ひらかれしもの 第十九話 「フリー・ウィル」
・飛鳥蛍一(あすか
けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽雛菊(おとわ
ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、
家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。
色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。
・安部月白(あべ
つきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。
女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。
その言動から、雛菊・葉桜には相手にされないことが多い。
陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。
詠唱者の一人。
・藤堂天理(とうどう
てんり)♂:17歳。蛍一のすぐ後に善部高校に転校してきた二年生。
【大和路】のリーダー。冷静沈着で、いつも笑顔を絶やさない。
・マルコ ♂:12歳。天理の配下。何事にも無感動無関心の感情をもたない少年。
自分の存在意義を求めるためだけに、天理のそばにつく。
・飛火野(とびひの)♂:38歳。天理の配下。赤髪に鋭い目を持つ、中年男性。
年相応の落ち着きがあるが、
14年前の【大和路】封印に関わると、感情的になる。
【大和路】に与しているものの、慈悲の心を持ち合わせる程々の常識人。
配役比率 ♂4:♀1:♂or♀1=六名
月白M:まぁ・・・お迎えがくることは分かっていたからね。
仕方が無いさ。
これは俺の問題で、アイツには関係ない。
自分の手でならまだしも・・・
他の誰かに泣かされるなんて、許せるはずがないだろう・・・?
―音羽家。
(廊下を歩き、通り過ぎる月白を追う蛍一)
蛍一:「・・・つ、月白さん!」
月白:「ん?どうした、蛍一」
蛍一:「・・・・どうしたって・・・俺が聞きたいこと、分かるでしょう?」
月白:「はて、何のことかな?」
蛍一:「さくらちゃんのことですよ!」
蛍一M:月白さんが教師として赴任してきたその日。
この人は、さくらちゃんに『俺には近づくな』と、冷たく警告した。
分かってる。この人は何も考えず、そんなこと言う人じゃない。
理由があるんだ。きっと・・・。
でも、それを聞かないと、納得できない。
何より、さくらちゃんの為にも。
月白:「・・・葉桜のこと?」
蛍一:(おせっかいかもしれない。
口を出すことじゃないのかも知れないけど・・・)
月白:「・・・で?それが、何だ?」
(冷たく言い放つ月白に、怒りをぐっとこらえる蛍一)
蛍一:「っ!・・・月白さん、さくらちゃんのこと、突き放したって聞きました。
確かにいつもケンカしてるけど・・・本当はそんな仲じゃないでしょう?」
蛍一:(あのいつもの口ゲンカには、二人のつながりみたいなものを感じたから)
月白:「さぁ・・・どうかな」
蛍一:「誤魔化さないでください!
さくらちゃん、傷ついてましたよ。
・・・俺・・・妹みたいに思ってる子が・・・傷つくところ、もう見たくないです」
月白:「・・・・」
蛍一:「だから、謝ってください!さくらちゃんに。
今ならまだ間に合いますから・・・!」
月白:「葉桜がそう言ったのかい?」
蛍一:「え?」
月白:「『謝ってくれ』って。俺にそう言ってくれって」
蛍一:「そ、そうじゃないです・・・けど;」
月白:「だったら話し合いは無用だ」
蛍一:「でも・・・!」
月白:「フゥ・・・・お前も・・・おせっかいだね」
蛍一:「う゛・・・・」
月白:「悪いけど、これでも俺は忙しいんだ。また今度、遊んでやるよ」
(そう言い放って、家を出て行く月白)
蛍一:「くっ。なんで・・・あんな言い方・・・!」
雛菊:「・・・ハァ。バカね、あんたも」
蛍一:「ぅわっ!ひ、雛菊!いきなり出てくるなよ;」
(後ろから声をかけてきた雛菊に、驚いてしりもちをつく蛍一)
雛菊:「ホント、おせっかいよ・・・」
蛍一:「しょ、しょうがないだろ・・・言わずにはいられなかったんだから」
雛菊:「月白お兄さんがそんなこと言う理由なんて、一つしかないじゃない」
蛍一:「・・・どういうことだ?」
雛菊:「そうさせてる相手が、一つだって言ってるのよ」
蛍一:「・・・っていうと、色魔(しき)?」
雛菊:「正確には、【大和】ね。
警戒を怠(おこた)らない人だから、
安部家の情報で何かつかんだのかもしれないわ。
それで、『一人で解決しよう』とか、変なこと考えてるんじゃないかしら」
蛍一:「なるほど・・・ってお前、よく分かったな;」
雛菊:「当たり前でしょ。何年、お兄さんと一緒にいると思ってるのよ」
蛍一:(今初めて、お前のこと真面目に尊敬したよ;)
蛍一:「しっかし・・・安部の情報網ってそんなにすごいのか?」
雛菊:「そうね・・・。音羽の分家にあたるのよ、安部家って。
音羽家では処理しきれない色魔(しき)や霊を、裏で退治したり。
今じゃ、シキを使っていろんな研究もしてるみたいね」
蛍一:「分家・・・?
でも、月白さんは沙尭(さゆり)さんの弟だろ?
直系だったら、なんで分家になんか・・・」
雛菊:「“【詠姫】(よみひめ)継承されし音羽、男人(だんにん)要らず”」
蛍一:「?」
雛菊:「・・・あんたには話したことなかったわね。
代々【詠姫】(よみひめ)を受け継ぐ音羽家には、
男の子は不要とされてたの。
それで、生まれた男の子は、全て分家の安部に引き取られることになってるのよ」
蛍一:「な、なんだよそれっ。おかしくないか?!」
雛菊:「あたしも聞いたときは驚いたわよ・・・
でも、それが音羽と安部のルールなんだって。
月白お兄さんは、その例規(れいき)ってわけ」
蛍一:(あ・・・そういえば・・・・)
月白K:『ここに来るのも2年ぶりくらいですかね』
月白K:『ええ。修行は終わりました。
・・・これからは姫さんを守る役目に専念します』
蛍一:(そういうことだったのか・・・)
蛍一:「で、でもさ!わざわざさくらちゃんに冷たくすることないと思わないか?」
雛菊:「ん・・・まぁ、それはそうかもしれないけど・・・」
蛍一:「それに、月白さん一人で【大和】を相手にするのは、危ないんじゃ・・・」
雛菊:「それはあたしも同感」
蛍一:「雛菊・・・じゃあ・・・!」
雛菊:「うん、追いかけましょ!お兄さんが心配・・・!」
(月白を探すため、二人は家を飛び出した)
―【大和路】社。
(誰もいない虚に、一人たたずむ飛火野)
飛火野:「天理様はお出かけか・・・」
マルコ:「天理様、いないの?・・・報告、しようと思ったのに」
飛火野:「出かけられているようだな。
お前は、どこに行っていたのだ?」
マルコ:「・・・フランス」
飛火野:「天理様の出身地か・・・それで、何を?」
マルコ:「・・・言えない」
飛火野:「まぁ・・・大方、新しい器(うつわ)でも探しに行っていたのだろう?」
マルコ:「・・・・・そう。“彼”がいるから、本当は要らないって言われたけど。
でも・・・予備に必要かもしれない、とも言われたから」
飛火野:「あの方にしては、弱気な発言だな。
・・・なんでも欲しいものは、手につかんでおられたのに」
マルコ:「・・・・飛火野。
天理様、昔からこんな人・・・?」
飛火野:「何だ、急に?」
マルコ:「飛火野は、天理様のことずっと前から知ってる。
ボクは・・・・何も知らないから」
飛火野:「・・・・・天理様も、器にしか過ぎないのだ」
マルコ:「え・・・・」
飛火野:「裏にいるのは“誰”か・・・いや、“何”と言ったほうがいいだろうな。
それは分かっているだろう?」
マルコ:「・・・・【大和】?」
飛火野:「あぁ・・・・」
飛火野M:むせかえるような熱気。・・・爆風と、爆音。
それから、何もなくなったあの静けさ。
一瞬にして消え去って、彼女の残り香さえもない。
あの情景は、きっと一生忘れられない。
天理:「そんなに知りたい・・・?マルコ」
マルコ:「っ! ・・・天理様」
飛火野:「お、お帰りなさいませ」
天理:「話してしまったんですね、飛火野」
飛火野:「も、申し訳ございません!」
天理:「いいんですよ。いつかは話そうと思っていましたし」
飛火野:「・・・・」
天理:「この体もね・・・今ちょっと借りてる状態なんですよ」
マルコ:「・・・! つまりは・・・天理様は、【大和】に憑かれてるの?」
天理:「早い話が・・・ま、そうだね。
以前の器が壊れてしまったから、霊力の高い天理(これ)を選んだんですよ」
マルコ:(たったそれだけのこと・・・なのに、なんでこんなに重いんだ)
天理:「ちょうどそこで、君と出会ったんだよね。マルコ」
マルコ:「・・・うん」
―回想・5年前。
天理:『そういうわけで、この子は頂いていきますね』
女:『待って!やめて! その子は私の・・・・!!!』
(ドスリ、と、女の心臓を短剣で一刺しする天理)
天理:『・・・何か言いました?』
女:『ぐ・・・・ぁ・・・』
天理:『クス。・・・気のせいだったみたいですね。さあ、行きましょうか』
マルコ:『・・・?何があったの・・・?』
飛火野:『なんでもない。・・・・お前は、何も見ていない』
天理:「でもそろそろ、この姿にも飽きてきたからね。
早く“彼”が欲しいところだよ」
飛火野:(マルコの両親を殺し、天理(じぶん)の両親をも殺し・・・
その冷徹な笑顔で、それを言うのか・・・)
マルコ:「・・・・準備は?」
天理:「もう少しですよ。
やっぱり、シチュエーションは大事だからね。
楽しみにしていて」
飛火野:「御意。お手伝いできることがあれば、なんなりと・・・」
天理:「ふふ・・・ありがとう」
飛火野M:見届けなくてはならない。
・・・【大和】の末路を。
そして、消え去った彼女の姿、その想いを。
たとえ悪に与し、いくらの猶予がないにしろ・・・
俺は、未だ彼女の残り香を探している・・・。
続