ひらかれしもの 第二十一話 「リアル・パレット」
・飛鳥蛍一(あすか
けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽雛菊(おとわ
ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、
家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。
色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。
・音羽葉桜(おとわ
はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。
活発で男っぽい性格で、一人称は「僕」。
詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。
霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。
・音羽大喬(おとわ
ひろたか)♂:37歳。雛菊・葉桜の父親。
ハイテンションなオカマ。これでも神社の神主。占いが得意。
・藤堂天理(とうどう
てんり)♂:17歳。蛍一のすぐ後に善部高校に転校してきた二年生。
【大和路】のリーダー。冷静沈着で、いつも笑顔を絶やさない。
・キトラ?♀:29歳。天理の配下。金髪碧眼の妖艶な美女。
かなり高慢な性格の持ち主だが、天理の前でだけは従順になる。
・飛火野(とびひの)♂:38歳。天理の配下。赤髪に鋭い目を持つ、中年男性。
年相応の落ち着きがあるが、
14年前の【大和路】封印に関わると、感情的になる。
【大和路】に与しているものの、慈悲の心を持ち合わせる程々の常識人。
・志賀裕也(しが
ゆうや)♂:17歳。善部高校二年生。蛍一の友達。ウワサ好きで好奇心旺盛。
個人的に校内の情報を集め、それを楽しむという「噂部」の部長。
配役比率 ♂5:♀3=八名
蛍一M:世界は目まぐるしく変わる。
異世界にトリップしたようなこの現実に慣れて、もう二ヶ月が過ぎた。
こんなに時間を費やしたのに、
俺はまだ何も理解していなかったんだ。
彼女の覚悟も、決意も・・・それから、動き出す周りの人々にも。
―休日。音羽家。
(音羽家に呼び出される蛍一。
居間では、異様にかしこまった人達が居座り、冷たい視線で蛍一をみる)
大喬:「いらっしゃぁ~い、蛍一クン♪ささ、座って」
蛍一:「ど、どうも・・・。
って、アレ。今日は俺だけですか?」
大喬:「今日はね・・・ちょっと。 今、お茶淹れるわね」
(雛菊の隣りに腰掛ける蛍一)
雛菊:「・・・」
蛍一:「・・・なぁ、これなんの集まり?」
雛菊:「・・・あんたはわかんなくていいのよ」
蛍一:(ハイ? ・・・今日はご機嫌ナナメなのか?)
葉桜:「兄さん、兄さん」
(反対隣の葉桜から、小声で話しかけられる)
蛍一:「ん?」
葉桜:「・・・今日ね、音羽一族のおエライさん方が集まる日なんだ。
で、詠唱者の代表として蛍兄さんが呼ばれたってワケ。
いろいろ嫌味言われるから、覚悟しといたほうがいいよ;」
蛍一:「何で俺が・・・。というか、代表とかなら月白さんのが向いてるんじゃ?」
葉桜:「月白兄さんはまだ・・・部屋で療養中だから;」
蛍一:「あ、そっか」
蛍一:(しっかし、嫌味?なんで・・・?)
雛菊:「・・・役者もそろったところだし、始めましょうか」
男1:「ああ。報告を受けたらすぐに帰るつもりだ」
女:「雛菊さんも葉桜さんも、色魔(しき)退治で大変お忙しいようだから・・・
長居はいけませんわよねぇ?」
葉桜:「・・・・んなこと微塵も思ってないくせに」
(小声で、蛍一にだけ漏らす葉桜)
雛菊:「・・・そうしていただけると助かります」
(声を沈め、真顔で話し始める雛菊。)
男2:「安部側から報告はいろいろ受けていますよ。
十二色魔(じゅうにしき)の封印は今のところ・・・?」
雛菊:「九体です。内、二体は緑牙という色魔(しき)が食らい、
今は私たちの味方に与(くみ)しています」
男2:「あぁ・・・なにやら、色魔(しき)を拾ったと言っていましたね。
・・・何故、その場で封印しなかったのです?」
男1:「そうだ。生かす必要などなかっただろう」
雛菊:「それは・・・」
蛍一:「それは!・・・彼女だけの判断じゃありません」
男1:「ほう?」
蛍一:「確かに決定権は雛菊にあったけど・・・それを促したのは俺らです」
女:「そして粗忽(そこつ)にも、一緒に住まわせていると聞きましたよ。
大喬さんの管理もどうなっているのかしら?」
(お茶を淹れた大喬が戻ってくる)
大喬:「・・・まあ、安易な考えでしたよ。
でもね、結果として、なんの問題もなくここまで来てると思いますけど?」
蛍一:「と、とにかく!緑牙は普通の色魔(しき)とは違います!」
女:「まぁ・・・【詠姫】(よみひめ)の任務に支障はないのかしら?」
雛菊:「ご安心を!・・・過誤(かご)だとは思っていませんから」
葉桜:「・・・」
(うつむき、黙る葉桜)
蛍一:「・・・大丈夫。硝子ちゃんのせいじゃないよ。咎められるはずがない」
葉桜:「兄さん・・・・うん・・・」
男1:「それにしても・・・彼が、飛鳥くんかね?」
雛菊:「・・・ええ」
男2:「これはまた・・・・軟弱そうな」
蛍一:(矛先が俺に向いた!)
雛菊:「彼の力は本物です。
これまでにも、彼がいなければ危なかった面は大いにありました」
蛍一:(雛菊・・・)
男1:「ふっ・・・なるほど。
まぁ・・・なってしまったものは仕方がない。
彼には程よく期待しておくとしようか」
蛍一:(ぐっ・・・)
男2:「先代のようにならないよう、お気をつけくださいね」
大喬:「・・・っ!!」
男2:「大喬さん。
あなたも、もう少し目を配ったほうがいいんじゃありませんか?」
大喬:「・・・・ええ。ご心配をありがとうございます。
・・・・・・気をつけておきますよ」
(冷たく言い放つ大喬)
男1:「・・・では、そろそろ私たちはお暇(いとま)しよう」
雛菊:「お帰りですか?」
男1:「何度来ても、ここの空気は合わなくてね。失礼する」
大喬:「わざわざ、ご苦労様でした」
女:「そういえば・・・・葉桜さん?」
葉桜:「・・・?」
女:「相変わらず無愛想なのね?少しは雛菊さんを見習ったらどうかしら。
・・・だから似てないって言われるんですのよ」
葉桜:「・・・いつも言ってるのはあんただと思うけど」
女:「まぁ・・・年上を敬うという常識も分からないのね。お可哀想に」
葉桜:「・・・っ」
女:「音羽の人間として、節度のある行動をとっていただきたいものだわね。
・・・それでは」
(そう言って、女も家を後にする)
雛菊:「・・・・・フゥ」
葉桜:「っだぁー!もう、むっかつく!!
なーにが、『節度のある行動を・・・』だよ!バッカじゃない!!?」
大喬:「お疲れ様、みんな♪」
蛍一:「酷い言い様でしたね;」
雛菊:「ウチ以外の人間は、
【詠姫】を受け継げないからって理由で、嫌なやつが多いのよ;
この集まりも、毎回あんな感じ。もう慣れたわ;」
葉桜:「姉さんはまだいいよ・・・。
僕なんか、毎っ回あの女に嫌味言われ続けてるんだよ!?」
大喬:「アタシもなんだか、今回は疲れちゃったワ;」
雛菊:「また何か言われるのもアレだし、見送りしてくるわ」
(居間を出ていく雛菊)
蛍一:「・・・今更だけど・・・【詠姫】って、大変なんだな;」
大喬:「そうね・・・一体どれだけの重荷を背負っているのかしら。
・・・本人じゃなきゃわからない苦しみなんでしょうね。
・・・・蛍一クンにも、嫌な思いさせたわね、ゴメンナサイ」
蛍一:「いや!俺なんか別に・・・。
もっと・・・いろいろ弁解すればよかったかなって思うし・・・」
大喬:「ああいう人間もいるって事、ちょっと分かってもらえればと思ったの。
蛍一クンは、雛菊の・・・・・・だから」
蛍一:「え、今なんて・・・?」
大喬:「フフッ。なんでもないワ♪」
蛍一:(な、なんなんだぁ?)
―夕刻、帰り道。
裕也:「蛍一!」
(学校の前を通ると、制服姿の裕也が声をかけてきた)
蛍一:「・・・志賀。お前、今日休みだったろ?なんで・・・」
裕也:「俺は部活だったんだよ」
蛍一:「・・・個人的な趣味に、休日まで費やしてんのかよ;」
裕也:「一応、ちゃんとした部活として成り立ってんだからなっ!」
蛍一:「ハイハイ」
蛍一:(俺、お前以外の部員見たことねえぞ?)
裕也:「あ、そうだ。
月白さん・・・じゃねえや、月白先生大丈夫か?」
蛍一:「え・・・?」
裕也:「ケガ、酷いのかと思って」
蛍一:(なんで、そのこと知って・・・・・)
(驚きを隠せない蛍一の表情を見て、少し笑う裕也)
裕也:「どうしたんだよ?そんな顔して」
蛍一:「・・・噂部って、どこまで調べてんだよ。
月白さんがケガしてるって、どこから・・・」
裕也:「あれ?俺言ってなかったっけ?
・・・月白さんを学校に呼び出したの、俺なんだぜ?」
蛍一:「・・・・はぁ!?」
裕也:「【大和】って色魔(しき)が“藤堂天理”として転入してきただろ?
それを月白さんに報告したうえ、校長まで説得したんだぜ、俺」
蛍一:「なっ・・・!」
裕也:「ふふん♪ いろいろ知ってビックリしたか?」
蛍一:「・・・・志賀。お前・・・何者なんだ?」
裕也:「俺は・・・・ひそひそ神の信者だ!!!」
蛍一:「そうか・・・って、誤魔化すなっっ!!」
裕也:「というのは冗談で・・・。
俺も、安部の人間なんだよ」
蛍一:「えええっ!!?」
裕也:「安部っていっても、直系じゃないけどな。遠い親戚程度だ。
・・・なんつーか、世間って狭いよなぁっ!」
蛍一:「・・・ほ、ほんとにな;」
裕也:「ま・・・調査は安部の人間がやるからさ、お前は何も気にしなくていいよ。
お前は詠唱者として、音羽さんをしっかり守れよ」
蛍一:「お前・・・そこまで知ってて、俺に近づいてきたのかよ;」
裕也:「ん?んー・・・ま、そうゆうことになるかな」
蛍一:「雛菊はこのこと知ってんのか?」
裕也:「まさか。学校の人間で話したの、お前が初めて」
蛍一:「じゃあ、あの子は?彼女なんだろ?」
裕也:「誰? ・・・あぁ・・・北原名子のこと?」
蛍一:「彼女も・・・知らないんだろ?」
裕也「まぁ、な・・・。俺がいろいろ無茶やってんのは心配してくれてるみたいだけど。
こればっかりは止められないし・・・」
蛍一:「・・・・お前、ホントに意外性強すぎるよ;」
裕也:「ははっ!よく言われる~」
蛍一:(あぁ・・・マジでビックリした・・・・)
裕也:「じゃ、俺帰るわ!
また学校でな、蛍一」
蛍一:「お、おぅ」
裕也:「出来れば・・・これからも友達やってくれると嬉しいよ。
じゃあな!」
蛍一:(それは・・・・こちらこそ)
―夕刻。音羽家。
(蛍一が帰った後。台所に立つ大喬を静かに見つめる葉桜)
大喬:「・・・・どーしたの?さくら?」
葉桜:「ね、父さん・・・」
大喬:「今日はやけに落ち込んでたわねェー。
・・・あの人の嫌味はいつものことでしょう?
深く考えちゃダメって言ったじゃない」
葉桜:「そうだけど・・・」
大喬:「何か聞きたいことでもあるの?」
葉桜:「うん・・・。
あのさ・・・・・母さんって、どんな人だった?」
大喬:「沙尭(さゆり)・・・?」
葉桜:「僕、姉さんと違って、母さんの記憶が全然ないんだ。
小さかったからかもしれないけど・・・顔さえ出てこない。
だから・・・・・僕、本当に音羽の子なのかと思って;」
大喬:「・・・・!」
葉桜:「姉さんとも似てないし、
音羽の力だって生まれたときからあったわけじゃない。だから・・・」
大喬:「・・・ま、まぁ~たくぅ!
何を言い出すかと思ったら、この子は!
さくらはちゃんとしたウチの子よ。・・・変な心配しないの!」
葉桜:「で、でも・・・」
大喬:「・・・・お母さんの話ね。
よ~し!
じゃあ今日は、アルバム引っ張りだして思い出話しちゃおうかしら!」
葉桜:「ほんと!?」
大喬:「だから・・・ほら。もうちょっとでお夕飯できるから、待ってなさい♪」
葉桜:「う、うん・・・!」
―【大和路】社。
(フリージア消失の報告を受ける天理)
天理:「そうですか・・・フリージアが・・・」
キトラ:「・・・ええ。まさか安部月白の式神だったとは」
天理:「残念です・・・。もっと使い物になるかと思ったのに」
キトラ:「え・・・」
飛火野:「・・・」
天理:「まぁ、仕方がないですね。たかが低属霊にそれ以上を求めるのは」
キトラ:「え、ええ・・・」
天理:「キトラ。あなただけでも帰ってきてくれて嬉しいですよ。
充分に休んでくださいね」
キトラ:「は、はいっ・・・」
飛火野:「・・・お疲れだったな」
キトラ:「飛火野」
飛火野:「天理様はああいうお方だ。
悪いことは言わん。・・・期待するのはやめておけ」
キトラ:「貴方に言われなくても、わかっているわ。
それでも・・・・私はあの人に焦がれているの」
飛火野:「何を言っても、無駄か」
キトラ:「・・・」
(ふと、純粋に天理を想っていたフリージアを思い出す)
キトラ:「・・・あんな子でも、居なくなると寂しいものね」
(そうつぶやいて、暗闇に消えていくキトラと飛火野)
天理M:馬鹿ですね・・・本当に。
もっと別に生きる道があっただろうに。
でも・・・一人、戦闘不能に出来たのは幸いだ。
あとは・・・・迎えに行くために、もう少し“彼”の力を見極めることにするかな。
次で・・・・穿鑿(せんさく)は終わりにしましょうか。
続