ひらかれしもの 第二十話 「ペイルブルー・トレース」
・飛鳥蛍一(あすか
けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽葉桜(おとわ
はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。
活発で男っぽい性格で、一人称は「僕」。
詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。
霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。
・安部月白(あべ
つきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。
女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。
その言動から、雛菊・葉桜には相手にされないことが多い。
陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。
詠唱者の一人。
・キトラ ♀:29歳。天理の配下。金髪碧眼の妖艶な美女。
かなり高慢な性格の持ち主だが、天理の前でだけは従順になる。
・フリージア ♀:快活で無邪気な低級霊。体長およそ20センチ。
月白の式神であったが、シキに襲われ、その記憶を失くしており、
善部高校内で天理に拾われる。元の名前は“あさぎ”。
式神の本能的なもので、主には絶対の忠誠(愛)を誓う。
配役比率 ♂2:♀3=五名
フリージアM:式神は、主にお仕えするものなのです。
主のご命令をきちんとこなすのが、お役目なのです。
先生殿・・・。
フリージアは・・・・きちんとお役に立てたでしょうか?
もう叶わないけれど、
本当はずっと、貴方様のおそばにいたかったのです・・・。
月白:「あさぎ・・・・」
月白:『我、望み賜(たま)いしは・・・・』
―善部町はずれ。夕刻。
(海沿いの道路に向かって、山をおりる二人。ふと、フリージアが立ち止まる)
フリージア:「ぅん?」
キトラ:「・・・どうしたの?」
フリージア:(呼ばれた気がしたのですけど・・・)
フリージア:「ぃえ・・・なんでもないのです」
キトラ:「他のものに気をとられている暇はないわよ?
あの男も相当の手練(てだれ)。
すでにこちらの意図はつかんでいることでしょうね」
フリージア:「さっすが、イケメンは違うのですーっ♪」
キトラ:「まぁ・・・臆することはないわ。
天理様から頂いたこの色魔(しき)。
ヤツの雷を押さえ込み、相殺し・・・
フフフ・・・それにまず、二対一では叶わないでしょうよ」
フリージア:「キトラ殿、顔が悪代官なのです~♪」
キトラ:「なによそれっ!!!
って・・・そんな冗談言っている場合ではなさそうね。
まぁ・・・すごい剣幕。
いい男が台無しよ」
(別の山道から、月白が意をかためた表情で近づいてくる)
月白:「・・・女性に呼び出されるのは光栄だが・・・
まさかこんな形で再会するとはね。
クス・・・どこの神様の悪戯かな?」
フリージア:「っ!!」
(ふと月白の顔を見たフリージアが、胸を必死におさえ、うずくまる)
フリージア:(何・・・ですか、この心臓の痛みは・・・!
このイケメンさんの顔を見たとたんっ・・・!)
月白:「おやおや・・・どうしたのかな?
あまり、男の顔は見慣れないかい?小さなお嬢さん」
フリージア:「・・・ぅ?」
(顔をあげるフリージア)
月白:「・・・・お前は・・・・・・・・“あさぎ”!?」
フリージア:「ふぇ?あさ、ぎ・・・?」
月白:「ハァ・・・今まで、どこに行っていたんだ?
ずっとお前を探していたんだよ。
いつまで経っても戻ってこないから、新しい式神を召喚しようとまで・・・」
フリージア:「へ?あ、あの・・・」
月白:「しかし、よかった。
これでもう心配する必要もないみたいだね」
フリージア:「・・・あさぎって、誰のことですか?
あなたは、フリージアのことを知っておられるのですか?」
月白:「・・・? 何を言って・・・」
キトラ:「あら。お兄さんはそこの低属霊とお知り合いなのかしら?
今は何を言っても無駄よ。
この子、ここ一ヶ月の記憶がないんですって。
ちなみに、今の名前はフリージア。
あなたのことも、全く覚えてないと思うわよ」
月白:「・・・・。それはそれは・・・困ったものだ」
フリージア:(先生殿・・・!?)
(フリージアの脳裏に、月白と天理の笑顔がだぶる)
フリージア:(全然違う人なのに・・・お顔も背も、同じところなんてないのに・・・
なんでなのでしょう・・・??)
キトラ:「まぁ・・・会いに行く手間がはぶけたわね。
安部月白。
天理様の命(めい)により、お命頂戴するわ」
月白:「艶美(えんび)な女性に殺されるのは本望・・・と言いたいところだけど、
生憎、そう簡単にやられるわけにもいかないものでね。
迎撃(げいげき)といこうじゃないか」
(かまえる二人)
フリージア:(あぁ・・・何故なのでしょう・・・!体が・・・うごきません;)
キトラ:「フリージア!
ぼさっとしてないで、色魔(しき)を出しなさい!」
フリージア:「は、はいーなのですぅ!」
キトラ:『・・・恍惚(こうこつ)の扉、永楽の夢、妖(よう)の邂逅(かいこう)』
フリージア:『荒くれなる生命(いのち)、ここに現じよ!』
(二人がそう唱えると、二対の色魔が海と山、それぞれから現れる。
その姿は巨大な大仏を模し、色魔の上には暗雲が立ち込めていた)
月白:「へぇ・・・珍しいね。人間に従う色魔(しき)とは」
キトラ:「天理様から直々に頂いたのよ。
この子たちがあなたのお相手をするわ」
フリージア:「イケメンさんには悪いのですが、
先生殿のご命令は絶対なのですっ!」
月白:「・・・今はその口で、他の男の名を呼ぶんだね」
月白:(記憶をなくし、敵についたか・・・)
フリージア:(なんで・・・)
月白:「・・・いいよ、いつでもおいで」
フリージア:(なんでそんな哀しそうに笑うのですか?)
<グォオオオオオオオオオンン!!!>
(怒号を発し、色魔の頭上にある暗雲が集まっていく)
キトラ:「この色魔(しき)は二体で一対(いっつい)。
天災の威力、思い知るがいいわ!」
<ゴロゴロゴロ・・・・>
月白:「まさかとは思ったが・・・・フッ。
・・・同じ属性とはね」
<ピシャアアアアンン!!!!>
(月白の真上に雷が落ちる。それに気づき、後退し避ける)
月白:「くっ・・・威力は二体で俺の倍、もしくはそれ以上か・・・!」
キトラ:「逃げている暇はないわよ!!」
(鞭を片手に、月白に襲い駆けるキトラ)
月白:「女性からのアピールは控えめが理想だよ・・・!
『我、望み賜(たま)いしは、悪しき者の消散。・・・“烈(れつ)”!!』」
(札を握り、印を唱え、キトラの両手首に貼り付ける)
キトラ:「くぅ・・・!」
(そこから熱が生じ、がくんとキトラの腕が下がる)
キトラ:(この安部の力・・・やはり天理様の言っていた通り、
この人間はやっかいだわ・・・!!)
(それでも鞭を手放さず、月白の首元に鞭がからまる)
月白:「・・・っ、ずいぶんといい趣味をお持ちで」
フリージア:「あ、ぅ・・・・」
キトラ:「フフ・・・どっちが!! フリージア!」
フリージア:「は、はいぃ!」
(フリージアが天を指差すと、色魔から二度目の迅雷が落ちてくる)
キトラ:「さぁ・・・今度はよけられないわよ!」
<ピシャアアアアアアンン!!>
月白:『我、望み賜(たま)いしは、悪しき者の消散。・・・“砕(さい)”!!』
(色魔の雷と、月白の術式がぶつかる。
だが威力は色魔の方が強く、それはいとも簡単に破られる)
月白:「ぐっ、ああぁっっ!!」
(落雷を直下にあびる月白)
キトラ:「やった・・・!」
フリージア:「あ・・・ぁ・・・・」
(その光景に、ガタガタと震えだすフリージア)
キトラ:「フフフ・・・アッハハハ!!やったわ!
私は天理様の命(めい)を成し遂げた・・・!!」
月白:「・・・・ぐ、ぅ・・・・・(よろめき、立ち上がる)
・・・感奮(かんぷん)に浸るのは・・・まだ早いんじゃないかい?」
フリージア:「!」
キトラ:「・・・あの雷(いかずち)を受けて・・・まだ立って・・・?」
月白:「あいにくと、俺も雷属性なものでね・・・
弱くもあるが、強くもある。・・・不幸中の幸い、かな?」
キトラ:「くっ・・・・ならば・・・!フリージア!もう一度!」
フリージア:「ぁ・・・ぅ・・・!」
(怯え泣きながら、首を振るフリージア)
キトラ:「まったく、使えない子ね・・・!いいわ。
この手柄、私だけのものよ!」
(天を指差し、呪を唱えるキトラ)
キトラ:『・・・恍惚(こうこつ)の扉、永楽の夢、妖(よう)の邂逅(かいこう)・・・!』
<グォオオオオオオオオ・・・!!!>
月白:「返せるか・・・・?いや、やってみるしか・・・!」
<ピシャアアアアアアアアンン!!>
月白:『唸れ、蒼天の雷(いかずち)。
詠唱者・安部月白、暗雲を切り裂き直下に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!』
(同時に、色魔の雷と月白の雷がぶつかる。
威力は負けなかったものの、相殺はされず、空中で爆発する)
フリージア:(なんて大きな力・・・!)
月白:「ぐぁっ・・・!」
キトラ:「キャァアア!!」
(その爆風で、月白とキトラがとばされる)
月白:「うっ・・・・」
(相当の深手を負いながら、それでも立ち上がる月白)
フリージア:「・・・っ!・・・負けをっ!」
月白:「?」
フリージア:「負けを認めてくださいっ!
そうしたら・・・きっと、先生殿も許してくれるかもしれないのですっ!!」
キトラ:「アンタ・・・・!」
フリージア:「うぅ、ひっく・・・・おねがい、ですっ・・・!」
(泣きながら懇願するフリージア)
月白:「・・・優しいところは変わらないね。安心したよ。
でも・・・それは出来ないんだ、あさぎ。
俺にも・・・・“守らなければならない”ものがある。
いや・・・俺一人の手で、“守りたい”ものがあるんだ」
フリージア:(守りたい・・・もの・・・・)
―回想・一年前。
月白:『そんなに怒るなよ、あさぎ』
あさぎ:『だってぇー・・・では、あさぎは、先生殿の一番ではないのですか?』
月白:『あぁ・・・。でも、一番可愛くはあるけどね』
あさぎ:『そんなの、おかしいですっ!』
月白:『そうだね。おかしいかもしれない。
でも・・・どうしても守りたい人間がいるんだ。俺の中には』
あさぎ:『その人が・・・一番なのですか?』
月白:『一番というか・・・そいつしか、いないんだよ。
俺の中で、そう思わせてくれる人間は、一人しかいないから・・・』
フリージア:(一番、守りたい・・・人)
キトラ:「冗談じゃないわ・・・!ここまで来て、逃がすものですか!」
(天を指し、また色魔に攻撃を指示するキトラ)
月白:「くっ・・・!!」
<ピシャアアアアアアンン!!!>
フリージア:「先生殿っっ!!!!」
月白:「・・・え」
(雷がおちる瞬間、フリージアが月白をかばうように天にバリアを張る)
フリージア:「くぅぅ・・・!!」
月白:「あさ・・・ぎ・・・?」
フリージア:「長くは持ちませんっ!早く・・・!逃げてぇぇっ!」
キトラ:「フリージア!?何を・・・!!」
フリージア:「先生殿・・・?フリージア、思い出したのです・・・。
先生殿のお守りするもの、フリー・・・ううん、“あさぎ”も・・・お守りするのです・・・♪」
月白:「あさぎっっ!!」
フリージア:「早くっ!!
くぅ・・・・っ!ぅ、アアアアァァっっーーーーー!!!」
(やがてそのバリアも破け、フリージアに雷撃が落ちる)
月白:「・・・・っ!!!」
(次の瞬間、跡形もなく焼け消えたフリージア。
月白の掌には、先程落ちた彼女の涙だけが残る)
キトラ:「・・・・・そん、な」
月白:「・・・・ありがとう、あさぎ。お前は最期まで、いい子だったね・・・」
蛍一:「月白さんっっ!!」
(少しの間沈黙が流れ、蛍一と葉桜が駆けつける。
それを見て安堵したせいか、月白が倒れこむ)
葉桜:「月白兄さんっっ!!」
蛍一:「ひどい怪我だ・・・!!」
月白:「やぁ・・・二人とも。元気かい・・・?」
葉桜:「ば・・・・・ばかっっ!!!
そんなボロボロのくせに、余裕ぶってんなよっ!!」
(葉桜は月白の上体を起こし、頭を自分のひざに乗せる)
月白:「葉桜・・・」
葉桜:「こっちがどんだけ心配したと思って・・・!!
月白叔父さんの・・・バカ!アホ!ハゲ!変態!」
(言いながら、涙ぐむ葉桜)
月白:「酷い言われようだね・・・。
だから、叔父さんじゃなくてお兄さんだって・・・ゲホ、ゲホッ!」
葉桜:「・・・だから、僕に近づくなって言ったの・・・?
狙われてるの、分かってたから・・・?
バカだよ、ホント・・・・月兄さんのばかばかばかばかばかっっ!!」
月白:「ケガ人相手に、バカバカ言わないでくれないか?
・・・もっと労(いた)わって欲しいんだけど」
蛍一:「・・・あとはまかせてください。シキは俺がなんとかしますから・・・」
葉桜:「兄さん・・・」
蛍一:「さくらちゃんは、月白さんを見ていてあげて。・・・いいね?」
葉桜:「うんっ・・・ありがと;」
蛍一:「選手交代だ。・・・まだやるか?」
キトラ:「くっ・・・!」
蛍一:『篝(かがり)吹け、言詞(げんし)の理(ことわり)。
詠唱者・飛鳥蛍一、空間を蹴破り無効に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!』
(夥しい数の光の礫が文字の形で現れ、色魔にぶつかる。
それに触れたとたん、大きな爆発を起こし、二体の色魔はボロボロに砕け散る。)
葉桜:「蛍兄さん・・・!」
葉桜:(またパワーがあがった!!?)
キトラ:「くっ・・・キャアアアアーーー!!」
(それがキトラにも触れると、爆風が乱れ、彼女は暗闇へと逃げ去った)
月白:『我、望み賜(たま)いしは、悪しき者の拘引(こういん)。・・・“戒(かい)』
(月白が印を唱えると、無数の札に囲まれ、色魔は動きがとれなくなった)
蛍一:「月白さん・・・?」
月白:「姫さんが来るまで、こいつで色魔(しき)を囲っておけ」
蛍一:「・・・はい、ありがとうございます」
月白:「しかし・・・俺が苦労した二体をいとも簡単に・・・全く、いい所を持っていかれたね」
葉桜:「・・・・そんなこと・・・ないよ。兄さんも結構、頑張ったほうじゃない?」
月白:「おや。お前が俺を褒めるなんて珍しいね。
明日は雨かな?」
葉桜:「むぅーっ!もういいっ!ケガ人だと思って優しくしてやったのに!」
月白:「悪い悪い・・・ありがとう。その優しさは素直に受け取っておくよ」
蛍一:(まったく・・・素直じゃないな、二人とも)
葉桜M:驚いた。・・・あんなにボロボロになった月白兄さんを、初めて見たからだ。
そんなになっても、へらへら笑う兄さんはやっぱりムカつくけど・・・
・・・・・少しだけ、嬉しかったんだ。
兄さんの突き放した言葉が、本心じゃないんだって分かったから。
まぁ・・・しょうがないから、ケガが治るまでは優しくしてあげるかな。
調子に乗られても困るから・・・・・ほんの、ちょっとだけだけど。
続