今までの私だったら、こんなこと出来なかったな。
きっと、さくらが知ったら驚くでしょうね」
硝子:(これも詠唱者になったおかげなのかも・・・)
(校内を歩き回る硝子)
硝子:「職員室には居なかったし・・・一体どこに・・・」
緑牙:「硝子」
硝子:「ひあぁっ!・・・り、緑牙さん!?」
(硝子が振り向くと、人間姿の緑牙がいた)
緑牙:「・・・何をそんなに驚く」
硝子:「そ、そのぉ・・・
似ても似つかわしくない場所に、緑牙さんがいましたから・・・;」
緑牙:「・・・ここが、『がっこう』なのだろう?
奇妙な社(やしろ)だ・・・」
(不思議そうに辺りを見回す緑牙)
硝子:「ふふ。あれ・・・そういえば、緑牙さんはどうしてここへ?
というか、どこから入ってきたんですか?」
緑牙:「窓からだ」
硝子:「ええっ?」
緑牙:「【大和】がここに居ると聞いた。
だから、護衛にと思い、そなた達を迎えに来たのだ」
硝子:「あ、そうだったんですか。
あの、でも、みなさんはもう先に帰られてしまって・・・」
緑牙:「ふむ・・・。月白から、今時(いまどき)に帰ると聞いたのだが・・・」
硝子:「月白さんから・・・?
あの・・・私いま、月白さんを探していたんです。
どこにいらっしゃるか知りませんか?」
緑牙:「ここにはいない」
硝子:「え?じゃ、じゃあもう帰られたんでしょうか?」
緑牙:「いや・・・家路にはついていない。
だが、ここにはないのだ」
硝子:(いないなら、仕方がない、かな。
また明日出直すしか・・・)
硝子:「わかりました。今日は帰ります」
緑牙:「そうか。・・・・さぁ」
(手を差し伸べる緑牙)
硝子:「え?・・・えぇっ?///」
緑牙:「・・・帰るのだろう?一人では危険だ。私が送っていく」
硝子:「で、でも・・・」
緑牙:「・・・嫌か?」
硝子:「い、いえ・・・その・・・・あ、ありがとうございます////」
(緑牙の手をとる硝子。校門を出る二人)
女子:「あっれ~、夏目さんっ?何ナニ?彼氏のお迎え~?」
硝子:「い、いえっ!そ、そんなんじゃ・・・!///」
女子:「あっはは、もう照れちゃってぇ~!んじゃ、お幸せにー♪」
硝子:「・・・・うぅ;////」
緑牙:「・・・・・硝子、『かれし』とは?」
硝子:「ふぇ!? そ、その、えっと・・・・・こ、恋人のこと・・・です;(小声)」
緑牙:「そ、そうだったのか・・・!その、すまない。軽率だったようだ」
硝子:「い、いえ・・・///」
(繋がれた手を見て、俯く二人)
緑牙:「私はこのままでも構わないが・・・良いか?」
硝子:「は、はい・・・///」
沙尭:『ねえ雛菊・・・・この詠唱は、みんなには内緒よ・・・』
雛菊(3歳):『ない、しょ?』
沙尭:『そう。誰にも言ってはダメ。そういう掟なの』
雛菊(3歳):『う・・・?』
沙尭:『ふふ・・・言葉も覚えたての雛菊には難しいかな・・・?
でもね、きっとあなたは覚えてる。
十年たっても、二十年たっても、これは一生忘れない。
・・・だって雛菊は、三代目・【詠姫】(よみひめ)なんだもの』
雛菊(3歳):『よみ・・・ひめ?』
沙尭:『そう・・・・あなたは、みんなを守るお姫様になるのよ』
雛菊:(お母さん・・・・!)
―音羽家。裏山。
雛菊:「さ、着いたわ。さっそく特訓よ」
蛍一:「ちょ・・・ちょっと・・・俺、この山登るのも慣れてないんだから・・・
少しは加減してくれよ・・・」
(しゃがみこみ、息切れする蛍一)
雛菊:「あんた、薄弱(はくじゃく)過ぎよ。もうちょっと鍛えたら?」
蛍一:(お前に言われると、ものすごく凹むんですけどッ!)
雛菊:「・・・あそこに、滝が見えるでしょ?」
蛍一:「え? あぁ。木で隠れて見えづらいけど」
雛菊:「そう。ちょうど、ジャマだと思ってたところなのよ。
・・・さ、この木、何本か倒してみて」
蛍一:「んな人間離れしたこと出来るかっ!!」
雛菊:「あたしに出来たんだから、あんたにも出来るわよ。
詠唱使えば一発でしょ。・・・ほら、集中して」
蛍一:「はぁっ?!」
雛菊:「目標は、あの滝の水が割れるところまで。
じゃ、行くわよ?
『三代目【詠姫】・音羽雛菊の名をもって招ずる。
管弦・雅楽・唱合(うたあわせ)、加持を詠みし声を聴け』」
蛍一:「仕方ねえか・・・っ!」
雛菊:(・・・あたしが変えてあげる。
自信がないならつければいい、そう教えてくれたのはお母さんよ。
待っていて、お母さん。
あたしがみんなを守れるように、あたし自身ももっと強くならなきゃ)
蛍一:『篝(かがり)吹け、幾万の言の葉。
詠唱者・飛鳥蛍一、空間を切り裂き無効に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!』
雛菊:『急ぎ律令の如く・・・せよ!!』
硝子:「・・・三星(みぼし)?」
緑牙:「ああ。私・紅牙・空牙。
口が利け、莫大な力を持つ我ら三体は、他の色魔(しき)からそう呼ばれた。
我らの詠唱を“三星詠唱(みぼしえいしょう)”と呼ぶのも、その為だ」
硝子:「他の色魔(しき)とは違ったんですね」
緑牙:「あぁ・・・だからかもしれない。私たちはいつも、三体だけでいた。
他に拠り所がなかったからだ」
硝子:「いつも・・・一緒に・・・?」
緑牙:「他と違うからこそ、きっと恐れられたのだろうな。
まぁ・・・今や紅牙も空牙も・・・・この世にはいないがな・・・」
硝子:「緑牙さん・・・」
緑牙:「ああ、そんな顔をしないでくれ。
・・・すまないな。
そなたにはつい、包み隠さず話してしまうようだ。
きっと、そなたが真剣に聞こうとしてくれているからなのだろう」
硝子:「私は・・・いると思います。紅牙さんと、空牙さん」
緑牙:「え・・・?」
硝子:「緑牙さんの胸の中に。きっと、居ます。
そうして、緑牙さんのこと、見守ってくれるんだと思うから・・・」
緑牙:「・・・・ああ。そうだな。きっと・・・」
(胸に手をあて、哀しそうに微笑む緑牙)
緑牙:(許してくれとは言わない。
ただ今だけ・・・
どうか、この安閑(あんかん)を保たせていてくれ・・・)
硝子M:何もしてあげられないって、それだけでちょっと、泣きそうになった。
それでも・・・誰よりも傷ついている貴方が、
どうして私の胸の傷跡を、優しく撫でてくれるのだろう?
神様。もしあなたという存在がいるのなら、
どうか、この人を幸せにしてあげてください・・・。
続